「《ジェニオン》で2回連続ダイレクトアタック!Dソリッドパニッシャー!」
《C.C.ジェニオン》が発射する2発のビームを受け、2人の生徒が力尽きる。
気絶にとどまる程度に出力を調整させたため、死ぬことはないだろう。
誠は図書館の改札口を飛び越え、図書館の中に入っていく。
3階に到達すると、そこには直葉の姿があった。
「やっぱり…君なんだね、直葉…」
「結城…誠…」
フラリと直葉の眼が誠に向けられる。
その眼は普段の黒と薄緑の楕円形な幼さの残る瞳ではなく、ただ黒々とした虚ろなものとなっていた。
そして、少なくとも直葉は誠のことをフルネームで呼ぶことはない。
誠は一度変身を解除する。
「おい、何やってんだ!?変身を解くんじゃねえ!」
「直葉…聞こえているかはわからない。けど…言わせて。ごめん…幼馴染の君を僕はほったらかしてた…」
シャドーと出会い、変身してステージ2との戦いに巻き込まれてから誠はずっとそのことばかり考えていた。
彼女のことも頭に入れているつもりだったが、実際は戦いから遠ざけようとしてばかりで、彼女自身の気持ちを考えていなかった。
「侑哉君が言っていたんだ。ステージ2が人を襲うのは精霊が憑依したことだけが原因じゃない。憑依した人の暗い感情や、欲望に影響されるって…それで思ったんだ。もしかしたら、直葉はもっと遊びたいんじゃないのかなって…」
直葉に憑依した《アカシック・マジシャン》は少なくともネットゲームやカラオケなど、楽しいことをやりたがっていて、他のステージ2と異なり人を襲う気配がなかった。
そのことを考えたら、侑哉の言うことは正しいかもしれない。
ただ、あのサイキック族のステージ2の場合は、人間の願望以上の精霊の力が強いように思える。
人の願望と精霊の力関係はあいまいなのかもしれない。
なお、普段は真面目な直葉であるため、もしかしたらその分遊びたいという願望が強かったのかもしれない。
「直葉…今度、一緒にどこかへ遊びに行こう。いくらでも付き合うから…」
「…くん」
「え…?」
「たす…けて…誠…君…」
小さい声で聞き取りにくいが、確かに誠に助けを求めている。
虚ろな瞳から涙が一粒の涙がこぼれている。
「うん…助けるよ。必ず…」
「ちっ…何ロマンスやってんだ。さっさとデュエルで黙らせろ」
直葉の体が赤い光に包まれ、赤い髪とローブ姿のステージ2へと変化する。
誠も再び変身し、互いに5枚のカードを手に取る。
「これで今回の件が完全に解決できるとは思わない。けど…少なくとも直葉だけは救う!」
ステージ2
手札5
LP4000
誠
手札5
LP4000
「私の…先攻…。手札から《ベリー・マジシャン・ガール》を召喚…」
ベリー・マジシャン・ガール レベル1 攻撃400(1)
「このカードの召喚に成功したとき…デッキからマジシャン・ガール1体を手札に加える…。私はデッキから《ブラック・マジシャン・ガール》を手札に加える…」
(やっぱり使ってきた…マジシャン・ガール…)
直葉のデッキはマジシャン・ガールを多数加えた《ブラック・マジシャン》デッキ。
《アカシック・マジシャン》が魔法使い族であるため、あまりデッキの内容に変化がないだろうと考えていた誠の読みが当たった。
「現れて、神へ導く未来回路。アローヘッド確認。召喚条件は召喚条件はレベル4以下の魔法使い族モンスター1体!あたしは《ベリー・マジシャン・ガール》をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。リンク召喚。リンク1、《グレープフルーツ・マジシャン・ガール》」
グレープフルーツ・マジシャン・ガール リンク1 攻撃1400(EX2)
「《グレープフルーツ・マジシャン・ガール》の効果発動…。このカードの特殊召喚に成功したとき、手札のマジシャン・ガール1体を特殊召喚する…。私は《ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚…」
ブラック・マジシャン・ガール レベル6 攻撃2000(5)
「リンク先に《ブラック・マジシャン・ガール》…来る!」
「《グレープフルーツ・マジシャン・ガール》の効果…。リンク先にマジシャン・ガールが存在するとき、このカードをリリースすることで、デッキから《賢者の宝石》を1枚手札に加える…。手札から魔法カード《賢者の宝石》を発動…。デッキから《ブラック・マジシャン》を特殊召喚…」
ブラック・マジシャン レベル7 攻撃2500(1)
直葉の王道パターンが炸裂する形で、黒魔術の師弟タッグが手札消費実質1枚のみで登場する。
まだ手札は4枚残っており、まだまだやろうと思えば動くことができる。
「更に手札から永続魔法《黒の魔導陣》を発動。デッキを上から3枚めくり、その中の《ブラック・マジシャン》、もしくはその名前が記された魔法・罠カード1枚を手札に加えて、それ以外のカードを好きな順番でデッキの一番上に置く…。私は《光と闇の洗礼》を手札に加えて、《アップル・マジシャン・ガール》と《幻想の見習い魔術師》をデッキの一番上に戻す…」
《幻想の見習い魔術師》がデッキトップに置かれ、手札に《光と闇の洗礼》が来る。
これで彼女は《ブラック・マジシャン》を除去されない限りはいつでも《混沌の黒魔術師》を特殊召喚できるようになった。
「私はカードを2枚伏せて、ターンエンド…」
ステージ2
手札5→2(伏せカード、もしくは手札の中の1枚《光と闇の洗礼》)
LP4000
場 ブラック・マジシャン レベル7 攻撃2500(1)
ブラック・マジシャン・ガール レベル6 攻撃2000(5)
黒の魔導陣(永続魔法)(2)
伏せカード2(3)(4)
誠
手札5
LP4000
場 なし
「僕のターン、ドロー!」
誠
手札5→6
「僕は手札から《C.C.アルター》を召喚!」
ロザリオを手に握り、白いローブで身を包んだ仮面の人型ロボットが現れる。
その背中には祭壇座の模様が刻まれている。
C.C.アルター レベル4 攻撃1500(1)
「このカードの召喚に成功したとき、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在するとき、デッキの上から5枚カードをめくり、その中からC.C.1体を手札に加え、それ以外を墓地へ送る。僕は《C.C.バロール》を手札に加え、それ以外のカードを墓地へ送る」
デッキから墓地へ送られたカード
・聖なるバリア-ミラーフォース
・C.C.ウルフ
・スフィア・フォース
・C.C.オセロット
「そして、手札の《C.C.クロック》を墓地へ送り、《C.C.バロール》を特殊召喚!」
C.C.バロール レベル5 攻撃1900(2)
「更に、《アルター》の効果発動。1ターンに1度、墓地に存在するC.C.モンスターを2枚デッキに戻すことで、デッキからカードを1枚ドローできる」
墓地へ送られたばかりの《C.C.ウルフ》と《C.C.オセロット》がデッキに戻り、誠はカードを1枚ドローする。
「おい、《オセロット》はC.C.リンクモンスターが存在するとき、墓地から特殊召喚できる効果を持ってるんだぞ!?何1枚のドローのためにデッキに戻してやがる!?」
シャドーの言う通り、《C.C.オセロット》は墓地にいることで真価を発揮するカード。
今の誠の行動はその真価を殺しているだけだ。
「ううん、これでいい。現れろ、星を繋ぐサーキット!」
図書館の天井にサーキットが出現するが、屋内にいるためか一時的に発生するはずの夜空が現れない。
「アローヘッド確認。召喚条件はC.C.モンスター2体。僕は《バロール》と《アルター》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンク召喚。現れろ、リンク2。《C.C.ガンレオン》」
C.C.ガンレオン リンク2 攻撃2000(EX1)
C.C.アルター
レベル4 攻撃1500 守備1500 効果 光属性 機械族
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードの召喚に成功したとき、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在するときに発動する。デッキの上から5枚をめくり、その中にある「C.C.」モンスター1体を手札に加え、それ以外のカードを墓地へ送る。この効果を発動したターン、自分は「C.C.」以外のモンスターの召喚・特殊召喚を行えない。
(2):自分の墓地に存在する「C.C.」モンスター2体を対象に発動できる。そのカードをデッキに戻し、デッキからカードを1枚ドローする。
「《バロール》の効果発動!このカードを素材にC.C.リンクモンスターのリンク素材としたとき、このカード以外のリンク素材となったモンスター1体を手札に加える」
再び誠の手札に《C.C.アルター》が戻る。
これで、再び墓地肥やしとサーチが可能になる。
「バトル。《ガンレオン》で《ブラック・マジシャン・ガール》を攻撃!」
「攻撃力…《ブラック・マジシャン・ガール》と同じ…」
「《ガンレオン》とこのカードのリンク先のモンスターは1ターンに1度、戦闘及びカード効果では破壊されない!ギーグガン、発射!」
杭打ち銃を2丁手にした《C.C.ガンレオン》が《ブラック・マジシャン・ガール》に向けて赤熱した杭を発射する。
「速攻魔法《黒魔導強化》を発動。お互いのフィールド・墓地の《ブラック・マジシャン》、《ブラック・マジシャン・ガール》の数によって発動できる効果が決まる…。私は1番目の効果を発動…。フィールドの闇属性・魔法使い族モンスター1体の攻撃力を…ターン終了時まで1000アップ…」
《ブラック・マジシャン・ガール》が《黒魔導強化》の力で魔力を増強し、ステッキから紫色の魔法のビームを発射する。
「読んでた…。僕は手札から速攻魔法《超新星》を発動。僕のフィールドのC.C.リンクモンスター1体の攻撃力を墓地のC.C.1体の攻撃力分アップさせる。僕は《バロール》を選択!」
《C.C.バロール》の幻影を吸収し、《C.C.ガンレオン》が緑色の光を放つ。
C.C.ガンレオン リンク2 攻撃2000→3900(EX1)
ブラック・マジシャン・ガール レベル6 攻撃2000→3000(5)
「上回った…」
杭をかわした《ブラック・マジシャン・ガール》だが、飛んできたスパナが頭に当たり、たんこぶができた個所をさすりながら消滅した。
ステージ2
LP4000→3100
「更に、《ガンレオン》の効果。このカードが特殊召喚されたモンスターを戦闘で破壊したとき、墓地からC.C.1体を特殊召喚する。僕は《C.C.バロール》を特殊召喚!」
《C.C.ガンレオン》は持っているスパナでフィールドに現れた《C.C.バロール》を修復する。
先ほどパワーアップした恩を返したいのか、レンズには更に高い倍率で見えるように改良が施されていた。
C.C.バロール レベル5 攻撃1900(3)
「よし…再び現れろ!星を繋ぐサーキット!アローヘッド確認。召喚条件はC.C.2体以上。僕は《バロール》と《ガンレオン》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。直葉を取り戻すために、力を貸して!リンク召喚。現れろ、リンク3。《C.C.ジェニオン》!」
C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500(EX2)
「《ジェニオン》の効果発動。リンク先のモンスターの数だけバリアカウンターを乗せる。そして、カードを1枚伏せてターンエンド。《超新星》の効果を受けたモンスターはターン終了時に破壊される。けど、《ガンレオン》はもうフィールドにいないから意味はない」
ステージ2
手札2(伏せカード、もしくは手札の中の1枚《光と闇の洗礼》)
LP3100
場 ブラック・マジシャン レベル7 攻撃2500(1)
黒の魔導陣(永続魔法)(2)
伏せカード1(4)
誠
手札6→2(うち1枚《C.C.アルター》)
LP4000
場 C.C.ジェニオン(バリアカウンター0→1) リンク3 攻撃2500(EX1)
伏せカード1(2)
超新星
速攻魔法カード
(1):自分フィールドの「C.C.」リンクモンスター1体を対象に発動できる。自分の墓地に存在する「C.C.」モンスター1体の攻撃力分、攻撃力がアップする。この効果を受けたモンスターはターン終了時、破壊される。
「私のターン…ドロー…」
ステージ2
手札2→3
「私は手札から魔法カード《師弟の絆》を発動…。私のフィールドに《ブラック・マジシャン》がいるとき…手札・デッキ・墓地から《ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚する…」
ブラック・マジシャン・ガール レベル6 攻撃2000(3)
「そして…これが、神がもたらした力、《ティマイオスの眼》を発動…」
「《ティマイオスの眼》…なんだ、これは!?」
「うう…ど、どうしたんだ…シャドー…!?」
シャドーが異変を感じ、同時に誠も頭痛を感じ始める。
これまでエクシーズ召喚やシンクロ召喚、ペンデュラム召喚を見たが、それでもこのような頭痛を覚えることはなかった。
だが、この《ティマイオスの眼》は違う。
そのカードから出現した青をベースとした色彩の鱗と肌をした、長い牙をもつドラゴンが傷のある右目の瞳を光らせる。
「私のフィールドのブラック・マジシャンモンスター1体をリリースして、そのカード名が融合素材に記されている融合モンスターを融合召喚する…。神よ、《ブラック・マジシャン・ガール》に力を…」
瞳の光に反応するかのように、《ブラック・マジシャン・ガール》の体が緑色の光に包まれる。
光の中で彼女の服が消滅し、入れ替わるようにビキニアーマーのような水色の鎧姿へ変化する。
そして、出現したドラゴンの背中に《ブラック・マジシャン・ガール》が乗る。
「これが…《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》」
竜騎士ブラック・マジシャン・ガール レベル7 攻撃2600(EX2)
「《ブラック・マジシャン・ガール》が見たことにない姿に…」
「更に…手札から魔法カード《ソウル・サークル》発動…。私のフィールドに《ブラック・マジシャン》、もしくは《ブラック・マジシャン》を融合素材にしたモンスター…そして《ブラック・マジシャン・ガール》、もしくは《ブラック・マジシャン・ガール》を融合素材にしたモンスターが1体ずつ存在するとき…デッキからカードを2枚ドローする…」
ソウル・サークル
通常魔法カード
このカード名のカードは1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」もしくは「ブラック・マジシャン」を融合素材としたモンスター、そして「ブラック・マジシャン・ガール」もしくは「ブラック・マジシャン・ガール」を融合素材としたモンスターが1体ずつ存在するときに発動できる。デッキからカードを2枚ドローする。
「そして、《マジシャンズ・ロッド》を召喚…」
マジシャンズ・ロッド レベル3 攻撃1600(3)
「このカードの召喚に成功したとき…《ブラック・マジシャン》と記されている魔法・罠カードを1枚手札に加える…」
デッキから自動排出された《黒・魔・導》がステージ2の手札に加わり、即座にそのカードを発動する。
「《黒・魔・導》発動…私のフィールドに《ブラック・マジシャン》がいるとき…相手フィールドの魔法・罠カードをすべて破壊…」
《ブラック・マジシャン》が杖から黒い爆発性のある魔力の球体を生み出し、それを誠の魔法・罠ゾーンに向けて発射する。
「僕は罠カード《ダメージ・ダイエット》を発動。このターン、僕が受けるダメージを半分にする!」
破壊される寸前に《ダメージ・ダイエット》が生み出したバリアが誠を包んでいく。
《C.C.ジェニオン》にはバリアカウンターが1つあり、1回だけなら破壊に耐えることができる状態だ。
「現れるがいい…神へ導く未来回路。アローヘッド確認。召喚条件はトークン以外の同じ種族のモンスター2体…。私は《ブラック・マジシャン》と《マジシャンズ・ロッド》をリンクマーカーにセット…サーキットコンバイン。リンク召喚。リンク2、《アカシック・マジシャン》」
「《アカシック・マジシャン》…直葉の!」
彼女に憑依していたモンスターである《アカシック・マジシャン》が虚ろな瞳でフィールドに現れる。
アカシック・マジシャン リンク2 攻撃1700(3)
「直葉…《アカシック・マジシャン》…」
侑哉と遊んでいたときの笑顔も普段見せてくれている笑顔もそこにはない。
その笑顔を奪ったサイキック族のステージ2のことを誠は許せなかった。
「墓地の《師弟の絆》の効果発動…。私のフィールドにブラック・マジシャン・ガールモンスターが存在するとき、墓地からこのカードを除外することで…1度だけ墓地の《ブラック・マジシャン》を特殊召喚…」
ブラック・マジシャン レベル7 攻撃2500(2)
師弟の絆
通常魔法カード
このカード名の(2)の効果はデュエル中1度しか発動できない。
(1):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が存在するときに発動できる。手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン・ガール」1体を特殊召喚する。
(2):自分フィールドに「ブラック・マジシャン・ガール」モンスターが存在し、自分の墓地に「ブラック・マジシャン」が存在するとき、このカードを墓地から除外することで発動できる。そのモンスター1体を墓地から特殊召喚する。
「また《ブラック・マジシャン》がフィールドに…!」
「そして、《黒の魔導陣》の効果…。《ブラック・マジシャン》が召喚・特殊召喚されたとき、相手フィールドのカード1枚を除外する…」
「な…!?」
《黒の魔導陣》から黒い魔法の鎖がはなたれ、縛られた《C.C.ジェニオン》はバリアを展開する暇もなくカードの中に吸収されていく。
「バトル…《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》でダイレクトアタック」
《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》が剣に魔力を宿し、大出力のビームの刃を生み出す。
その剣を誠に向けて振り下ろす。
「うわあ!!」
辛くも回避したものの、ビームの刃が床に命中し、破片が宙を舞う。
それが誠の頬をかすめ、ツーと出血する。
誠
LP4000→2700
「《ブラック・マジシャン》でダイレクトアタック」
続けて《ブラック・マジシャン》が魔力の弾丸を発射する。
フィールドにカードがなく、他に発動できるようなカードもないため、正面から受け止めるしかない。
「うわあああ!!」
《ダメージ・ダイエット》で軽減されているとはいえ、それでも大きな衝撃が体を襲い、吹き飛ばされた誠は背後の壁に激突する。
「ああ…!!」
床に落ちた誠は中から感じる痛みに涙が出るが、右手で拭って立ち上がる。
誠
LP2700→1350
「更に、《アカシック・マジシャン》でダイレクトアタック」
虚ろな目の《アカシック・マジシャン》が左手に赤い魔力を宿り、誠に向けて発射する。
《ブラック・マジシャン》程のものではないが、それでも立ち上がろうとしたところへの追撃という形でのダメージで、数値以上に肉体へのダメージが大きい。
「え…?」
痛みを感じる誠だが、それ以上に何か不思議なものを感じたせいで、悲鳴を上げることを忘れてしまっていた。
誠
LP1350→500
「くっそぉ…《ダメージ・ダイエット》を発動できたからまだしも、下手したらワンキルだったぞ!?」
誠が受けたダメージをそのまま受けているシャドーも苦し気だ。
流れる血を左手の甲で拭った誠はフラフラになっていた足腰に力を入れなおし、ゆっくりと前へ進む。
「確かに…けど、けど…安心した…」
「はぁ!?何言ってやがる?安心だと??」
「聞こえなかったの…?《アカシック・マジシャン》の声が…まだ、彼女の意識は完全に消えていないんだ…」
ダメージを受けたとき、なぜか脳裏に《アカシック・マジシャン》の声が聞こえた気がした。
かすかに聞こえた程度だが、誠の直感が確かにそうだと告げていた。
(直葉も私も…まだいるから…)
「直葉も…《アカシック・マジシャン》も…まだあの中にいる…。まだ、行けるんだ…!」
デュエルディスクの中から、ライオンの咆哮が聞こえてくる。
エクストラデッキがオレンジ色に光り、そこで1枚のカードが生まれる感じがした。
(また、こいつの意思がモンスターを…こいつ、何者だ?)
《C.C.ジェニオン・ガイ》を召喚したときも、誠の勝ちたいという思いが高まったときだった。
記憶のないシャドーでも、精霊の力を借りたとしても人間がカードを生み出すことができないのは分かっている。
誠のC.C.はシャドーが生み出したもので、人間の産物ではない。
「私はフィールドから速攻魔法《光と闇の洗礼》を発動…。《ブラック・マジシャン》をリリースし、《混沌の黒魔術師》を特殊召喚…」
混沌の黒魔術師 レベル8 攻撃2800(4)
「《混沌の黒魔術師》で…ダイレクトアタック」
《混沌の黒魔術師》の杖から黒々とした、稲妻を放つ魔力の弾丸が生み出され、誠に向けて発射される。
その弾丸が誠に接触した瞬間爆発し、誠の周囲を爆煙が包み込む。
「これで…おしまい…」
「まだ…おしまいじゃない!僕は手札の《C.C.オリオン》の効果発動!相手フィールドの特殊召喚されたモンスターの攻撃宣言時、このカードを手札から特殊召喚できる!」
《C.C.オリオン》が誠の目の前に現れ、わが身を盾にして《混沌の黒魔術師》の攻撃を受け止めていた。
C.C.オリオン レベル6 守備2400
「そして、1ターンに1度、フィールド上の特殊召喚されたモンスターの表示形式を変更できる」
混沌の黒魔術師 レベル8 攻撃2800→守備2600(4)
「…私は、《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》の効果発動…。手札1枚を墓地へ送り、フィールド上の表側表示のカードを1枚破壊する」
《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》が乗るドラゴンが墓地へ送られた《マジシャンズ・サークル》を吸収すると、薄水色のブレスを放つ。
ブレスを受けた《C.C.オリオン》はその立て続けに襲う攻撃を避けずに受け止めきってから消滅した。
「ありがとう…《オリオン》…。《オリオン》の効果。このカードがフィールドを離れたとき、相手のリンクモンスター1体を次の相手ターン終了時まで攻撃を封じる」
「私はこれで…ターンエンド…。《混沌の黒魔術師》の効果発動…。墓地から《黒魔導強化》を手札に加える…」
ステージ2
手札3→1(《黒魔導強化》)
LP3100
場 竜騎士ブラック・マジシャン・ガール レベル7 攻撃2600(EX2)
アカシック・マジシャン(《C.C.オリオン》の影響下) リンク2 攻撃1700(3)
混沌の黒魔術師 レベル8 守備2400(4)
黒の魔導陣(永続魔法)(2)
誠
手札2→1(《C.C.アルター》)
LP500
場 なし
「僕の…ターン!!」
誠
手札1→2
「僕は手札から魔法カード《聖天使の施し》を発動。デッキからカードを2枚ドローして、手札1枚を墓地へ捨てる」
誠はデッキの上から2枚に指をかける。
そして、先ほどエクストラデッキから聞こえた獅子の咆哮を思い出す。
(答えて…僕のデッキ。直葉と…《アカシック・マジシャン》を救う力を!!)
勢いよく誠は2枚のカードを引く。
わずかな静寂の後、誠はそのカードを見る。
「《聖天使の施し》の効果で、僕は《C.C.オセロット》を墓地へ送る。そして、手札から《C.C.アルター》を召喚!」
C.C.アルター レベル4 攻撃1500(3)
「このカードの召喚に成功したとき、デッキの上から5枚をめくり、C.C.1体を手札に加え、それ以外を墓地へ送る!僕は《C.C.ハウンドドッグ》を手札に加える!」
デッキから墓地へ送られたカード
・リンク・ストライク
・バイエル・リンク
・C.C.オセロット
・ゼロ・エクストラリンク
「現れろ!星を繋ぐサーキット!アローヘッド確認。召喚条件はリンクモンスター以外のC.C.モンスター1体。僕は《アルター》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク1!《C.C.ジ・インサー》!」
C.C.ジ・インサー リンク1 攻撃0(EX1)
「《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》の効果…。手札1枚を墓地へ送り、《ジ・インサー》を破壊」
「相手ターンでも発動できるのかよ…クソッ!」
《黒魔導強化》を吸収し、再び薄水色のブレスを放たれ、《C.C.ジ・インサー》が消滅する。
これで誠は召喚権を使った上に再びフィールドのモンスターがなくなることになった。
「これで…終わり…」
「まだ終わりじゃない!僕は墓地の罠カード《バイエル・リンク》の効果発動!相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが存在し、僕のフィールドにカードがない時、このカードを墓地から除外することで、墓地からリンク3以下のC.C.リンクモンスター1体を特殊召喚できる。僕は墓地から《C.C.ガンレオン》を特殊召喚!」
C.C.ガンレオン リンク2 攻撃2000(3)
バイエル・リンク
通常罠カード
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
(1):自分フィールドの「C.C.」リンクモンスター1体を対象に発動できる。このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。装備モンスターが特殊召喚された相手モンスターを戦闘で破壊し墓地へ送ったときに発動できる。そのモンスターを装備モンスターのリンク先に特殊召喚する。その効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃できず、効果は無効化される。また、このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、そのカードは「C.C.」と名のついたカードとしても扱い、ターン終了時に墓地へ送られる。
(2):相手フィールドにEXデッキから特殊召喚されたモンスターが存在し、自分フィールドにカードがない時、墓地に存在するこのカードを除外することで発動できる。自分の墓地に存在するリンク3以下の「C.C.」リンクモンスター1体を特殊召喚する。
「更に、墓地の《C.C.オセロット》の効果。僕のフィールドにC.C.リンクモンスターが存在するとき、このカードを墓地から特殊召喚できる!」
C.C.オセロット レベル2 攻撃400(2)
「そして…《オセロット》をリリースし、手札から速攻魔法《エネミー・コントローラー》を発動!」
「そのカードは…??」
誠が発動したそのカードにステージ2は驚きを見せる。
ステージ2の中にある直葉の記憶の中で、誠がそのカードを使用した記憶がなかった。
「僕のフィールドのモンスター1体をリリースすることで、相手フィールドのモンスター1体のコントロールをターン終了時まで得る。僕は《アカシック・マジシャン》のコントロールを得る!」
虚ろな瞳のままの《アカシック・マジシャン》が誠のフィールドへ向かう。
その瞬間、フィールドの《アカシック・マジシャン》と直葉の様子がおかしくなる。
「まさか…憑依していたモンスターのコントロールを奪ったから…?」
誠にとって、これはリンク素材を手に入れるための手段。
しかし、それが結果として直葉と《アカシック・マジシャン》を切り離し、その余波で2人を洗脳から解放していた。
事実として、《アカシック・マジシャン》の眼の色が元に戻っていく。
「あ、あ、あ…!」
「あ、あれ…私、何を…??」
「《アカシック・マジシャン》!君と直葉はあのサイキック族のステージ2に…」
「そっか、助けてくれてありがと!誠君!」
「《アカシック・マジシャン》。直葉を助けたい。力を貸して!」
「お任せ!やっぱり誠君は直葉…の…」
急に《アカシック・マジシャン》が声を出さなくなり、だんだん目が虚ろになっていく。
同時に、直葉の眼は白い光に包まれ、無表情になっていく。
「直葉!《アカシック・マジシャン》!」
「ま…ずい…あいつ、私と直葉に仕掛けてた…このままだと、あたし達の心が…消えちゃう…!」
「くそ…面倒なことを…!」
「消える…そんな!!」
裏切り者という理由だけで、どうしてここまで過酷なことをするのか。
しかも、この戦いには無関係なはずの直葉を巻き込むそのやり方を誠は恐れるとともに、許せなくなり、怒りを覚える。
でも、今の誠には2人を救う手段がない。
「どうしたらいいんだ…どうしたら…!?」
急に例の頭痛が起こり、同時に脳裏に学生会館屋上の光景が浮かぶ。
そこで侑哉が何かのカードを発動し、そこから発生する力がこちらに飛んでくる。
頭痛が消えると、誠はじっと直葉を見る。
その眼にはもう恐れや迷いはなかった。
「現れろ、星を繋ぐサーキット!!」
天井に獅子座が刻まれたサーキットが生まれ、その星座を構成する球体は炎のようなオレンジ色の光を放っていた。
「アローヘッド確認。召喚条件は《ガンレオン》を含むリンクモンスター2体!そして、リンク素材となるリンクモンスターのリンクの数値の合計は4にならなければならない!僕は《ガンレオン》と《アカシック・マジシャン》をリンクマーカーにセット!」
《C.C.ガンレオン》と共に《アカシック・マジシャン》がサーキットへ飛び込む。
そして、《C.C.ガンレオン》に《アカシック・マジシャン》が宿るとともに装甲が展開し、薄緑色のフレームが露出する。
更に、全身は炎が包み込んでいき、背中にたたまれていた翼状のバックパックが展開し、頭部・胸部が獅子頭を模したものへと変わっていく。
サーキットの中からは誠が先ほど聞いた咆哮が確かに聞こえた。
「紅蓮の炎を纏いし、痛みを越える獅子!リンク召喚!現れろ、リンク4!《C.C.ガンレオン・マグナ》!」
燃え上がる2本のスパナを連結した《C.C.ガンレオン・マグナ》はそれでサーキットを破壊してフィールドに飛び出す。
炎を纏っているせいか、《C.C.ガンレオン・マグナ》を中心に気温が上昇し始めていた。
C.C.ガンレオン・マグナ リンク4 攻撃2700(EX1)
(こいつ…《ジェニオン・ガイ》とは違う…)
シャドーは《C.C.ジェニオン・ガイ》の時とは違う、既視感のようなものを《C.C.ガンレオン・マグナ》から感じる。
だが、《C.C.ジェニオン・ガイ》と匹敵する衝撃は感じられず、なぜかすんなりと受け止めている自分を感じた。
(《ジェニオン・ガイ》、《ガンレオン・マグナ》…。ってよりも、俺が生み出したC.C.…俺と何のかかわりがある?)
「《ガンレオン・マグナ》の効果!このカードのリンク召喚に成功したとき、墓地のC.C.をこのカードのリンク先に特殊召喚する。僕は《ガンレオン》を特殊召喚!」
《C.C.ガンレオン・マグナ》が咆哮するとともに紅蓮の魔法陣が生まれ、その中から《C.C.ガンレオン》がフィールドに舞い戻る。
C.C.ガンレオン リンク2 攻撃2000(4)
「そして、この効果で特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力分、このカードとこのカードのリンク先に存在する僕のモンスター以外の、フィールドの特殊召喚されたモンスターの攻撃力をダウンさせる。そして、この効果で攻撃力が0となったモンスターは破壊される!痛みを力に変える!ペイン・シャウター!!」
全身の炎の色が緑色に変化し、衝撃波となってフィールドを包み込む。
直葉のフィールドの《混沌の黒魔術師》と《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》がその衝撃波に飲み込まれ、大きく吹き飛ばされ、大幅なパワーダウンを起こす。
竜騎士ブラック・マジシャン・ガール レベル7 攻撃2600→600(EX2)
「更に、僕は手札の《C.C.ハウンドドッグ》の効果発動。このカードを手札から墓地へ送ることで、相手の特殊召喚されたモンスターの表示形式を変更する」
混沌の黒魔術師 レベル8 守備2400→攻撃800(4)
「バトル!《ガンレオン》で《混沌の黒魔術師》を攻撃。レンチ・スマッシュ!」
《C.C.ガンレオン》がレンチをハンマー投げのように《混沌の黒魔術師》に投擲する。
レンチの重くて鈍い一撃を受けた《混沌の黒魔術師》は消滅し、ゲームから除外される。
ステージ2
LP3100→1900
「《ガンレオン・マグナ》で《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》を攻撃!ヒート・バンカー!!」
《C.C.ガンレオン・マグナ》が大型レンチを手にすると、3本爪のあるパイルバンカーへと変形する。
それを逆手に持つと、ズシンズシンと大きな足音を立てながら、《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》へと走っていく。
背に乗る女竜騎士が離れた場所で気絶していて、先ほどの衝撃波で大きなダメージを負った薄水色のドラゴンはブレスを放つが、彼の身を包んでいる炎がバリアとなって受け止める。
そして、3本爪で胴体をしっかり固定した後で、マグマに匹敵する熱を帯びた大型の杭が発射され、それで肉体を撃ち抜かれたことでそのドラゴンは消滅した。
ステージ2
LP1900→0
C.C.ガンレオン・マグナ
リンク4 攻撃2700 リンク 炎属性 機械族
【リンクマーカー:上/下/左/左下】
「C.C.ガンレオン」を含むリンクモンスター2体
このカード名のカードはフィールド上に1枚しか存在できない。
このカードをリンク召喚する際、リンク素材となるモンスターのリンクの数値の合計が4でなければならない。
このカードの(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードのリンク召喚に成功したとき、自分の墓地に存在する「C.C.」モンスター1体を対象に発動できる。そのカードをこのカードのリンク先に特殊召喚する。その後、このカードとこのカードのリンク先に存在する自分のモンスター以外のフィールド上に存在する特殊召喚されたモンスターの攻撃力を特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力分ダウンさせる。その効果で攻撃力が0となったモンスターは破壊される。
(2):このカードがフィールドに存在する限り、このカードとこのカードのリンク先のモンスター以外の自分のモンスターは攻撃できない。
(3):このカードは戦闘では破壊されない。
「はあ、はあ…直葉…」
デュエルが終わるとともに、《C.C.ガンレオン・マグナ》が胸部の緑色の球体に手を当てる。
すると、その中から《アカシック・マジシャン》が出て来て、彼女はそのまま直葉の中へ飛び込んでいった。
「ここ…どこなの…?」
真っ暗な空間の中を直葉は一人で息を切らして歩いていた。
気づいた時にはいつの間にかこのような真っ暗な空間の中にいて、だんだん歩くのもつらくなっていく。
しかし、なぜか足が勝手に動いていて、その先に何があるのかは彼女にはわからない。
「駄目…!そっちへ行っちゃだめ、直葉!」
後ろから黄色い光の玉が飛んできて、それが直葉の前に立ちふさがるように浮かぶ。
「え…?その声って…もしかして、《アカシック・マジシャン》??」
「そうだよ!それよりも、早くここから引き返さないとダメだよ!!」
彼女はこの先に何があるかを知っている。
あの先には完全な消滅が待っていて、そこに入ってしまったらもう二度と戻ってこれなくなる。
「で、でも…足が止まらない!どうしても、進んじゃうの!!」
もう直葉の足は彼女の意思ではどうにもならない状態になっていた。
足を止めたくても、別の何かに突き動かされて動き続けている。
進めば進むほど、肌を突き刺すような不気味な冷気を感じていて、直感がその先にある危険をささやく。
「…ごめんなさい、私があなたに憑依しちゃったから…」
「《アカシック・マジシャン》…?」
「私の世界は…とても不自由な世界になっちゃったの。だから、自由がほしくて、この世界に来たの。でも、こんなことになるなんて…」
裏切り者として自分が処分されるだけならまだしも、憑依した彼女まで巻き込むことになってしまった。
自分が誰かに憑依することなく、飛び回ったままでいたらこんなことにはならなかったのに、と後悔が募る。
「だから…せめて直葉だけでも助けるわ!この命に代えてでも!!」
その言葉と同時に、《アカシック・マジシャン》と思われる光の玉から強い光が発生する。
その光に目がくらむとともに、直葉の足が止まる。
周囲を包んでいた暗闇が一気に消滅し、そこは学校の剣道場のような空間へと変わっていった。
「足が…とまった…」
くらんでいた目が元に戻り、変化した空間を見渡した直葉はすぐに倒れている《アカシック・マジシャン》を見つけ、彼女に駆け寄る。
「《アカシック・マジシャン》!!」
彼女を抱き起した直葉だが、《アカシック・マジシャン》の体から黄色い光が発生していて、徐々に体が消えかかっていた。
「直…葉…」
「駄目だよ、そんなの駄目!!」
「どうして…?どうして泣いてるの?どうして…私はあなたを…」
「そんなことはどうでもいいよ!それよりも…今度はあたしにネットゲームをさせて、いっぱい遊ばせて!!」
「え…?」
「あたし…剣道ばっかりやってたから…それに、田舎町だから楽しみがないってばっかり思ってたの。けど…《アカシック・マジシャン》がいっぱい面白いものがあるって教えてくれた!」
ネットゲームやVR、漫画にいきたいと言っていたカラオケ。
どれも直葉にとっては新鮮この上ないもので、今度は自分もやってみたいと思うようになっていた。
そして、その楽しさを教えてくれたのはほかでもない、《アカシック・マジシャン》だ。
「だから…もっと《アカシック・マジシャン》と一緒にいたい!」
「…もう、そんなこと言われたら、私…消滅したくなくなっちゃうよ…」
涙を浮かべ、笑みを浮かべる《アカシック・マジシャン》だが、どんどん体が消えて行っている。
もうだめなのかとあきらめかけた直葉だが、急に上空に《超融合》の渦が出現する。
「何!?この渦…キャア!!」
渦は直葉と消滅しつつあった《アカシック・マジシャン》を取り込んでいく。
そして、その中で《アカシック・マジシャン》は直葉の中へと入っていった。
「一体何が起きたの?」
「ふぅ、どうやら上手くいったみたいだね」
「あなたは…?」
未だに状況を呑み込めていない直葉の前に、フード付きのマントを羽織った、まるでトマトのような髪型をしている少年が現れる。
「そっか…《アカシック・マジシャン》とは会っていたけど、君と会うのは初めてか…初めまして、俺は神薙侑哉、誠君の友達だ…気軽に侑哉って呼んでくれ!」
「…!あなたが侑哉君なんだ、よろしくね!」
直葉は侑哉の名前を聞き、《アカシック・マジシャン》に憑依されていた時のことを思い出す。
直接、見ていたわけではないが、その時の《アカシック・マジシャン》は侑哉という少年と、とても楽しそうに遊んでいたのをよく覚えている。
「あれ?俺、自己紹介したっけ…あぁ、《アカシック・マジシャン》に憑依されていた時に知ったのか」
「…そうだ!侑哉君、一体何が起きたの?《アカシック・マジシャン》は!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!順を追って説明するから!」
「ご、ごめん…」
侑哉に促され、直葉は少し落ち着きを取り戻した。
「…えっと、とりあえず《アカシック・マジシャン》は無事だよ…今は、君の中に居る」
「えっ…?私の中に?」
「そう…《超融合》の力を使って君と《アカシック・マジシャン》の魂を融合させたんだ、多分そろそろ《アカシック・マジシャン》も目を覚ますと思うよ」
侑哉がそう言うと、しばらくしてどこからともなく声が聞こえ、その声の主が姿を現した。
「う、う~ん…あれ?私…」
「《アカシック・マジシャン》!良かった!本当に無事だったんだ!」
喜びのあまり、直葉は《アカシック・マジシャン》へと抱きついた。
「直葉!あれ?私、確か消滅しちゃったはずじゃ…」
「侑哉君が助けてくれたの!」
「侑哉君が…?」
そう言って、《アカシック・マジシャン》は侑哉へと視線を移す。
「本当に良かったよ、二人共無事で…それと、ごめん…あれしか方法がなかったとはいえ、勝手に二人の魂を融合させちゃって…」
侑哉はそう言って、頭を下げる。
《超融合》の力を使うしかない状況だったとはいえ、これで直葉は誠と同じステージ3に近づいてしまった。
そのことについて侑哉は謝罪したかった。
「何で謝るの?侑哉君が助けてくれなかったら、今頃私も直葉もどうなっていたかわからないよ?だから、胸を張って良いんだよ、侑哉君…」
そう言って、《アカシック・マジシャン》は侑哉へと笑みを向ける。
「《アカシック・マジシャン》の言う通りだよ!本当にありがとう!侑哉君!」
「…ありがとう、そう言ってくれると少し気が楽になるよ」
侑哉はそう言って、安堵したように笑みを浮かべた。
「…そういえば、ちょっと気になったんだけど…侑哉君、その左目どうしたの?金色になってるよ?」
「え…?左目が金色に!?」
《アカシック・マジシャン》の指摘に侑哉がそんな声を上げる。
「ほら、この鏡を見てみて!」
「あ、ありがとう……うわっ!本当だ!左目だけ金色になってる…これって…」
侑哉は自分の左目が金色になっていることに驚きを露にする。
(これって、覇王の目の色だよな?まぁ、本物の覇王とは違って左目だけだけど…もしかして、《超融合》を使えたのはそういう理由なのか?)
「…まぁ、考えるのは後にしよう…そろそろ戻らなきゃいけないしな」
侑哉がそう言うと同時に、体が徐々に透けていく。
「あ、待って!侑哉君!」
「うん?どうしたんだ、《アカシック・マジシャン》…」
「えいっ!」
瞬間、侑哉の頬に柔らかい感触が襲う。
キスされた、侑哉がそう理解するのに時間は掛からなかった。
「ア、ア、《アカシック・マジシャン》…ななな、何で急にそんなことを?」
直葉は顔を真っ赤にしながら、《アカシック・マジシャン》にそう尋ねる。
「…お、お礼みたいなものかな?ほ、ほら侑哉君には助けてもらったから!」
直葉の質問にアカシック・マジシャンも顔を真っ赤にしながら、そう言った。
「…えっと、これは…あ、ありがとうで良いのか?」
そんな二人の様子を見ながら、侑哉は突然の出来事に困惑しつつ、そう言った。
「う、うん…」
「そ、そっか…ありがとう、《アカシック・マジシャン》!全部終わったら、カラオケに行こう!結局、行きそびれちゃったからな…結構楽しみにしてたんだよ、それじゃあ、また後でな!」
侑哉はそう言って、消えていった。
「直葉…《アカシック・マジシャン》…あぁ!!」
誠の目の前で、直葉の体が浮かび、淡い光が彼女を包んでいく。
その光の中で、直葉の髪が金色のポニーテールへと変わっていき、緑色で胸元が強調された薄手のローブへと服装も変化していく。
「この感覚…てめえが変身するのと同じだぞ!」
「まさか…ステージ3になったっていうこと!?」
「そうとしか考えられねえ…。まさか、ステージ2からステージ3になるのをこうして目にするなんてな…」
光が消え、ゆっくりと降りた直葉は目を開き、変身を解除した誠をじっと見る。
「直葉…なんだよね」
「うん。ありがとう、私を助けてくれて」
「誠君!私たち…消滅せずに済んだよ!」
直葉のそばに《アカシック・マジシャン》の幻影が出現し、嬉しそうな笑みを浮かべながら誠に礼を言う。
「ど、どういたしまして…。けど、さっきの光はいったい…??」
「それは、俺から説明するよ…それにしても、派手に暴れたな…」
誠が直葉達と会話をしていると、侑哉が図書室へと入ってきた。
よほど激しいデュエルが行われていたのか、図書館の中はひび割れやがれき、焼けた本に壊れた本棚や机などが散乱していて、スプリンクラーも起動している。
「侑哉君!さっきの光は侑哉君が関係あるの?」
「あぁ…実は…」
そうして、侑哉は《超融合》の力を使って、《アカシック・マジシャン》と直葉を助けたことを伝えた。
「…そうだったんだ、二人が無事だったのは侑哉君のおかげなんだね、ありがとう!」
侑哉の説明を聞いた誠はそう言って、侑哉にお礼を言う。
あの時、《アカシック・マジシャン》が消滅しそうになっていた時に誠には彼女を救う手段がなかった。
もし、侑哉が《超融合》の力を使っていなければ《アカシック・マジシャン》どころか、直葉を救うことすらできなかったかもしれない。
「…いや、結果的に上手くいったから良かったけど、正直、発動できるかは賭けだった…それに、そのせいで直葉さんをステージ3に移行させるきっかけになったのも事実だよ…まぁ、二人は気にしなくて良いって言ってくれたけどね」
侑哉は苦笑しながらそう呟いた。
だが、誠は侑哉を責めるつもりは全くなかった。
むしろ、侑哉はもっと誇って良いとすら思っていた。
彼は、このキャンパスの多くの人を救い、消滅しそうになっていた《アカシック・マジシャン》と直葉を救うチャンスをくれたのだから。
「…僕も直葉達と同じ思いだよ、本当にありがとう!侑哉君!」
「あぁ…どういたしまして…」
侑哉は少し照れくさそうな様子でそう言葉を返した。
「けど、誠君…」
「な、何?直葉…??」
急に直葉がジト目になって誠をにらみつける。
まるで何かを怪しんでいるような様子で、誠はわずかに後ろに後ずさりする。
「誠君…いろいろ話してもらおうかな?精霊のこととか…誠君の中にいる精霊っぽいののこととか」
(そ、そうだった…。ステージ3に移行してるってことは…)
直葉を巻き込みたくない誠だが、彼女がステージ3になった以上、シャドーのことを認知できる。
おそらく、いずれは自分と同じように頭痛と一緒にステージ2の姿を見ることになるかもしれない。
(ど、どうしよう…。きっと、話したら直葉も戦いに…)
迷う誠に助け舟を出すかのように、懐の携帯が鳴り始める。
番号は菊岡のもので、まさかと思いながら誠は携帯を出す。
「も、もしもし…」
「誠君。緊急事態だ。サイキック族のステージ2が馬廻神社の君が調査してお堂近くで消息を絶った」
「え…ということは、まさか!!」
そこで消息を絶った理由は一つしか思い浮かばない。
話を聞いた侑哉は急いで花恋に連絡を取る。
「花恋!そっちにステージ2が来たか?」
『侑哉!ちょうど発見したところよ!今、侑哉をこっちに転送するわ!」
「あぁ!頼む!」
侑哉はそう言って、一度花恋との通話を切る。
「侑哉君、どうだった?」
「あぁ、最悪の事態だよ…俺達の世界にステージ2が現れた…俺は今から元の世界に戻ってステージ2を止めてくる」
誠の質問に侑哉は冷静な様子でそう言い放つ。
侑哉としては、すでに予測していた事態だったため、そこまで驚きはしなかった。
「え?元の世界、どういうこと?侑哉君!」
「ごめん、直葉さん…今は説明している暇はないんだ…」
『侑哉!準備できたわよ!』
「あぁ、わかった!…それじゃあ行ってくる!」
侑哉がそう言うと同時に侑哉の体が光に包まれ、消えていった。
「き、消えちゃった…!?これってどういうこと!?」
「彼は別の世界の人なんだ。きっと、その世界へ逃げたステージ2を倒すために戻って…」
本当は誠も同行したかったが、先ほどの会話を聞いていると、おそらくは侑哉しか転移することができないのだろう。
望みがあるとしたら、あとは最初に侑哉が転移したお堂だ。
「間に合うかわからないけど、タクシーを呼んで、馬廻神社まで行って…」
「必要ないよ。直葉、誠君。ここを動かないで。直葉、馬廻神社はイメージできる?」
「うん。けど…どうして??」
「えいっ!」
《アカシック・マジシャン》が集中すると、急に誠と直葉の体が青い光に包まれる。
光が消えると、彼らは馬廻神社の前に立っていた。
「え、ええ!?これって…テレポート!?」
「そう。直葉がステージ3になったことで、私もなんだかパワーアップしたみたい」
(ステージ3になると、人間だけじゃなくて精霊まで影響を受ける…。じゃあ、僕とシャドーにも、知らない何かが…)
「誠君。馬廻神社へ行って…どうするの?」
「ついてきて!この先にお堂がある!そこからなら、きっと侑哉君を追いかけることができる!」
2人を案内するため、誠は先に鳥居をくぐり、お堂へ向けて走っていく。
(侑哉君…間に合ってくれ…!!)
「…っと!あれ?ここってLINK VRAINSか?」
侑哉の意識が覚醒し、目の前に広がった景色はLINK VRAINSの景色だった。
「とにかく、ゴーストガールに連絡するか…」
そう呟き、侑哉はゴーストガールへと連絡を取る。
『Phantom…!そっちから連絡がきたってことはあなたの予想通りになったというわけね?』
「あぁ、そうだ…プログラムの起動を頼む!」
『任せて!今、起動したわ!』
ゴーストガールがそう言うと、しばらくして、巨大な建造物が現れ、それを中心にLINK VRAINS中がゴーストガールによってハッキングされる。
「こ、これはなかなかに派手だな…すごいよ、ゴーストガール!」
『まぁね!…だけど、そう長くは持たないわよ』
「…わかってる、ちなみにどれくらいだ?」
『そうね、持って2時間…早くて1時間ってところかしら』
「…なるほど、それだけあれば充分だよ…ありがとう!ゴーストガールは早くログアウトしてくれ!後は俺が何とかするから!」
残りのタイムリミットを計算しながら侑哉はゴーストガールにそう告げる。
『わかったわ…それじゃあ健闘を祈ってるわ!Phantom!』
「あぁ、ありがとう…」
侑哉はそう言って、ゴーストガールとの通話を終了した。
『マスター!ステージ2はこの近くに居るみたいです…急ぎましょう!』
「花恋が教えてくれたのか?」
『はい!私達がLINK VRAINSに来たのも花恋さんがマスターが戻ってきた時に、直接LINK VRAINSに行けるように設定していてくれたようです』
「そっか…後で花恋にお礼を言わないとな…それじゃあ行こう!」
侑哉はそう言って、自分のDボードに飛び乗りステージ2の追跡を開始した。
そうして、しばらく追跡していると、Dボードに乗ったステージ2の姿が目に入った。
「見つけたよ!ステージ2!」
「貴様は!まさか、ここまで追いかけてくるとは…ことごとく私の邪魔をするつもりか!」
自らを追って、この世界までやってきた侑哉にステージ2は余裕がない様子でそう声を荒げる。
ステージ2は自らの計画が、ことごとく侑哉によって阻止されたことに焦りを感じていた。
「君がどんな理由であんな行為に出たのかはわからない…だけど、君にはみんなを傷つけた責任を取ってもらう!」
「くっ…!」
「いくよ!」
「「スピードデュエル」」!!