岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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ようやくもう一人の清楚、項羽が登場!
そして二枚目の切り札もお披露目!!




【清楚覚醒】

 六月の第三週の月曜日、HRで体育祭は水上体育祭を行うと報告があり、男子達が色めき立っていた。

 

 それはSも変わらないようで、いつもの勉強風景だが、一部の男子は体育祭の内容が決まった瞬間に女性陣をチラ見していた。

 

 そんな中、自分は今日の事で頭が一杯で、HRや授業中も気もそぞろで集中できなかった。

 

 登校中、学校の屋上でみんなとお昼を食べようと清楚姉さんを誘った。その時に頼まれていた件の結果も伝えると約束した。

 

 あの時の嬉しそうな清楚姉さんの顔を、できれば壊したくは無いが、伝えなければならない。

 

 

 

 

 お昼になって関わった全員が屋上に集まる。

 

「うう、義経はドキドキしてきた」

 

 傍に居た義経が緊張のあまり顔を青くする。

 

「いや、なんでお前がそこまで緊張するんだよ」

 

 与一がいつもどおりにツッコむが、与一も午前中ずっとそわそわしていたのを自分は知っている。

 

「まぁ、ここまで来たら腹を括るしかないだろうね」

 

 弁慶が川神水を飲みながらフェンスに寄り掛かる。

 

「一応資料も纏め直しておきましたよ」

 

「ありがとう、冬馬」

 

 資料を受け取ると同時に屋上の扉が開かれる。

 やって来たのは待ち人の清楚姉さんで、いつもと違って少し興奮気味だった。

 

「遅くなってごめんねみんな」

 

「いや、自分達も今着たところだよ。それでどうする? 先にご飯にするか、それとも……」

 

「あの、みんなが良かったら先に教えて貰えないかな? 私が誰のクローンなのか」

 

 だよね。

 

 周りのみんなを見回した後、頷いて料理の入ったバスケットを小雪に渡し、もう一つの鞄から人形を取り出してそれを持って清楚姉さんに渡した。

 

「これは?」

 

「自分が作った人形だよ。義経達の分もある」

 

 そう言って振り返ると、三人が後ろ手に持っていた人形を取り出して清楚姉さんに見せる。

 

「うわー上手だね! ユウ君にこんな特技があったなんて知らなかったわ」

 

「特技というか料理と同じで趣味の範囲だけどね。で、それを渡すついでに伝えておきたい事があるんだ」

 

 出来る限り真剣な表情でまっすぐ清楚姉さんを見詰め、一度深呼吸してから思いを伝えた。

 

「自分達は清楚姉さんが誰のクローンでも気にしない。自分達が好きな清楚姉さんは、今目の前にいる清楚姉さんだ。それだけは、絶対に忘れないで欲しいんだ」

 

「えっ。う、うん。もちろんだよ」

 

 少し戸惑ったよな表情で清楚姉さんは笑った。

 ちゃんと伝わったかは分からない。でも言うべき事は言った。

 

「それじゃあ言うね。清楚姉さんは項羽のクローンだ」

 

「……こうう? そんな文学者いたかしら?」

 

 清楚姉さんが首を捻る。

 

「いや。覇王で有名な項羽だよ、清楚姉さん」

 

「そ、そんな。だって項羽は武将でしょ? 私とはイメージが」

 

「本人の性格は関係ないよ。それは義経達を見れば分かるでしょ? それに状況証拠はいくつもある」

 

 名前の件、好きな花の件、スイスイ号の件、そしてマープルさんが薦める読み物に何故か中国の歴史系の物があまりに少ない件。

 

 義経達と小雪達が調べた情報を全て伝えた上で、冬馬が纏めた資料を手渡す。

 

「これは項羽に関する資料なんだけど、良かったら見てくれないかな? もし本当に項羽なら、きっと無意識にでも引っ掛かる物があると思うんだ」

 

「ユウ君は……私が項羽だと思っているんだね」

 

 資料を受け取りながら、どこか落ち込んだように清楚姉さんはつぶやいた。それは多分、自分の思い描いていた偉人と違うからだろう。だが……。

 

「いいや思っていない」

 

 そもそもそんなことは関係ない。

 

「え?」

 

 自分の言葉に清楚姉さんと周りが疑問の声を呟く。

 

「やっぱり。さっき言った事の意味をちゃんと理解してくれていなかったのか。もう一度言うよ。清楚姉さんは清楚姉さんだろ? 本を読むのが好きで、それ以上に実はみんなと遊ぶ事が大好きで、花を育てるのが好きで、争いごとは嫌いだけど、他人が困っていたら声を掛けずには居られない。そんな優しくて、世話焼きな、自分達の大好きな姉さんだ」

 

 最後の言葉と共に後ろで控えていたみんなに視線を向けると、全員が清楚姉さんに向かって笑顔で頷いて見せた。

 

「みんな……そっか。私は、私だもんね」

 

 清楚姉さんは改めて人形を見詰め、胸元に寄せて愛しそうにしっかりと握り締める。

 

「きっと自分達以外にもそう言ってくれた人達は、そういう意味で清楚姉さんは清楚姉さんだって、言ってくれていたんだと思うよ」

 

「うん、そうだね。ふふ、さっきまでは中を見るのが怖かったけど、今はむしろ知りたいと思う。昔の私、項羽の事を」

 

 いつもの朗らかな優しい笑顔に戻った清楚姉さんが、資料を開いて一つ一つ目を通していく。

 

「あっ」

 

 すると、途中で資料を捲る手が止まった。

 

「どうしました清楚さん!」

 

 義経が心配になって清楚姉さんの傍に寄る。

 

「私、この(うた)を知ってる」

 

「うた? ということは垓下(がいか)の歌でしょうか?」

 

 冬馬も近付いて資料を覗く。

 

「力山を抜き……気世を蓋う……」

 

 ゾクリと背筋に悪寒が走った。

 

「ねえ準、垓下の歌ってどういう意味?」

 

「項羽が虞美人に贈った詩だ。項羽のエピソードじゃ有名だな」

 

 小雪や準も近付く。

 

「時利あらずして……騅逝かず……」

 

 なんだ!? なんでさっきから嫌な予感が止まらない!!

 無意識に、肉体の強化を行う。

 

「騅の逝かざる……奈何すべき……」

 

 ついに清楚姉さんが頭を抑えだした。

 それと同時に周りの空気も重くなっていく。

 

「お、おい清楚先輩大丈夫か?」

 

「そ、そうだぜ先輩、無理してパンドラの箱を開けることはねぇさ」

 

 異変を感じ、清楚姉さんを心配した弁慶と与一もやってくる。その瞬間、叫んだ。

 

「全員下がれ!!」

 

「「!?」」

 

 自分の咄嗟の叫びに、全員が後ろに下がる。

 清楚姉さんから膨れ上がった気を見て、更に『もう一段上』の準備を行い、自分は清楚姉さんに向かって駆け出した。

 

「ユーキ!?」

 

「虞や虞や……若を奈何せん」

 

 くそ! 間に合うか!?

 

 詩が終わったその瞬間、学園を膨大な気の嵐が駆け抜けた。

 

 

 

 

 その日、世界を激震させる程の気の爆発が起きた。

 

「っ!? なんじゃ今の気の爆発は!?」

 

「屋上の方ですネ! それにしてもなんと言う闘気!?」

 

 体育館に居た鉄心とルーがその闘気に驚き目を見開く。

 

 

 

 

 そして同時刻、ヒュームも僅かに目を見開いて傍に居た紋白を抱き抱えた。

 

「ご無礼」

 

 その一言と同時にヒュームはその場から超高速の瞬間移動で瞬時に学園から遠退く。

 

「ど、どうしたのだヒューム!」

 

「申し訳ありません、何はともあれ九鬼のビルまでお連れ致します」

 

 ヒュームの言葉に紋白が瞬時に答えを導き出す。

 

 あの冷静なヒュームが事情説明するよりも自分の身の安全を優先している。つまりそれ程の事件が起きたということか。

 

 そしてその場所の特定も、聡明な紋白は瞬時に理解し、焦る。

 

「ヒューム、学園にいる兄上は大丈夫なのか?」

 

 事件がおきているであろう場所は川神学園と気付いた紋白は、敬愛する兄の心配をする。

 

「英雄様にはあずみがついております。奴とて序列1位、必ずや英雄様をお守りすることでしょう」

 

 自分の身より兄の心配をする紋白を、心の中で微笑ましく思いながら、ヒュームは三回目の瞬間移動で九鬼のビルの李の元へと辿り着く。

 

「李、紋さまを護衛しろ。相当まずい事が起きた」

 

 李が返事をする前にヒュームはもう一度瞬間移動して、彼女達の責任者に会いに行く。

 

「おい、理由は知らんが項羽の封印が解けたぞ」

 

「なんだって? 最近様子が変だとは思ったが。いや、今はそんな事どうだっていいね。すぐに項羽と話す必要がある。鯉のボーイを連れてきておくれ」

 

 ヒュームの言葉にマープルは一度だけ驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの冷静な表情に戻って迅速に行動を開始する。

 

 

 

 

「気の爆発!?」

 

「なんだこの闘気は!?」

 

「屋上の方です!!」

 

 偶々食堂で一緒だった風間ファミリーの面々の中で、いち早く屋上からの闘気を察したのは、百代と由紀江、そしてマルギッテだった。

 

 その後に続いて武士娘が、次に物理的な衝撃と音に周りの生徒たちが驚愕と共に立ち上がった。

 

 そして屋上と言う単語に百代から血の気が引いた。

 

 確か優季が今日は大事な用事があるからと、屋上に葵ファミリーと一緒に居たはずだ。

 

「優季!」

 

 百代はすぐに気を放って優季の気配を探る。

 

 いた、校庭か!

 

 百代は優季を見つけると、ヒュームと同じ様に超高速の瞬間移動で優季の元へと向かった。

 

「なんかよく分からねぇが、とりあえず屋上の見える校庭に行ってみようぜ!」

 

 翔一の提案にマルギッテを含めた全員が頷いて校庭へと駆け出した。

 

 

 

 

「うっつ。なんだったんだ今のは」

 

「流石にあせりましたね」

 

 気の爆発の衝撃で膝を付いた準が、冬馬と一緒に立ち上がりながら辺りを見回す。

 

「衝撃と光が強過ぎて何も見えなかった」

 

「流石に今のは焦ったね。ところでユウ兄は?」

 

 義経と弁慶も立ち上がって歪んだフェンスを見詰める。

 

「……一瞬だが、兄貴が清楚姉さんと瞬間移動したのが見えた」

 

 一番目の良い与一がそう呟く。

 

「えっ。じゃあユーキは?」

 

 与一の言葉に小雪が尋ねたその時、校庭に向けて何かが落下して行った。

 

 

 

 

 それは轟音と共に校庭に着地する。

 

「はは、ははは、ハーハハハ! ようやく開放されたぞ!」

 

 抉れた地面の上で、土煙を気の放出で吹き飛ばしながら大声で笑って現れたのは、葉桜清楚だった。

 しかしその表情と笑い声は普段の彼女からは想像も出来ない程獰猛であり、清楚の瞳は黄金色から朱色に変わっていた。

 

「そして素晴らしい! これが覇王の力か!!」

 

 自身から溢れる力に、清楚は拳を握りしめて更に気を放出しようとしたその時、校庭にもう一つの影が落下してきた。

 

「むっ?」

 

 清楚はその音に振り返る。

 

「やれやれ、間に合って良かった。咄嗟に校庭の上空に瞬間移動できたのは僥倖」

 

 土煙が晴れて声の主が現れる。

 

「さて、とりあえず……貴女は誰だ?」

 

 そこには金髪碧眼で、赤を基調とした礼服と黄金装飾と手甲と具足を身に着け、紅い大剣を肩に担いで清楚を見据える、優季と同じ顔の青年が立っていた。

 




ハクノン「クラスカード・インストオオォォル!!」
イリヤ「パクられた!?」
マジカルルビー「この人がウチの作品に来たら大変でしょうね♪」

と言うわけで今回の主人公の使用技の原理はこの会話だけで分かる人はなんとなく分かると思います。(最近アニメ化しましたしね)
もちろん次回でちゃんと詳しく説明しますのでご安心を。(あくまで効果が似ているだけですので)


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