遊戯王VRAINS 幽霊に導かれし少年   作:ナタタク

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霧山城市住民票
名前:桐ケ谷 直葉(きりがや すぐは)
性別:女
年齢:17
誕生日:4月16日
CV(イメージ):竹達彩奈
国籍:日本
身分:K県立霧山城高等学校学生
趣味:剣道
家族構成:両親
好きなデュエリスト:秘密
性格:気が強く、世話好き(特に幼馴染である誠に対して)
好きな食べ物:ココア
最近の悩み:小柄な体なのに、胸が大きくなっていることとカロリーコントロール。そして、霧山城市で最近起こっている事件


第6話 動く

放課後の霧山城高校の図書館で、直葉は学校が保管している新聞記事の切り抜きを読んでいた。

範囲はここ5年間の物で、ジャンルとしては地域のニュースだ。

「なんだろう…2年前からこの町で事件が増えてる…」

建物・備品などの破損や事故、謎の失踪や傷害事件、そして殺人。

2年前の10月7日を契機にそれらの犯罪の数が増加している。

統計資料を見ても、このような事件の数が同じ規模に市町村の平均の倍以上となっていて、おまけに未解決になっている事件もある。

「10月7日…何の日なんだろう…?」

「直葉ー、何してんのー?そろそろ剣道の練習よー!」

「あ、うん!!今行くー!」

資料を本棚にしまい、カバンをもって図書館の入り口付近で声をかけてきた同じ学年の女子高生と合流する。

黒いロングヘアーで若干白が勝った黄色い肌をした、同年代の女子高生と比較するとやや高めの身長の少女で、童顔な直葉と比較すると少し大人びた顔つきをしている。

彼女は桜林加奈子で、直葉と同じ剣道部員だ。

しばらく歩き、靴箱で靴を変えて、外にある武道場へ歩いていると、加奈子がいい話題を思いついたとニンマリと笑って直葉の隣を歩く。

「そういえば、幼馴染の彼との関係、どうなの?」

「え…?関係っていうのは、どういう?」

「うーん、男と女がチュッチュする…」

「チュ、チュッチュ!?!?」

頭の中であらぬ想像が浮かんでしまい、直葉は顔を赤く染める。

前に家の近くのコンビニで剣道の雑誌を探していた際にそういうものの雑誌を立ち読みしていた男性客を思い出す。

彼がその時に読んでいたページにまさしくそういうシーンがあった。

「あんた…何想像してるのよ?」

「と、とにかく!!誠君とはただの幼馴染!!そういう関係じゃありません!!」

なんてことを想像させたんだと友人を恨みながら、プリプリ怒った直葉は速足で武道場へ急ぐ。

そんな彼女を面白可笑しく眺めたその友人は苦笑しつつ見送る。

「あらぁ、これじゃあまだまだ先になりそうだねぇ。誠君がもうちょっと押しが強ければ…」

 

「んくゅん!!」

(おいおい風邪でもねーのに、なんでくしゃみなんてすんだよぉ)

「誰かが噂してるんだよ、きっと」

自転車で学校を出た誠はシャドーの文句を受け流しつつ、南にあるスーパー『マツカゼ』の駐輪場に自転車を止める。

『マツカゼ』はK県内では有力なスーパーマーケットで、霧山城市に本社がある。

県内の食材を中心に扱っており、おまけに県内の有力小売企業が連携して商品開発したプライベートブランドである『いいくらし研究所』の商品も取り扱っている。

明日奈の店はこの店や朝市などで調達する地域の食材を使ったメニューを中心としており、誠はたまにこうして『マツカゼ』へ買い物に行くことがある。

「ええっと、今日買う食材は卵と人参、ほうれん草に玉ねぎ、あしたばか…。あしたば、確か今旬の野菜だったな…」

買い物かごを手にした誠はメモを片手に食材売り場へ向かい、指定された食料品をかごの中に入れていく。

「ああ、そういえば…」

あることを思い出した誠は財布の中からクーポン券を出す。

1000円以上の買い物でこれを提示することで、100円引きしてもらえ、今日郵便受けに入っていた市民向けの無料雑誌の『くらし』に挟まっていたのを明日奈から渡されていた。

(お前…まるで主婦だな…)

姉からの入れ知恵があるとはいえ、主婦のように買い物をする誠をシャドーはげんなりとしながらそう評価する。

こういう店の買い物は姉である明日奈に全部任せて、このまま家に帰ってしまえばいいのにとさえ思ってしまう。

「うわあ…すごい集まってる…」

卵コーナーへ行くと、そこには多くの主婦が集まっていて、列ができていた。

先頭の人から順番に1パックずつ渡されている。

「そういえば、今日は卵の日だった…」

毎週火曜日の午後4時から売り切れまで、K県北部産の『朝の元気』が20%引きになる。

『マツカゼ』らしい地元の卵を安く買うことができることもあり、この時は主婦が大勢集まる。

この卵はシンプルにタマゴかけご飯にすると一番おいしいというのがユーザーの感想だ。

「いらっしゃいませ、いらっしゃいませーー!!今日は卵の日、『朝の元気』がお安くなっております!!在庫の都合上、1人1パックのみの販売となっておりますので、ご了承くださーい!まだ大丈夫です!あと60パック残っております!!」

現在、誠が並んだところで40人目になっている。

午後2時から先着30名に配布される整理券を持っている客は優先列に並んで、確実に購入することができるが、その客はもう全員買い終えているため、後からそのような客が来ることはないだろう。

「あ…そうだ。並んでいる間に…」

列に並んだ誠はスマートフォンにイヤホンをつなげて、リンクヴレインズのデュエルの実況動画を見始める。

最近、『3ちゃんねる』をにぎわせたプレイメーカーVSGo鬼塚のデュエルを見ようと探したが、残念ながら見つけることができなかった。

録画した有志がいないわけではないのだが、なぜか彼のデュエルに限って、その録画データが消えてしまうのだという。

仮にネットにアップすることに成功したとしても、すぐに消去されてしまう。

録画データだけでなく、リンクブレインズにあるすべての痕跡が消されており、それ故にプレイメーカーは目撃者が存在するのは確かだが、Den Cityに住んでいない誠をはじめとした面々は彼の姿すら知らないのだ。

(ハノイの騎士…。リンクヴレインズを破壊しようとしているハッカー集団。なんだか、僕の周りで起こっているのとは真逆な感じが…)

「あの、お兄ちゃん。映像を見るのはいいけど、前進んでくれるかい?」

すぐ後ろに並んでいる小太りの女性が誠に注意をする。

誠は彼女に詫びを入れると、すぐに列を詰めていき、5分後には卵を手に入れた。

 

買った食材をエコバックに入れ、外にある自転車置き場まで歩いていく。

そして、自分の自転車の前かごにそれを入れた。

「あ、そうだ。どんなカードが入ってるかな…?」

食材とは別に、小遣いで買ったカードのブースターパックを出し、それを素手で開ける。

パックの中に入っているカード、合計15枚のカードを1枚1枚確認する。

都会では、もはや紙のカードを使用せず、デュエルディスクにダウンロードされているデータを使用するらしい。

ネット上でしか見たことがない誠自身も半信半疑なのだが、デュエルディスクに入っているデータがカードの状態に実体化するようで、電脳空間であるリンクヴレインズではカードを持たずにデュエルすることができるとのこと。

(まぁ、本当だとしても、僕はこっちの方がいいけどな…あ、レアカード…)

どんなカードだろうと確認していると、急に大きな物音が『マツカゼ』の前の道路から聞こえた。

「まさか…事故!?いや、というよりも…!!」

頭痛を覚えた誠は近くにある手すりに手を置いて倒れないようにし、左手で頭を抑えながら道路の方向に目を向ける。

横転しているのはバスで、近くには救急車を呼ぶ人や中にいる人を助けようとする人や、その状況を只見ていることしかできない人々であふれている。

ゆっくりと頭痛が和らいでいく中、誠は自転車に乗る。

(この感覚…まさか、ステージ2の…!)

(奴は車以上のスピードだ。追いつけねーよ)

「わかってる!それでも、姿だけでも…!」

姿だけでも見ることができれば、とりつかれている人の正体やとりついている精霊について知ることができるかもしれない。

すぐにデュエルをすることができなくても、それをするだけでも価値がある。

『マツカゼ』の敷地を出た誠は高校方面に向けて自転車を走らせる。

「…!見えてきた!!」

高校の北側にある交差点から鯱瓦公園へと続く長い下り坂に差し掛かった誠の目に銀色の機械の装甲に包まれたような体をした、腰にコードのような尻尾がついている人が時には走行している車の上を飛び移るなどして、60キロ近いスピードで路上を走っている。

姿だけでもと思った誠だが、正面からもその正体を見なければ効果が薄い。

「シャドー!変身したら、追いつける!?」

(無理だな!たとえ変身したとしても、せいぜい最大時速40キロ!今の奴には追いつけねーよ!!)

「でも…自転車よりも速く…??」

シャドーと口論する中、ショッピングモール『アクア』前の交差点の信号機のある電信柱の上で、ステージ2が動きを止める。

そして、ゆっくりと追いかける誠に目を向けた。

(え…??)

わずかにステージ2の姿が揺らぎ、一瞬だけ金髪と青い瞳、そして白い肌の顔が見える。

そのあとで、彼は路上へ飛び降り、先ほどの倍以上のスピードで走って逃げてしまった。

「今の姿って…」

(どうやら、ステージ2にまだ人間の体が慣れていねーみてーだな。人間の姿がわずかに見えやがった。ま、やることは変わらねーし、俺には関係ねーけど…)

関係ない、とシャドーは言っているが、誠自身はとてもそうとは思えなかった。

あの顔はあまりにも見覚えがあったからだ。

 

「ただいまー」

「おかえりなさい。遅かったわね」

「ごめん…店の前で事故が起こって、それで遅くなったんだ」

家に帰った誠は明日奈に買ってきた食材が入ったエコバックを渡す。

「うん…OK!いつもありがとう、誠君」

「いいよ、姉さんが頑張ってくれてるから、僕は学校へ行けてるんだし。それに、こんな僕を頼ってくれることが…うれしいんだ」

「誠君…」

「…手、洗ってくる」

らしくないことを言ったと思い、少し顔を赤くした誠は手を洗いに脱衣所へ向かう。

誠の後姿を見て、彼女は何かを言っていたが、今の彼の耳には届かなかった。

(あの人の姿…)

脱衣所へ向けて歩きながら、誠はあのステージ2の正体を考える。

それを裏付けるため、帰りがけに彼はある人と電話をした。

明日奈が所属するサークルの部員で、以前の試合観戦が縁で番号を交換(ただし、明日奈の誘いであり、誠自身は消極的だったが)をしたため、すぐに連絡を取ることができた。

そして、その電話の結果、ある程度その人物の正体をつかむことができた。

「(やっぱり、あの人が…)あ…」

脱衣所のドアが開き、目の前に広がる光景を見た誠の顔が真っ赤に染まる。

湯気が残る脱衣所の中に、一糸纏わぬ姿で体からは風呂から出たばかりだということを示すかのように湯気が出ている直葉の姿があった。

タオルがあり、見えてはいけない部分は隠れているが、女性特有の柔らかなふくらみは見えてしまっており、完全に見とれてしまった誠の手からかばんがスルリと落ちてしまう。

「…キャーーーーー!!!!」

顔を真っ赤にした直葉から投げられた洗濯物入れのかごが誠の顔面にクリティカルヒットする。

前に起こったあのアクシデントを思い出しながら、誠はあまりの激痛で倒れ、そのまま意識をブラックアウトさせた。

 

霧山城市内にある西山の頂上にある展望台。

深夜になり、当然のことながら人気のないその場所に1人の黒マントの少年が立っている。

200メートル程度の標高のその山からは建物や車が発する光がしっかり見えている。

「そうか…やはり、ここに逃げたということか」

1人ごとのようにつぶやくその少年の顔の上半分は仮面で白いバイザーを模した仮面で隠れていて、彼の背後には紫と金を基調とした装甲で、2本角のようなアンテナのある、重装な鎧騎士をイメージさせる人型兵器が蜃気楼のようにユラユラと揺らいだ状態で出てくる。

「さぁ…人間よ。人と神の絶対的な差を知る日はもうすぐだ…」




スーパー マツカゼ 中央店
場所:霧山城高校から南へ徒歩10分

地域の産物を中心に商品を並べているスーパーの本店で、5年前に改装を終了した。
改装後のここは2階建てとなり、屋上に駐車場を新設、更に店内には博多をほうふつとさせる屋台を模した店があり、そこで買い物帰りに昼ご飯や晩ご飯を食べることが可能。
K県内に20店舗近くあり、資本金は一億円程度。
環境保護活動の一環として、野菜や魚はばら売りなことが多い。
現在、マツカゼの創業70周年記念として、新たな地域密着のプロジェクトが計画されているらしい。

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