岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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……すまない。いいタイトルが浮ばなかったんだ。



【二人はメイド!】

「さて、次は与一か」

 

 弁慶は了承を得たので今度は与一だ。電話を取り出して与一にかける。

 

『兄貴か? どうした?』

 

「ああ、実はな……」

 

 与一に弁慶にしたのと同じ説明を行う。

 

「……と言う訳でそろそろヒュームさんが動いちまいそうだから、とりあえず与一もお前と戦いたいって奴と戦ってくれ。弁慶は説得に応じてくれたから後はお前だけだ。明日だけで終わるか分からないが、少なくともそれさえこなせば放課後はフリーだぞ?」

 

 これは魅力的なはずだ。自由に出来る時間が増えるのだから。

 

『ヒュームのおっさん相手は分が悪いか、分かった。俺だけノルマをこなしてなくてペナルティを受けるのはごめんだからな。俺も明日は決闘(デュエル)に応じてやるよ』

 

「分かった。じゃあ自分から伝えておく。あまり帰り遅くなるなよ」

 

『分かってるよ兄貴』

 

 電話を切って溜息を吐く。思ったよりも素直に応じてくれた。

 

「……なんだかんだ言っても、二人とも義経が大切だからな」

 

 義経の説明をした時に僅かに与一が息を飲んでいた。義経が倒れるところでも想像したのかもしれない。

 

 そんな二人の想いを利用している自分に対して嫌悪感を抱くが、割り切る。義経が本当に倒れてからでは遅いから。

 

「さて、紋さまに報せに行くか」

 

 気を学園中に広げて紋さまとヒュームさんの気配を探ると、一年S組に留まっている様なのですぐに向かう。

 

 というか、こっちが察知した瞬間にヒュームさんの気が一瞬だけ高まったがすぐに収まった。多分気を察知して警戒したが、自分の気だと分かって警戒を緩めたんだろうけど、気の接触だけで他者を特定しちゃう辺り、相変わらず凄い人だな。

 

 

 

 

 一年のクラスのあるC棟を歩いていると、あちこちから視線を向けられた。

 なんというか妬みや嫉妬や、やっかみな視線が多かった……全部一緒じゃねえか。

 

 心の中で一人ツッコミしつつその視線に耐えて廊下を歩いていると、紋さまとヒュームさん、そして最近よく見かける紋さまと一緒にいる髪の短い一年の女生徒が、まるで自分を待っていたかのように一年の教室前に立っていた。

 

「ふむ。やはり先程の気配はお前の気だったか」

 

 やっぱりか。

 

「待っておったぞ優季。それにしてもお主を一年校舎で見るのは初めてだな」

 

「そうですね。一年の知り合いはお二人しかいませんから」

 

 そう言って笑って答えたあとに、用件を伝える。

 

「与一と弁慶、明日は決闘に応じてくれるそうです」

 

「ほう。やはりお前の言うとおり、条件を見直したのは大きいか」

 

 ヒュームさんが目を閉じてクールに微笑む。

 

「それにしても弁慶は兎も角、よく与一を説得できたな」

 

 紋さまは良くやったと言ってこちらの頭を撫でようとする素振りを見せたので、片膝を着いて撫でやすいように屈む。

 

「言動で誤解されがちですが、与一は優しい奴ですよ。まあ人見知りな所も確かに有りますが」

 

 頭を撫でる紋さまに伝える。

 

「いやどう考えても重度の中二病ですよね」

 

 傍に控えていた子のツッコミに苦笑する。

 

「うん、そうなんだけど、ほら、そこはまあ『個性』ということで割り切れるし」

 

 個性は大事だよ。若干知り合いが個性的過ぎる連中ばかりな気がするのは、きっと気のせいさ。

 

「っと、自己紹介も無しについ、二年の鉄優季、君は?」

 

「一年S組の武蔵小杉(むさしこすぎ)です」

 

「ムサコッスは我が来るまでS組を纏めていたのだ」

 

「ムサコッス?」

 

「そこの赤子のあだ名だ」

 

 ヒュームさんが愉快そうに笑いながら説明してくれた。

 武蔵小杉ちゃんが若干顔を引き攣らせたところを見ると、そのあだ名を好ましくは思っていないらしい。

 

「けれど安心しました。紋さまも学園生活を満喫しているようで。では自分はこれで。なんか視線も厳しいですし」

 

「ああ、それはモモ先輩の件でしょうね。一年でもモモ先輩のファンは多いですから」

 

「なるほど。納得した」

 

 武蔵小杉ちゃんの説明にやれやれと軽く首を振る。なら男子も同じ理由かな。

 

「紋さまそろそろ……」

 

「うむ。ではな優季、あやつらの事、よろしく頼む」

 

 紋さまの言葉に頷いて見せて一緒に門まで行こうと思ったが、思った以上に時間が押しているとの事なので、二人はすぐにその場を去ってしまった。武蔵小杉ちゃんもその後に続き、一人取り残された。

 

「はあ。やっぱ紋さまも凄いな」

 

 あの年でもう将来を見据えて努力している。頭が下がるな。

 自分なんてやりたいことが分からないまま、努力してるだけだもんなぁ。

 

 いつまでも一年校舎にいても仕方ないので自分も紋さま達同様に帰宅する為に下駄箱に向かう。

 

 

 

 

「あれ?」

 

 多馬大橋を視界に捉えると、橋の上で見慣れたメイド服の人達がいたので駆け寄って声を掛けた。

 

「ステイシーさん、李さん、パトロールか何かですか?」

 

「ん? おお優季か、外で会うのは初めてだな。まあ九鬼のビルではちょくちょく会うが」

 

「こんにちは優季、私達はまあ、人払い兼監視です」

 

「人払い?」

 

「あれだあれ」

 

 指差された方を見ると河川敷で義経と一子が一緒に走りこみをしていて、清楚姉さんは土手に座って本を読んでいた。

 

 おうふ、ちゃんと休んで欲しかったのに。でもまあ勝負よりは精神的に疲れないからいいか。

 

「あいつら二人は強いからいいけど、清楚は違うからな。だから一応監視してんだ」

 

「そうだったんですか……あの、いつもありがとうございます」

 

 丁度良い機会だったので、二人にいつものお礼を述べる事にした。

 

「どうしたのですか急に?」

 

 李さんがいつものクールな表情で僅かに首を傾げる。

 

「いえ、折角の機会だからいつも守ってくれているお礼をと思って」

 

「仕事だから気にすんな」

 

「それはお礼を言わない理由になりませんよ。どんな理由でも守ってもらっているのは事実です。だからお礼を言うのは当然でしょ?」

 

 笑いながらステイシーさんの言葉を否定する。

 

「なら今度なんかおごってくれ」

 

「年下にたかってどうするんですか」

 

「いいですよ。なんなら夜食だって作りますから連絡してください。熟睡してたらごめんなさい」

 

 そう言って携帯を取り出して二人に渡す。

 

「マジか、やっぱ優季はいい奴だな。ほい覚えた」

 

「まったく。あ、私も覚えましたのでお返ししますね」

 

「はい」

 

 さ、流石従者部隊だ、あの一瞬で電話番号とメールアドレスを覚えてしまうなんて。

 

「それで優季はこの後どうするのですか?」

 

「そうですね、とりあえず……義経達の所に行って来ます」

 

 オレはそう言って二人と別れて河川敷に向かった。

 




個人的にはもう少し与一の場面を追加したり、一年校舎なのでまゆっちとか出したりしたかったんですけど、ちょっと上手く纏まりませんでした。
そしてようやく一子強化イベント、こっちは上手く纏めねば……。


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