岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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という訳で二つ目の切り札初披露の回。
あと今回、原作で不明瞭な点を個人的解釈で幾つか書いています。



【礼装・モードセイバー】

「むしろ何者かはこちらの台詞だ無礼者。俺は覇王だぞ。まずは貴様が名乗るのが礼儀であろう」

 

 怪訝な表情で警戒と殺気の念をぶつけてこちらを睨む清楚姉さんらしき人物を見据えながら答える。

 

「自分の名前は鉄優季だ」

 

「優季だと? はっ。つくならもっとマシな嘘をつけ。確かに顔は同じだが、優季は日本人だ!」

 

 どうだこの名推理。とばかりにドヤ顔でこちらを指を指す清楚姉さんらしき人。ちょっと可愛いと思ってしまった。

 

 しかし自分を知っているって事は……まさかそういうことなのか?

 

「この姿は切り札の一つ『礼装(れいそう)』を使用しているからだ。使用中はイメージ力の強化の為に『纏った相手になりきる』必要があるから、外見も可能な限り似てしまうんだよ」

 

 切り札の一つ礼装。

 

 かつての世界では身につける事で様々な効果を発揮した装備品の事をそう呼んでいたため、それに肖り『英霊を纏う』技と言うことで、その名を付けた。

 

 内容としては単純だ。自分の肉体と魂を使って『可能な限り模した英霊の強さに近付く』というものだ。

 

 ヒュームさんがいつだったか訓練の時に川神流にも似た技として『生命入魂』という神話の神獣や神仏等に変化する技があると言っていたので、参考にしてずっと修行していた技だ。

 

 勿論強力な技にはリスクもある。

 

 肉体は英雄の動きや力を可能な限り再現するために常に強化の第二段階を維持する必要があるし、気力の消費も激しい。戦闘になったら、維持できるのは精々10分がいいところだ。

 しかし、そのリスク分の強さは間違いなく有していると自負している。

 

 それにこの姿なら、その英霊が持っていた武器を十全に使いこなせる。

 

「外見は多少変わったけど、間違いなく優季だよ。さぁ、今度はそっちの番だ。貴女は何者だ?」

 

「俺は項羽。全てを統べる覇王である!」

 

 項羽から闘気が溢れる。それを笑みを浮かべて受け止める。

 

「やっぱりそう言う事か。項羽、清楚姉さんはどうした?」

 

「清楚は俺だ。そして項羽は清楚だ。まあ早い話し、お互いに混ざり合ったという訳だ」

 

 ……いや、とてもそうは見えない。

 

 目の前の清楚姉さんはあまりにも『項羽』としての割合が大き過ぎる。

 もし本当に混ざり合ったのなら、もう少し性格に清楚姉さんの色が出ていてもいいはずだ。

 

「……とりあえず項羽姉さんと呼ぶとするよ。で、項羽姉さんはこれからどうするんだ?」

 

 そもそも目覚めたばかりで目的なんてあるのだろうか?

 

「もちろん覇王の名の下にこの世界を統治してやるのよ!」

 

 高らかに笑って己の目的を謳う項羽姉さんに、自分の顔が引き攣った。え? マジで?

 

「こ、志が大きいのは良い事だけど、具体的には?」

 

「まずは日本を我が物とする。とりあえず……挙兵して国会議事堂を落とし、総理大臣を倒す。いや、挙兵だからまずは兵の確保が先か?」

 

「いや、それ以前の問題だから!」

 

 堪らずツッコむ。そして確信する。この人と清楚姉さんは記憶は共有していても、一つになんてなっていない。

 

「むっ? ああそうか、先に将と軍師だな。よし優季、お前には清楚の頃に世話になったし、俺の封印を解いた功績もある。喜べ! 今日からお前は俺の軍師だ!」

 

「断る」

 

 満面の笑みで告げる項羽姉さんに、真剣な表情で告げる。

 

「なっ!? この俺の誘いを断るのか!?」

 

 断られるとは微塵も思っていなかったのか、項羽姉さんは物凄く驚いた顔をでこちらを見詰める。

 

 凄い自信家だな。セイバーに似ている。だがそれ故に、彼女を認めるわけには、王と呼ぶわけにはいかない。

 

「項羽姉さん、貴女はさっきから覇王覇王と己を呼ぶが、貴女のどこが王です? 貴女の収める国はどこです? 貴女が導く民はどこです? 貴女の為に尽力する家臣は? 貴女と共に笑う戦友は?」

 

「そ、それはこれから手に入れて行けばいいだけのことだ!」

 

 真剣な表情で問う自分に、項羽姉さんはうろたえ、慌てて答える。

 その答えは……子供の言い訳と同じ様なものだった。

 

 分かった。この人は子供なのだ。本当に何も知らない幼い子。

 だが同時に、この子は『どんな王様にもなれる可能性』を秘めている。

 

 なら自分がやるべき事は、覇王に拘る彼女にその可能性を示す事。

 そして王とは、『何かを愛せる者』だと言う事を、教えてやるべきだ。

 

「なら貴女は『王を夢見るただの項羽』でしかない。王を名乗るなら、まずはその立場になってからにすべきだ」

 

「こ、この俺がただの夢見るお馬鹿な乙女だと!?」

 

 いや、そこまで言ってない!!

 

 項羽姉さんが顔を真っ赤にして声を張り上げる。そして今にもこちらに襲い掛からんとしたその時、見慣れた人物が校庭に一瞬にして現れた。

 

「優季大丈夫かって、え?」

 

「百代か、相変わらず騒ぎを聞き付けるのが早いな」

 

 こちらお振り返るなり唖然とした彼女に笑いながら答える。

 

「ゆ、優季でいいんだよな? 気の気配は間違いないが……」

 

「ああ。優季で合っている。まあちょっと、姿が少し変わってはいるけどね」

 

「そ、そうか。川神流の生命入魂みたいなもんか? それにしても、ちょっと派手、というか露出の多い格好だな」

 

 百代は頬を少し赤らめながらこちらに近寄って来る。

 

 ……そんなに派手で露出多いかな?

 

 最初はまんまセイバーの神話礼装だった。あれは墓場まで持って行くほどの黒歴史だ。

 流石にあの姿じゃ泣きたくなるくらい恥かしくて戦えないので、一生懸命服の図鑑などを見ながらデザインを描いてイメージを固めた……思えば裁縫に興味を持ったのはその頃か。

 

 今の自分の姿は黒無地で上下一体となった半袖膝丈のスポーツウェアに、セイバーが身に着けていた赤色の舞踏衣と同じ柄と色の燕尾服を腹の辺りでボタンで留め、腰周りと手足は、彼女の神話礼装で纏っていた装飾と手甲と具足を身に着けている。

 

 一応ウェアというより水着に近いからそこまで身体のラインが浮き出るわけじゃないが、それでもウェア越しとはいえ、胸元は普通に全開だし……ウェアに包まれた太股部分も多少露出している。動いたら腰周りも色々ヤバイ気がする。

 

 改めて自分の格好を見ると少し恥かしくなった。

 何故もっとちゃんとした服でイメージ固めなかった過去の自分よ!!

 

「ええい! 俺を無視するな!!」

 

 百代と話していると空気化していた項羽姉さんがこちらに跳びかかって来る。

 

 まずい! 百代が項羽姉さんに興味を持って戦いだしたらマジで校舎が吹っ飛ぶ!!

 

「一旦回避!」

 

「え!?」

 

 軽く呆けていた百代を所謂お姫様抱っこして、項羽姉さんの攻撃を回避しつつその場を飛び退く。

 地面を砕く轟音を聞きながら校舎を背後に着地すると、後ろから声が上がった。

 

「うわ!?」

 

「なんだ!?」

 

 振り返るとキャップと大和が驚いていた。

 

「誰この人!?」

 

「お姉様が抱っこされてる!?」

 

 椎名さんが自分を見て驚き、一子はお姫様抱っこされている百代に驚く。

 

「イケメン増えても嬉しくねえよ!!」

 

「いやその感想はどうなのガクト?」

 

 ガクトが悲壮な雄叫びを上げ、それにモロがツッコんでいた。

 

「あれ? もしかしてユーキ?」

 

 風間ファミリーの後ろから屋上にいたみんながやって来ると、小雪がおずおずと前に出てこちらに尋ねる。

 

「ああ。小雪、みんなは無事か?」

 

「う、うん。大丈夫だけど……いつまでその体勢?」

 

「ん?」

 

 小雪がジト目で自分と百代を睨む。そこで百代の事を思い出した。

 

「っと。悪かったな百代、今降ろすな」

 

「ん? 私は別に気にしないが?」

 

 そう言って悪戯っ子の様に笑った百代は、逆に俺の首に腕を回してより密着する。胸元のウェア越しに、百代の柔らかさが伝わる。ぬぅ柔ら――っ!?

 

 身体に感じた柔らかさに一瞬気が緩みかけた刹那、全身を悪寒が襲い、よくよく感じれば空気までもが凍っているような気がした。

 

 ……あれ、なんか死の予感。

 

「百代降りろって、なんか嫌な予感がするから危ないって!」

 

「ははは! 力尽くで降ろしてみろ!」

 

 こちらの必至の懇願を無視するように百代は楽しげに笑って更に密着する。

 

「「じゃあそうする」」

 

「へ?」

 

 百代の言葉に目が笑っていない小雪と弁慶がずかずかと周りを押し退けてやって来て、二人は無防備な百代の制服を掴んだ。しかも力をかなり込めて。

 

「……待とうか二人とも。悪ノリした私が悪かった。だから制服から手を放してくれ」

 

 百代が引き攣った笑みを浮かべて自分の首に回していた手を解いて降参とばかりに手を上げる。

 百代には二人が何をしようとしているのか察しがついているようだ。自分もなんとなくは察している。

 

「……二人とも止めてあげてくれ。流石に全裸公開は死ねる」

 

 二人は舌打ちして服から手を放す。やっぱりそういうつもりだったか。

 アレだけ強く掴んで引っ張れば、瞬間移動で逃げようが間違いなく服は破れていただろう。

 

 百代をゆっくりとその場に下ろす。

 

「ゆうきいいい!!」

 

 その瞬間、上空から項羽姉さんの声が響いたと思ったら、目の前に豪快な音と共に着地した。

 

 何故自分の知り合いは上空から現れるのが好きなんだ。

 

「俺を無視した罪は重いぞ!!」

 

 別に無視したわけじゃないんだが。

 

『聞こえるかい項羽?』

 

「む、この声はマープルか?」

 

 対応に困っていると、突然学校中のスピーカーから、マープルさんの声が響き、全員がスピーカーに注目する。

 

『なんで目覚めちまったのかはこの際どうでもいい、とっととビルに戻ってきな』

 

「断る。俺は目覚めたばかりで力が有り余っている。というか、どうやって会話が成立しているんだ?」

 

『あんたの言葉は遠巻きに監視している従者部隊の映像の口の動きを見れば分かるさ』

 

 学校設備の掌握だけじゃなくて読唇術まで使えるのか。流石は九鬼従者部隊のナンバー2。

 

 いや、今はそれより清楚姉さんのことだ。

 

 多分清楚姉さんの力は項羽の人格と共に封印されていた筈だ。今はその留まっていた力が一気に溢れた状態だ。止めるのは難しいだろう。

 

「会話を遮って申し訳ない。マープルさん、貴女に尋ねたい事があります」

 

『今度は優季ボーイかい?』

 

「はい。マープルさん、項羽姉さんは清楚姉さんと一つに混じり合ったと言っていましたが、その様には見えません。特にその、メンタル面とか色々と……」

 

「……ん、なんだ優季? 言いたい事があるなら言え」

 

 横の項羽姉さんを窺いながら言葉を選ぶ。 

 言えない。清楚姉さんにしてはちょっとお馬鹿さんに、なんて。

 

「えっと、それより清楚さん、なんか雰囲気が……」

 

 対応に困っていると義経がゆっくりとやって来て、項羽姉さんに話しかける。お陰で項羽姉さんの視線から開放される。ナイスだ義経。

 

「ああ、言われてみれば確かに」

 

「もはや別人レベルの豹変なのに、兄貴の登場で完全に忘れてたな」

 

「というか……いい加減会話のキャッチボールしようぜ!!」

 

 準のツッコミに誰もが頷いた。

 

「仕方ないな。面倒だが、この俺自ら説明してやろう! 説明役が出来る俺が馬鹿である訳が無い!」

 

 何故か誇らしげな笑顔で項羽姉さんがこれまでの出来事を主観マシマシで皆に説明し始めたので、その間にみんなから少し距離を取り、込み入った話なので改めて携帯でマープルさんと話し合う。因みに変身前に持っていた物は全て燕尾服の内ポケットに仕舞ってある。

 

「それでさっきの質問の答えは?」

 

『完全に一つにならなかったのは、項羽の精神が未熟なせいで、清楚の精神を受け止められなかったせいだろうね。まあ予想よりも精神の成長が遅いようだから25歳でも怪しかったね』

 

 マープルさんの呆れた溜息に、それは九鬼のせいだろうにと、心の中で憤る。

 ……落ち着け、今大事なのは清楚姉さんの安否だ。

 

「清楚姉さんの意識はまだ残っていると思いますか?」

 

『それは間違いないだろうね。まあ一度封印が解けちまった以上、再封印は無理だね』

 

 マープルさんの言葉に安堵する。

 良かった。つまり今の状態なら『彼女ら』が消える事はないのか。

 

『優季、説得は出来そうかい?』

 

「そもそも自分は説得するつもりはありません。項羽姉さんの境遇を自身に置き換えて考えてみて下さい。身動きの取れない檻に押し込められた状態で広い草原を眺め続け、ようやく檻が無くなり広い草原を自らの足で走れるようになった。テンションが上がるのも仕方ないですよ」

 

 むしろそんな仕打ちをした九鬼に対して負の感情を抱いてもおかしくなかった。

 子供のような心だからこそ、彼女は過去よりも目の前の喜びや楽しみを選べたのかもしれない。

 

 そう考えると、今日ここで彼女が目覚めたのは結果的に良かったのかもしれない。

 

『その無茶で学校が無くなるかもしれないんだよ?』

 

「マープルさんが尻拭いしてあげてください。偶には親らしい事をしてあげてもいいのでは? なんだかんだ言っても、あの子達は貴女を親のように思っているのですから。特に項羽姉さんはまだ善悪の基準が曖昧な子供。責任を問うのは酷という物ですよ。ミス・マープル」

 

 できるだけ落ち着いた声でマープルさんに答える。

 彼女はすぐには答えずに沈黙する。多分今、彼女は何が最善で有益なのかを考えているに違いない。

 

『はぁ~。あたしが親ねぇ』

 

 マープルさんは盛大に溜息を吐いて呟いた。

 

『……項羽が大人しく帰るなら、多少の無茶は許してやるよ』

 

 そして彼女は呆れたような声色でそう答えた。

 

「ありがとうマープルさん」

 

 携帯を切って後ろを振り返る。

 そこにはいつの間にか巨大なバイクを横に控えさせ、胸を張ってみんなの質問に答える項羽姉さんの姿があった。

 

「うん。やっぱり、項羽姉さんも清楚姉さんと同じだ」

 

 みんなと笑い合っている時が一番嬉しそうだ。

 

 自分の手に握られた原初の火を見詰めながら状態を確認する。

 全力を出したら残りは精々7、8分くらいか。

 

 服の内ポケットに仕舞っておいた、衝撃で少し解れてしまった人形を取り出して、みんなの元へと向かった。

 




という訳で次回はバトル~。
衣装に関しては一応色々頑張ったけど、表現はあれが精一杯でした。
こんな事なら普通に赤い舞踏服にすれば良かった(その場合セイバーモードでも股間全開で褌丸見えルック)

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