「今日の夜…今日の夜か…」
昼休みになり、1人屋上で横になった誠はただひたすら、今夜現れるであろうドロイドと昨日の菊岡とのデュエルで召喚した《C.C.ジェニオン・ガイ》のことを考えていた。
あの後、自宅に帰ってから明日奈やアルバイトをしている里香、桂子と何度かデュエルをしたものの、結局あのカードが再び現れることはなかった。
カードケースに紛れ込んだのかと思い、探してみたものの、結果は同じだった。
「てめー…本気で勝てると思ってんのか?一度コテンパンに負けたあの野郎に…」
菊岡とのデュエルで、誠が本気でドロイドに勝ちたいと思っていることだけはシャドーも理解している。
勝つために、デッキ改造や新しい戦術の構築を行うなど、行動にも変化が出てきている。
しかし、それだけですべてが好転するほどデュエルは甘くない。
特に機械族主体のC.C.デッキに《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》は致命的だ。
がら空きにされた後でどうやって巻き返すのか。
「多分、大丈夫…。攻略の手段はあるよ」
「攻略…?そいつは…」
「誠君!」
屋上のドアが開く音と同時に直葉の声が聞こえてくる。
彼女の手には弁当箱が入ったケースが握られている。
「誠君、一緒にお弁当食べよう?」
「う、うん…」
誠はそばに置いてある弁当箱に目を向ける。
デュエルのことを考えてばかりいたことから、ずっとそれに手を付けていなかった。
「うーん、おいしぃー!」
屋上にあるベンチに並んで座り、卵焼きを口にした直葉が幸せそうに両手を頬に当て、ゆっくりと咀嚼する。
ちなみに、直葉の弁当に入っているのは卵焼きではなく、スクランブルエッグ。
それが入っているのは誠の弁当だ。
「やっぱり、明日奈さんの料理っておいしいね。毎日作ってくれるんだよね?いいなぁー、誠君にはそういうお姉さんがいて。あたしもお兄ちゃんかお姉ちゃんがほしいなぁー」
「ん…そ、そうだね…」
うらやましがる直葉の言葉を聞き、誠は一瞬表情を暗くしながらも、相槌をうち、きんぴらを口に入れる。
「兄さんや姉さんは無理だけど、弟か妹は…」
「うーん…それもいいけど…。あ、そういえば小さい頃って、あたし達姉弟みたいって言われてたよね」
「姉弟…となると、弟は僕、か…」
幼馴染である彼女とは幼稚園から高校を一緒に過ごしており、仲良くしていたことから知らない人からは姉弟と勘違いされることが多かった。
引っ込み思案である誠は直葉の後ろをついていくことが多く、彼女に振り回されることが多かったからだ。
「でも、最近の誠君って、ちょっと変わったよね。モンスターからあたしを守ってくれたり、いつの間に知らない人と仲良くなってたり…」
「直葉…?」
なんだか寂しそうな表情になった直葉を見て、何か彼女を傷つけてしまったのかと不安を覚える。
必死に記憶の中から、そんなタイミングを見つけようとする。
食べ終わり、弁当を片付けた直葉は立ち上がり、少しだけ前に歩く。
そして、誠に背中を向けたまま、小さな声でつぶやいた。
「誠君…あたし、なんだか不安だよ。なんでもない幸せなこの毎日が急に変わってしまいそうな気がして…」
「直葉…」
「よくわからないの。自分でもどうしてそんなことを思っているのか…。まるで、あたしがあたしじゃないみたいで…」
後ろを向いている直葉の表情を今の誠は見ることができない。
立ち上がり、彼女の前に立つ勇気は今の誠にはなかった。
だが、これ以上彼女につらい思いをさせたくなかった誠は立ち上がる。
「じゃあ…じゃあ、僕がどうにかするよ」
「誠君…?」
「直葉がそんな毎日を過ごせるように…その不安が消えるように…。といっても、何をすればいいのかはよく分からない…けど…」
だんだん言葉に自信がなくなっていき、声が小さくなっていく。
これはダメだと思い、眼を閉じて視線を下に落とす。
前から足音が近づいていき、真っ白な靴下と運動靴が見えてくる。
「誠君…ありがと」
そう言い残して、直葉は走って屋内へ戻っていってしまった。
顔を上げ、閉じた屋上のドアのある方向に目を向ける。
結局顔は見えなかったが、口調だけは元の調子のように感じられた。
「はあ、はあ、はあ…」
一気に階段を駆け下り、休み時間であるにもかかわらず誰もいない廊下で息を整えた直葉は誠のしゃべっていたときの顔を思い出していた。
普段はおっとりとしていて、眼鏡をかけていることから気弱で年下のような雰囲気であるにもかかわらず、なぜかその時の彼はとても頼もしく感じられた。
一瞬、その顔を見て心臓が高鳴った自分を感じた。
しゃべっている中で気弱になり、だんだん元の表情に戻っていった上に顔を下に向けてしまっていたものの、それでもその時の顔が頭に残っている。
「誠君って…あんな顔になれたんだ…」
あのような顔は今まで見たことがなく、いつの間に成長したように感じられた。
だが、それがむしろ今までの日常を消すことになる存在かもしれないと思うと、余計に不安になる。
「誠君、ごめん。あたし、やっぱり…」
「ふぅーん、そんなにその男の子のことが気になってるんだー」
どこからか女の子の声が響き渡り、びっくりした直葉は周囲を見渡す。
しかし、廊下にはだれもおらず、気のせいだと思った直葉は教室へ戻ろうと歩き始める。
「ここよ、ここ!私はここよ!!」
先ほどよりも大きな声が聞こえ、直葉は再び周りを見る。
「だ、だ、誰!?誰…!?」
「ああ、もう!デッキの中を見て!!」
「デ、デッキ…?」
直葉は上着の中にあるカードケースを取り出し、その中にあるカードを見る。
「これは…」
先頭にあるカードがなぜか黄色く光っており、その光が自分の中に入っていくのを感じた。
「ふうう…」
学校が終わり、帰宅した誠は着替えをしないまま布団の上に横になった。
宿題は学校ですべてやってきたため、あとは夜のドロイドとのデュエルに集中することができる。
しかし、気がかりなことが一つだけあった。
「直葉、大丈夫なのかな…?」
昼休みが終わってからの直葉はどこかぼんやりしており、授業はしっかり受けてはいるものの、どこか上の空になっていて、おまけに普段話す仲の良いクラスメートと会話する様子がなかった。
おまけに、授業が終わると誠に声をかけず、さっさと教室を後にしていた。
いつもの調子じゃない直葉が気になってしまう。
「勝ちてーなら、今は女のことを考えるな。また無様に負けちまうぞ」
「それは分かってるけど…」
今日に限っては明日奈をごまかすのは簡単だった。
今日と明日で、明日奈のロボットサークルはK県北端にあるM市へ1泊2日の旅行をすることになっており、明日奈達は講義が終わった後、バスでそこへ向かう。
そのため、今家にいるのは誠とシャドーだけだ。
「シャドー、《ジェニオン・ガイ》を知ってるって言ってたけど、もしかして、それがシャドーの本当の姿とか…?」
「…分からねえ。知っているが、俺の本当の姿じゃねえって…よくわからねえけど、確信できる」
「本当の姿じゃないけど、知っている気がする…か…」
ややこしい表現だが、記憶喪失であることから仕方がないと思い、誠は目を閉じる。
少しでも睡眠をとり、体力を回復させてデュエルをしなければならないと本能が伝えていた。
(にしても、そもそも俺とヤツはどうしてあのカードを…)
あの男が持っていたC.C.と誠に渡したC.C.。
少なくともモンスターの種類は全く異なり、コンセプトは同じ。
最初に誠に変身させ、力と共にそのカードを与えたときは特に思わなかったものの、今はどうしてそのカードを持っているのか疑問を抱くようになってきた。
彼らの口調から察すると、自分が奪った何かがかかわっているらしいが、それが何かは今も思い出すことができない。
食欲も睡眠欲もないシャドーはそれが何かを悶々と考えるしかなかった。
「いやぁー、まさか貸し切りのバスを手配できるなんて、さっすが明日奈。相変わらずいい仕事するわねー」
「運が良かっただけよ。はい、これで私の勝ち!」
バスの座席に座り、里香の手札のカードを取った明日奈はニコリとわらい、カードケースにスペードの9とハートの9を入れ、手札がないことを証明するために両手を見せる。
里香の手札はジョーカー1枚だけで、悔しそうにそのカードを見ていた。
「くぅー、こうなったら、次は7ブリッジで勝負よ!」
本当はデュエルがしたいものの、バスではそれができるスペースは当然ない。
退屈なのが嫌な里香はもっと遊びたいと思い、次のトランプゲームを提案する。
「ハァ…」
女性陣がそうして盛り上がっている中、節子は外の景色を見ながらため息をついていた。
「トビー、あなた…どこへ行ったの…?」
あれから行方不明のままで、連絡を取ることができない彼のことを心配していた。
2週間前、誠が『マツカゼ』の近くで初めてドロイドを見た日以来、ぷっつりと行方不明になってしまい、警察にも相談したが、相手になってもらえなかった。
彼から教えてもらったメールアドレスで彼の両親にも連絡を取ってみたが、家に戻っていないらしい。
2人には彼が行方不明だということを教えることができなかった節子はそのまま世間話をするだけで終わってしまった。
帰宅前に毎日彼が生活しているアパートに寄ったが、帰ってきている痕跡もまるでない。
オタクな一面があり、イベントがあれば県外であってもかまわず外へ出てしまう一面の有る彼だが、誰にも告げずに長い期間いなくなることはなかった。
どうしても、嫌な予感がして仕方がない。
「さーてっと…私が置くカードは…キャ!?」
カードを置こうとした瞬間、急に大きな音がするのと銅にバス全体が大きく揺れ、シートベルトをつけた明日奈達はびっくりするとともに体を大きく揺らす。
天井の中央部分が大きくへこんでいて、そこに何かが落ちてきたように思えた。
しかし、このK県高速道の上には何もなく、トンネルまではまだまだ距離がある。
そんな状況で何か上から落ちてくるとしたら、飛行機からの落下物くらいだろう。
だが、今の空にはその飛行機の姿もない。
「何かしら…ってキャア!?!?」
急にバスのスピードがあがり、体が大きく揺れる。
「ど、ど、どうなっているんだ!?コントロールが…利かない…!!」
バスの運転手は必死にブレーキをかけようとするが、一向にブレーキがかかる気配がなく、メーターを見るとスピードが上がっているうえにアクセルも全開になっている。
そのまま猛スピードで走るバスは前を走っている車と徐々に距離を狭めていく。
このままでは大きな事故が発生してしまう。
全員が体を可能な限り丸め、カバンか両手を頭の上に置いて身を守る。
しかし、バスは急に進路変更をし、車を交わしてそのまま直進した。
「う、うう…この、頭痛は…!!」
眠っていた誠は急に感じた頭痛と共に飛び起き、布団から転げ出てしまう。
両手で頭を抱えながら、頭痛と共に浮かぶ光景を記憶していく。
「K県高速道路…バスの上に…!?」
そのバスの上にはドロイドの姿があり、背中や足から出てくるケーブルをバスに無理やり接続した状態でその車両をコントロールしていた。
光景が消えると同時に頭痛も消え、誠はゆっくり起き上がる。
「急いで…行かなきゃ…」
「行くにしても、あんなスピードじゃあ捕まえられねーよ」
シャドーの言う通り、K県高速道路を走るあのバスに今の誠では追いつくことすらできない。
車やバイクがあったとしても、誠は免許を持っていないため、走ることができないうえ、自転車は論外だ。
「それでも…助けないと…!」
家を出た誠は自転車に飛び乗り、主要道路まで走り出す。
記憶に間違いなければ、その道路を東に進み、アルト・テノール北の交差点を右折した後で道なりに進めば、インターチェンジに入ることができる。
「…ちっ、急に無茶なことを考えやがって…」
「シャドー…」
「なら、自転車で走ったまま変身しろ!」
「え、それって…どうして!?」
「ごちゃごちゃ言ってねーで言う通りにしやがれ!」
「う、うん!」
シャドーの怒号にビクッとした誠だが、彼の言う通り、深呼吸をした後で変身と叫ぶ。
すると、自分の姿が変化すると同時に自転車も形を変えていく。
そして、体が一瞬浮き上がると、自転車は水色で前と後ろに車輪が横向きで固定されているサーフボードへと変化した。
「これって、LINKVRAINSの…!?」
「ふう…どうやら、触れることができりゃあ、そいつを変化させることができるみてーだな」
「できるみたいって…これ、元に戻るの!?」
あいまいなシャドーの口調に誠は突っ込みを入れる。
急激にスピードが上がり、このスピードであればあのバスを追いかけることができるかもしれない。
しかし、この自転車は通学のためにも使っているもので、もし元に戻らなかったら、自分の正体がばれてしまう可能性があるうえに明日奈にどう説明すればいいかわからなくなる。
「心配すんな。てめーが変身解除できるんだから、解除すりゃあ元に戻る。ちっ…人助けの手伝いさせやがって!」
「シャドー…ありがとう」
「はぁ?」
急に感謝の言葉を贈られたシャドーは驚きのあまり、返事をすることができなかった。
そして、自分の中に浮かんだ暖かい感触に違和感を覚えた。
「もうもう、何なのよ!?このバス!!暴走してるじゃない!」
頭をカバンで守りながら、里香はこのわけのわからない状況に怒りをぶつける。
せっかくの楽しい旅行がこのような形で台無しになるのが嫌で仕方がなかった。
「みんな!舌をかまないように口を閉じて!!(一体、何がどうしたというの…?)」
サークル長として、どうにか彼らが落ち着くよう促したいところだが、今のこの状況は普通の災害や事故とはまるで違う。
運転手ももはやどうすることができず、できるのは自分の身を守りつつ、外部と連絡することくらいだ。
どうにか救急車と警察に連絡したようだが、それで全員無事に出られるかと言われたら断言は難しい。
「あれは…!?」
目を閉じていた運転手が今の状況を確認しようとゆっくり目を開く。
すると、日々が入ったバックミラーに空飛びサーフボードとそれに乗る青いスーツの人物が映っていた。
「はあ、はあ…なんとか、追いついた…」
LINKVRAINSでこれと同じものを動かした経験のある誠は短時間でどうにかものにすることができたが、このスピードでは1人ずつ連れ出すようなことはできない。
根本的に、あのバスを制御しているドロイドを倒すしかない。
ドロイドは並列して飛ぶ誠の姿を見ると、左腕にデュエルディスクを作り出す。
「誠、前みてーな幸運はねーと思え!それに、このスピードが出た状態で負けて、変身解除になったら…」
シャドーの言わんとしていることは誠はもう理解できていた。
200キロを超えようとしているこのスピードでもしデュエルに敗北し、変身解除となったら、自転車は元に戻る。
そして、乗っていた誠はそのまま落下してお陀仏だ。
目の前に透明のバリアが展開されているためか、強い風を感じることがないため、デュエルディスクの操作とカードの保持や移動については問題なくできる。
だが、問題なのは今誠が装備しているデュエルディスクだ。
なぜか普通のデュエルディスクには搭載されていないはずのスピードデュエルモードに移行している。
「スピードデュエル…」
誠はデッキから4枚のカードをドローする。
そして、彼らの間にはスピードデュエルの透明なフィールドが出現した。
「トビーさん…必ず、助けます…」
「…??」
トビーという名前を聞いたドロイドはわずかに反応を見せる。
完全に精霊に取り込まれたわけではないとわかり、誠は安堵した。
「デュエル!!」
誠
手札4
LP4000
ドロイド
手札4
LP4000
「僕の先攻!僕は手札から永続魔法《聖天使の施し》を発動。僕のフィールドにカードがない時、デッキからカードを2枚ドローし、手札1枚を墓地へ捨てる!」
手札から墓地へ送られたカード
・C.C.ウルフ
「更に、手札から《C.C.フェニックス》を召喚!」
C.C.フェニックス レベル4 攻撃1600(2)
「このカードの召喚に成功したとき、墓地に存在するレベル4以下のC.C.1体を特殊召喚する。僕は墓地から《C.C.ウルフ》を特殊召喚!」
C.C.ウルフ レベル3 攻撃1000(3)
「更に、手札の《C.C.トラッシュ》を墓地へ送り、《C.C.バロール》を特殊召喚!」
C.C.バロール レベル5 攻撃1900(1)
「現れろ、星を繋ぐサーキット!」
時刻は午後7時半を超えていて、真っ暗な夜空に向けて叫ぶとともに右手から光が放たれる、
上空にサーキットが出現し、雲や空気中のちりに負けまいとするかのように星々が輝きを見せる。
「アローヘッド確認!召喚条件はC.C.モンスター2体以上!僕は《C.C.オセロット》、《クロック》、《ウルフ》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、《C.C.ジェニオン》!!」
C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500(EX1)
「《バロール》の効果発動!このカードをリンク素材としてC.C.のリンク召喚に成功したとき、このカード以外のリンク素材となったモンスター1体を手札に戻す。僕は墓地から《C.C.フェニックス》を手札に戻す!更に手札から永続魔法《オリオンの光》を発動!」
発動と同時に夜空にオリオン座が出現し、それを形成する3つの星が強く輝く。
「このカードの発動時の効果処理として、デッキからC.C.モンスター1体を手札に加える。僕はデッキから《C.C.オリオン》を手札に加える。更に、このカードが発動している限り、僕のC.C.リンクモンスターは1ターンに1度、戦闘及び効果では破壊されない。僕はこれで、ターンエンド!」
誠
手札4→2(《C.C.フェニックス》《C.C.オリオン》)
LP4000
場 C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500(EX1)
オリオンの光(永続魔法)(2)
ドロイド
手札4
LP4000
場 なし
オリオンの光
永続魔法カード
このカード名のカードは自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。
(1):このカードの発動時の効果処理として、デッキから「C.C.」モンスター1体を手札に加える。
(2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分フィールドの「C.C.」リンクモンスターは1ターンに1度、戦闘及び効果では破壊されない。
バリアカウンターを乗せることができない分、《オリオンの光》によって守りを固めたが、その意味があるかどうかは今の誠にはわからなかった。
誠はドロイドのデュエルディスクに眠っている《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を頭に浮かべる。
今ここで《サイバー・ドラゴン》かそれと同じ名前になる効果を持つモンスターがフィールドに現れたら、即座に《C.C.ジェニオン》を巻き込んで融合召喚し、攻撃力は2000。
そして、《リミッター解除》を発動するか、攻撃力2000以上のモンスターを展開した場合、誠のライフは尽きる。
「…!危ない!!」
視界に入った家族連れの車に向けて、誠は叫ぶ。
その車の走っている車線はちょうどバスが走っているものと同じだった。
後ろのバスに気付いた子供たちはパニックを起こし、運転している男性が車線変更をしたことでバスはぶつからずにそのまま通過した。
「こんなスピードのものを…一般道に出すわけには!!」
時速200キロ近いスピードを出すこのバスが最後のインターチェンジに到着するまではあと30キロ。
つまりは多くても15分以内にこのデュエルに勝利しなければならないうえにこのバスの暴走を止めなければならない。
「ギギギ…ドロー…」
焦る誠に目を向けながら、ドロイドはカードをドローする。
ドロイド
手札4→5
「ギギギ…永続魔法《機甲部隊の最前線》発動…」
ドロイドが発動した、多くの機械族デッキには御用達のそのカードに誠は顔をしかめる。
機械族のテーマデッキの多くがそのカードを採用しており、誠も一度はそのカードを入れたいと思ったものの、属性の不一致が目立つことから断念した。
「ギギギ、相手フィールド上にのみモンスター…《サイバー・ドラゴン》特殊召喚…」
サイバー・ドラゴン レベル5 攻撃2100(1)
「ギギ、現れろ…回路を繋ぐサーキット…!」
ドロイドが右手を上にあげ、上空にサーキットを生み出す。
「《サイバー・ドラゴン》のリンクモンスター!?」
「アローヘッド確認…ギギ、召喚条件…サイバー・ドラゴン1体。《サイバー・ドラゴン》をリンクマーカーにセット…サーキットコンバイン。リンク召喚、《サイバー・リンク・ドラゴン》」
サーキットの中に飛び込んだ《サイバー・ドラゴン》の装甲が青黒く染まっていき、背中から二股に分かれたケーブルが露出した。
サイバー・リンク・ドラゴン リンク1 攻撃2100(EX2)
「ギギ、《サイバー・リンク・ドラゴン》の効果…。このカードのリンク召喚に成功したとき、手札・墓地から《サイバー・ドラゴン》1体をリンク先に特殊召喚…」
ケーブルが上空のサーキットの中に入っていき、その中に眠る《サイバー・ドラゴン》が無理やりフィールドに引きずり出される。
最初は暴れていたが、接続された状態でしばらくたつと、次第に動きが落ち着いていった。
サイバー・ドラゴン レベル5 攻撃2100(1)
サイバー・リンク・ドラゴン
リンク1 攻撃2100 リンク 光属性 機械族
【リンクマーカー:下】
「サイバー・ドラゴン」モンスター1体
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードのリンク召喚に成功したとき、自分の手札・墓地に存在する「サイバー・ドラゴン」1体を対象に発動できる。そのモンスターをこのカードのリンク先に特殊召喚する。この効果を発動したターン、自分「サイバー・ドラゴン」または「サイバー・ドラゴン」を融合素材とする融合モンスター以外の召喚・反転召喚・特殊召喚を行えない。
(2):このカードがフィールド・墓地に存在するとき、カード名を「サイバー・ドラゴン」として扱う。
「これで、《サイバー・ドラゴン》が2体…」
「再び出現…回路を繋ぐサーキット…」
再び機械仕掛けのサーキットが出現し、その中に2体の《サイバー・ドラゴン》が飛び込んでいく。
「アローヘッド確認…召喚条件、《サイバー・ドラゴン》を含む機械族モンスター2体…。《サイバー・リンク・ドラゴン》、《サイバー・ドラゴン》…リンクマーカーにセット。サーキットコンバイン」
サーキットの中から腹部に縦一列に並ぶように短い砲身のビーム砲をいくつも装着した《サイバー・ドラゴン》が現れる。
「リンク召喚…《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》…」
サイバー・ドラゴン・ズィーガー リンク2 攻撃2100(EX2)
「なんで…攻撃力2100のモンスター2体を捨ててまで…」
何か意味があってそのようなリンク召喚を行っていることは分かっているが、攻撃力2100のリンクモンスター1体のために2体の同じ攻撃力のモンスターを捨てるその行動が誠にとっては不思議で仕方がなかった。
「ギギ…手札から魔法カード《オーバーロード・フュージョン》発動…。フィールド・墓地のモンスターを素材に…ギギ、闇属性・機械族モンスターを融合召喚」
「来る…!」
《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》ではないとすると、召喚される可能性が高いのはもう1体のキメラテック融合モンスターだ。
この2体のキメラテックのせいで、誠は敗北した。
「2体の《サイバー・ドラゴン》を除外…融合召喚。《キメラテック・ランページ・ドラゴン》」
キメラテック・ランページ・ドラゴン レベル5 攻撃2100(3)
「《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の効果…。融合素材モンスターの数、魔法・罠カード破壊可能…」
《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の口から水色のビームが発射され、それで撃ち抜かれた《オリオンの光》が消滅する。
「《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の効果…ギギ、デッキの光属性・機械族モンスター…2体まで墓地へ…」
フィールドに《サイバー・ドラゴン・ドライ》の幻影が2体出現し、それらが先ほどのビームと同じ光となって《キメラテック・ランページ・ドラゴン》に取り込まれる。
「ギギ…《キメラテック・ランページ・ドラゴン》…このターン、3回攻撃可能」
「く…!」
「バトル…《キメラテック・ランページ・ドラゴン》…《ジェニオン》を攻撃」
《キメラテック・ランページ・ドラゴン》が咆哮するとともに口に青い粒子を圧縮し始める。
「でも…《ジェニオン》の方が攻撃力は…」
「《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》…効果発動。攻撃宣言していない自分・相手バトルフェイズ時、攻撃力2100以上の機械族モンスター1体…ターン終了時まで、攻撃力・守備力2100アップ…」
《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》の全砲門からビームが発射され、それが《キメラテック・ランページ・ドラゴン》に吸収され、更なるエネルギーを得たその機械竜はさらにエネルギーをためていく。
キメラテック・ランページ・ドラゴン レベル5 攻撃2100→4200(3)
「攻撃力4200の3回攻撃だと…!?」
前のデュエルでは、1つ目の効果しか使うことのなかった《キメラテック・ランページ・ドラゴン》だが、《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》の効果によってより脅威と化した2つ目の効果を解放した。
この怒涛の攻撃を受けてしまったら、1ターンキルが成立する。
「バトル…《キメラテック・ランページ・ドラゴン》…《ジェニオン》攻撃…」
《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の口から凝縮されたビームの大玉が3連続で発射される。
《オリオンの光》の加護も、バリアを張るエネルギーもない《C.C.ジェニオン》にはそれを止めることができない。
「く…僕は手札の《C.C.オリオン》の効果を発動!相手の特殊召喚されたモンスターが攻撃するとき、このカードを手札から特殊召喚できる!」
左腕を白いマントで隠し、右手にクラブを握っている筋肉質かつ《C.C.ジェニオン》と比較するとやや低めの全長の人型兵器が現れ、そのマントで大玉を受け止める。
「そして、1ターンに1度、フィールド上に特殊召喚されたモンスター1体の表示形式を変更できる!」
受け止めた大玉をクラブで打ち、続けて飛んでくる2つの大玉にぶつけ、爆発させる。
そして、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》が体を丸くし、動きを止めた。
C.C.オリオン レベル6 守備2400(3)
キメラテック・ランページ・ドラゴン レベル5 攻撃4200→守備3700(3)
「ふぅぅぅ…」
《C.C.オリオン》の効果によって、どうにか《キメラテック・ランページ・ドラゴン》のパワーアップした連続攻撃を止めることができた。
しかし、2体のモンスターは健在で、デッキに光属性・機械族モンスターが存在する限り、また次のターンにも強烈な連続攻撃を仕掛けてくるうえに墓地肥やしまでされてしまう。
また、《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》の効果は相手ターンでも発動できるため、下手に攻撃したら大やけどする。
そして、2体の《サイバー・ドラゴン・ドライ》はフィールド・墓地に存在する限りは《サイバー・ドラゴン》として扱われる。
また《オーバーロード・フュージョン》のような墓地融合のカードを使われる、もしくは《サイバー・リンク・ドラゴン》のような復活効果を持つカード効果を使われると展開してくる恐れ大だ。
そして、まだ手札が3枚残っており、バトルフェイズも続いている。
「ギギ…《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》、効果発動ターン、このカードの戦闘で発生するお互いへのダメージ0…。ターンエンド…」
誠
手札2→1(《C.C.フェニックス》)
LP4000
場 C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500(EX1)
C.C.オリオン レベル6 守備2400(3)
ドロイド
手札5→3
LP4000
場 サイバー・ドラゴン・ズィーガー(リンク先:《キメラテック・ランページ・ドラゴン》) リンク2 攻撃2100(EX3)
キメラテック・ランページ・ドラゴン レベル5 守備3700→1600(3)
機甲部隊の最前線(永続魔法)(2)
「《サイバー・ドラゴン》…??」
ドロイドが使用しているカードの名前を聞いた節子は困惑する。
それはトビーが愛用しているカテゴリーのカードだからだ。
《キメラテック・ランページ・ドラゴン》は聞いたことがなく、融合召喚については何も知らないものの、そのプレイングにはなぜか既視感が感じられた。
このターンの敗北を阻止し、誠のターンに映る。
スピードをほとんど落とさないままトンネルに突入し、不安定なオレンジ色の光源の元で誠はデッキトップに指をかける。
「僕のターン、ドロー!!」
誠
手札1→2
「僕は手札から《C.C.フェニックス》をもう1度召喚!」
C.C.フェニックス レベル4 攻撃1600(2)
「《フェニックス》の効果により、墓地から《C.C.ウルフ》を特殊召喚!」
C.C.ウルフ レベル3 攻撃1000(1)
(あとは…)
フィールドを埋めた誠はエクストラデッキを確認するが、やはり《C.C.ジェニオン・ガイ》はない。
そのカードを召喚できれば、《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》の効果と攻撃力を奪い、一気に逆転することができる。
しかし、菊岡のデュエルでそのカードを召喚する前に感じたものを今は感じられない。
「おい、あのわけのわからねえカードには頼るな。今あるカードで勝つしかねえ」
「分かってる…。現れろ、星を繋ぐサーキット!」
誠の叫びと共にサーキットが出現し、誠は願うようにエクストラデッキをもう1度見る。
「アローヘッド確認!召喚条件はC.C.1体以上!僕は《フェニックス》と《ウルフ》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク2!《C.C.ガンレオン》!」
C.C.ガンレオン リンク2 攻撃2000(1)
「更に、手札から装備魔法《スターライト・コード》を《ジェニオン》に装備!このカードはC.C.リンクモンスターにのみ装備できるカードで、装備モンスターの攻撃力を800アップさせる」
《C.C.ガンレオン》に搭載されている玉石が緑色に光り、同時にそのマシンの装甲が青色の薄いオーラに包まれていく。
同時に、相互リンクしている《C.C.ガンレオン》も似た光を放ち始めていた。
C.C.ガンレオン リンク2 攻撃2000→2800(1)
C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500→3300(EX1)
「ギ…??」
《C.C.ガンレオン》もパワーアップしたことに動揺したのか、ドロイドがピクリと反応する。
「《スターライト・コード》を装備したリンクモンスターの相互リンク先のC.C.リンクモンスターの攻撃力も800アップするんだ。そして、《ジェニオン》の効果発動。このカードのリンク先のモンスターの数だけ、バリアカウンターを置く」
C.C.ジェニオン リンク3 バリアカウンター0→1(EX1)
「バトル!《ジェニオン》で《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》を攻撃!インパクトダガー!」
オレンジ色に光るビームの短剣を引き抜いた《C.C.ジェニオン》が《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》に接近し、斬りかかろうとする。
しかし、その前に《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》が目の前に青いビームの障壁を展開し、その攻撃を受け止める。
「《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》の効果…相手ターンのバトルフェイズでも発動可能…」
「けど、《ズィーガー》はその効果を発動したターン、そのカード自身の戦闘で発生するお互いへの戦闘ダメージは0になる!そして、《ガンレオン》とリンク先に存在するC.C.リンクモンスターは1ターンに1度、戦闘及び効果では破壊されない!」
2つの光がぶつかり合い、《C.C.ジェニオン》は誠のそばまで戻り、短剣を構えたままドロイドをにらむ。
「そして、《スターライト・コード》の効果。装備モンスター及びそのモンスターの相互リンク先のC.C.リンクモンスターの攻撃宣言時、このカードの上にスターカウンターを1つ置く!」
サイバー・ドラゴン・ズィーガー リンク2 攻撃2100→4200(EX2)
スターライト・コード(装備魔法) スターカウンター0→1(3)
「これで、《ズィーガー》の効果は使えない!《ガンレオン》で《キメラテック・ランページ・ドラゴン》を攻撃!レンチ・スマッシュ!」
大型レンチを手にした《C.C.ガンレオン》がそれを大きく振り回し、砲丸投げのように《キメラテック・ランページ・ドラゴン》に向けて投げつける。
巨大な質量弾と化したそのレンチが胴体に直撃した《キメラテック・ランページ・ドラゴン》は爆発した。
「《機甲部隊の最前線》の効果…。自分の機械族モンスターが戦闘破壊時…そのモンスターの攻撃力以下かつ同属性機械族モンスター1体…デッキから特殊召喚…」
「それにチェーンして、《ガンレオン》の効果発動!このカードが特殊召喚された相手モンスターを戦闘破壊したとき、墓地からC.C.モンスター1体を特殊召喚できる。僕は《C.C.ウルフ》を特殊召喚!そして、《スターライト・コード》の効果により、スターカウンターを1つ追加!」
《C.C.ガンレオン》がサルベージした残骸を持っている工具で組み立て、修理していき、《C.C.ウルフ》が再びフィールドに現れる。
三度召喚されることになったためか、エネルギーの補給が急ぎ立ったようで、若干動きが鈍く感じられた。
C.C.ウルフ レベル3 守備1600(2)
スターライト・コード(装備魔法) スターカウンター1→2(3)
「《機甲部隊の最前線》の効果…《キメラテック・フュージョナー》特殊召喚…」
真っ黒なうえに露出しているケーブルや部品があちこち見えるいびつなコアに黒い蛇のような頭部と尻尾をつけただけの手作りな雰囲気の強いモンスターがフィールドに現れる。
キメラテック・フュージョナー レベル1 守備0(3)
「《ウルフ》の効果発動。相手がモンスターの特殊召喚に成功したとき、デッキからカードを1枚ドローし、手札1枚を墓地へ捨てる」
手札から墓地へ送られたカード
・C.C.ユニコーン
闇属性であるキメラテック融合モンスターと《機甲部隊の最前線》の存在から、彼が闇属性の機械族をデッキに加えている可能性は予測できた。
問題は召喚された《キメラテック・フュージョナー》の効果だ。
名前だけを見ると、当然融合関係の効果を持っていることだけは分かる。
「《キメラテック・フュージョナー》の召喚・特殊召喚成功時、手札の機械族モンスター1枚を墓地へ送り、デッキ・墓地から《融合》または《パワー・ボンド》、《オーバーロード・フュージョン》を手札に…」
「な…!?」
手札から《アーマード・サイバーン》が墓地へ送られ、前にターンに使用されたばかりの《オーバーロード・フュージョン》がドロイドの手札に戻ってくる。
仮に彼のエクストラデッキに《キメラテック・ランページ・ドラゴン》が複数枚存在する、もしくは墓地のそのカードをエクストラデッキに戻す手段が存在した場合、再びそのモンスターの召喚を許すことになってしまう。
「更に、《キメラテック・フュージョナー》効果発動…。このカードをリリース…墓地の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚…」
「何!?」
《キメラテック・フュージョナー》の周囲に青白い機械の残骸が現れ、それと合体することで《サイバー・ドラゴン》へと姿を変えていく。
これで、ドロイドは《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の召喚条件を整えることに成功した。
サイバー・ドラゴン レベル5 攻撃2100(3)
手札から墓地へ送られたカード
・プロト・サイバー・ドラゴン
キメラテック・フュージョナー
レベル1 攻撃0 守備0 効果 闇属性 機械族
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、これらの効果を発動したターン、自分は「サイバー・ドラゴン」またはそのカードを融合素材とする融合モンスター以外の召喚・反転召喚・特殊召喚ができない。
(1):このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、手札の機械族モンスター1体を墓地へ送ることで発動できる。デッキ・墓地から「融合」、「パワー・ボンド」、「オーバーロード・フュージョン」のいずれか1枚を手札に加える。
(2):自分フィールドのこのカードをリリースし、墓地の「サイバー・ドラゴン」1体を対象に発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。
「ちっ、《サイバー・ドラゴン》が2体も…こいつはまずい状況だ…どうすんだよ、誠!?」
《C.C.オリオン》の効果はこのカードがフィールドに残っていなければ意味がなく、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の融合素材に当然されてしまう。
《スターライト・コード》のスターカウンターを2つ取り除き、カードを1枚ドローしてそのカードに望みをつなげるにしても、スピードデュエルではメインフェイズ2がないため、その効果を使うことができない。
「僕はこれで…ターンエンド…」
誠
手札2→0
LP4000
場 C.C.ジェニオン(《スターライト・コード》装備 相互リンク:《C.C.ガンレオン》 リンク先:《C.C.ウルフ》 バリアカウンター1) リンク3 攻撃3300(EX1)
C.C.ガンレオン(《スターライト・コード》の影響下 相互リンク:《C.c.ジェニオン》) リンク2 攻撃2800(1)
C.C.ウルフ レベル3 守備1600(2)
C.C.オリオン レベル6 守備2400(3)
スターライト・コード(装備魔法)(スターカウンター2)(3)
ドロイド
手札3(うち1枚《オーバーロード・フュージョン》)
LP4000
場 サイバー・ドラゴン・ズィーガー(リンク先:《キメラテック・ランページ・ドラゴン》) リンク2 攻撃4200→2100(EX3)
サイバー・ドラゴン レベル5 攻撃2100(2)
機甲部隊の最前線(永続魔法)(2)
スターライト・コード
装備魔法カード
「C.C.」リンクモンスターにのみ装備可能。
(1):装備モンスター及びそのモンスターの相互リンク先の「C.C.」リンクモンスターの攻撃力が800アップする。
(2):このカードがフィールドに存在する限り、装備モンスター及びそのモンスターの相互リンク先の「C.C.」リンクモンスターの攻撃宣言時にスターカウンターを1つ置く。
(3):1ターンに1度、このカードのスターカウンターを任意の個数取り除いて発動できる。取り除いた戸数によって以下の効果を適応する。
●1つ:自分フィールドのカード1枚はこのターン、1度だけ戦闘・効果では破壊されない。
●2つ:デッキからカードを1枚ドローする。
「はあはあ…あと、何分で…」
このターンで、4分以上時間が経過していて、終点まであと10分程度になった。
誠のターンだけを数えると、あと2ターン程度でとどめを刺さないと、バスが高速道路を抜け、一般道に出ることになる。
フィールドのモンスターの数は誠が上回っているが、すべて機械族なうえに《サイバー・ドラゴン》がいる。
どんなにモンスターを展開したとしても、そのカード1枚でどうにでもされてしまう。
「ギギ…ドロー…」
ドロイド
手札3→4
「ギギ…フィールドの《サイバー・ドラゴン》、そして相手フィールドの機械族モンスター4体を素材に融合…」
「来る…!」
《サイバー・ドラゴン》が青白い融合の渦に変わっていき、その中に《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》以外のフィールド上のすべてのモンスターが飲み込まれていく。
そして、前のデュエルで誠が勝てなかったモンスターが再び誠に敗北の恐怖を味合わせようと渦の中から出てくる。
「融合召喚!《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》。このカードの攻撃力は融合素材となったモンスターの数×1000となる」
キメラテック・フォートレス・ドラゴン レベル8 攻撃0→4000(1)
「ちっ…またこいつかよ…!」
前と同じく、再びフィールドががら空きになった挙句、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力は4000。
そして、《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》の存在により、バトルフェイズ中はいつでも攻撃力を6100に高めることができる。
更に、彼の手札には《キメラテック・フュージョナー》の効果で回収した《オーバーロード・フュージョン》が残っているうえに通常召喚を行っていない。
「だけど…《オリオン》の効果発動!このカードがフィールドから離れたとき、相手リンクモンスター1体を次の相手ターン終了時まで攻撃できなくする!」
効果を使う可能性の高い《サイバー・ドラゴン・ズィーカー》は自らのデメリットの都合上、攻撃しない可能性が高いが、それでも何もしないよりはましだ。
《C.C.オリオン》の幻影によって羽交い絞めにされ、《サイバー・ドラゴン・ズィーカー》は身動きが取れなくなった。
C.C.オリオン
レベル6 攻撃600 守備2400 効果 地属性 機械族
このカードの(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えない。
(1):相手フィールドの特殊召喚されたモンスターの攻撃宣言時に発動できる。手札のこのカードを表側守備表示で特殊召喚する。
(2):1ターンに1度、フィールド上に存在する特殊召喚されたモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターの表示形式を変更する。この効果は相手ターンでも発動できる。
(3):このカードがフィールドから離れたとき、相手のリンクモンスター1体を対象に発動する。そのカードは次に相手ターン終了時まで攻撃できない。
「ギギギ…《サイバー・ドラゴン・コア》召喚」
サイバー・ドラゴン・コア レベル2 攻撃400(2)
「《サイバー・ドラゴン・コア》の効果発動…《サイバー・リペア・プラント》を手札に…。速攻魔法《異次元からの埋葬》発動…ギギ、除外された《サイバー・ドラゴン》、《サイバー・リンク・ドラゴン》を墓地へ戻す…」
《サイバー・リペア・プラント》は墓地に《サイバー・ドラゴン》が3体以上存在するとき、その真価を発揮する。
おまけに、《オーバーロード・フュージョン》の素材となるモンスターが増えたという意味でも、《異次元からの埋葬》の影響は大きい。
「ギ…《サイバー・リペア・プラント》発動…。デッキから《サイバー・エルタニン》を手札に…墓地の《キメラテック・ランページ・ドラゴン》をデッキに…」
「けど、もうエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない…」
今のドロイドのフィールドで、リンクマーカーが向いているメインモンスターゾーンは《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》が使っている(1)のみ。
エクストラモンスターゾーンの《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》を素材に、リンクマーカーが右下に向いているリンクモンスターをリンク召喚しなければ、更に《サイバー・ドラゴン》の融合モンスター、またはエクシーズモンスターを展開するのは難しくなる。
「ギ、ギ…スキル。サイバー・リンクセレクション発動。光属性・機械族リンクモンスター1体のリンクマーカーの位置を自由に変更可能…」
「何!?そんなスキルが…!」
ドロイドが右手を《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》にかざすと、リンクマーカーを示す三角形の矢印が2つ着いた輪がそのモンスターを包むように出現する。
そして、左に向いていたはずのリンクマーカーが移動し、右下に向けられた。
これで、(2)のメインモンスターゾーンにもエクストラデッキのモンスターの特殊召喚が可能となった。
「《オーバーロード・フュージョン》発動…。フィールドの《サイバー・ドラゴン・コア》、墓地の《サイバー・ドラゴン》を除外し、融合…。融合召喚《キメラテック・ランページ・ドラゴン》」
キメラテック・ランページ・ドラゴン レベル5 攻撃2100(2)
再び召喚された《キメラテック・ランページ・ドラゴン》だが、誠のフィールドに魔法・罠カードが存在しないことから(1)の効果は発動されない。
しかし、もう1つの効果が問題だ。
「《キメラテック・ランページ・ドラゴン》…効果発動…デッキから《サイバー・バリア・ドラゴン》、《サイバー・レーザー・ドラゴン》を墓地へ…ギギ」
2体の力を取り込み、3回攻撃の力を手に入れた。
《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》と2体のキメラテックの攻撃を凌ぐ手段は今の誠にはない。
(あとは…)
望みがあるとしたら、自分のスキルであるStar Access。
この効果で致命傷となるダメージを1度だけ首の皮一枚でしのぐことができる。
しかし、当然ここはLINKVRAINSではない。
発動したとしても、その後のカード入手については賭けになる。
入手できなければ、敗北と姉たちの死だ。
誠はデュエルディスクと手札のない左手を見る。
菊岡とのデュエルの時と違い、なぜか敗北の危機であるにもかかわらず、手が震えていない。
(君が望むのなら、敗北という結末も致し方ないだろう。そうなれば、僕は君と同じ存在を探すしかなくなるが…。だが、君自身はどうしたい?)
(君にどれだけの力があるか…勝てる確率がどれだけ残っているのか…。それは考える必要はない。問題なのは…君がどうしたいかだけだ)
「僕は…」
誠の眼が攻撃を開始しようと口に黒いエネルギーを凝縮し始めている《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に向けられる。
「バトル…《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》…ダイレクトアタック…」
《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の口から黒いエネルギー弾が発射され、前のデュエルの時と同じように誠に向けて飛んでいく。
その攻撃を邪魔する存在はなく、トンネルを抜けると同時にそれが誠に直撃した。
「うわあああああ!!!僕は…スキル、Star Accessを発動!ライフを1残す!!」
誠
LP4000→1
「そして…カードを1枚獲得する!!お願いだ、みんなを助ける力を…!!」
誠は願うように右手を前に出す。
しかし、やはりLINKVRAINSではないからか、カードが現れる気配はない。
続けて、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》が攻撃しようと口を開く。
そして、口からビームが発射されてもなお、誠の右手は動かない。
「くそっ、駄目か…!?」
「答えろぉ!!」
叫びと共にビームが着弾し、誠がいた場所が爆炎に包まれていく。
「ギギ…!?」
ドロイドはデュエルが終了したにもかかわらず、モンスターたちが消えないことに戸惑っているのか、機械音を鳴らす。
そして、煙の中からは敗北したはずの誠が飛び出した。
「僕は手札から罠カード《CC:デモンズ・ガード》を発動!このカードは僕のフィールドにモンスターが存在せず、相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが2体以上存在する状態で相手の攻撃宣言時に手札から発動できる。その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」
発動したカードから放たれる青い光に3体のモンスターがひるみ、ドロイドも目をくらませる。
「ギ、ギギ…ぐぅ…節…子…」
「やっぱり、この声は…」
機械音交じりではない、本当の声を聞いたことで、ドロイドが本当にトビーだということが分かった。
だが、勝利しなければトビーを取り戻すことはできない。
「ぐうう…ギ、カード1枚伏せ、ターンエンド…」
誠
手札0
LP1
場 なし
ドロイド
手札4→2
LP4000
場 サイバー・ドラゴン・ズィーガー(リンク先:《キメラテック・ランページ・ドラゴン》《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》) リンク2 攻撃2100(EX3)
キメラテック・フォートレス・ドラゴン レベル8 攻撃4000(1)
キメラテック・ランページ・ドラゴン レベル5 攻撃2100(2)
機甲部隊の最前線(永続魔法)(2)
「僕の…ターン!!!」
誠
手札0→1
「僕は墓地の《C.C.トラッシュ》の効果発動!このカードが墓地に存在し、相手フィールド上に特殊召喚されたモンスターが存在し、僕のフィールドにモンスターが存在しない場合、1度だけ墓地から特殊召喚できる!」
C.C.トラッシュ レベル4 攻撃500(2)
「更に手札から速攻魔法《星の瞬き》を発動。《トラッシュ》をリリースし、デッキから《C.C.バルゴラ》を手札に加える。更に、僕のフィールドにモンスターが存在せず、相手フィールド上にエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが2体以上存在するとき、このカードを墓地から除外することで、更にデッキからカードを1枚ドローできる」
《星の瞬き》をカードケースにしまい、誠はカードをドローする。
《C.C.バルゴラ》が手札に来て、そこから流れが変わっていく。
「更に僕は手札から魔法カード《貪欲な壺》を発動。墓地のモンスター5体をデッキに戻し、デッキからカードを2枚ドローする」
墓地からデッキに戻ったカード
・C.C.ガンレオン
・C.C.トラッシュ
・C.C.ウルフ
・C.C.オリオン
・C.C.バロール
星の瞬き
速攻魔法カード
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか発動できない。
(1):自分フィールドの「C.C.」モンスター1体をリリースして発動できる。デッキから「C.C.」モンスター1体を手札に加える。
(2):自分フィールドにモンスターが存在せず、相手フィールドにEXデッキから特殊召喚されたモンスターが2体以上存在するとき、墓地に存在するこのカードを除外することで発動できる。デッキからカードを1枚ドローする。
「僕は《C.C.バルゴラ》を召喚!」
C.C.バルゴラ レベル3 攻撃1000(2)
「そして、《バルゴラ》の効果発動!《バルゴラ》の召喚に成功したとき、このカード以外に自分フィールドに存在するカードがこのカードだけで、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在するとき、1度だけ手札・デッキ・墓地から《バルゴラ》を特殊召喚できる!」
C.C.バルゴラ×2 レベル3 攻撃1200(1)(3)
3体の《C.C.バルゴラ》がそろい、誠の脳裏に勝利の方程式が浮かび上がっていく。
「現れろ、星を繋ぐサーキット!アローヘッド確認!召喚条件は《バルゴラ》を含むC.C.3体!僕は3体の《バルゴラ》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク3!《C.C.バルゴラ・グローリー》!」
C.C.バルゴラ・グローリー リンク3 攻撃1900(EX1)
「《バルゴラ・グローリー》の効果発動!このカードの特殊召喚に成功したとき、このカードのリンク先のモンスター1体を装備できる。この効果はエクストラモンスターゾーンに特殊召喚された場合、もう片方のエクストラモンスターゾーンのモンスターも対象にできる。僕は《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》を選択する!カーバー・ドレイン!」
《C.C.バルゴラ・グローリー》の武装コンテナから発射されたビームの網が《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》を捕獲し、エネルギーに分解して吸収する。
「《バルゴラ・グローリー》の攻撃力はこの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力の半分アップする!」
C.C.バルゴラ・グローリー リンク3 攻撃1900→2950(EX1)
「そして、墓地の《C.C.フェニックス》の効果発動!このカードを墓地から除外することで、攻撃力2000以下のC.C.1体を手札から特殊召喚できる。僕は《C.C.イーゼル》を特殊召喚!」
C.C.イーゼル レベル3 攻撃1200(3)
C.C.フェニックス
レベル4 攻撃1600 守備1200 効果 炎属性 機械族
(1):このカードの召喚に成功したとき、自分の墓地のレベル4以下の「C.C.」モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。
(2):墓地に存在するこのカードを除外し、手札に存在する攻撃力2000以下の「C.C.」モンスター1体を対象に発動できる。そのカードを自分フィールドに特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地に送られたターン、発動できない。
「《イーゼル》の効果発動!このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在するとき、デッキからC.C.1体を手札に加える。僕はデッキから《C.C.リザード》を手札に加える。そして、《リザード》は僕のフィールドにC.C.が存在するとき、手札から特殊召喚できる!」
C.C.リザード レベル1 守備200(2)
「現れろ、星を繋ぐサーキット!アローヘッド確認。召喚条件はC.C.1体以上。僕は《リザード》と《イーゼル》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!リンク召喚!再び現れろ、リンク2!《C.C.ガンレオン》!」
C.C.ガンレオン リンク2 攻撃2000(1)
「更に、リンク素材となった《C.C.リザード》の効果発動!相手フィールドに《リザードテイルトークン》1体を特殊召喚する!」
リザードテイルトークン レベル1 守備2000(3)
「そして、手札から速攻魔法《リンク・エナジー》を発動!僕のフィールドのリンクモンスターの攻撃力をフィールド上のリンクモンスターのリンク先に存在するモンスターの数×400アップさせる。リンク先に存在するモンスターは《ガンレオン》、《バルゴラ・グローリー》、《リザードテイルトークン》。よって、攻撃力は1500アップする!」
リンク先に存在する3体のモンスターが青い光を放ち始め、《C.C.バルゴラ・グローリー》と《C.C.ガンレオン》が《リザードテイルトークン》が宿しているその光が集中していく。
そして、装備している武装コンテナがゆっくりと生物のように展開していく。
C.C.バルゴラ・グローリー リンク3 攻撃2950→4150(EX1)
C.C.ガンレオン リンク2 攻撃2000→3200
「グオオ…!?」
《C.C.バルゴラ・グローリー》の攻撃力が《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を上回り、ドロイドは動揺する。
エネルギー充填を終え、既に《C.C.バルゴラ・グローリー》はトリガーを引くだけで攻撃を始めることができる状態だ。
「(届いて…!)バトル!《バルゴラ・グローリー》で《キメラテック・ランページ・ドラゴン》を攻撃!《バルゴラ・グローリー》が装備カードを装備した状態で相手モンスターを戦闘で破壊したとき、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!!」
発射された黒い高濃度圧縮ビームが《キメラテック・ランページ・ドラゴン》を貫き、そのままドロイドを飲み込んでいく。
ビームの中でドロイドは機能を停止させ、誠の手には《サイバー・ドラゴン》のカードが出現した。
ドロイド
LP4000→1950→0
リンク・エナジー
速攻魔法カード
(1):自分フィールドのリンクモンスターの攻撃力をターン終了時までフィールドのリンクモンスターのリンク先に存在するモンスターの数×400アップさせる。更に、この効果を受けたモンスターが守備表示モンスターと戦闘を行うとき、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
「はあ、はあ、はあ…!」
デュエルが終わり、ソリッドビジョンも消滅すると、バスの上にはうつぶせに倒れたトビーの姿が残っていた。
誠はバスに飛び移り、トビーを抱えて再びボードの上に乗る。
「あとは、バスが止まれば…あ!!」
タイヤから火花が出るのが見え、徐々に減速し始めている。
幸いなことに、車線は左側になっており、最後の料金所までもうすぐといったところだ。
その料金所の道路はかなり広めに作られており、緊急用に停車できるスペースもある。
それができる左端にバスは向かい、ゆっくりと停車した。
「バスのドライバーに感謝しないと…はあ、はあ…」
ボードから降りた誠は抱えているトビーの様子を見る。
命に別状はないが、長い時間精霊に憑依されていたせいか、意識を失っている。
彼の意識が戻ることを願う中、バスから最初に明日奈が下りてくる。
「姉さん…よかった、無事で…」
姉の無事な姿を見た誠は安心するものの、今の状態で話すことはできないことに気付いた。
今の誠は変身していて、背丈で年齢位は判断されるかもしれないが、今の自分のことを明日奈に知られるわけにはいかない。
また、パトカーのサイレンの音も聞こえてくる。
「騒ぎになる前に逃げるぞ!ちっ…結局俺の記憶の情報は入手できずじまいかよ!」
「ごめん…!」
誠はゆっくりと明日奈のそばまで歩いていく。
「あなたが…私たちを…?」
バスの中では自分やサークル仲間たちの身を守るのに精いっぱいで、デュエルはよく見ていなかった。
《サイバー・ドラゴン》、そしてC.C.といったわずかな部分が耳に届いている程度だ。
誠は何も答えないまま、明日奈の前にトビーをあおむけに寝かせると、そのままボードに乗って飛び去った。
彼女の呼び止める声が聞こえたが、それでも今はここを立ち去ることだけを考えた。
「今のって…」
パトカーや救急車、消防車が到着し、警察官らがバスに向かって走ってくる。
しかし、明日奈はどうしても先ほどの少年が気になって仕方がなかった。
(はい、こちらはK県高速道路北口です。こちらが暴走したバスとのことで、時速300キロ近くのスピードを走っていたにもかかわらず、死者が出なかったことだけは奇跡としか言いようがありません。現在、警察がバスの暴走の原因を調べていますが、いまだに原因がわからず、バスの上に落ちた落下物の存在についても…)
「うん…そっか、大変だったね。でも、怪我とか大丈夫!?」
翌朝、テレビで昨晩のニュースを見ながら、誠は明日奈に電話し、無事かどうかを確認していた。
「ええ、軽いけがで済んだわ。でも、警察と話をしないといけないし、それにトビー君のこともあるから…これだと旅行は中止になるわね」
「トビーさんが…どうして??」
「それが、分からないの。青いスーツの男の人が抱えていて、トビー君を置いてどこかへ飛んで行っちゃって…」
話を聞いた誠は少しほっとした気がした。
トビーがドロイドで、バス暴走の原因を作ったということは知られていないとわかったからだ。
悪いのは憑依した精霊で、その人間が悪いわけではない。
「ん…青いスーツの男の人?」
「うん。なんだか戦士族のモンスターみたいで…あ、これから警察の人と話があるから、また後でね!」
「あ、うん…!」
電話が切れ、誠は少しほっとして椅子に座った。
ただ、トビーの様子を聞き逃したことを忘れていた。
あの後、彼がちゃんと意識を取り戻したかどうか。
それを一番聞きたかったものの、警察と話をするとなった以上は仕方がなかった。
「ああ、そうだ。今日は自分で朝ご飯を作らなきゃ…」
幸い、今日は休みになっていて、作る時間はある。
明日奈が普段使っているレシピがどこにあるのかを思い出しながら、誠は台所へ向かった。