「よいしょ…よいしょっと…はああ…あと、何箱…?」
夕方の高校のゴミ捨て場に誠は重量のある段ボールを運び、プルプルと震える腕を抑えながら頭の中で残りの段ボールを数える。
もうすぐ直葉が他の生徒会の女子生徒と一緒に段ボールを運んでくるだろう。
放課後に鳴海に呼び出された2人は図書室の倉庫にある廃棄処分が決まった書籍をゴミ捨て場まで運ぶように言われた。
段ボールの中には古くなった地図帳や時事問題本、辞書に伝記など多種多様なものとなっている。
それらはすべて高校の図書館担当者や司書教諭による検討委員会によって選別、校長に承認をもらった上でK市の教育委員会に申請、承認されて除籍事務がされたものばかりだ。
私立の場合は教育委員会に伝える必要はないが、承認までに時間がかかることもあるため、こうしてたまってしまう。
本当なら先生や事務員も運び出しをするはずだが、だんだんと大学入試に注力しなければならない時期に来ており、おまけに試験問題作りなどで忙しくなっている。
そのため、鳴海が自ら申し出る形で今回、生徒会でこのような雑用を行うことになった。
彼曰く、自分たちは図書館の世話になっているのだから、恩返しする必要がある、ということらしい。
「にしても、紙媒体ってのは面倒だな。こうして捨てるのは一苦労。全部スマホでみれりゃあいいのに」
「確かに僕もそう思うよ。でも、そう簡単にはなくならないよ。紙の本って」
少し開けた段ボールの中に手を伸ばし、その中に入っていた古い広辞苑を手に取りながらつぶやく。
電子書籍と比較すると、紙の本には自由に文字がかけるなどの自由度がある。
以前、友人が電子書籍でTRPGの設定本を買ったという話を聞いたが、その中についているキャラ設定の紙をコピーすることができずに、仕方なく手書きでコピーをしたが、その時紙の本を買えばよかったと後悔していたという。
また、雑誌も相変わらず電子書籍よりも紙書籍で買いたいという人が多いのも実情だろう。
実際、誠ももし今使っている教科書や資料集、問題集がすべて電子書籍に変わったらどうなるかなど想像がつかない。
シャドーがそう考えてしまうのは分かるが、彼が手に持っているのはデータ上のものとはいえ紙の本だ。
人間は電子化というものにどれだけ耐えることができるのだろうか。
「さてっと、早く戻らないと…。帰りは、6時過ぎるかなぁ」
「はああ…終わった。疲れたぁ…」
「誠君、体力なさすぎだよ?ダメじゃん、ちゃんと運動しないと」
校門まで自転車を押して歩く中、疲れ果てた様子の誠に対して直葉は少しも疲れを見せていない。
運動部に入っているか否かでここまで体力が違うのか、ステージ2と何度もデュエルを繰り広げて体力がついたと思っていた誠の甘い考えが崩れる。
「ゲームが好きなら、運動できるゲームもあるから、それを買ったら?」
「それもいいけど…小遣いがなぁ。もっと姉さんの手伝い増やそうかなぁ」
そんなことを考えていると校門にさしかかり、そこには鳴海の姿があった。
「やぁ、2人とも。今日はすまなかったね。特に桐ケ谷さん。部活終わりに肉体労働をさせるようなことになってしまったね」
「鳴海さん、そんなことないですよ!あたし、体力には自信ありますから!鳴海さんこそ、あたし達よりも頑張っていたのに、疲れてないように見えますよ」
「家が厳しい分、鍛えられているのさ。それより、2人とも…少し時間はあるかな?あるなら、少し付き合ってほしいところがある」
「ええ…いいですけど…?」
誘われるとしたら、晩ご飯を食べに行くのか?
そんなことを考えつつ、誠と直葉は鳴海についていく。
しばらく自転車をこいで、一番近くにあるK市立小学校のあたりにさしかかると、そのほぼ真正面にある駄菓子屋で鳴海は自転車を止める。
2階建てのこの駄菓子屋は2階部分がカード屋になっている。
「目的はカード屋だ。久々に楽しみたくてね」
「鳴海さんも、デュエルをするんですね。あんまりイメージがつかないですけど…」
「はは…別にガリ勉というわけじゃないさ。こうして人並みに楽しみたいと思うときもあるということ。大目に見てくれよ」
困った笑いを見せる鳴海と一緒に2人は駄菓子屋に入り、中にある階段を上ってカード屋のスペースに入る。
そこには誠達が普段言っているカード屋と同じように、小学生から大学生、大人まで幅広い世代のデュエリストが集まり、デュエルをしていたが、その数は少ない。
「ここは穴場でね。知る人ぞ知るといったところだ。さっそくカードを買うかい?最近新しいパックが発売されたみたいだからね」
さっそくカード売り場からパックをいくつか手にした鳴海はカウンターへもっていき、現金を払うとさっそく開封する。
「おお、いいカードだ…」
「新しい《アームド・ドラゴン》…。最近古いカードの強化カードが多い気が…」
「新しいカードを出すのも大事だが、これまで出てきたカードも大切にしようという考えじゃないかな?ほら、君も買うといい」
「わ、分かりました…」
さっそくデッキを組み始める鳴海に誘われるように、誠も1パックだけカードを買う。
誠が買ったパックの中には《ワイトベイキング》が入っていた。
「新しい《ワイト》?効果は…うわぁ」
《ワイトキング》の効果を考えると、かなりえげつない効果のラインナップに誠は顔を引きつらせる。
墓地にあれば《ワイト》になるのは当たり前だが、レベル3以下のアンデッドの身代わりになれるうえに、墓地へ行った場合は手札1枚を代償にテキストに《ワイト》が書かれているカードか《ワイト》を合計2枚手札に加えることができる。
やろうといえば、いろいろと悪用できるカードで、《ワイト》主体のデッキを作ってみるのも面白そうだと思ってしまう。
「さて…じゃあ、まずは新しいカードで…あ、すみません」
懐のスマホが鳴り、手に取ると画面には自動的に地図が表示され、地図の中には移動している座標がある。
その座標をタップすると、そこには真っ白な着物姿で水色の長髪をした女性が浮遊しつつ、周辺の建物や車両などを氷漬けにしていた。
場所は松が丘住宅地で、ここからでは距離がある。
これはシャドーがスマホに移動している間だけ使える機能で、以前は誠に頭痛と共にフラッシュバックで知らせていたのをこうして映像で見ることができるようになったことで負担を軽減させている。
同時に、その情報は直葉のスマホ、そして徹達警察にも伝わっている。
「誠君…」
「うん、ごめんなさい鳴海さん。急に家からメールが来て、すぐに戻らないと…」
「そうか…それは残念だ。いいよ、またいい時に誘うから」
「すみません…行こう、直葉!」
「うん!鳴海さん、また明日!!」
誠と直葉が早足で店を出ていき、それを見送った鳴海は再びデッキをいじり始める。
そんな彼の口元が若干緩んでいたことにはだれも気付かなかった。
「ああ、くそ…!まだ夏みてーな暑い時期だってのに、どうしてこんなに季節外れな光景を作れるんだ!?」
白バイを走らせる徹は既に強化服姿で、その周囲の氷漬けになった建物の数々に困惑する。
歩道には氷漬けになった人もいて、彼らのほとんどがまるで急に氷漬けにされたかのように、いつも通りの何気ない様子のまま凍っている。
「おい、デルタ!こいつはどこまで低温に耐えることができる!?」
「マイナス94度、地球上での史上最低気温まで耐えることができます。バイクも同様です」
「それならいいが…もし異常が出たら、すぐに知らせろ」
「了解」
モニターにはどんどん下がっていく気温が表示され、既に気温はマイナス25度まで下がっている。
ようやくステージ2の姿が見えてくる。
すると、急に浮遊しているステージ2がギロリとにらむように徹の姿を見るとともに、その場に降りてくる。
同時にバイクが止まってしまい、乗っていた徹が急な停止によって前に飛ばされてしまう。
強化服のおかげで軽い打撲で済んだ徹は痛む箇所を抱えながら起き上がる。
「痛て…これは、とんでもねえ奴だな…」
バイクを見ると、既に氷のオブジェも同然になっていて、もし強化服なしの状態だったらいったいどうなっていたかと考えるだけでぞっとしてしまう。
「警告、気温の低下速度、そしてステージ2の能力から計算すると、マイナス100度以下まで気温が低下する可能性あり。ここでデュエルを行い、捕縛することを推奨します」
「結城と桐ケ谷はどうなんだ?」
「現在、向かっています。到着までにはまだまだ時間がかかるものと」
「ちっ…なら、俺がやるしかないか。頼むから、カードまで氷漬けはやめてくれよ」
そんなことを願いながら、徹は白バイに取り付けられているデュエルディスクを装着し、カードを引く。
ステージⅡの左腕にも、六角形の水晶のようなデュエルディスクが出現する。
「こうなったら、さっさとケリをつける!いくぞ…!!」
徹
手札5
LP4000
ステージ2
手札5
LP4000
変身した2人は自転車をデュエルボードで座標の位置へ急ぐ。
その中でデュエルディスクの通信機能が起動する。
「誠君、直葉ちゃん!小沢よ!今、谷村君がステージ2とデュエルをしているわ。あとどれだけ時間がかかる!?」
「あと15分です!谷村さんは大丈夫なんですか!?」
「現状、スーツと彼の体調は問題ないけれど…彼の周りは急速に気温が低下している…。もしかしたら、ステージ3のあなたたちにも影響が出るくらい気温が下がっている可能性も高いわ」
「気温が下がる…ということは、水属性のモンスターの…」
「アカネ、炎の魔法なんて使えたりする??」
「そんな魔法は使えないよ!だって、私は魔法使いというよりも錬金術師だから!!」
「とにかく急ごう!これ以上、あのステージ2を野放しにしていたら、霧山城市が南極になってしまう!!」
平和になってきたと思ったら、またステージ2が現れ、しかもそのモンスターの今回の被害は大きすぎた。
そのことに頭を悩ませながら、誠は少しでも早く到着できることを願った。
「俺の先攻!俺は手札から《神樹のパラディオン》を召喚」
神樹のパラディオン レベル3 攻撃800(チューナー)(2)
「現れろ、犯罪者を捕らえるサーキット!アローヘッド確認!召喚条件は《マギアス・パラディオン》以外のパラディオン1体。俺は《神樹のパラディオン》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク1!《マギアス・パラディオン》!」
マギアス・パラディオン リンク1 攻撃100(EX1)
「そして、手札の《ジェスター・コンフィ》は手札から攻撃表示で特殊召喚できる!」
ジェスター・コンフィ レベル1 攻撃0(2)
「《マギアス・パラディオン》の効果。こいつのリンク先に効果モンスターが特殊召喚された時、デッキからパラディオンモンスター1体を手札に加えることができる。俺はデッキから《百獣のパラディオン》を手札に加える。そして、俺のフィールドに魔法使い族が存在することにより、手札の《ランリュウ》を特殊召喚できる」
まるで《プチリュウ》を成長させたかのような姿をしらドラゴンが現れ、成長の影響なのか、その体には風を纏っている。
カードイラストには描かれながらも独立したカードとしてはこれまで出てこなかったものだが、ようやくカード化されたことで注目が集まっているカードでもある。
ランリュウ レベル4 攻撃1500(3)
「現れろ、犯罪者を捕えるサーキット!アローヘッド確認。召喚条件はリンクモンスターを含む効果モンスター2体以上。俺は《マギアス・パラディオン》と《ランリュウ》、《ジェスター・コンフィ》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンク召喚!力を束ね、敵を両断する黄金のケンタウロス!リンク3、《アークロード・パラディオン》!」
アークロード・パラディオン リンク3 攻撃2000(EX1)
「そして、カードを1枚伏せて、ターンエンド」
徹
手札5→1
LP4000
場 アークロード・パラディオン リンク3 攻撃2000(EX1)
伏せカード1(2)
ステージ2
手札5
LP4000
場 なし
「私のターン…ドロー…」
ステージ2
手札5→6
「《麗の魔妖-妲姫》を召喚」
薄紫のカーテンがステージ2の背後に現れ、カーテンが開くとその中には巫女服姿をした紫の長髪で平安貴族のような化粧をした女性が鏡を抱えて現れる。
名前だけなら、史記でも出てくる傾国の美女妲己を彷彿とさせるが、デザインからすると完全に和風だ。
麗の魔妖-妲姫 レベル2 攻撃1000(チューナー)(3)
「そして、このカードは魔妖が私のフィールドに存在するとき…手札・墓地から特殊召喚できる…。《氷の魔妖-雪娘》を特殊召喚」
続いて現れたのは青い着物姿をした座敷童子というべき少女で、その周囲には氷の結晶がいくつも浮かんでいる。
氷の魔妖-雪娘 レベル1 攻撃0(4)
「そして、この方法で特殊召喚に成功したとき、デッキからアンデッド族モンスター1体を墓地へ送る…」
デッキから墓地へ送られたカード
・九尾の狐
「現れて。神へと導く未来回路。アローヘッド確認。召喚条件は魔妖モンスター2体。私は《妲姫》と《雪娘》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンク召喚。現れて、リンク2。《氷の魔妖-雪女》」
2体のモンスターが飛び込んだサーキットが凍り付いていき、それが砕け散るとともにそこには青と白の巫女服姿で、雪のように真っ白な肌と髪をした女性が現れ、徹に向かって手を振る。
氷の魔妖-雪女 リンク2 攻撃1900(EX2)
「そして、《妲姫》はエクストラデッキから魔妖が私のフィールドに特殊召喚された時、墓地から特殊召喚できる」
麗の魔妖-妲姫 レベル2 攻撃1000(チューナー)(3)
「更に手札から魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動。手札のモンスター1体を墓地へ送り、手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚できる。デッキから《翼の魔妖-波旬》を特殊召喚」
どこからかほら貝の音色が響き、同時に霜がついた黒羽が空から落ちてくる。
近くの電信柱の上でカラスの羽根飾りをつけた山伏姿をした中年男性が立っていた。
翼の魔妖-波旬 レベル1 攻撃600(5)
手札から墓地へ送られたカード
・馬頭鬼
「《波旬》の効果。このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、デッキから魔妖1体を特殊召喚できる。《轍の魔妖-俥夫》を特殊召喚」
神輿のような豪華な人力車を引っ張る青い着物のような上着と黒い三度笠を身に着けた車夫が現れる。
その人力車にはいつの間にか《氷の魔妖-雪女》が座っていた。
轍の魔妖-俥夫 レベル3 攻撃1200(4)
「《俥夫》の召喚・特殊召喚に成功したとき、墓地から魔妖1体を特殊召喚できる。再び《雪娘》を特殊召喚」
氷の魔妖-雪娘 レベル1 攻撃0(1)
「リンク召喚の後に、一気にチューナー込みでモンスターを4体だと!?」
おまけに、《ワン・フォー・ワン》の効果で墓地へ送られた《馬頭鬼》はアンデッド族デッキ御用達のカードの1枚。
ここから何が始まるのかは明白だ。
「レベル1の《雪女》にレベル2の《妲姫》をチューニング…。シンクロ召喚。現れて、《轍の魔妖-朧車》」
凍り付いた3つのチューニングリングが燃え上がり、地面と平行になるように向きを変えると、その中から燃える車輪と提灯をつけた、鬼の顔が前面についている人力車が車夫なしで走り出す。
轍の魔妖-朧車 レベル3 攻撃800(3)
「そして、《朧車》がエクストラデッキから特殊召喚されたことで、墓地の《妲姫》を特殊召喚する」
麗の魔妖-妲姫 レベル2 攻撃1000(チューナー)(1)
「おいおいおい、その《妲姫》ってモンスターの復活効果にターン制限はないってのか!?」
「レベル3の《朧車》にレベル2の《妲姫》をチューニング…シンクロ召喚。現れて、《毒の魔妖-土蜘蛛》」
再びのシンクロ召喚で次に現れたのは腰から上が青い甲冑を纏った武士で下半身が青い蜘蛛になっている妖怪だった。
毒の魔妖-土蜘蛛 レベル5 攻撃2000(3)
「さあ、再び蘇りなさい。《妲姫》」
麗の魔妖-妲姫 レベル2 攻撃1000(チューナー)(1)
「一体…何回シンクロ召喚を続けるつもりなんだよ、こいつは…」
「レベル5の《土蜘蛛》にレベル2の《妲姫》をチューニング…シンクロ召喚。現れて、《翼の魔妖-天狗》」
次にシンクロ召喚されたのは右手に錫杖を手にしたまさに文字通り天狗というべき姿のモンスターで、仮面と連動するように口の部分も開いていた。
翼の魔妖-天狗 レベル7 攻撃2600(3)
「そして、墓地の《妲姫》を特殊召喚」
麗の魔妖-妲姫 レベル2 攻撃1000(チューナー)(1)
「レベル7の《天狗》にレベル2の《妲姫》をチューニング…。シンクロ召喚。現れて、《麗の魔妖-妖狐》」
さらに続くシンクロ召喚。
今度はこのターン、墓地へ送られた《九尾の狐》のように9本の尻尾をつけ、陰陽師をほうふつとさせる服装をした白い狐が現れる。
麗の魔妖-妖狐 レベル9 攻撃2900(3)
「さあ、まだ続くわよ。《妲姫》」
麗の魔妖-妲姫 レベル2 攻撃1000(チューナー)(1)
「レベル9の《妖狐》にレベル2の《妲姫》をチューニング…シンクロ召喚。現れて、《骸の魔妖-餓者髑髏》」
こうして、1ターン目で5回目のシンクロ召喚にしてレベル11のシンクロモンスターが現れる。
甲冑を身に着けた紫色で巨大な人骨が四つん這いになって現れ、体中から紫の炎を噴出させる。
骸の魔妖-餓者髑髏 レベル11 攻撃3300(1)
「そして、再び現れて。《妲姫》」
麗の魔妖-妲己 レベル2 攻撃1000(チューナー)(3)
「まさかとは思うがよ…レベル13なんて出さないよな…?」
ルール上の最大レベルは12で、まさかそんなモンスターは出るはずないと高をくくりたいところだが、そんな常識が通用する相手とも思っていない。
《D.D.クロウ》がデッキに入っていれば、このシンクロ召喚ループを止めることができたかもしれないが、そんな都合のいい時に来ることなどめったにない。
「現れて。神へと導く未来回路。アローヘッド確認。召喚条件はアンデッド族モンスター2体以上。《雪女》、《俥夫》、《妲己》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンク召喚。現れて、《零氷の魔妖-雪女》」
追い討ちをかけるように、今度はリンク4のモンスターとなった《氷の魔妖-雪女》が出現する。
その左手には氷のように冷たい双刃の長刀が握られており、それと同時に吹雪まで発生し始めた。
零氷の魔妖-雪女 リンク4 攻撃2900(EX2)
「くうう…なんて、吹雪だよ!?これは…!!」
普通の人間ならあっという間に動けなくなるほどのすさまじい吹雪に徹は必死に耐える。
強化服の温度調整機能をフルに働かせているが、もし途中でバッテリーが切れたら、凍死という未来が待っていることだけは分かった。
「小沢さん!菅原さん!!聞こえるか!?おい、応答しろ!!…クソッ!!寒さのせいで通信機がイカれたか!?」
そんな中で幸いなのはデッキとデュエルディスクが凍っていないことだ。
そうなってしまったら、デュエル自体が続行できなくなってしまう。
(多分、たとえあの2人が来たとしても、デュエルすること自体できないってことになるだろうな…。ここは、まともに戦える俺で止めるしかねえ!!)
「《雪女》がリンク召喚されたことで、《妲己》は再び蘇る」
麗の魔妖-妲己 レベル2 攻撃1000(チューナー)(3)
「そして、自分フィールドのモンスターを2体墓地へ送ることで、墓地の《九尾の狐》を特殊召喚できる」
役目を終えたと言わんばかりに《翼の魔妖-波旬》と《麗の魔妖-妲己》が姿を消し、吹雪の中から文字通り、9本の尾を持つ白狐が現れる。
それぞれの尻尾に火をともし、それが吹雪の中で彼の身を守っていた。
九尾の狐 レベル6 攻撃2200(2)
「《雪女》の効果発動。墓地からモンスターの特殊召喚に成功したとき、もしくは墓地のモンスターの効果が発動したとき、このカード以外のフィールド上のモンスター1体の攻撃力を0にし、効果を無効にする」
「くっ…!?」
《零氷の魔妖-雪女》が《アークロード・パラディオン》に向けてフッと息を吹きかける。
光って見えるその吐息は一瞬でそのモンスターを氷漬けにした。
アークロード・パラディオン リンク3 攻撃2000→0(EX1)
「攻撃力も効果も失った…!?」
「一大事です、刑事殿。相手フィールドには3体のモンスターが存在し、そのうち2体のモンスターの攻撃を許した場合、刑事殿のライフは0となります」
「そんなことわかってるんだよ!!黙ってみてろ」
「了解」
「バトル。《骸の魔妖-餓者髑髏》で《アークロード・パラディオン》を攻撃」
《骸の魔妖-餓者髑髏》の口から紫の炎が発射され、氷漬けの《アークロード・パラディオン》を焼き尽くそうとする。
「させるかよ!永続罠《クローラー・パラディオン》を発動!こいつは罠モンスターだ!」
水色のラインがある金色の球体から6本脚が展開され、《アークロード・パラディオン》の前に立ち、その炎を阻む。
クローラー・パラディオン レベル2 守備2100(3)
「そして、《クローラー・パラディオン》をリンクモンスターのリンク先に特殊召喚に成功したとき、デッキから星遺物1枚を手札に加える。俺は《星遺物-『星槍』》を手札に加える」
「攻撃…続行」
攻撃を阻まれたものの、再び炎を口に宿した《骸の魔妖-餓者髑髏》が《アークロード・パラディオン》に向けて再び炎を放つ。
「俺は手札の《『星槍』》の効果を発動!リンクモンスターを含むモンスター同士が戦闘を行うとき、このカードを手札から墓地へ送ることで、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を3000ダウンさせる!」
骸の魔妖-餓者髑髏 レベル11 攻撃3300→300(1)
炎の直撃と同時に、どこからか振って来た槍で貫かれる形で体に大きなひびが入り、どうにか体の炎で溶かしたものの、激痛で体を倒してしまう。
徹
LP4000→3700
「《九尾の狐》で《クローラー・パラディオン》を攻撃」
そんな仲間の苦悶に目もくれず、続けて《九尾の狐》が尻尾から火の玉を放ち、焼き尽くされた《クローラー・パラディオン》が消滅する。
「《雪女》でダイレクトアタック」
そして、がら空きになった徹に向けて、《零氷の魔妖-雪女》が長刀で切り払う。
「うわあああ!!ぐう…!!」
長刀の一撃を強化服が耐えるものの、冷たい刃の感触があと少しで肌というところまで来ていて、殺気を感じてしまう。
徹
LP3700→800
「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド…」
徹
手札1
LP800
場 なし
ステージ2
手札6→1
LP4000
場 零氷の魔妖-雪女 リンク4 攻撃2900(EX2)
骸の魔妖-餓者髑髏 レベル11 攻撃300(1)
九尾の狐 レベル6 攻撃2200(2)
伏せカード1(4)
「刑事殿、ライフ危険水準。警告、このターンでの勝利を推奨します」
「んなことは分かってるんだよ!くそ…ダメージのせいか、ちょっと寒くないか!?」
先ほどの一撃で強化服へのダメージは覚悟していたが、そのせいで温度調整機能にもダメージが発生したのか、冷気が徹の体を徐々に侵食していく。
このままでは、デュエル以前に凍死する未来が頭に浮かぶ。
だが、逆転するにもフィールドにカードはなく、手札は1枚のみ。
「俺のターン、ドロー!!」
徹
手札1→2
「俺は手札から魔法カード《聖天使の施し》を発動。俺のフィールドにカードがない時、デッキからカードを2枚ドローし、手札1枚を墓地へ捨てる」
手札から墓地へ送られたカード
・魔境のパラディオン
「そして、俺は手札から《ジャッジアイズ・シンクロン》を召喚」
《ジャッジアイズ・パラディオン・ドラゴン》と同じ天秤が刻まれた水色の瞳をしていて、青白いブカブカのスーツをした人間が六法全書をほうふつとさせる分厚い本をもって現れる。
その体は瞳以外がすべて真っ黒だった。
ジャッジアイズ・シンクロン レベル2 攻撃1000(チューナー)(3)
「《ジャッジアイズ・シンクロン》の効果。このカードの召喚に成功したとき、相手フィールドにのみリンクモンスターが存在し、俺のフィールドにこのカード以外のモンスターが存在しない場合、墓地からレベル4以下のパラディオン2体を特殊召喚できる。俺は《魔境のパラディオン》と《神樹のパラディオン》を特殊召喚」
魔境のパラディオン レベル3 攻撃400(1)
神樹のパラディオン レベル3 攻撃800(2)(チューナー)
「レベル3の《魔境のパラディオン》にレベル3の《神樹のパラディオン》をチューニング!新たな星を生み出す先駆けとなれ!シンクロ召喚!現れろ、レベル6!《アルルプス・パラディオン》!」
チューニングリングが生み出す光から現れた白い狼には水色の鎧が装備されている。
そして、大地に降り立つとともに鎧の各部から青白い炎を放ち始める。
アルルプス・パラディオン レベル6 攻撃2200(EX1)
「《アルルプス・パラディオン》の効果。このカードの効果はシンクロ召喚された位置によって効果が異なる。このカードをエクストラモンスターゾーン、またはパラディオンリンクモンスターのリンク先にシンクロ召喚された時、墓地からリンク3以下のパラディオンリンクモンスター1体を特殊召喚できる。俺は《アークロード・パラディオン》を特殊召喚」
《アルルプス・パラディオン》の咆哮に呼び寄せられた《アークロード・パラディオン》が再びフィールドに出現する。
アークロード・パラディオン リンク3 攻撃2000(2)
「そして、《アークロード・パラディオン》のリンク先には《アルルプス・パラディオン》がいる。よって、攻撃力が《アルルプス・パラディオン》の元々の攻撃力分アップする!」
アークロード・パラディオン リンク3 攻撃2000→4200(2)
「墓地からモンスターが特殊召喚されたことで、《雪女》の効果発動。《アークロード・パラディオン》の効果と攻撃力を失わせる」
だが、せっかくの攻撃力も、墓地から特殊召喚されたのであれば最後、《零氷の魔妖-雪女》の餌食になる。
再び氷の彫像と化した《アークロード・パラディオン》を《アルルプス・パラディオン》の炎でも消すことはできない。
アークロード・パラディオン リンク3 攻撃4200→0(2)
「まだだ!俺はレベル6の《アルルプス・パラディオン》にレベル2の《ジャッジアイズ・シンクロン》をチューニング!裁きの竜よ、今正眼の力によりて咎人を量れ!!シンクロ召喚!現れろ、レベル8!《ジャッジアイズ・S(シンクロ)・ドラゴン》!!」
《ジャッジアイズ・シンクロン》が生み出した水色のチューニングリングをくぐった《アルルプス・パラディオン》の姿がその姿を法衣と学帽をつけた賢者と白いドラゴンを融合させたような見た目をしたドラゴンへと変貌させていく。
その瞳にはジャッジアイズ特有の天秤が刻まれていて、腰には麻縄が巻き付けられていた。
ジャッジアイズ・S・ドラゴン レベル8 攻撃3000(EX2)
「《ジャッジアイズ・S・ドラゴン》…」
シンクロの名前を手にした新たなジャッジアイズの出現をステージ2はすました顔をしたまま見ている。
「《ジャッジアイズ・S・ドラゴン》の効果。このカードがパラディオンリンクモンスターのリンク先に存在する場合、そのリンクモンスターをリリースすることで、このターン、このカードが相手モンスターと戦闘を行うとき、ダメージステップ終了時までその相手モンスターの効果を無効化し、攻撃力を0にする!更に俺は手札から装備魔法《審判の秤》を《ジャッジアイズ・S・ドラゴン》に装備!このカードはジャッジアイズ専用の装備カードで、装備モンスターの攻撃力を1500アップする!」
氷漬けとなった《アークロード・パラディオン》が光の粒子となって吸収され、《ジャッジアイズ・S・ドラゴン》の背後には巨大な天秤のエフェクトが発生する。
ジャッジアイズ・S・ドラゴン レベル8 攻撃3000→4500
「これで、《ジャッジアイズ・S・ドラゴン》が攻撃表示モンスターを攻撃することで、4500の戦闘ダメージを相手に与えることができます」
「そういうことだ!《ジャッジアイズ・S・ドラゴン》で《雪女》を攻撃!!量刑のシン・ブレイ…」
「永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動。私の墓地のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。そして、それに合わせて《雪女》の効果も…発動する」
《零氷の魔妖-雪女》の氷漬けにする効果は1ターンに2度、発動できる効果だ。
この効果が通った瞬間、せっかくの《ジャッジアイズ・S・ドラゴン》は力を失い、そして次のターンの攻撃で徹の敗北が確定する。
「そんな効果、通してたまるかよ!!《ジャッジアイズ・S・ドラゴン》の効果。バトルフェイズ中に相手がカード効果を発動したとき、墓地のパラディオンリンクモンスター1体を除外することで、その発動を無効にし、破壊する!!」
「な…!?」
「《アークロード・パラディオン》!!リベンジの時が来たぞ!!」
徹の声に応じるかのように、《アークロード・パラディオン》の幻影が姿を現す。
そして、氷の息吹を放とうとする《零氷の魔妖-雪女》に向けて突撃する。
剣を抜き、息吹を切り裂くと同時に消滅し、いつの間にか《リビングデッドの呼び声》のソリッドビジョンも真っ二つとなって消滅する。
「攻撃続行だ。《ジャッジアイズ・S・ドラゴン》!!量刑のシン・ブレイク!!」
《ジャッジアイズ・S・ドラゴン》が獲物としている杖に魔力を凝縮させ、それを白い奔流へと変えて《零氷の魔妖-雪女》に向けて放つ。
白い奔流を受けた《零氷の魔妖-雪女》は消えていき、それはステージ2をも襲う。
「あああああああ!!!」
零氷の魔妖-雪女 リンク4 攻撃2900→0(EX2)
ステージ2
LP4000→0
ジャッジアイズ・シンクロン
レベル2 攻撃1200 守備800 チューナー 光属性 戦士族
(1):このカードの召喚に成功したとき、自分フィールドに存在するモンスターがこのカードのみで、相手フィールドにリンクモンスターが存在する場合、自分の墓地に存在するレベル4以下の「パラディオン」モンスター2体を対象に発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。
アルルプス・パラディオン
レベル6 攻撃2200 守備1100 シンクロ 光属性 獣族
「パラディオン」チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
(1):このカードのS召喚に成功したとき、その位置によって以下の効果が適用される。
●EXモンスターゾーン、または「パラディオン」リンクモンスターのリンク先:自分の墓地に存在するリンク3以下の「パラディオン」リンクモンスター1体を特殊召喚する。この効果を発動したターン、そのモンスター以外の自分リンクモンスターは攻撃できない。
●メインモンスターゾーンかつ、「パラディオン」リンクモンスターのリンク先ではない:手札・デッキからレベル4以下の「パラディオン」チューナーモンスター1体を自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。この効果を発動したターン、自分は「パラディオン」「ジャッジアイズ」「ゴーレム」モンスターしか召喚・特殊召喚できない。
ジャッジアイズ・S(シンクロ)・ドラゴン
レベル8 攻撃3000 守備2000 シンクロ 光属性 ドラゴン族
「ジャッジアイズ・シンクロン」+チューナー以外の「パラディオン」モンスター1体以上
(1):自分メインフェイズ1に1度、このカードが自分の「パラディオン」リンクモンスターのリンク先に存在する場合、自分フィールドの「パラディオン」リンクモンスター1体をリリースすることで、次の相手ターン終了時まで以下の効果を得る。
●このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。ダメージステップ終了時まで、その相手モンスターの攻撃力は0となり、効果は無効化される。
(2):自分バトルフェイズ中、相手が魔法・罠・モンスター効果を発動したとき、自分の墓地に存在する「パラディオン」リンクモンスター1体を除外することで発動できる。その発動を無効にし、破壊する。
審判の秤
装備魔法カード
「ジャッジアイズ」モンスターのみ装備可能。
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):装備モンスターの攻撃力が1500アップする。
(2):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、墓地に存在するこのカードと「ジャッジアイズ」モンスター1体を除外することで発動できる。自分の墓地に存在する「パラディオン」「ゴーレム」リンクモンスター2体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの元々の攻撃力は2000となり、効果は無効化される。この効果はこのカードが墓地へ送られたターン、発動できない。
「はあ、はあ、はあ…倒れた、か…」
「ステージ2、精霊を吸収します。あと少しの辛抱です、刑事殿」
デュエルディスクから発生した光が倒れているステージ2を照らし、その正体である女子中学生と精霊である《薄氷の魔妖-雪女》に分離する。
そして、精霊はカードとなり、デュエルディスク上に精製された。
「気温の上昇を確認。ステージ2が封印されたことによるものと予測されます。お見事なワンショットキルでした、刑事殿」
「どう…も…」
アドレナリンのせいか、こうして無事に終わると一気に疲れが遅い、感じていなかった痛みを覚える。
グッタリと前のめりになって倒れてしまう。
「…さん!!谷村さん!!」
「ボロボロじゃない!!ああ、小沢さんと菅原さん、急い…!!」
徹の耳元に聞き覚えのある少年少女の声が聞こえ、「遅ぇよ…」と憎まれ口をたたきたくなるが、今の徹にはそれを言うだけの体力は残っていない。
「心拍数、不安定。体温の上昇を確認。よくない状態です。P03DXの損傷と流入した冷気から判断すると…」
こんな状況でも機械的に、冷静な分析をするデルタ。
せめて心配してくれと思いながら、徹は意識を手放してしまった。
冷気がなくなった通りでは何が起こったのかと氷から解けた人々が口々に周囲の急な変化に驚きの声を上げ、その中でパトカーと救急車が通る。
そんな混乱する町を上空からステージ3がDボードに乗った状態で見学する。
「戦ったのはあの2人じゃなくて、警察官かよ。ったく…まぁ、その警察官のデータが取れただけでもよかったのかなぁ?」
予想外の結末となってしまったが、それでも現状ステージ3に相当する力を持つ警察官のデュエルデータを取ることはできた。
今回は別の魚が釣れる結果となったが、彼にとってこの『ゲーム』は終わったわけではない。
まだまだ霧山城市にはステージ1がいて、ステージ2になりつつある人々は腐るほどいる。
「次はもっといいのを探しておくから、楽しみにしておけよ…?結城君、桐ケ谷さん…」