岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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ようやく川神学園だ。そしてここからが本当の地獄だ(作者のラブコメ描写的な意味で)



【初めまして川神学園】

 翌日。何故かボロボロになりながら川神学園の校舎の中で義経達と共に待機していた。

 

「だ、大丈夫かお兄ちゃん?」

 

「ああ大丈夫だ。身形はほぼ無理矢理整えさせられたから、綺麗なはずだ」

 

「ふっ。あの程度の稽古で疲れた等と、まだまだ赤子だな」

 

 ヒュームさんが呆れたように呟く。

 

「いや、帰って早々数時間ぶっとうしで稽古つけるって、鬼畜過ぎるでしょ!」

 

 昨日の交流戦の後、九鬼のビルに到着するなり何故かテンションが上がっているヒュームさんに捕まった。

 

 クラウディオさん曰く、東西交流戦の熱に中てられたとか。

 

 子供か! と、心底ツッコミたかった。

 

 そして気付けば睡眠時間三時間である。

 まあ朝食も摂れたし、気を集中させて身体を治癒させているから、徐々に回復はしているけど、まだ痛いし、何よりだるい。

 

「……だが最後まで根を上げなかったのは褒めてやる」

 

 相変わらず凄い上から目線である。まあそういう言動や態度が許されるくらい凄い人だし別に気にはならない。もっと理不尽で傲慢な奴を知っているし。

 

「あの、与一君と紋ちゃんはどうしたんですか?」

 

 清楚姉さんが辺りを見回しながら周りに尋ねる。そう言えば確かにいないな。

 

「紋さまは後で登場なされます。先に三年生である清楚さま、続いて二年生の義経さま方と優季、最後に一年生である紋さまとヒュームが壇上に上がる段取りとなっております」

 

 クラウディオさんがにこやかに微笑みながらスラスラと告げる。流石だ。

 

「なんだろう。絶対一年の紹介の時にツッコミのオンパレードになる気がする」

 

「ほう、その心は?」

 

「ヒュームさんが一年っいっつあぁぁ!!」

 

 ヒュームさんに電撃込みで両側のこめかみをグーでグリグリされる。声が漏れないくらい超痛い。

 

「さて、いつもの二人の戯れは無視して、紋白は分かったとして与一はどうした?」

 

 開放されて蹲る自分を無視して、弁慶が不機嫌そうな表情で辺りを見回す。

 

「校舎に入った際に別行動に移ったようですね」

 

「あいつはホント、どうやらここに来る前におこなった制裁じゃあ足りなかったらしい」

 

 弁慶が指をポキポキ鳴らす。あ、目がちょっとマジモードだ。

 

「じゃあ探してくるよ。というか、何処にいるのか目星ついてるし」

 

「流石お兄ちゃんだ! 義経には皆目見当もつかないのに」

 

 義経、それはお兄ちゃん流石にどうかと思うよ。与一の兄貴分として。

 

「与一が好きな場所を考えればすぐ分かるよ」

 

 そう言って、人差し指で天上を指差す。

 

「……ああなるほど」

 

 弁慶も分かったようだ。

 

「確かに最初で挨拶抜きは色々と問題ありそうだからな。ただ今回は与一も本気で緊張してるんだと思う。だから弁慶、与一が来たら怒るのは勘弁してやってくれ」

 

 実際昨日は晩くまで起きていたらしい。

 与一が徘徊している掲示板の書き込みのログを確認したから間違いない。

 

「はあ。まあユウ兄がそう言うのなら今回だけは目を瞑るよ。でも、ちゃんとHRにも出るように言っておいてよ」

 

「ああもちろん。ありがとうな弁慶」

 

 そう言って弁慶の髪を軽く梳かした後に頭を優しく撫でる。

 

「は~なんかもう与一に対して怒るのも面倒くさいね」

 

 弁慶の表情がとろんとして、いつもの脱力感漂う表情に戻る。

 

「はは、らしくなったじゃないか。そうそう、のんびり楽しく行こう!」

 

 幸せそうな顔でだらける弁慶を見て彼女の緊張も解れただろうと判断して、屋上に向けて駆け出した。

 

 それにしても、やっぱみんな緊張してるんだな。

 義経はガチガチだったし、弁慶も少しいつもよりピリピリしていた。

 与一はまあ知らない人間に物珍しく見られるのが嫌なのだろう。

 与一は義経とは逆の意味で一番英雄のクローンって事を気にしているからなぁ。

 

 最後の階段を上り切って屋上に続く扉を開ける。

 

「……やっぱりここか。どうだ川神の風は?」

 

「ああ兄貴か。そうだな、ここの風は少し、物悲しいかな」

 

 つまり少しホームシックだと。小笠原諸島は自然豊かだったもんな。

 

 屋上の校庭側とは逆のフェンスに座って寄り掛かる与一に話掛けつつ、隣に立って俺もフェンスに寄り掛かる。

 

「で、朝礼での挨拶をサボる気満々か?」

 

 笑いながら与一を見下ろすと、与一は不機嫌そうな笑みを浮かべて答えた。

 

「兄貴こそ一緒にサボろうぜ。所詮こいつらとは卒業までの短い付き合いだ。態々全校生徒に挨拶する理由が見当たらないぜ」

 

「まあ確かにな」

 

 校庭では既に朝礼が行われている。声を聞く限り、清楚姉さんの紹介がそろそろ始まる感じだ。

 

「でも今日の朝礼とクラスの挨拶で、二年で一番目立つのは多分自分だから、今の内に挨拶を済ませた方が、色々お得だと思うぞ?」

 

「ん? なんで兄貴が一番目立つんだ?」

 

「紹介されるのは英雄や強者、大富豪、その中に一般人」

 

 笑って一般人の所で自分を指差す。

 

 そうだよなぁ。自分、一般人なんだよな……なんで毎回死ぬような思いをしなけりゃならんのだ。

 

 心の中で名も知らぬ神に愚痴った。

 

「それに一年はあのヒュームさんと紋さまだ。あの二人のインパクトで前の人の挨拶なんて、殆ど無かった事になる。つまり名前と二言三言喋れば済むって訳だ。後になってちゃんと紹介するなんて言って、義経や弁慶に連れ廻されるよりは、よっぽど楽だと思うぞ。しかも弁慶、結構怒ってたぞ」

 

「ま、マジか兄貴!?」

 

 弁慶が怒っていると言った瞬間、汗を噴出して震えだす与一……なんだろう涙出てきた。

 

「落ち着かせておいたから今は大丈夫だけど、多分来なかったら後が怖いと思う」

 

「うっ。確かに懐いている兄貴を無下にしたって事で怒りが倍増しそうだ。仕方ない、一時この身を組織の連中にも晒してやるとしよう」

 

 与一がいつもの無駄にクールな笑みを浮かべて立ち上がる。どうやら納得してくれたらしい。

 

 やっぱり環境が変わるとみんな大変だな。

 クールに笑いながら階段を下りて行く与一の後を追いながら、出来る限り三人をサポートしてあげようと心に誓った。

 

 

 

 

 階段を下りて一階に到着すると、丁度義経達が出て行くところだった。

 

「良かった。間に合ったんだな与一、流石お兄ちゃんだ!」

 

「流石ユウ兄、約束は守るね。命拾いしたね与一」

 

「ふっ。兄貴がどうしてもと言うから来ただけだ。べ、別に姉御の恐怖心に負けたわけじゃない!」

 

 いや与一君。震えながらそんな事を言っても説得力がない。

 

「まあいいよ。じゃ、行こうか。少し時間が押したから全員で出て来いってさ」

 

 弁慶に促されて全員で校庭に出て壇上に向かう。

 校庭のざわめきが一気に増えた。

 壇上に上がると清楚姉さんが後ろに下がってスペースを作ってくれた。

 

『ではまずはお待ちかねの女性陣からの紹介じゃ』

 

 はは、鉄心おじさんは相変わらず女好きなのね。

 男子ではなく女子から紹介させる辺りが鉄心おじさんらしい。

 

 この学校がブルマなのも学長である鉄心おじさんの趣味だって噂だしな。

 それにしても、学長の他にも川神院の総代の仕事もしているんだから凄いアグレッシブなおじいちゃんだ。というか子供の頃に会った時と姿が全然変わっていないってどういうこと?

 

「こんにちは、一応、弁慶らしいです。よろしく」

 

「死に様を知った時から好きでしたー!!」

 

「結婚してくれー!!」

 

 鉄心おじさんの容姿の謎について考えていると、急に男性陣から大地を震わさんばかりの歓声が響き渡った。ちょっと怖い。

 

「みんな姉御の正体を知らないから」

 

「まあまあ」

 

 小声で震えながら呟く与一の肩を軽く叩いて落ち着かせる。

 その間に弁慶がマイクを義経に渡す。

 

「き、緊張する」

 

「しっかり義経」

 

「頑張れ義経」

 

「う、うん……よし!」

 

 弁慶と自分に励まされた義経は、深呼吸を一度してから意を決して生徒達の方へと振り返る。ただの挨拶でここまで意気込むんだから、義経は本当に真面目だ。

 

「源義経だ。性別は気にしないでくれ。武士道プランに関わる者として、恥じない振る舞いをして行こうと思う。みんなよろしく!」

 

 義経は最後にお辞儀をして顔を上げる。

 しばしの沈黙の後、またも男性陣から歓喜の声が響き渡った。微妙に女性も混じっているようだ。流石は義経、みんなを魅了するオーラを持って生まれたらしい。

 

「やったぞ弁慶、与一、お兄ちゃん!」

 

「お兄ちゃん?」

 

 誰かの呟きと共に会場に一瞬の静寂が訪れる。

 

 ……しまった。その辺りのことを注意しておくの忘れていた。

 

 義経は何が失言だったのか分かっていないようだったが、自分が何かしでかしたことは理解できたようでオロオロしている。

 

 はあ仕方ない。とりあえず自分が挨拶しない事には先に進まないだろう。

 

「義経マイク」

 

「あ、うん」

 

 マイクを受け取る時に義経の頭を優しく叩いて『大丈夫だ』と伝えて口を開く。

 

「初めまして。自分の名前は鉄優季です。で、隣が那須与一です。自分は皆さんより先に武士道プランが本当に有益かを示すために選ばれた一般人です。まあテストケースって奴ですね」

 

 笑顔でまずは自分の説明を終わらせ、ちゃっかり与一のことも紹介しておく。

 

「え~先程義経がお兄ちゃん発言しましたが、別に血縁関係はありません。自分が無駄に年寄りくさいせいか、いつの間にかそう呼ばれるようになっただけです。あれです、クラスに一人はいる年上タイプって奴です。別名苦労性とも言いますね。委員長とか部長になっちゃう人はなんとなく分かってくれると思います」

 

 オレが苦笑混じりに答えると、数名の生徒が笑いながら首を振ってくれた。

 よし、ある程度は掴みはオッケーかな。

 

「ほら、与一」

 

 そう言って改めて与一に自己紹介させるためにマイクを向ける。

 

「……ふん。那須与一だ」

 

 与一は名前だけ言ってそっぽを向いてしまう。うん、想定内だよ。

 

「はい、と言うわけで男子は苦労性とクールボーイの二名でーす! 良かったらよろしくしてあげてくださいね!」

 

 最後に札を空中に十数枚放つ。

 札は途中で光る小鳥となって宙を舞い、最後に弾けて光の粒子、正確には気の残りかすを撒き散らし、その光は生徒達に降り注いだ。

 

 しばしの沈黙の後で歓声が起こる。良かった、お兄ちゃん発言の印象は消す事に成功したみたいだ。

 

 更にその後、ヒュームさんと紋さまの登場で発言の印象は完全に薄れてくれたようだ。

 まあ間違いなく一番インパクトのある組み合わせだもんなぁ。

 




次回からようやく本格的に九鬼関連以外のキャラが登場。
そして次回は初戦闘回(ちょっとだけ)……頑張ろう。


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