岸波白野の転生物語【Fate/編】   作:雷鳥

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セイバーとランサーのラストバトルです。



【理想VS信念】

 岸波白野とギルガメッシュが消えた瞬間、境内には静寂が訪れた。

 事前に打ち合わせしていたランサーとアサシンは驚かず、周囲の人間だけが白野が行った固有結界の類似の魔術に驚いていた。

 

「馬鹿な。魔術使い程度が固有結界の展開だと!?」

 

「固有結界、ライダーが使っていたものよね? でも、あれにはかなりの魔力を持っていかれるはず」

 

「決着はすぐに付くだろう」

 

「……それで、我々はどうするランサー」

 

「セイバーはこちらに……他の者は全員階段の方へ下がりなさい」

 

 セイバーがランサーの方へと視線を向けると、ランサーは全員へそう伝えるとラムレイを本殿の方へと向かわせる。

 

 セイバーもまたそれに続き、他の全員が彼女達から距離を取る。

 

 お互いに向かい合うと先にランサーが口を開く。

 

「宝具によるぶつかり合い。元より我々の戦いにそれ以外に決着をつける方法はありません」

 

「確かに」

 

 お互いのスキルと戦法を熟知している以上、必殺の一撃の比べ合いでしか決着はないと判断したランサーの言葉にセイバーも頷き、ラムレイに跨ったままランサーがその槍を構え、セイバーもまた結界を解いて聖剣を構える。

 

「戦う前にセイバー、今一度尋ねましょう。願いを変えるつもりはありませんか?」

 

 ランサーの問いに、セイバーは目蓋を閉じしばし黙考した後に目蓋を開いた。

 

「いえ。願いは破棄します。私はただ、聖杯をマスターである彼等に渡すのみです」

 

 その答えにランサーは、ほう。と呟き続きを促す。

 

「理由を訊いても?」

 

「……私には理想しかなかった。例えなんと言われ、恐れられようとも、この理想が民と国の為になるのならと。しかし結果は滅びでした。そして貴女という存在です」

 

 セイバーがランサーを見詰める。

 

「冷静になって気付いたのです。貴女は信念を貫いた私です。もっと幼い、理想と信念の両方を持って旅をしていた頃ならともかく、王となって現実を知った私にできる生き方は、そもそもその二つしかなかった。私と貴女は対極、その二人が失敗した時点でアーサー王に滅びを回避する可能性など無かったのです」

 

 そこまで言い切るとセイバーは視線を剣へと向ける。

 

「ならば選定その物をやり直す。というのも考えました。ですが、もし蛮族が攻め入るまでに担い手が現れなければ当時の私はきっと剣を抜くでしょう。例え現在の私が過去に戻ったとしても抜くはずです。ええそうです。私がこの剣を手にしないという世界がそもそもありえないのです」

 

 寂しそうに、しかしどこからすっきりとしたような表情で小さく微笑みながら、セイバーは空を見上げ、ランサーもまた空を見上げる。

 

「だって私は――」

 

「そうだ私は――」

 

「「苦しんでいる人達を救いたくて、剣を抜いたのだから」」

 

 二人はお互いに視線を交わらせる。そして、口元に笑みを浮かべる。

 

「……認めようアーサー王、もう一人の私。今の貴女にならば、私も死力を尽くす価値がある」

 

「こちらは初めからそのつもりです」

 

 改めて二人はお互いの武器を構える。

 

「枷を『半分』外す! 全力で踏ん張り、耐えよラムレイ!」

 

「ヒヒーーン!!」

 

「聖剣よ。今こそその輝きを示す時です!」

 

 ランサーのロンゴミニアドが今までに無いほどの魔力を収束させながら回転し、まるで嵐のような放電と風を巻き起こす。

 対するセイバーのエクスカリバーも同じくライダー戦の時以上の魔力を収束し続け、その黄金の刀身から巨大な光が空へと昇る。

 

 二人は互いに目を閉じ、魔力の収束に集中し続ける。

 その規模の危険性にいち早く気付いたアサシンが冷や汗を流す。

 

「……まずいですね。この距離でもへたしたら吹き飛ばされます。全員死にたくなければ階段を全力で下りなさい。せっかく助かった命を無駄にしたくは無いでしょう」

 

 マスターである白野が彼等を救おうとしている為、一応助言してからアサシンはまっさきに階段を下りる。

 

「アイリ!」

 

「きゃ!?」

 

 経験と直感からアサシンの言葉通りだと察した切嗣もアイリスフィールを抱きかかえて一気に階段を下りて行き、彼等の反応について行けなかった時臣が少し遅れて駆け下りる。

 

 そして誰も見届け人が居なくなった境内、力を収束し続けていた二人が同時に目蓋を開く。

 

「『最果てにて(ロンゴ)――」

 

「『約束された(エクス)――」

 

 二人が武器を振りかぶる。

 光と闇、対となる輝きを宿した武器が、その真名の開放と供に更にその輝きを増し、そして――。

 

「――輝ける槍(ミニアド)』!!」

 

「――勝利の剣(カリバー)』!!」

 

 ついにその力は担い手の手より放たれた。

 

 疾走する光と闇の閃光。

 

 お互いに回避を度外視した全力の一撃。

 

 二つの閃光の余波が辺りの建造物を吹き飛ばし、大地を砕きながら進み続ける。

 

 そして、境内の中央で二つは激突し、爆発した。

 

 円蔵山を激しい光と振動、そして衝撃波が襲う。

 なんとか下山に間に合った四人はその場に座り込み、揺れから身を護る。

 アサシンが見上げれば行き場を失った光と闇のエネルギーの奔流が空に昇って行くのが見えた。

 

 爆発の揺れはしばらく続き、そして対に光と揺れが収まる。

 

「……決着ですね。それにしてもなんて出鱈目な威力。遠坂氏、これはどう考えても呼び出せるサーヴァントのクラス設定を間違っているとしか思えません。これではこの地はすぐに更地ですよ」

 

 アサシンのもっともな指摘に、時臣は何も言えずただただ事後処理の事で胃を痛めていた。

 

「では私は先に行かせて頂きます。ああそれと、そこの林にあなた達のお仲間を休ませていたのですが……大丈夫だといいですね」

 

 アサシンは舞弥を置いて行った場所を教えてから階段を駆け上り、それを聞いたアイリスフィールと切嗣が舞弥の無事を確認しに行こうとしたとき、林からその舞弥が頭を抑えて出てくる。

 

「うう……今のは?」

 

「舞弥さん!」

 

 彼女の無事を喜び抱きつくアイリスフィールに困惑する舞弥、それを見届けた切嗣はさっさと上ってしまった時臣を追いかけるように自分も境内へと戻る。

 

「……酷いな」

 

 境内は辿り着いた切嗣が見た物は全壊した建物と地面にできた巨大なクレーターだった。

 

 そのクレーターの両端に、二人の王は立っていた。

 体中傷だらけになりながら、それでもセイバーは己の剣を支えに立ち、ランサーも槍を支えに立っていた。

 

「……相打ち、か?」

 

「いいえ」

 

 時臣の言葉に、アサシンが否定した。

 

「ランサーの勝ちです」

 

 セイバーはそのまま動かず、しかしランサーは息を整えると支えていた槍を抜き、自らの両足で立ち上がり、そしてゆっくりではあるがセイバーへと歩みを進め始めた。

 

 それを見て切嗣が顔を険しくさせる。

 

「何故ランサーだけ」

 

「……ラムレイ、彼女が居たかどうかの差、だったのかもしれません」

 

 アサシンはこの場にラムレイの気配が無い事を察して、彼女が最後に主を庇ったか、自ら彼女の魔力源となる事で彼女の魔力を回復したかのどちらかであろうと推察する。

 

 そしてその推察は正しく、爆発が二人を飲み込む瞬間、ラムレイは自らを盾にランサー庇った。結果、ランサーの方がほんの少しだけを受ける被害を減らす事が出来た。

 

「『私達』の勝ちです」

 

「ええ。私の敗北です。さあ、決着を」

 

 目の前までやって来たランサーの言葉に、セイバーはそう満足そうに答え、剣を放り、崩れそうになる足を無理矢理立たせ、鎧が無くなったその身体を曝け出す。

 

 ランサーもまたセイバーの気持ちを酌み、一撃で終わらせる為に今にも倒れそうな身体を動かし、その槍を大きく引き、いざ突き刺そうとした瞬間――その身体を赤い光が包んだ。

 

「マスター!?」

 

 赤い光はランサーだけではなくアサシンからも発せられ、二人はその光と供に自らの身体が『受肉する』のを感じると供に白野との繋がりである魔力が途切れた事も感知する。

 

「ああ、そん、な……く、おおぉぉぉおおお!!」

 

 アサシンがやり場の無い怒りの雄叫びを上げる。

 その尋常じゃない事態に時臣と切嗣は困惑し、ちょうど階段を上がってきたばかりのアイリスフィール達はアサシンの様子に一体何があったのかと戸惑う。

 

「……どうやら、負けたのは私達のようです。令呪を使って魔力を回復して貰いなさい。そうすれば、英雄王ともまだ戦えるでしょう」

 

 ランサーは槍を持ったままセイバーに背を向け、天を仰いだ。

 

 ランサーとアサシンだけは理解する。

 

 セイバーとランサーの勝負はランサーが勝った。

 

 しかし白野が負けた。

 

 マスターである白野が負けた時点で、彼の為に戦うと決めた二人には戦う理由が無くなってしまった。

 何故白野が自分達を受肉させたのか、という疑問はあったが、それは些細な事だと二人はそれ以上考えるのを放棄して自嘲気味に笑った。

 

「やはり……人間ではサーヴァントには勝てませんか。分かっていた。分かっていたはずなのに」

 

 どうして彼を送り出したのか。

 そんな後悔を感じながら、二人はお互いに視線を向け合い、そしてその瞳に同じ決意を見て取り、同時に頷いた。

 

『ギルガメッシュを倒す』

 

 それは彼のサーヴァントとしての自分達の最後の仕事だと、二人は決意し、結界からの英雄王の帰還を待った。

 

 そして空間が歪み、結界からアーチャーが帰還する。

 それに合わせて二人が飛び出そうとした瞬間――。

 

「時臣いいいいいぃぃいいいい!!」

 

 アーチャーの怒号が響き、二人の身体が硬直する。

 

 見ればアーチャーの姿はひどい物で左腕を失い、体の中央付近に深い刺し傷があり今もまだそこから血を流していた。

 

 目は爛々と赤く輝きその表情を怒りに歪め、自身のマスターである時臣を睨みながらずかずかと歩み寄る。

 

 時臣は動けなかった。

 英雄王の本気の敵意の視線と殺意のオーラを受け、彼は意識を失いかける。だがそれをアーチャーが首を掴み上げた事で彼の生存意欲が本能的に湧きあがり、意識が戻る。

 

「がっ!? お、王、何故このよう――」

 

「黙れ! 貴様、今すぐこの地の聖杯についての情報を全て吐け。さもなくばこのまま首を折る!」

 

(っ本気だ! 王は本気で私を殺す気だ!)

 

 時臣は一族の隠匿していた秘中の秘、大聖杯について語るか一瞬だけ迷う。

 その迷いをアーチャーは瞬時に察する。

 

「アインツベルン。白野に助けられた貴様なら快く口を開くか?」

 

 射殺すような視線を受け、アイリスフィールが顔を蒼くさせて震える。

 そして震えながら、答えた。

 

「え、ええいいわ。何があったのか知らないけど、彼は私の恩人。聖杯の情報が必要なら、教えてあげる」

 

「では時臣、貴様はいらないな」

 

「ま、お待ち下さい王! 全て、全て答えます!」

 

 同じ御三家のアインツベルンに秘中の秘を晒すと宣言された時臣は、このままではただ殺されるだけだと、慌ててアーチャーにそう返事を返す。

 

「ふん。初めからそう答えよ」

 

 アーチャーは時臣の首から手を離し、時臣はその場で咳き込みながら蹲り、同時に生きている喜びを実感する。

 

「アーチャー、一体何があった。私のマスターはどうした」

 

 ランサーがアーチャーを警戒したまま訊ねる。

 

「後で話す。全ては時臣の話を聞いてからだ。ああだが一つだけ伝えておく」

 

 アーチャーは怒りを抑えつつ、ランサーとアサシンを一瞥してから宣言した。

 

「我と白野の勝負は白野の勝ちだ。故に我が此度の戦で貴様等と戦う事はもはや無い」

 

「馬鹿な……」

 

「嘘……」

 

 サーヴァントの強さを知るセイバー陣営の四人は驚き目を見開き、時臣もありえないと驚愕する。

 

 ランサーは無言だがその口元を嬉しそうに歪め、アサシンも喜びを現すかのように「さすがマスター」と呟く。

 

 だが、だからこそ二人は勝った白野がこの場にいないの事が理解できなかった。

 だがその理由に聖杯が関わっている事だけはアーチャーの発言から理解できた二人は、その情報を知る人物の傍に向かう。

 

「もう呼吸も落ち着いただろう時臣、さっさと答えよ」

 

「答えなさい魔術師」

 

「なんなら拷問致しましょうか?」

 

 元々喋るつもりだったが、三体のサーヴァントの圧に焦りを感じた時臣はすぐに口を開いた。

 

 そして彼の口から大聖杯についての全ての情報が伝えられた。

 




個人的に答えを得たセイバーの精神状態は『ちゃんと死んで英霊となったら』という考えで
書きました。
たぶんこのくらい自分の過去を受け入れてすっきりと考えていそう。
実際SNのセイバールートの終盤の彼女やエクステラの彼女はそんな感じでしたし。

実はもっとズタボロな描写だったトッキー(漏らしたりとか嘔吐したり)
でも流石に可哀想だったので控え目にした。
そして大聖杯に関してはアインツベルンが原因なのにとばっちりを受けて尋問されるトッキー、でも土地の管理は遠坂の仕事だから仕方ないね!

終わりが近い。
さあ、次は白野VS大聖杯の中身だ。


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