やっぱSで最初に戦うとしたらあの人しか居ないですよね。
朝礼が更に進む中、鉄優季の紹介で一部の者達が思い思いの感情を抱いていた。
先程のは気による具現ですね。あそこまで精密にコントロールできるなんて。
由紀江は先程の鳥が優季が気を使って生み出した物と気付いていた。
優季さんはまるで木の様な御人ですね。
高い身長と、本人は気にしていないようだが見えている腕や首には大きな傷跡があり、顔にも小さな傷跡が幾つか見受けられた。
しかしそんな傷よりも、感情豊かな表情と大きく澄んだ瞳が印象的だった。
傷だらけの幹よりも青々とそよぐ葉に目が行くのと同じ原理だ。故に木のような容姿だと、由紀江は表現する。
慌てていた義経さんや素っ気無さそうな与一さんを気遣っていた所からみて、きっと穏やかで優しい性格の方なのかもしれません。と、友達になれないでしょうか?
由紀江は新たな友達候補を見つけてどうやって声をかけようか悩むのだった。
◆
そんな由紀江とは対照的な興味を燃やしているのが、2年S組のマルギッテ・エーベルバッハだった。
当初は弁慶狙いでしたが……鉄優季、あいつは面白そうだ。
マルギッテもまた優季に興味を抱いていた。
特に気を自在に操るその姿と、傷だらけの身体に興味を抱いた。
あれだけの傷を負うほどの研鑽をしたというのなら期待できる。
マルギッテは知りたかった。その傷を負う代わりに得たであろう対価を。
英雄と切磋琢磨した一般人。この私自ら、どの程度のものかを試してやりましょう。
獰猛な笑みを浮かべて早く朝礼が終わらないかと、マルギッテは心の内でそわそわしていた。
そしてマルギッテと同じ二年の中では驚きで視線を交し合う者達がいた。風間ファミリーである。
彼らはかつて自分達のファミリーにいた優季が外見的な印象が大きく変わりながら、しかし内面がそれ程変わっていない事に僅かながらに喜びを感じていた。
唯一、優季を知らない京とクリスだけは、視線を巡らしあうメンバーに怪訝な表情をさせていた。
そんな彼らの気持すら凌駕し、もはや言葉すら出ないで立ちすくんでいた女の子が二人いた。百代と小雪だ。感情の差異はあれ、二人は待ち焦がれたとばかりに同時に笑った。
百代は自身の退屈を紛らわせてくれると信じて。
小雪は自身の成長を見届けて欲しくて。
二人はじれったいと言いたげな表情で朝礼を聞き続けた。
◇
「と言う訳で今日からお仲間になる四人だ。みんな仲良くしろよ」
やる気の無さそうな担任の
まあ朝礼で物凄い恥かしい思いをしたので、思いのほかすんなりと挨拶を終えられた。
何故か一部から微妙に敵意や侮蔑の表情があるが、気にしない気にしない。
というか個人的には物凄い笑顔をこちらに向けてくれている小雪と早く挨拶したい。まったく可愛く育っちゃって。
全員の挨拶も終わり、質問タイムに入りかけた瞬間、目の前に眼帯をした軍人さんがやって来た。
「鉄優季、私の名前はマルギッテ・エーベルバッハといいます。早速ですがあなたに決闘を申し込みます」
「……え!? この面子で最初の決闘相手が自分!?」
流石にいきなりの事に驚く。
「最初は弁慶に挑戦しようかとも思いましたが、朝礼での技に興味を抱きました。それにあなたが期待外れなら、英雄達と切磋琢磨してもその程度、という事でもあります。まずはその辺りを知っておくべきでしょう」
そ、そう来たか、いやむしろ当然か。
「おいおいマルギッテ、この後すぐ授業だって分かってる?」
「いいよ。わしが許す」
急に教室に現れた鉄心おじさんがにこやかに宣言した。さ、最悪だこの人!!
「学長……」
「まあこういうのは勢いじゃし、最初の決闘くらいはのう。しかし本当にこの者で良いのか? 次からはちゃんと手続き取ってもらうぞい?」
「構いません」
マルギッテさんは何処からともなくトンファーを出して構えて嬉々として頷く。
はあ、どうするか。いや、どうにもできないか。
「分かりました。ただし条件を決めさせて貰います。流石に転入初日に目立ち過ぎてもあれだから廊下で一対一でやりましょう。時間もありませんから先にダウンした方の負け、どうですか?」
「いいでしょう。では廊下に」
廊下に出る間際に小雪と義経達が心配そうに見詰めていたので、彼らに手を振ってから出る。
「随分と余裕だな。なめていると怪我をすると、理解させる必要がありそうだ」
どうやら手を振ったのを見られたらしく、マルギッテさんが咎めるようにこちらを睨む。
「なめてないですよ。決闘である以上は……全力です」
気持を切り替えて、バックパックから札を抜き取り片手に三枚一組の札を三組。もう片方には五枚一組の札を一組手に持つ。
「札、確か日本では符術という気の技もあると耳にしましたが、その類でしょうか? それが鉄優季の武器で?」
「まあ、武器の一つです」
自分が使っている符術は、キャスターが使っていた呪術を模倣して作り上げた術だ。
それにしてもこの人、今は油断しているみたいだけど、強いよなぁ
元々強そうだと思ってはいたが、集中して相手を見据えて改めてその強さに気付く。
でも、油断してくれているなら、そこを突くべきだよな。
「それでは、行きます!」
マルギッテさんが飛び出してくる。
こちらは手に持った三枚一組の符に空気属性を付加させて三組全て放つ。
「
緑色に輝く札三組が共鳴し合う様に光ると、ドリルの様に渦巻く『衝撃波』へと姿を変えた。その衝撃波の大きさは廊下をほぼ全て埋め尽くすほどだった。
衝撃波の規模から回避よりも防御を選んだのか、マルギッテさんが迫る衝撃波から身体を守ろうと腕を交差させてガードする。
しかし衝撃波の威力の方が勝ったのか、マルギッテさんは後方へと軽く吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
マルギッテさんは吹き飛ばされながらも、空中で体勢を立て直そうとする。だが、真剣勝負である以上、その隙を見逃すわけには行かない。
「
宙に放り出されたマルギッテさんに走り寄りながら、もう片方の札に冷気属性を付加させて放る。
札は猛吹雪となって空中で体勢を崩しているマルギッテさんの『下半身』を狙い、吹雪が触れた箇所から瞬時に凍結して行き、マルギッテさんの下半身が凍結する。
「しまっ!?」
氷結化したまま着地したマルギッテさんが滑って仰向けに倒れる。つまりダウンだ。
「それまで! 勝者、鉄優季!」
「はあ。なんとか勝てた」
溜息を吐いて肩の力を抜く。次の瞬間、S組及び騒ぎを聞きつけて教室から顔を出して覗いていた生徒達が騒ぎ出す。
「おお! なんだよ今の!」
「すっげー。まるでゲームの魔法みたいだな」
マルギッテさんも周りも自分の技に驚いていたが、自分としては別の事に驚きを感じていた。
マルギッテさんは自分の予測では義経達と同じ強者の部類だし、防御されたから密天の威力が半減したのは仕方が無い。
それでも密天三枚で身体が軽く吹き飛ぶだけに留まった事が、思いのほか自分に衝撃を与えた。
密天一枚でその辺の不良ならそこそこ吹き飛ぶ威力は在ると自負していたんだけどなぁ。武器に皹すらいれられなかったか。
自分の符術は残念ながらキャスターのように相手の足元から火や冷気が出て相手を火炙りにしたりとか、氷付けにしたりとかは出来ない。そして威力の方もかなり弱い。
その代わりに札には予め気を繰り込んであり、状況に応じて瞬時に使えるようにしてある。
更に枚数を重ね合わせる事で威力を、使用枚数で効果範囲を調整できるようにしてある。
まあ簡単に説明するなら、二枚一組で二倍単発攻撃、二枚一組二組使用で二倍範囲攻撃って感じだ。
ただし範囲拡大には同じ枚数の組み同士でないと安定しない。
そのかわりゲームみたいに威力は拡散しない純粋に二倍の強さの範囲攻撃になる。
「なるほど、一度目の衝撃波は範囲を広く放っていたが、二度目は当てる場所を限定させる事で氷結の威力と持続時間を上げたということか。氷結を早く解くにはこちらも気を練る必要があるのか」
マルギッテさんが足の氷結化を解いて立ち上がる。
氷結五枚をあんな短時間で解かれるとか、ちょっと、いやかなりショックなんですが。
「今回は慢心が過ぎました。鉄優季、次は初めから全力で行かせていただきます。心しておきなさい」
そう言って、マルギッテさんは不適に笑った。自分はこの笑顔を知っている。
この人、百代やヒュームさんと同じでバトルマニアだ!!
厄介な人に目を付けられたと、心の中で悲鳴をあげた。
流石マルさんだぜ! かませポジもこなせるナイス乙女!
因みにマルさんはまじこいでは二番目に大好きなキャラです。
チョロい所も、かませな所も好きです。
【技・武器解説(簡略版)】(Fate/EXTRAを知らない人用です)
『密天』
原作では魔力で作り上げた符を相手に投げつけて空気圧縮で相手を攻撃する技です。
『氷天』
原作では魔力で作り上げた符を相手に投げつけて氷付けにした後砕く攻撃技です。