協力してくれたkajokerさん、ありがとうございます!
「ふふふっ、待ってたわよ!侑哉!」
いつもよりさらに上機嫌な様子で花恋がそう言葉を紡ぐ。
彼女の名前は神薙 花恋(かんなぎ かれん)、俺の義理の姉であり、頭が良くて機械方面に滅法強い天才だ。
俺のデュエルディスクのアップデートなんかもしてくれていて、いつもお世話になっている。
まぁ、普段からテンションが高い人ではあるんだけど、今日はそれ以上だ。
ただ、普段よりテンションが高いことには心当たりがある…というか、そもそもそのせいで、俺は花恋に付き合うことになったわけだしな。
何でも、とんでもない装置を作ったらしく、俺にそのテストプレイをしてほしいらしい。
「ねぇ、侑哉…今日の花恋さん、テンションが高くない?」
「…うん、俺もそう思う…それよりも葵、お前まで無理に付き合わなくても良かったのに」
「そういうわけにはいかないわよ…だって、花恋さんが作る装置って安全なイメージがないし…そのせいで、侑哉が危ない目に遭うのは嫌だから」
そう呟く少女は財前 葵、LINK VRAINSではブルーエンジェルというカリスマデュエリストであり、俺の恋人だ。
今日はたまたま俺の家に来ていて、その時に花恋の話しを聞いてしまい、俺を心配して一緒にテストプレイに付き合ってくれることになった。
『葵さん…他の装置はともかく、私は安全ですよ!それに、結果的に私を産み出してくれたのはマスターですから!つまり、私はマスターの嫁的ポジションなんです!』
「それは聞き捨てならないわね…侑哉は私の恋人なんだから!」
「あはは…二人共、一旦落ち着こうか…」
今、まさに葵と火花を散らしているのは、閃刀姫レイ…SOLテクノロジーに潜入した時に、仲間になった精霊で、花恋が作ったAIでもある。
まぁ、俺の感情や行動を学んだ結果として誕生したから俺が産み出したというのは間違いではない。
そして、最後に俺の名前は神薙 侑哉(かんなぎ ゆうや)元々は別の世界から遊戯王ヴレインズの世界にトリップしてきたデュエリストで、LINK VRAINSではファントム遊矢と同じ姿のアバターを使用している。
…って、俺は一体誰に説明してるんだ?
まぁ、良いや…まずは花恋の話しを聞くか。
「それで?とんでもない装置って?」
「ふふふっ、それはね…これよ!」
そう言って、花恋が掲げたのは頭に着けるタイプの装置で例えるなら、SAOのアミュスフィアに近いものだった。
「これは…?」
「これは、簡単に言うと、別の世界に行ける装置なのよ」
「別の世界に!?そんなものを作ったのか?」
「そうそう!この装置を頭に着けると、この世界に近い別の世界線に行くことができるのよ!つまり、これを使えばこの世界で使えるカードを別の世界線で手に入れることもできるのよ」
そう熱く語る花恋の様子を見て、俺は驚きを隠せなかった。
花恋はあっさり説明しているが、別の世界に行けるなんて、とんでもないとしか言い様がない。
「つまり、俺にこれを着けて別の世界に行ってきて欲しいってこと?」
「そういうことよ……でも、安心して、別の世界に侑哉が行っている間は私がこっちからモニタリングしているから…それで、もし何かあったらすぐに連絡して、こっちからアシストするから」
さっきまでのテンションの高さから一変して、真面目な口調で花恋はそう言った。
恐らく、花恋もこのテストプレイは危険だとは思っているんだろう…だからこそ、俺が別の世界に行っている間は自分が全力でサポートする、そう言いたいんだ。
正直、怖くないと言えば嘘になる…でも、それと同じくらいに別の世界のデュエリストとデュエルをしてみたいという気持ちもある。
「…わかった、行くよ…ただし、全力でサポートしてくれよ」
「侑哉!?本気で行くつもりなの?」
「うん、ちょっと怖いけどさ…でも、別の世界のデュエリストとデュエルするのは結構楽しみでもあるんだよ」
俺はそう言って、俺を心配している葵に笑ってみせる。
「そっか…それなら、私も行くわ!花恋さん、もう1台この装置はありませんか?」
「こんなにすごいもの、そう幾つも作れないわよ…それに、さっきも言ったけどこの装置はこの世界に近い世界線に行くことができる装置…つまり、その世界には他の葵ちゃんも居るかもしれないの…つまり、葵ちゃんが別の世界に行ったとするとその世界には二人の葵ちゃんが存在することになるの」
「なるほど、タイムトラベル風に言うと、タイムパラドックスみたいなものが起きるかもしれないってことか…だから、葵は別の世界には行けない…」
「そんな…」
俺と花恋の言葉に葵は明らかに落胆している様子だった。
「…葵」
俺はそう名前を呼んで、そっと葵を抱き寄せる。
そして、そのままキスを交わした。
「大丈夫だよ、葵…俺は葵のそばから居なくなったりなんかしないからさ」
「侑哉……本当に侑哉はズルいよ」
そう言って、葵は頬を赤く染めながら視線を逸らした。
「こほん、イチャイチャしている所申し訳ないけど、そろそろ準備して」
「えっ…わ、わかったよ…これを頭に着ければ良いんだよな」
花恋の言葉にたじろぎながらも、先ほどの装置を手に取る。
「侑哉…!」
「葵?どうかしたのか?」
「…行ってらっしゃい!それと、帰ってきたらデートしよ!」
「…うん、いつもみたいに葵が喜びそうなデートプランを考えておくよ!」
俺は葵にそう言い、装置を頭に着ける。
『葵さんが羨ましい!私もマスターにあんなカッコいいことを言って欲しいです!』
「あはは…まぁ、多分別の世界に行った時はレイも一緒だろうし、頼りにさせてもらうよ」
『はい!お任せください!マスター!』
「それじゃあ装置を起動させるわよ!」
そう言って、花恋が装置を起動させると、目の前の景色が徐々に歪みはじめる。
いよいよ、別の世界に行くことになるのか…一体どんな世界が待っているのかな。
俺は未知の世界を楽しみにしながら、意識を手放した。
K県霧山城市にある馬廻駅から自転車でおよそ10分。
自然の多い、小さい子供たちの遊び場になっている馬廻神社。
最近ここらしき場所でデュエルをしたことのある誠は嫌々ながらもそこに来ていた。
「ここに…一体何があるんだろう?」
昼休み中、急に誠に菊岡から連絡が届き、誠は昼休み中に早退してきているため、休日や学校終わりに来るような子供たちは今、ここにはいない。
「それにしても…直葉、どうしたんだろう?」
ここ数日、直葉の様子がおかしいことが気がかりだった。
友人たちと話しかけることがめっきり少なくなっていて、休憩時間もぼーっとしていて、とても彼女らしくない。
いつもは一緒に帰ろうと誘ってくるのに、それもせずに1人で先に家に帰っている。
「まだ…前に行っていた不安が…」
「今はその女のことは忘れやがれ!それよりも、まずはここの調査だ!」
自分の記憶にかかわっているかもしれない、という菊岡の言葉から、今のシャドーはいつも以上に熱心になっている。
古ぼけた石でできた道を正面を避けて通り、木々の生い茂る庭に入っていくと、その中にある開かれた場所にたどり着く。
円状に開いたその場所の中央には水のように透き通った丸鏡が飾られただけの小さなお堂があった。
馬廻神社同様、ろくに記録が残されていないことからいつ、どの神を祭るために立てられたのかさえ分かっていない。
「あれ…?このお堂の鏡…」
一瞬キラリと鏡が光り、同時に頭痛が発生する。
「う…これって、憑依された人が…」
左手で頭を抑えていると、鏡が水色の光を放ち始める。
光はしばらく照射され続け、それが収まるとそこには白いフード付のマントを身に着けた、トマトのような髪の色の少年が立っていた。
背丈だけで判断すると、おそらく誠と同年代。
だが、その格好は現実のものというよりも、先日行ったLINKVRAINSのアバターのように見えた。
「き、君は…?」
頭痛が収まっていくのを感じ、誠はその少年に声をかける。
「良かった、人に会えた…ここに来たは良いけど右も左もわからなくてさ…良かったら、この辺りのことについて教えてくれないか?」
「えっと、君は…?」
あまりに困惑しすぎて、同じ質問を繰り返す。
「あ、そっか…まだ名乗ってなかったね、俺の名前はPhantom、よろしくな!」
「僕の名前は結城 誠…よ、よろしく?」
そう曖昧な返事を返す誠だが、それは無理もない。
誠にとって目の前の少年はあまりにも異質だ、現実の姿というよりは先日行ったLINKVRAINSのアバターの姿の様にみえる容姿、そして、何より彼は精霊に憑依されている状態であるはずなのに自我を保っている、これではまるで―――――
「僕とシャドーみたいだ…」
「いや、多分俺達以上だ…あいつ、複数の精霊に憑依されていやがる…!」
「複数って!?そんなことあり得るの?」
「あぁ、詳しくはわからねぇがあいつからは複数の精霊の力をビンビン感じる…!」
その言葉に目の前の少年、Phantomの異質さがますます増してくる。
誠達は今まで、精霊に憑依されたデュエリスト達と戦ってきたが、複数の精霊に憑依されたデュエリストと戦ったことは一度もない。
それ故に目の前の少年の力は全くの未知数だった。
「精霊?もしかして、レイのことを言ってるのか?…いや、複数の精霊って言ってたし、他にも居るってことか」
『多分、マスターがよく使うカード達が精霊になっているんじゃないですか?』
「なるほどな…」
「…おい、待て!まさかお前、俺の声が聞こえるのか?」
「うん、聞こえるけど…もしかして、普通は聞こえないのか?」
「うん…基本的に僕以外には聞こえないはずなんだけど…」
「…こいつ、本当に何者なんだ?」
「通りすがりのエンタメデュエリストだよ……まぁ、それはさておき、多分、俺が君の中のシャドーって人の声を聞けるのは、俺の中にあるリンクアクセスの力の影響かもしれないね」
「リンクアクセス…?」
聞きなれない言葉に誠は首を傾げるが、その力については当の本人ですら、よくわかっていないらしく、うまく説明できないと言われてしまった。
「おい、誠!雑談してる場合じゃねぇぞ!さっさとこいつにデュエルを挑むぞ!」
「ええっ…!?」
「こいつが俺の記憶に関わっているんだとしたら、デュエルに勝って聞き出すしかないだろうが!」
確かに、シャドーの言い分は正しい、そもそもそれを調べる為に、ここの調査に来たのだから。
自分達がここの調査に来たタイミングで、突如として姿を現した少年、無関係と考えることの方が難しい。
「…わかったよ、Phantom…君にデュエルを申し込む!」
そう言って、誠がデュエルディスクを構えると、それと同時に誠の姿がたちまち変わっていった。
「おぉ!すっげー!デュエルディスクを構えると変身できるんだ!カッコいいな!」
『マスター、感心している場合じゃないですよ!あの人達、絶対何か勘違いしてますよ…マスターも気づいているでしょう?』
「まぁね…でも、どちらにせよこのデュエルに勝たなきゃ話しを聞いてもらえそうにないからな…」
『それは、そうですけど…』
「大丈夫だよ、簡単に負けるつもりはないからさ」
『…そうですね、マスターなら必ず勝てます!私も協力するのでがんばりましょう!』
「あぁ!…さぁ、楽しいデュエルにしようぜ!」
そう言って、Phantomは誠達へと笑いかける。
別の世界での初のデュエル、そして、未知のカードや戦略へのワクワクがPhantomを自然と笑顔にさせた。
対して、誠達は目の前のデュエリストを警戒する。
複数の精霊に憑依されながらも自我を保ち、さらにはその精霊とコミュニケーションを取る…今まで戦ってきた、どの敵よりも異質なデュエリストに。
「気を付けろよ、誠…こいつは俺達が今まで戦ってきた奴とは次元が違う」
「…わかってるよ」
「それじゃあ始めようか!」
「「デュエル!!」」
誠
手札5
LP4000
侑哉
手札5
LP4000
「誠、こいつがどんな動きをするかわからねえぞ…!」
「分かってる…。僕はモンスターを裏守備表示で召喚。カードを1枚伏せて、ターンエンド」
誠
手札5→3
LP4000
場 裏守備モンスター(1)
伏せカード1(5)
侑哉
手札5
LP4000
場 なし
「なるほど、まずは様子見ってところか…俺のターン、ドロー!」
侑哉
手札5→6
「俺は、手札から魔法カード《ナイト・ショット》を発動!このカードの効果で君の伏せカードを発動させずに破壊するよ!」
「くっ…」
「さっそく処理してきやがったか…」
《ナイト・ショット》のソリッドビジョンから発射されたビームで撃ち抜かれた伏せカード《星の瞬き》が消滅する。
「そして、手札から《EMドクロバットジョーカー》を召喚!」
EMドクロバット・ジョーカー レベル4 攻撃1800(4)
「そして、このカードが召喚に成功した時、デッキからこのカード以外のEM、魔術師、オッドアイズモンスター1体を手札に加える!《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》を手札に加えるよ!」
「EM…?それにオッドアイズ?どれも見たことのないカードばかりだ」
「…っ!気を付けろ誠!あいつが今手札に加えたカード、あれがあいつに憑依している精霊の1体だ!」
「え…?」
シャドーのその言葉を聞いた誠はさらに警戒を強める、彼の言葉の通りなら、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》は彼のエースモンスターの一角と見て間違いない。
「さぁ、いくよ!Here we go!It's a show time!俺はスケール1の《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》とスケール8の《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》でペンデュラムスケールをセッティング!」
そう宣言すると同時に天空に2体の竜が現れ、1と8の数字が現れる。
「何が起こってるんだ…?」
「よくわからねぇが、来るぞ!」
ペンデュラムスケール、ペンデュラムモンスターという聞いたことのない言葉。
少なくとも、これまで見たことのない召喚が行われることだけは2人には理解できた。
「揺れろ、運命の振り子!迫り来る時を刻み、未来と過去を行き交え!ペンデュラム召喚!!来い!俺のモンスター達!手札から、《EMペンデュラムマジシャン》、そして、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》!!」
EMペンデュラムマジシャン レベル4 攻撃1500(3)
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン レベル7 攻撃2500(2)
現れたのは、その名の通りマジシャンのような風貌のモンスターと、二色の眼を持つ竜。
特に、二色の眼の竜からは途方もない力を感じ、Phantomと名乗る少年に憑依した精霊の1体ということは明らかだった。
「ペンデュラム召喚…!?」
「上級モンスターをリリースなしで召喚しただと!しかも、モンスターを2体同時に特殊召喚しやがったのか?」
「あれ?もしかして、ペンデュラム召喚のことを知らないのか?…それじゃあ、ペンデュラム召喚について簡単に説明するよ、ペンデュラム召喚っていうのは2枚のペンデュラムカードを魔法、罠カードゾーンの両端にセットして、セットしたペンデュラムカードのスケールの間のレベルを持つモンスターを同時に特殊召喚する召喚方法なんだ」
「スケール…?」
「うん、例えば、今俺がセットしているPカードのスケールは1と8、つまり、その間のレベル2~7のモンスターを同時に特殊召喚できるってことだよ…まぁ、その代わり、1ターンに1度しかペンデュラム召喚ができないんだけどさ」
「だから、レベル4とレベル7のモンスターが同時に出てきたんだ…」
「そんなのありかよ…」
1ターンに1度しかできないとはいえ、スケール間のレベルを持つモンスターなら最大で5体まで同時に特殊召喚が可能な召喚方法に誠達は衝撃を受ける。
もちろん、ペンデュラム召喚のタイミングで《神の警告》等を発動すれば、大損害を与えられるだろう…だが、逆に言えば、そういったカードがなければ自分達の敗北へとつながりかねないからだ。
「ちなみに、フィールドにセットされているペンデュラムカードは永続魔法として扱われる感じだから、《サイクロン》みたいにフィールド上の魔法、罠カードを破壊する効果で、ペンデュラムカードを破壊することは可能だよ…まぁ、まだまだペンデュラムカードには特徴があるんだけど、それは後のお楽しみだね」
「まだ何かあるの!?」
「これ以上に何があるっていうんだよ!」
「まぁ、それはデュエルを続けていればわかることだよ…ちなみにこのタイミングで何か発動するカードはある?」
「ううん、発動するカードはないよ」
「なら、俺は《ペンデュラム・マジシャン》の効果発動!このカードの特殊召喚に成功したとき、自分フィールドのカードを2枚まで破壊し、破壊したのと同じ枚数のこのカード以外のEMをデッキから手札に加える!俺は《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》を破壊し、《EMレインゴート》を手札に加える!そして、レベル4の《ペンデュラム・マジシャン》と《ドクロバット・ジョーカー》でオーバーレイ!」
「ペンデュラム召喚だけじゃなくて、エクシーズ召喚まで!」
オーバーレイネットワークに《EMドクロバット・ジョーカー》と《EMペンデュラム・マジシャン》が飛び込んでいく中で、ペンデュラム召喚から更に上位の召喚法に繋げる侑哉に舌を巻く。
「漆黒の闇より!愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4 攻撃2500(EX1)
「《ダーク・リベリオン》…」
侑哉の召喚した反逆の名を持つドラゴンに誠は戦慄する。
このモンスターと《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》からは強い精霊の力が感じられたからだ。
複数の精霊の力を使いながらも我を保つ彼はいったい何者かと思う誠をよそに、侑哉はデュエルを続ける。
「俺は手札から魔法カード《カップ・オブ・エース》を発動!コイントスをして、表が出たら俺が、裏が出たら君がデッキからカードを2枚ドローする!」
「すごいギャンブルみたいなカード…」
《カップ・オブ・エース》は誠のいる世界にも出回っていて、誠も何枚か持っているが、ギャンブル性が高く使いづらいカードであることから、デッキに入れていない。
「こういうカードを使いこなしてこそのエンターテイナーだから…ね!」
侑哉はソリッドビジョンで出現したコインを手にする。
表はデフォルメされた天使の羽根が、裏には♡が刻まれており、ブルーエンジェルをほうふつとさせるそれは彼にとって縁起の良いものだった。
そんなコインを指ではじき、宙を舞うそれを誠も見守っている。
コインが掌に落ち、侑哉はそのコインを見る。
「表だ…!よって、俺はデッキからカードを2枚ドロー。バトルだ!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》で裏守備モンスターを攻撃!反逆のライトニング・ディスオベイ!!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》は飛翔し、牙に紫色の電撃が宿るとわずかに後ろに下がり、助走をつける。
そして、裏守備モンスターに向けて一直線に突っ込んでいった。
(《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》はペンデュラム召喚に成功したターンに戦闘ダメージを与えることに成功したとき、俺のペンデュラムゾーンのオッドアイズカードの数×1200のダメージを与える!このままいけば、一気にライフを300まで減らせる!)
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の牙が裏守備表示モンスターの正体である水色の王冠のようなパーツを頭につけた、水色の透き通った装甲と白い古代ギリシャ風の衣装が特徴的な人型ロボットに命中する。
しかし、そのモンスターは両手でその牙を受け止め、牙に宿る電撃を放電させていた。
「《C.C.ケフェウス》の効果発動!このカードがリバースしたとき、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体の攻撃力・守備力を0にする!そして、このカードは特殊召喚されたモンスターとの戦闘では破壊されない!」
「C.C.!?それに…特殊召喚モンスターに対する効果だって!?」
聞いたことのないカテゴリーな上に、特殊召喚モンスターに対して効果を発揮するC.C.に侑哉は衝撃を感じる。
様々な召喚法、特殊召喚を多用する彼にとっては相性の悪いデッキだった。
「僕は《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の攻撃力と守備力を0にする!」
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4 攻撃2500→0 守備2000→0
「《ダーク・リベリオン》!くっ、やってくれるね…でも、まだ終わらないよ!俺は手札から速攻魔法、《エネミーコントローラー》を発動!このカードの効果で、相手の表側表示モンスターの表示形式を変更させる!俺は、君の場の《C.C.ケフェウス》を攻撃表示に変更する!」
C.C.ケフェウス レベル4 守備1800→攻撃1200
「ここで《エネミーコントローラー》!?何てピンポイントな…」
まるで、最初から誠がセットしたモンスターを予測していたかのようなプレイングに驚きを隠せない。
実際、予測はしていたのだろう…ただ、予測としては何かしらの効果を持ったモンスター、もしくは高い守備力を持ったモンスター、といったところだろう。
「さあ、いくよ!《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》で《C.C.ケフェウス》に攻撃!夢幻のスパイラルフレイム!」
「《C.C.ケフェウス》は特殊召喚されたモンスターとの戦闘では破壊されない!」
「だけど、ダメージは受けてもらうよ!」
オッドアイズから放たれた炎は渦巻きながら、《C.C.ケフェウス》に迫る。
その炎を受け止めるが、受け止めきれず、誠にその攻撃が命中する。
「ぐぅぅっ!」
誠
LP4000→2700
「そして、この瞬間、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》の効果発動!ペンデュラム召喚したこのカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、Pゾーンのオッドアイズモンスターの数×1200ポイントのダメージを相手に与える!俺のペンデュラムゾーンには《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》が居る、よって、君に1200ポイントのダメージを与える!喰らえ!幻視の力、アトミックフォース!」
一度攻撃を終えた《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》はペンデュラムゾーンに居る、《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》の力を受け、追撃の炎を口に溜める。
その炎は完全ではないせいか、少し小振りではあるが、それでもとてつもない威力があるのは見てとれる。
そして、最大限まで蓄積された炎がそのまま誠へと放たれた。
「うわぁぁぁ!!」
誠
LP3700→1500
あまりの炎の強さに思わず膝をつく。
そこから、何とか立ち上がり、目の前の少年に目を移す。
そこに、広がっていた光景は予想だにしていなかった光景だった。
「だ、大丈夫か!?誠君!」
誠のすぐ目の前には、先ほどまでもう少し遠くに離れていたはずの少年、侑哉の姿。
そんな彼が、初対面であり、対戦相手であるはずの誠のことを心配して駆け寄ってきたことに、誠は困惑してしまう。
「え…?う、うん…何とか」
「そっか、それなら良かったよ…デュエル中にダメージをくらうのは当たり前と言えば当たり前なんだけど、時々、こんな風に心配しちゃうんだよ」
そう、自嘲気味に笑う侑哉に誠は一つの疑問を持った。
彼は本当にシャドーの記憶に関係があるのだろうか…と。
確かに、複数の精霊に憑依されながらも自我を保つことができるのは、はっきり言って異質だ…ただ、誠には自分のことを心配して駆け寄ってきてくれた目の前の少年が悪人には見えなかった。
「…おっと、さすがにデュエルを中断させるのはダメだよな…それじゃあ、とりあえず元の場所に戻るよ…」
そう言って、侑哉は元の位置へと戻っていく。
そして、元の位置に戻ってデュエルディスクを構え直し、ターンの続きを再開した。
「…えっと、カードを1枚伏せて、ターンを終了するよ!」
誠
手札3
LP1500
場 C.C.ケフェウス レベル4 攻撃1200(1)
侑哉
手札1(《EMレインゴート》)
LP4000
場 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン(ORU2) ランク4 攻撃0(EX1)
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン レベル7 攻撃2500(3)
伏せカード1(2)
オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン Pスケール8(5)
「僕のターン、ドロー!!」
誠
手札3→4
《C.C.ケフェウス》をフィールドに残し、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の攻撃力を0にできたのは大きいが、誠のライフは大きく消耗した。
そして、今は片方しかスケールが形成されていないとはいえ、もしまたペンデュラムカードが置かれたら、再び大量召喚を許すことになる。
「僕は手札の《C.C.ハウンドドッグ》の効果発動!このカードを手札から墓地へ送ることで、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体の表示形式を変更する!僕は《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》を守備表示に変更!」
《C.C.ハウンドドッグ》の幻影がフィールドに現れ、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》にかみつく。
噛みつかれた痛みで、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》は身構えた状態になり、すぐに攻撃することができない状態になった。
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン レベル7 攻撃2500→守備2100(3)
「そして、このカードは僕のフィールドにC.C.が存在するとき、手札から特殊召喚できる。《C.C.リザード》を特殊召喚!」
C.C.リザード レベル1 攻撃300(2)
「更に手札から《C.C.ユニコーン》を召喚!」
C.C.ユニコーン レベル4 攻撃1800(3)
「現れろ、星を繋ぐサーキット!」
右手を空にかざし、上空に双子座が刻まれたサーキットが形成される。
「この世界にも、リンク召喚があるのか…!ということは、見れるのか?!この世界のリンクモンスターを!」
ここからどのようなモンスターが登場するか分からないものの、侑哉は未知のモンスターのことを大いに期待していた。
「アローヘッド確認!召喚条件はC.C.モンスター2体以上!僕は《リザード》、《ユニコーン》、《ケフェウス》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク3!《C.C.ジェニオン》!!」
C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500(EX3)
「《C.C.ジェニオン》…!これが君のエースモンスターなのか!ワクワクしてきたよ!さぁ、もっと魅せてくれよ、君のデュエルを!」
わくわくしながら自分のエースモンスターを見る侑哉を見て、誠は照れくさいのか若干顔を赤く染めてしまう。
「何照れてやがる!さっさとデュエルを進めろ!」
「ご、ごめん…!僕は墓地のリンク素材になった《C.C.リザード》の効果発動!《リザード》はC.C.のリンク素材となったとき、相手フィールドに《リザードテイルトークン》を守備表示で特殊召喚する!」
リザードテイルトークン レベル1 守備2000(2)
「そして、《ジェニオン》の効果発動!1ターンに1度、このカードのリンク先に存在するモンスターの数だけ、バリアカウンターを乗せることができる。バリアカウンターは僕のターンのスタンバイフェイズになるたびに取り除かれるけど、《ジェニオン》が破壊されるときに身代わりにすることができる!」
「そのための俺のフィールドに《リザードテイルトークン》を…!?」
《C.C.ジェニオン》の関節部が緑色の光、紫色の光の円盤が彼の周囲を旋回し始める。
「更に、バトルフェイズ開始時に《ジェニオン》の効果発動!このカード以外の僕のモンスターの攻撃を封じる代わりに、このカードのリンク先のモンスターの数だけこのカードは追加で攻撃することができる!」
《リザードテイルトークン》とリンクしている《C.C.ジェニオン》はバックパックから鉄砲を分離させ、それを逆手に握る。
そして、2体のドラゴンに照準を合わせた。
「バトル!《ジェニオン》で《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を攻撃!Dソリッドパニッシャー、シュート!!」
鉄砲から青いビームが発射し、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を襲う。
「罠発動!《攻撃の無力化》!」
しかし、出現した次元の渦がビームを飲み込み、攻撃は失敗に終わる。
「なら…僕は手札から永続魔法《オリオンの光》を発動。デッキから《C.C.フェニックス》を手札に加える。そして、カードを1枚伏せてターンエンド!」
誠
手札4→1(《C.C.フェニックス》)
LP1500
場 C.C.ジェニオン(バリアカウンター1 リンク先:《リザードテイルトークン》) リンク3 攻撃2500(EX3)
オリオンの光(永続魔法)(2)
伏せカード1(3)
侑哉
手札1(《EMレインゴート》)
LP4000
場 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン(ORU2) ランク4 攻撃0(EX1)
リザードテイルトークン レベル1 守備2000(2)
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン レベル7 守備2000(3)
オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン Pスケール8(5)
「いくよ!俺のターン、ドロー!」
侑哉
手札1→2
「まずは、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の効果発動!オーバーレイユニットを全て使い、相手フィールド上のモンスター1体の攻撃力を半分にして、その数値分だけダークリベリオンの攻撃力をアップする!俺は君の場の《C.C.ジェニオン》を対象に効果を発動するよ!トリーズン・ディスチャージ!」
反逆の竜の翼から紫の雷が放たれ、ジェニオンの力を吸収するように雷を《C.C.ジェニオン》の全身に纏わせる、そして、その雷を自身に吸収し、ダークリベリオンは自身の攻撃力を上昇させた。
C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500→1250(EX2)
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4 攻撃0→1250(EX1)
取り除かれたオーバーレイユニット
・EMドクロバット・ジョーカー
・EMペンデュラム・マジシャン
「《ジェニオン》の攻撃力が…!」
「これが、《ダーク・リベリオン》の効果さ!さらに、手札から魔法カード、《強欲で貪欲な壺》を発動!デッキトップから裏側でカードを10枚除外して、2枚ドローする!そして、現れろ!希望を照らすサーキット!アローヘッド確認、召喚条件はモンスター2体!」
上空に拳銃のように構えた右手を掲げると、光輝くサーキットが現れる。
「今度はリンク召喚!?」
「あいつ、一体どんだけの召喚法が使えんだよ!」
ペンデュラム召喚からのエクシーズ召喚、さらにはリンク召喚にまで繋げる目の前のデュエリストに驚きを隠せない。
「俺は、《リザードテイルトークン》と《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク2!《プロキシードラゴン》!」
蛇のようにほっそりとした体つきをした、《ファイアウォール・ドラゴン》に似たドラゴンがサーキットから飛び出してくる。
プロキシードラゴン リンク2 攻撃1400(3)
「《プロキシードラゴン》!?それって…」
リンクモンスターならともかく、プレイメーカーしか持っていないはずのサイバース族のモンスターを召喚したことに誠は驚きを露わにする。
「そうだよ、このカードはサイバース族のカードだ、その様子だと知っているみたいだね」
「うん…でも、サイバース族はプレイメーカーしか持っていないはずじゃ…」
未だに驚きを隠せずにいる誠は侑哉にそう問いかける。
対する侑哉は何とも言えない表情をしながら、こう答えた。
「まぁ、実際プレイメーカーしか持っていないんだけど…俺の場合はちょっと特殊でさ」
「…もしかして、さっき言ってたリンクアクセスっていう力が関係してるの?」
「うーん、確かに関係ないとは言い難いかな?」
歯切れが悪そうに侑哉はそう言う。
恐らく、話しにくいことなのだろうと誠は考え、これ以上、この事を追及するのは止めることにした。
「じゃあ、デュエルを続けるよ。俺は手札から《EMフレンドンキー》を召喚!」
EMフレンドンキー レベル3 攻撃1600(1)
「このカードの召喚に成功したとき、手札・墓地からレベル4以下のEM1体を特殊召喚できる。俺は《EMペンデュラム・マジシャン》を特殊召喚!」
背負っているデフォルメされた五芒星が刻まれた箱から《EMペンデュラム・マジシャン》が飛び出し、侑哉の前に立つ。
EMペンデュラム・マジシャン レベル4 攻撃1500(5)
「《ペンデュラム・マジシャン》の効果!自身を破壊し、デッキから《EMオッドアイズ・ディゾルヴァー》を手札に加える。更に、手札から魔法カード《ペンデュラム・ホルト》を発動!エクストラデッキに存在するペンデュラムモンスターが3種類以上の時、デッキからカードを2枚ドローする!」
「またドローカードを…!?」
このターン2回目の2枚ドローを見せた侑哉。
楽しそうにデュエルをしているうえにデッキもそんな彼に応えようとしている。
(なんだろう…。侑哉君が少し、うらやましい…ってあれ?エクストラデッキって…)
「EXデッキに表側表示?しかも、さっき言ったカード達って…」
「その通り、これがペンデュラムモンスターの最大の特徴…ペンデュラムモンスターはフィールドから墓地へ送られるとき墓地へは送られず、代わりにエクストラデッキに表側表示で加わるんだ…ただ、エクシーズモンスターの素材に使われた場合は例外だけどね」
そう、これが侑哉が言っていたペンデュラムモンスターの更なる特徴…しかも、ただエクストラデッキに表側表示で加わるだけではない。
「そして、俺は空いているPゾーンにスケール3の《オッドアイズ・ライトフェニックス》をセッティング!再び揺れろ!運命の振り子!迫り来る時を刻み、未来と過去を行き交え!ペンデュラム召喚!!来い、俺のモンスター達!EXデッキから《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》、そして、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》!!」
オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン レベル5 守備2400(2)
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン レベル7 攻撃2500(4)
「エクストラデッキからのペンデュラム召喚!?」
「マジかよ…」
明かされたペンデュラムモンスターの特徴に誠は戦慄する。
つまり、ペンデュラムモンスターは破壊されようが、ペンデュラム召喚ができる状況であるなら、何度でも蘇るということだ。
エクストラデッキから出せるモンスターが1体しか居ない状況ではあまり脅威ではないが、リンクモンスターによりエクストラデッキから出せるモンスターが増えている今のような状況ならば、話しは別だ。
「さぁ、まだまだいくよ!さらに、俺は《RUM-幻影騎士団ラウンチ》を発動!」
「ランクアップマジック…!?また見たことのないカードだ…」
「こいつ…どれだけ隠し玉を持っていやがるんだ…!」
ペンデュラムモンスターの厄介な特徴が明かされただけではなく、さらにはRUMという未知のカード、ここまでデュエルを続けてきたが未だに目の前のデュエリストの底が見えない。
「このカードは自分フィールドのエクシーズ素材のない闇属性エクシーズモンスターとこのカードを素材にし、そのモンスターよりランクの1つ高い闇属性エクシーズモンスターにランクアップさせる!俺は《ダークリベリオン》をランクアップさせる!煉獄の底より!未だ鎮まらぬ魂に捧げる反逆の歌!永久に響かせ現れろ!ランクアップ、エクシーズチェンジ!現れろ!ランク5、《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》!!」
ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン ランク5 攻撃3000(EX1)
「《ダーク・レクイエム》…」
「RUMのせいで、余計にプレッシャーを強く感じるぜ…」
ステンドガラスのでできたような巨大な蝙蝠の羽根がついた漆黒の竜が咆哮し、周囲の木々がざわめく。
近くに子供たちがいないことに感謝しながら、誠もそのモンスターからのプレッシャーを感じていた。
「《ダーク・レクイエム》の効果発動!1ターンに1度ORUを1つ使い、相手フィールド上のモンスター1体を対象に効果を発動できる!そのモンスターの攻撃力を0にし、その元々の攻撃力分だけ《ダーク・レクイエム》の攻撃力をアップする!俺は君の場の《ジェニオン》を対象に効果を発動する!レクイエムサルベージョン!」
C.C.ジェニオン リンク3 攻撃1250→0(EX2)
ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン ランク5 攻撃3000→5500(EX1)
「攻撃力5500!?」
「しかも、《ジェニオン》の攻撃力が0になっちまった…」
《ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン》の効果を受けた誠はその強力な効果に何度目かわからない驚きを露にする。
こうも、切り札級のモンスターを次から次へと呼び出すことができるのかと、誠は侑哉のプレイングに舌を巻く。
そんな誠をよそに、侑哉はさらにターンを進める。
「さらに、《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》の効果発動!1ターンに1度EXデッキから特殊召喚されたモンスターの効果をターン終了時まで無効にする!俺は《ジェニオン》の効果を無効にする!」
《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》の口から放つ超音波のような赤い光線を受けた《C.C.ジェニオン》の数位に飛ぶバリアカウンターが消滅する。
「今度は《ジェニオン》の効果まで…」
「こいつ、本当に何でもありだな…」
「さぁ、いくよ!バトル!《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》で《C.C.ジェニオン》に攻撃!夢幻のスパイラルフレイム!」
《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》の口から回転する炎のブレスが発射される。
「罠発動!《聖なるバリア-ミラーフォース》!!相手の攻撃宣言時、相手フィールドの攻撃表示モンスターをすべて破壊する!」
その言葉と共に、光輝くバリアが《C.C.ジェニオン》と《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》の間に現れる。
そして、オッドアイズの一撃を侑哉の場の攻撃表示モンスターに跳ね返す…だが―――
「このタイミングで《ミラーフォース》!?でも、この瞬間、《プロキシードラゴン》の効果発動!自分フィールドのカードが戦闘、効果で破壊される場合、代わりにこのカードのリンク先のモンスターを破壊できる!俺は《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》を代わりに破壊する!」
跳ね返された攻撃は、《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》により阻まれ、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》はそのまま攻撃を続行する。
「ありがとう、《ペルソナ・ドラゴン》……これで君の伏せカードはなくなった!いけ!《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》!」
再び口に炎を溜め込み、それを《C.C.ジェニオン》へと放つ、そして、その一撃は今度こそ命中し、ジェニオンを破壊し、誠のライフを0にした。
「うわぁぁぁぁ!!」
誠
LP1500→0
デュエルが終わると同時に誠の姿が元に戻り、ゆっくりと立ち上がる。
「痛た…《オリオンの光》で手札に加えるカードを間違えたかな…」
「馬鹿野郎!!また負けやがって!!」
せっかく情報が手に入るかもと思っていたシャドーが誠に怒りをぶつける。
「ご、ごめん…」
誠も申し訳ないと思い、シャドーに詫びるしかなかった。
『やりましたね!マスター!…私の出番がなかったのは残念ですけど…』
レイは自分の出番がなかったことを少し残念に思いながらも、マスターである侑哉の勝利を素直に喜んでいた。
「今回ばかりはしょうがないよ…次はレイを出せるように頑張るからさ、そんな残念そうな顔をしなくて良いって」
『マスター…!ありがとうございます!』
「どういたしまして!……さ、話しを聞きに行こう」
そう呟いて、侑哉は誠に歩みよる。
「さて、色々と聞きたいことがあるんだけど…良いかな?」
「いいけど…僕も、君からいろいろ聞きたいことがあるし、僕の家で話すというのはどうかな?」
もうすぐ小学生の下校時間で、いつだれかがここの近くに来てもおかしくない。
自分のことを含めて、あまり大っぴらに話すわけにはいかなかった。
「…そうだね、それじゃあ、お言葉に甘えて…君の家で話そっか」
侑哉としても、自分のことを大っぴらに話すわけにはいかないため、誠の提案を受け入れることにした。
それに、侑哉にとってはこの世界の事について知るチャンスでもあるため、断る理由はない。
「それじゃあ、今から僕の家に案内するから着いてきて」
「わかった」
侑哉はそう言葉を返し、誠の後に続いた。
「よし…姉さんはまだ帰ってないな」
ポケットから鍵を出し、自宅のドアを開けて中に入る。
「ええっと、じゃあ…お邪魔します…」
「そんなに遠慮しなくていいよ」
少し、遠慮がちに着いてくる侑哉に誠はそう言う。
「まぁ、そうかもしれないけどさ…」
確かに、誠が畏まらなくても良いと言ってくれたのだから気にすることはないのかもしれないが、さっき会ったばかりの人の家に上がるのはさすがに気を使う。
だが、話しを聞かないことには何も進展しないのも事実なので、侑哉は誠の後に続いた。
(そういえば、誠君の名字って結城だったよな…ってことはお姉さんの名前って……まさか、な…)
侑哉はこの世界について一つの仮説を立てる、だが、その仮説では、この世界の全容は見えてこない。
(やっぱり、詳しく話しを聞くしかないか…)
中に入って右手側にはいくつかのテーブルとカウンター席のある小さなカフェのような空間が広がっていた。
「ここ、カフェやってるのか?」
「うん。姉さんが学校終わりにやってるんだ。姉さんの料理、おいしいんだよ」
「へぇー、そういえば、親はどうしたんだ?」
誠の年齢からすると、彼の両親は働いている可能性が大きい。
彼の話を聞いていると、その両親の話がなかったため、気になっていた。
「いや、数年前にもう…」
「あ…悪い…」
「いいよ。僕にはまだ姉さんがいるから」
誠の話を聞いていると、侑哉は恋人である葵とその兄である晃のことを頭に浮かべた。
血のつながりがないが、両親を失ってからは一緒に歯を食いしばって生きてきていた。
「ああ、ごめんね。2階に僕の部屋があるから、そこで…」
笑顔を作ってそういった誠は先に2階へ上がっていく。
2階はカフェ故に洋風気味だったのと対照的に、和風の2つの部屋が向き合うように配置されていて、南側にはベランダがついている。
誠が左側の襖をあけたこと、そしてそのすぐそばにある柱に掛けられた木札に『誠』と名前が書かれていたことから、そちらが誠の部屋で、もう片方が彼の姉の部屋だとわかる。
侑哉はそっと右側の襖の右手側の柱に掛けられている木札を見る。
そこには漢字で『明日奈』と書かれていた。
「『明日奈』!?嘘だろ…」
明日奈と書かれた木札を見て、侑哉は驚きの声を洩らす。
そして、それと同時に自分の仮説が間違っていなかったことを理解した。
「どうかしたの?」
侑哉の声を聞きつけてか、誠が駆けつけて侑哉にそう尋ねる。
「え…!?あ、いや、この部屋が誰の部屋なのか気になってさ…」
「そうだったんだ…そこの部屋は僕の姉さんの部屋なんだ」
「…へぇ~、そうだったのか…あ、ごめん時間をとらせちゃったな」
「別に良いよ。それじゃあ、僕の部屋で話しをしよう…こっちだよ」
そう言って、自分の部屋に案内する誠に促されるまま、侑哉はそれに続いた。
(まさか、本当に明日奈さんが居るなんてな…この世界はSAOのキャラクターがVRAINSの世界に居たら、みたいな世界という仮説はあながち間違いではないかもしれないな)
明日奈の存在に、侑哉はそんなふうに思考する。
だが、その仮説が正しかったとしても、この世界の全容を把握するには至らない。
しかし、大体の世界を把握する目安にはなる。
元々、侑哉が一番最初に居た世界では明日奈がSAOというライトノベルのキャラクターとして登場していて、アニメ化もされていたため、侑哉もよくそれを見ていた。
そのおかげか、詳しく知っているというほどではないがある程度のキャラクターは知っていた。
(…だとしたら、他にもSAOのキャラクターが居るかもしれないな…まぁ、仮に会うことになったら、極力平静を保たないといけないな)
侑哉はそう考えながら、誠の部屋へと足を運んだ。
「どうぞ、あんまりきれいじゃないけどね」
部屋の中は畳が敷かれていて、部屋の隅には折りたたんだ布団があり、典型的な和室だ。
しかし、窓側だけはフローリングされた木の床とノートパソコンが置かれた勉強机があった。
パソコンのそばには手帳が置かれていて、そこには誠がMeTubeで視聴したLINKVRAINSでのデュエルのデータが細かく書かれていた。
「ええっと…まず、何を話せばいいのかな…?」
「そうだな…まず、ここはどこなんだ?Den Cityではなさそうだけど…」
「Den City!?君はDen Cityから来たの?」
「うん…といっても君たちの世界とはまた別の世界のDen Cityだけど…」
「僕達の世界とは別の世界のDen City…?」
侑哉の発言に誠は疑問符を浮かべる。
彼が別の世界から来たデュエリストかもしれないとは思っていたが、別の世界のDen Cityとはどういうことだろうかと。
「そうだな…この世界のことについて教えてもらう前に、まずは俺がこの世界に来た経緯から説明した方が良いかもしれないな」
侑哉はそう言って、しばらく間を置いてから話し始めた。
「それじゃあ、改めて自己紹介をさせてもらうよ…俺の名前は神薙 侑哉、気軽に侑哉って呼んでくれ」
「え?Phantomって名前じゃないの?」
「あぁ…それは、この姿での名前で本名はさっき言った名前なんだよ…まぁ、呼び方は君に任せるよ」
「わかった、改めてよろしくね、侑哉君」
「あぁ!」
そう言って、侑哉は軽く自己紹介を終えた後に続きを話し始めた。
「実は――『侑哉!!大丈夫?聞こえたら返事して!!』――うぉっ!びっくりした!その声は花恋か?」
『良かった、やっと繋がった!って、ちょっと葵ちゃん――――『侑哉!!大丈夫?無事なの?』」
「あ、あぁ…大丈夫だよ、葵…今、ちょうどこの世界で会った人に話しを聞くところなんだよ」
突如として、デュエルディスクから響く少女の声に侑哉は苦笑しつつも、どこか嬉しそうな表情でそう答える。
その様子から、侑哉が葵という少女をとても大切に思っているのがよくわかる。
「あのさ、もしかしてその葵って人…侑哉の恋人?」
「えっ…!あぁ、そうだよ…俺の恋人、俺の一番大切な人だよ」
『…っ!本当に侑哉は…そういうことをさらっと言うんだから…』
『…侑哉、今のセリフ、完全に葵ちゃんに聞かれてるわよ…現に、葵ちゃんは顔を真っ赤にして俯いてるし…』
「へっ!?そ、そうなのか…」
どうやら、侑哉は自分のセリフを聞かれていたとは、思ってもいなかったようで慌てたような声を洩らした。
対する誠は目の前で繰り広げられているイチャイチャフェイズになんとなくこそばゆい気分になっていた。
(あれ…?葵?どこかで聞いたことがあるような…?)
『コホン、マスター…そろそろ話しの続きをしましょう、誠さんも困惑してますし…』
この空気に堪えかねたのか、侑哉の精霊であるレイがそう呟く。
「そ、そうだよな…レイの言う通りだ…ごめんな、誠君」
「いや、気にしないで…僕の方こそ変な質問してごめん」
「いや、構わないよ…それじゃあ、まず俺がどうやってこの世界に来たか、だけど…」
『それは、私の方から説明した方が良いわね…侑哉がこの世界に来たのは私が作った次元転移装置のテストプレイの為なのよ』
「じ、次元転移装置…?何かすごそうな装置だね」
デュエルディスクから聞こえてくる、先ほどの葵という少女の声とは別の声の女性を聞きながら、誠は率直な感想を口にする。
『この装置は私達の居る世界と近い世界線の、別の世界に行くことができる装置なの…そして、侑哉にそのテストプレイをしてもらった結果、あなた達の世界にたどり着いたというわけなの』
「えっと…つまり、どういうこと?」
聞き慣れない単語が多く、理解が追い付いていない誠はそう質問する。
「そうだな…簡単に説明すると、二人のデュエリストが同じ戦士族のデッキを使ってデュエルするとする…そうすると、当然同じ戦士族のデッキでもデッキ構築が少し違ってくるだろ?」
「確かに、ミラーマッチでもない限りはそのデュエリストによってデッキ構築は変わるけど…」
「そうだろ?だけど、戦士族が中心という大元は変わらない…それと同じように世界も大元が同じでも、その世界の内容は違ってくる、それが花恋が言っていた俺達の世界に近い世界線の、別の世界ってことなんだ」
「…なるほど、なんとなくだけどわかったよ」
侑哉の説明で誠は大まかではあるが、ある程度花恋の話しを理解することができた。
花恋の説明を聞いただけでは到底理解できなかったことをわかりやすく説明してくれた侑哉は、実は、相当頭が良いんじゃないかと誠は思いながら、話しの続きを聞くことにした。
「まぁ、色々と回りくどい話しをしたけど、要するに花恋の作った別の世界に行く装置のテストプレイをした結果、誠君達の世界に来て、今に至るってことだよ」
『まぁ、ざっくり言うとそういうことね』
「最初からそう言おうぜ……花恋がややこしい説明をしたせいで話しがこじれちゃったよ」
『結果的に侑哉がわかりやすく説明してくれたから問題ないでしょ!』
「いや、そういう問題じゃ……ごめんな、誠君…ちなみに、何か質問はある?答えられる範囲でなら答えるけど」
「じゃあ、1つだけ。君からレイちゃんのような精霊をいくつも感じるんだ。でも、こうして自我を保っていられる。…どうして?」
葵という少女のことはともかく、誠にとって侑哉に対する最大の疑問がそれだった。
自分の場合は記憶も姿も失った精霊であるシャドーが憑依したため、例外的に彼と共存関係にあるものの、侑哉の場合は違う。
レイもいれば、先ほどのデュエルで召喚された2体のドラゴンにも精霊が宿っているように感じた。
「うーん、どうしてって言われてもなぁ…。いつの間にかそうなってたっていうしか。まぁ、レイについてはわけありだけどな」
『私は元々AIだったんです!マスターと一緒に行動する中で、カードになってマスターに会いたいって思って…』
ちょっぴり顔を赤く染めながらレイは自分が精霊になった経緯を説明する。
恋する乙女のようなしぐさに見とれかけるが、肝心なのはそこじゃない。
「AIが精霊に!?こいつのいる世界にいきゃあ、もしかしたら俺の体も…」
誠に憑依していなければ生きられないものの、いつまでも彼の体の中にいるわけにはいかない。
どうにかして、仮のものでもいいので自分の精霊としての肉体をシャドーはほしいと思っていた。
「ありがとう。わかったような、分からないようなって説明だったけど…。じゃあ、僕は結城誠。霧山城市に生活している高校2年生。僕の中にいるのがシャドーで、変身できるのは彼のおかげなんだ」
「ふん…記憶と体を取り戻したら、おさらばするけどな」
「記憶と体…?シャドー、さっきから気になってたけど、お前精霊なのか?」
侑哉は誠の体から精霊に似た気配を感じてはいたものの、どうしてもその姿を見ることができなかった。
シャドーというのも仮の名前のように聞こえる。
「よくわからねえんだ。気が付いたら名前も俺の姿も失って…で、死にかけてたのコイツの体に入って生きながらえてるってことだ」
「死にかけ…??え…??」
「ああ、本当だよ。前…真っ白な髪をしたデュエリストに襲われて、僕…死んでしまったんだ。今はシャドーに憑依されているおかげで生きながらえて、さっきのC.C.のカードを手に入れたんだ」
その後、誠は精霊に憑依された人間についての説明を始めた。
精霊に憑依された人間にはステージが3つあり、憑依されたばかりで自覚症状のない人がステージ1、憑依の影響が進んで怪人のような姿になって、人を襲ったりするようになった人をステージ2、そして誠のように憑依された精霊の力を借りて変身できるようになったのがステージ3。
自分のいる世界では精霊に憑依された人間による事件が起こっており、現状唯一のステージ3である誠だけがデュエルでその人から精霊を引きはがし、精霊を元の世界へ送還させる力があることから、霧山城市でその人たちを助けるための戦っている。
その戦いの中で、自分がなぜ殺されなければならなかったのかを知り、シャドーと自分が元通りになる方法を探していることも侑哉に話した。
「なんというか…すごいことに巻き込まれたんだな」
「まぁ…ね。そういえば、君の世界にも霧山城市はあるの?」
「うーん、ごめん…さすがにそこまではわからない…でも、探せば霧山城市も見つかるかもしれないね…この世界は俺達の居る世界に近いみたいだし」
侑哉の元の世界での主な活動領域はDen Cityであり、自身のリンクアクセスの謎を突き止めるために奔走したり、遊作と共にハノイの騎士を撃退したりしていたためか、Den City以外の場所について考えたことはあまりなかった。
(元の世界に戻ったら、色々と他の場所を調べてみるか…霧山城市にも行ってみたいしな)
侑哉はそんなことを思いながら、言葉を紡いだ。
「…さて、お互いについてある程度わかったところで…少し相談したいことがあるんだけど…」
「相談したいこと…?」
「これからどうしようか…?俺、この世界のこと全然知らないからさ、正直、これからどうすれば良いのかわからないんだよな…」
あはは、と少し困ったような表情をしながら侑哉はそう口にした。
「それもそうか…。ちょっと待ってて」
誠はスマホを出し、誰かと電話をし始める。
数分話が続いた後で電話を切り、誠は侑哉に目を向ける。
「姉さんと話をしたよ。元の世界に戻るまで、泊まったら?」
「え…?いいのか?」
「うん。1階に使ってない部屋があるから寝るときはそこで、それから、暇な時にお店の手伝いをしてくれたらうれしいってさ」
「あ、ありがとう。だったら、世話になるよ」
この家がカフェであることは分かっており、料理については普段していることから自信がある。
「そうだ。さっそくなんだけど、姉さんが帰ってくるまでに店の掃除をしとこうか」
「ああ!」
立ち上がった2人は一緒に部屋を出る。
そして、侑哉はテーブルとカウンターを拭き、誠はモップで床掃除を始めた。
「へぇー、何か手慣れてる感じだね…侑哉は普段家事をしたりしてるの?」
侑哉が手慣れた手つきで掃除をしているのを見て、誠がそう尋ねる。
「うん…うちの姉さんは頭が良くて機械方面には滅法強いんだけど、家事が苦手でさ…俺が家事を担当してるんだよ」
「そうなんだ、それじゃあ料理とかも侑哉が作ってるの?」
「まぁね…葵が家に来た時は葵と二人で一緒に作ったりはしてるんだけど…ほとんど俺が作ってるよ」
「侑哉って女子力高いんだね…」
侑哉とそんな会話を交わすなかで、誠はどうりで手慣れてるわけだと納得する。
「これは、姉さんも負担が減って大助かりだね」
「まぁ、あんまり過度な期待はしないでくれよ…料理ができるっていっても、俺が作れるのは簡単なものだけだからな…だけど、しばらくはお世話になるわけだから、やれる限りのことはやらせてもらうよ」
侑哉はそう言いながら掃除を続けた。