岸波白野の転生物語【Fate/編】   作:雷鳥

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前回白野VS聖杯と言ったな。
あれは嘘だ。
……すまない。ちょっと話の展開を考えると先に外側の人達の描写を入れた方がいいと判断して順番を逆にしました。
あとタイトル通り意外なキャラが出てきます。




【意外なメッセンジャー】

「……つまり、この大空洞の奥にこの聖杯戦争の大本である『大聖杯』がある。ということですね?」

 

「ああその通りだ」

 

 アサシンの言葉に疲れ果てたような顔で全てを話し終えた時臣が頷く。

 アーチャーはまず時臣に『大聖杯の場所』を吐かせ、全員でそこに移動しながら色々な事を更に吐かせていた。

 

「待て、それではあの悪意【この世全ての悪】の存在を貴様等は知らないということか?」

 

「はい。我が王が『聖杯は汚染されている』と言っておられましたが、少なくとも遠坂にそのような情報は伝えられておりません。そもそも聖杯戦争は根源に到達するための物。ですのにその性質を『悪』に汚染されるなんて愚考、我々御三家が犯すはずがありません」

 

 アーチャーの言葉に恭しく答える時臣。

 アーチャーは白野を連れ去った悪を見た時に、その正体を見抜き『それに聖杯が汚染されている』事に気付いた。その情報はもちろん全員に伝えておりアーチャーの言葉に全員が困惑していた。

 因みに話し合う為にセイバーとランサーはお互いに聖剣の鞘で傷を治癒していた。

 それでも失った魔力までは戻らないので二人とも戦闘行為は出来ない状態であった。

 

「……因みに英雄王、聖杯が汚染されているとして、それで願いを叶えるとどうなる?」

 

「決まっておろう。悪を持って願いを成就するのだ。それはつまり破壊によって叶えると言う事だ。そうさな、そこの男の世界から争いを無くすという願いなら人間は全て死に絶えるだろうし、そこな騎士王の故国救済ならば己の国以外の全ての国の人々が死ぬだろう。どちらも『他者』や『他国』が無ければ滅ぶ事も無いのだからな」

 

 アーチャーの言葉に絶句する切嗣とセイバー。当然だろう。誰よりも誰かを救いたいと思っている二人からすれば正に本末転倒な願いの叶え方なのだから。

 

「……とりあえず。もうすぐその大聖杯です。そこで全てが分かるでしょう」

 

 アサシンが話を纏め、洞窟を進み続ける一行。

 そしてついに大聖杯が納められた祭壇である開けた場所に到達する。

 

 その場の光景に……一部の者を除いた全ての者が絶句する。

 巨大なクレーターの穴、そこから黒い魔力の柱が迸り、その魔力を見て浴びた瞬間に『生きている』彼等は察する。

 

『あれは在ってはならない物だ』

 

 恐怖による寒気を感じながら時臣はその場に膝を付いてありえないとばかりに呟く。

 

「馬鹿な……何故こんなことに」

 

 冬木の土地の神秘を管理するものとして、御三家の一家である遠坂としてあってはならない事態の直面に、時臣の魔術師としての誇りは完全に折れてしまった。

 

 切嗣とアイリ、そしてセイバーもまた『あんな物で願いを叶えようとしていた』という事実に恐怖を、それと同時にそれが叶わなかった事に安堵という二つの感情が入り乱れて気持ちが落ち着かなかった。

 

 そんな中で、聖杯に興味が無い三人の英霊がそれを見つける。

 

「あれは……」

 

「……アイリスフィール?」

 

「え?」

 

 名前を呼ばれて我を取り戻したアイリスフィールが、正面に向き直る。

 聖杯の祭壇のような巨大な崖の手前の地面に置かれた岩の一つに、女性が腰掛けていた。

 

『全裸で』

 

「切嗣は見ちゃダメ!!」

 

 アイルスフィールが咄嗟に切嗣に目潰しを行い、驚き戸惑っていたせいで避け損ねた切嗣はそのまま両目を押さえて悶絶する。

 

 全裸の女性は来訪者に気付くと岩から降りて一行へと駆け寄ってくる。

 近付いてみると、まさに容姿はアイリスフィールと同じであったが瞳は彼女よりも朱に染まり、その表情はとても豊かであった。

 そしてそのまま近付くと、女性はアイリスフィールに向けて抱きついた。

 

「きゃ~。もうもう可愛いわ~私の娘。さすが私の娘美人! こんな可愛い娘と孫を殺そうとしたなんて。その死んだ魚のような義理の息子は数年はこの事を弄り続けてやるわ」

 

 アイリスフィールに頬擦りしていた女性は次に頬を膨らませて未だに地面に伏している切嗣を睨む。

 

「……あ、貴女はいったいというか服を! 服を着て頂戴!」

 

「えっと、これをどうぞ」

 

「これもついでに。あそこで茫然自失している男の上着です。せめて腰に巻いて前だけでも隠しなさい」

 

「あら、ありがとう舞弥さん。アサシン」

 

「「何故私の名を……」」

 

 二人から上着を受け取った女性はそれを羽織り、時臣の赤いスーツを腰に巻いて前を隠す。

 

「さて、まずは自己紹介ね。私は大聖杯の核であったユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルンの肉体と魂に大聖杯の汚染の原因でもあった『この世全て悪(アンリ・マユ)』という名のサーヴァントだった英霊の精神が宿った存在。それが私よ。もっとも、今はただの人間だし、サーヴァントの私に明確な自我や姿形なんて無かったから、ユスティーツァって呼んでくれると嬉しいわ」

 

「ど、どういうことなの!? だって、じゃあ今あの大聖杯の核になっているのは!?」

 

「……マスターですね」

 

 ランサーの言葉にユスティーツァはにっこりと満面の笑みを浮かべ。

 

「大正解!」

 

 と両手で頭の上で大きなマルを作る。

 その瞬間にランサーはその目を細め、アサシンは瞬時に抜刀してユスティーツァの背後に現れ短刀を彼女の首に突きつけた。

 

「つまり、貴様が我等のマスターを攫い、そしてあの聖杯に捧げたと」

 

「それは正しくもあり間違ってもいる。そうね、そこの英雄王ならもう察しているのではないかしら?」

 

 そう言ってユスティーツァがアーチャーへと視線を送る。

 アーチャーは改めて目の前のユスティーツァを見て、そし大聖杯を見て、何らかの結論に至り、先程までの不機嫌な表情から一変して口に笑みを浮かべる。

 

「クク、ハハハ、ハーハハハハハハ!! まさかまさかそう言う事か! 貴様は本当に我を愉しませる事が上手い」

 

 堪らずといった感じに大声で笑うアーチャー。その様子をみんなが訝しげに見詰めるが、気にした様子も無く一頻り笑い終えたアーチャーはアサシンへと声を掛けた。

 

「その雑種を放してやれ暗殺者。安心しろ、そやつはただの人間だ。そして雑種よ。さっさと己の役目を果たせ。この場にいる者にあそこで起きた事の委細を伝える。それが貴様が白野から与えられた『役割』であろう?」

 

「さすがは英雄王。彼が尊敬と畏怖を抱く大英雄。そして正解よ。私は彼、あなた達のマスターである白野から、あなた達に全てを伝えて欲しいと頼まれてここにいる。だからその物騒な物は下ろしてくれないかしら?」

 

 ユスティーツァとアーチャーの言葉に、アサシンはいまだ完全に納得はしてはいないものの、ここでユスティーツァを殺しても意味は薄いと判断して短刀を納める。

 

 それを見てユスティーツァはさて何から話そうかしらと呟きながらしばらく黙考してから口を開いた。

 

「まずアサシンとランサーが気にしている彼だけど、彼はまだあそこで戦っているわ。聖杯の全てを掌握しようとね」

 

 そう言ってユスティーツァは黒い光を放つ『穴』を指差す。

 

「聖杯の全てを掌握?」

 

「ええそうよ。彼は今……大聖杯の術式、魔力、呪い、その全てを自分の物とする為に己を作り変えている。岸波白野と言う『自我を保った』ままね。当然ね。自我を失えばあそこから出てくるのはただのアンリマユに乗っ取られた存在。だから自我を失う訳にはいかない……それがどれだけの苦痛と苦悩を伴うものかは、私には分からない」

 

 ユスティーツァの言葉に誰もが息を呑む。しかしそれを語る当のユスティーツァに心配した様子は無かった。

 

「けれど私は心配していないわ。だって悪意しかない聖杯の泥の底の底に、ただ在るだけだった私の意識まで、彼は自我を保ったままやって来たのだから」

 

 そしてユスティーツァは大切な思い出を語るように、ゆっくりと白野が聖杯に飲まれてからの事を語り始めた。

 

 




と言う訳で最後の救済者、アンリマユ(英霊)です。
これは多分誰も予想できなかったはず。
あとユスティーツァの性格はFGOの方ではなく『おしえてアインツベルン』の方のアイリの方に寄せました。
いやね、元々私の中ではユスティーツァはアイリに似た性格と言うイメージだったんですよ。で、更にアンリの元々の『好奇心旺盛』という成分を足したら『おしえてアインツベルン』のアイリが一番イメージに近かったのでこうなりました。
あと彼女は元々は全裸ではなく天の衣を着ている設定でした。
でもね、あれって人間が触ると『黄金』に変わっちゃうという設定だったんですよねぇ(改めて調べた時に分かった)
ならもう全裸で行こう!という事でこうなりました。


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