タイトル通りです。
今回ちょっと読み難い箇所があります。
『死ね』
『死ね死ね』
『死ね死ね死ね』
『死ね死ね死ね死ね……』
『……ネシネシネシネシネシネシネ……』
……ついに『死ね』がゲシュタルト崩壊して『ネシ』と聞こえるようになってしまったな。
気付けばよく分からない黒と赤の絵の具を水に溶かしたようなドロドロした空間に立たされていた。
更にはさっきからずっと全方位の黒と赤の歪みが顔の形になって『死ね』と連呼してくる。
だがまあ問題ない。物凄く耳障りだし、全身を呪詛が纏わりついて息苦しいが、『それだけ』だ。コイツらはただそれしか出来ないみたいだから無視して歩みを進める。
上に向かってるのか下に向かってるのか、それとも右か左か、景色のせいで方向感覚を狂わされながら、とりあえず進み続ける。
『……死ね死ね死ね死ね死ね……』
思考に直接訴えかけてくるせいであまり頭が働かないが、とりあえず色々と思い出そう。
確か自分はギルガメッシュと戦っていた筈だ。結果は思い出せない。
自分の左手を見る。令呪が無い。いや、そもそも今の自分に肉体はあるのだろうか?
『死のう死のう死のう死のう……』
聞こえてくる言葉が変化した。命令ではなくこちらの共感を誘うような囁きになった。
イメージはあれだ、赤信号皆で渡れば恐くないみたいな。
なんで一人相手に群集心理的なアプローチをしてきたのだろうこの変な怨念達?
にしてもどのくらい歩いたんだろう……なんか気付いたら手足が真っ黒だし。しかもその部分が顔の形なってそこからも『死のう』なんて囁いてくる。何コレ恐い。
……まあ自分の意思で身体を動かせるから問題ないな。
声を無視してそのまま更に歩みを進め続ける。
外のみんなは大丈夫だろうか?
桜ちゃんはちゃんと眠れたかな……。
色々と考えていると気付けば身体の半分以上が真っ黒になって、また聞こえてくる言葉が変わった。
『死んで死んで死んで死んで死んで死んで』
なんか今度は物凄く弱々しく乞うような嘆きになっていた。まるでこちらが悪いと訴えかけるような悲哀に満ちている。
しかも今度は黒く変色した部分から『死んで』という言葉が振動するように響き渡ってくる。
……何かを思い出そうとしたけどコイツらのせいで思考が定まらない。
それに色々思い出せなくなってきた気がする。これもこの黒い奴の影響かな?
あまりよくない現状だが、他に出来る事も無いので足を進める。
声を無視し続けて歩いている内についに全身が真っ黒になった。
『死ね!!』
おおう!?
とつぜん視界一杯に浮かんだ『死ね!!』という文字と、それが身体に触れた瞬間に感じた魂を直接揺さぶるような衝撃で足を止める。
なんだ今の?
いや、それより……音が聞こえない?
気付けば音が聴こえなくなっていた。
いや、意識しなかっただけで見える景色も変化していた。
真っ黒な世界に赤い色で『死ね』や『死んで』、『死のう』という文字。
他にもなんか色々不吉な文字や文章、こちらを否定するような物が辺りを渦巻いている。『自決せよ』とか『呪いあれ』とか誰の怨念だ?
なんというか見ていて気持ちのいい物ではない。
更に最悪なのはそれらは近くを通るとこちらの身体に向かって来て衝撃を与えてくる。
……うん。とりあえず進もう。
ノイズ的な物には慣れているし、数回衝撃を受けてなんとか耐えられそうだと判断して、止めていた歩みを再開させる。
そう言えば身体の感覚も無い気がするが、まあ何故が進もうと思うと歩けるから問題ないだろう。
それに立ち止まってはいられない。もう思い出せないが、『誰か』と何かを『約束』したのだから。
…………。
……。
ナンカ、ススンデイル、ウチニ、シコウガ、ニブッタ、キガスル。
アイカワラズ、『
トリアエズ、マダ、イケソウダカラ、ススモウカ。
………………………ハテ。
…………………ジブンハ。
………………ナンデココニ。
……………イルンダッタカ?
『死ね』
…………ソレハデキナイ。
『死のう』
…………ソレハデキナイ。
『死んで』
…………ソレハデキナイ。
『どうして?』
ドウシテ?
ハテ、ドウシテダロウ?
………オモイダセナイ。
デモ、ソレダケハ、ダメダトイウノハ、オボエテル。
………………………。
………………。
……ナニモ、ミエナクナッタ。
マックロナダケノセカイ。アカイモジガ、ナクナッタ。
……トリアエズ、ススモウ。
……………………。
………………。
…………。
「あなた、本当に人間? まさか聖杯の底、『私の領域』にまでやってくるとは思わなかったわ」
唐突だった。
今迄の鈍った思考が一気に戻り、身体すら元通りだった。
辺りを見回せばそこは見た事の無い丘の頂上だった。
空には黒太陽、いや穴が開いている。
目の前には磔台があり、眼下には何故かかなり昔の日本家屋の村が並んでいる。
そして目の前には……なんか際どい黒い衣装を纏ったアイリスフィール。
いや、外見が似ているだけで違う存在か?
雰囲気の違いからそう判断し、目の前のアイリスフィールそっくりな彼女を警戒しつつ最初に問われた質問に答える。
「……さっきの返答だが自分は人間だ。で、あなたは?」
「私の名前は、そうね……ここではアンリマユの方を名乗っておきましょうか。この名だけで人類史や神話、伝記に詳しいあなたなら解るでしょう?」
そう、目の前の女性は愉快そうに笑いながら自身を『絶対悪』だと名乗った。
と言う訳で聖杯の底でアンリマユ(英霊)と遭遇。
ユスティーツァの殻を被っているのは領域にやってきた白野と会話する為。
あ、領域の風景はアンリ(丘と磔台)とユスティーツァ(日本で過ごした頃)が合わさった状態です。