「う、うう…ん…」
「おい、いつまで寝てやがんた、誠!!」
「シャドー…」
ゆっくりと目を覚ました誠はシャドーの声にこたえていると、急に今までにない倦怠感を覚え、起き上がれずにいた。
体の隅々が疲れを訴えているようで、体に力が入らない。
しかし、誠には今見ている景色に既視感を抱いていた。
幼いころ、両親に連れられて遊びに行った場所。
「ここ…馬廻神社の森…?」
「その通りだ。目を覚ましたようだな、結城誠。そして裏切者」
背後から少年の声が聞こえるが、起き上がることも寝返ることもできない誠はその声を聴くことしかできない。
ボイスチェンジャーのせいなのか、機械音が混じっていて、個人を特定することは難しい。
だが、少なくともドロイド、いや、トビーの声とは全く違う。
それだけでなく、シャドーのことと自分の名前を知っている。
彼は後頭部近くに膝をつき、誠の右腕に何かを注射する。
「何…を…?」
「しばらく動かないでもらおうか。お前の中の精霊に用がある」
注射された瞬間、徐々に体から感覚が消えていくのを感じた。
顔と眼、耳と口は動くが、それ以外は全く感覚がない。
冷たい土の感触も消えてしまっている。
男は誠をあおむけにすると、彼の口に右手をかざす。
「ぐ…あ、ああああ!?なんだよ、こいつは…何なんだ!?」
「シャドー…どうしたんだ??」
「分からねえ…引っ張られる…!!」
「引っ張られるか…なるほど…うん?」
かざすと同時に右手から出てくる紫色の光が誠の目の前で霧散していく。
男はひるんで後ろに下がり、左手で右手を抑える。
「なるほど…命を共有したか。これではこの手段では奪えんか…」
表情を見ることができず、状況が読めない誠には何が起こったのかわからなかった。
シャドーはハアハアと苦しそうに息を整えていて、今彼に尋ねても何も答えてもらえないだろう。
「僕の中の…シャドーのこと…知ってるんですか…?」
「お前が知って、何になる?その精霊がいなければ、生きることもままならない、今のお前に」
男が右手を誠にかざすと同時に、誠の体が青く光り、その光が離れて上空で制止する。
同時に、誠の腹部から血が流れ始める。
「今、お前の腹から血が流れたか。どうやら、それが致命傷になっていたみたいだな。さて…このままあとどれだけ持つか…お前と、裏切者は」
「てんめえ…ぐう、ううう…」
光からシャドーの声が聞こえ、光が点滅を始める。
その苦しげな声から、シャドーは誠に憑依しなければ生きられないという話が真実だと感じられた。
「や、やめ…」
「だが、奪うにも、殺しては意味がないな…」
ため息とともに男はつぶやき、右手を下す。
男の呪縛から解放されたシャドーは誠の体に戻り、腹部に再び開いていた刺し傷が消えていった。
「てめえ…俺の何が目的だ!?」
「お前そのものだ。お前が奪ったものはお前が死んでいては取り戻せないからな」
「俺が奪った…?」
「ああ…お前は姿も記憶も、名前も失っているんだったな」
「く…うう!!」
シャドーが体に戻ったことで、体に何か起こったのか、薬を注射され、動けなくなっていた誠は右腕を動かし、ゆっくりと体を持ち上げる。
予想していなかった誠の動きに男はほぅ、と小さく驚きを見せる。
左足も動くようになり、ブルブルと地面に足をつけ、起き上がり始める。
そして、右足が動き出すと、ようやく立ち上がることができた。
まだまだ完全回復とはいかず、立ち上がった誠の両足はブルブル震えていて、近くにある木に背を持たれる形でようやく立つのを維持できている状態だ。
「ふん…立っているのがやっとか。あのままおとなしくしていればよかったものを…」
「そんなの…嫌ですよ。何も知らないまま、何もわからないままなんて…」
「先ほども言っただろう、お前が知って、何になる…と」
男は左腕にデュエルディスクを装着し、カードを引く。
「デュエル…」
「そうだ。お前の精霊はデュエルでなければ、生け捕りができないらしい…」
シャドーを裏切者として追いながらも、徹底的に生け捕りにこだわっている。
彼が奪ったものに何か理由があることは男のこれまでの発言から分かっているが、それ以上のことは男から直接聞きださなければわからない。
(逃げることもできるけど…)
小さいころいた場所で、森の中の様子は分かっているため、外まで逃げることもできる。
しかし、そう簡単に逃がしてくれるほど男は甘くない。
男は右手に力を籠め、光を宿した状態で地面にそれを叩きつけた。
すると、男と誠の周囲を地面から隆起した堅い岩石が包囲し、逃げ道をふさいでいった。
「決して逃がさない。貴様には…裏切りの償いをしてもらう」
「ったく…うるせーんだよ。裏切者裏切者って…」
「シャドー…」
「誠!今度はヘマすんじゃねえぞ!!」
シャドーの叫びと共に、誠の姿が代わっていく。
変身し、2本の足の力と感覚が完全に戻ったのを感じた誠は木から離れ、カードを引く。
「「デュエル!!」」
男
手札5
LP4000
誠
手札5
LP4000
「私の先攻だ。私は手札からフィールド魔法《星座の領域》を発動」
発動と同時に周囲の岩石にひび割れが発生し、それらが牡羊座やてんびん座などの星座の模様になっていく。
「星座…まさか!?」
「《星座の領域》の効果。1ターンに1度、通常の召喚に加えて手札のC.C.1体を召喚できる。私は手札から《C.C.ソラリウム》を召喚」
「ソラリウム…日時計座??」
男のフィールドに赤、黒、黄色の輪3つで構成された物体が現れ、空中で浮遊する。
コアとなっている、3つの輪の中央にある正方形で薄緑色の石には日時計座の模様が刻まれている。
C.C.ソラリウム レベル4 攻撃1200(1)
「更に、手札から《C.C.ウッドピッカー》を召喚」
男の左側にあるキツツキ座を模した模様が光り、それが両開きの扉のように開く。
そこから黒・白・赤のトリコロールの色彩をしたキツツキのような小型ロボットが現れ、《C.C.ソラリウム》の上に乗る。
そのロボットの腹部にはキツツキ座と同じ配置の紫の球体が埋め込まれていた。
C.C.ウッドピッカー レベル3 攻撃1000(2)
「このカードの召喚に成功したとき、私のフィールドに存在するC.C.1体を手札に戻すことで、デッキからそのモンスターと同じレベルかつ名前の異なるのC.C.1体を効果を無効にして特殊召喚できる。私は《C.C.ソラリウム》を手札に戻し、《C.C.トラッシュ》を特殊召喚」
《C.C.ウッドピッカー》につつかれた《C.C.ソラリウム》が姿を消し、上空からツグミを模した小さな鳥型ロボットが現れる。
その背中には《C.C.ウッドピッカー》と同じように、ツグミ座と同じ配置になるように紫の球体が埋め込まれている。
C.C.トラッシュ レベル4 攻撃500(1)
C.C.ウッドピッカー
レベル3 攻撃1000 守備1200 効果 地属性 機械族
このカード名のカードの効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに存在する「C.C.」モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを手札に戻し、デッキからそのモンスターと同じレベルで名前の異なる「C.C.」モンスター1体を自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。
「更に、手札に戻った《C.C.ソラリウム》の効果。このカードは私のフィールドにC.C.が2体以上存在するとき、手札から特殊召喚できる」
《C.C.ウッドピッカー》の効果で一度はフィールドから離れた《C.C.ソラリウム》が再びフィールドに現れ、2匹の鳥型ロボットの止まり木代わりとなる。
C.C.ソラリウム レベル4 攻撃1200
C.C.ソラリウム
レベル4 攻撃1200 守備1500 効果 地属性 機械族
(1):自分フィールドに「C.C.」モンスターが2体以上存在するとき、このカードは手札から特殊召喚できる。
「現れるがいい、運命を定めしサーキット!」
男が上空に手をかざし、その手に宿った紫色の光が虚空に放たれる。
その光を中心にサーキットが構築され、2匹の鳥型ロボットが日時計を持ったままその中へ飛び込む。
「アローヘッド確認。召喚条件は効果モンスター3体。私は《C.C.トラッシュ》と《ウッドピッカー》、《C.C.ソラリウム》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンク召喚。出でよ、リンク3。《C.C.カオス・カペル》」
黒い2枚羽根とヤギのような2本角をつけた、ピンク色で女性的な構造になっている人型ロボットが現れる。
2枚羽根にやぎ座と同じ配置となっている紫の球体を見ることができる。
C.C.カオス・カペル リンク3 攻撃1800(EX1)
「C.C.…なんで、あなたがそのカードを!?」
「お前が知る必要はない。私はカードを2枚伏せ、ターンエンド。そして、フィールド魔法《星座の領域》の効果。C.C.リンクモンスターのリンク召喚に成功したターン終了時、リンク素材となったC.C.モンスター1体を手札に戻す。私は墓地の《C.C.ウッドピッカー》を手札に戻す。そして、《C.C.トラッシュ》の効果。このカードをC.C.リンクモンスターのリンク素材として墓地へ送ったターン終了時、私はデッキからカードを1枚ドローする」
男
手札5→2(うち1枚《C.C.ウッドピッカー》)
LP4000
場 C.C.カオス・カペル リンク3 攻撃1800(EX1)
伏せカード2(2)(3)
星座の領域(フィールド魔法)
誠
手札5
LP4000
場 なし
星座の領域
フィールド魔法カード
(1):お互いのプレイヤーは1ターンに1度、通常召喚に加えて手札のC.C.モンスター1体を召喚することができる。
(2):「C.C.」リンクモンスターのリンク召喚に成功したプレイヤーはターン終了時、リンク素材として墓地へ送った「C.C.」モンスター1体を対象に発動できる。そのカード持ち主の手札に加える。
知る必要がない、その一点張り。
何度も聞いている以上、デュエルで勝利して聞き出すのが賢明だ。
1ターン目からリンクモンスターを召喚し、更に《星座の領域》の効果で、次のターンも再びリンク召喚を狙える体勢を整えている。
問題なのは《C.C.カオス・カペル》と2枚の伏せカードだ。
(あの《カオス・カペル》…リンクマーカーが下と上と右上、2つも僕のメインモンスターゾーンになってる。どういう意味なんだろう…?)
1つを除いて相手にエクストラデッキから召喚できる場所を増やすだけに思えてならないマーカーの配置に戸惑いを抱く。
それは敵に塩を送るだけなのか、それとも甘い蜜と共に仕掛けられた罠なのか。
「誠!てめーのターンだぞ、さっさとやりやがれ!そして、勝て!!」
「わ、分かってるよ!僕のターン、ドロー!」
誠
手札5→6
「僕は手札から《C.C.ユニコーン》を召喚!」
C.C.ユニコーン レベル4 攻撃1800(1)
「更に、《星座の領域》の効果発動。手札の《C.C.ウルフ》を召喚!」
C.C.ウルフ レベル3 攻撃1000(2)
「バトル!《C.C.ユニコーン》で《カオス・カペル》を攻撃!」
「リンク召喚を行わないか…だが、攻撃力は《カオス・カペル》の方が上だ」
「《ユニコーン》の効果!特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うとき、ダメージステップ終了時まで、攻撃力が500アップする。マグナム発射!」
《C.C.ユニコーン》がライフルを《C.C.カオス・カペル》に向け、赤いビームを発射する。
ビームは《C.C.カオス・カペル》を貫き、消滅させる。
しかし、男にはダメージが発生していない。
「え…?今の攻撃で、500のダメージが…」
「本当に攻撃が成立しているかな…?」
「誠、上だ!!」
シャドーの言葉を受け、誠は上を見る。
そこには破壊したはずの《C.C.カオス・カペル》の姿があり、ゆっくりとピンクのオーラを纏って旋回する。
すると、彼女の質量を持った残像を見ることができた。
「《カオス・カペル》はエクストラモンスターゾーンに存在するとき、リンク先のモンスター以外のモンスターの攻撃対象にならない。せっかくダメージを与える機会を用意したのに、残念なことだ」
「だったら、僕は手札から速攻魔法《羊飼いの星繋ぎ》を発動。僕のターンのバトルフェイズ中にのみ発動できて、僕のフィールドのモンスターを素材にC.C.をリンク召喚する!現れろ、星座を繋ぐサーキット!」
発動された《羊飼いの星繋ぎ》のソリッドビジョンが上空へ飛んでいき、サーキットに変化する。
「アローヘッド確認!召喚条件はC.C.1体以上!僕は《ユニコーン》と《ウルフ》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク2!《C.C.ガンレオン》!」
C.C.ガンレオン リンク2 攻撃2000(4)
「今度こそ…!!」
「《カオス・カペル》の効果。このカードがフィールドに存在する限り、互いにモンスターを特殊召喚するとき、このカードのリンク先に特殊召喚しなければならない。そして、このカードのリンク先に存在する特殊召喚された相手モンスターは攻撃できず、効果は無効となる」
「な…!?」
小型のくい打ち銃を手にし、それで《C.C.カオス・カペル》を撃ち落とそうとした《C.C.ガンレオン》だが、背後に現れた《C.C.カオス・カペル》に後頭部を口づけされる。
すると全身がピンク色のオーラに包まれ、機能停止してしまった。
仮に《C.C.カオス・カペル》のリンク先の《C.C.ユニコーン》を召喚し、攻撃していれば簡単に倒すことができたかもしれない。
男の口車に乗せられ、結果として《C.C.ガンレオン》を封じられる結果となった。
C.C.カオス・カペル
リンク3 攻撃1800 リンク 闇属性 機械族
【リンクマーカー:上 右上 下】
効果モンスター×3
(1):このカードがEXモンスターゾーンに存在するとき、このカードのリンク先以外のモンスターゾーンに存在する相手モンスターはこのカードを攻撃できない。
(2):お互いのプレイヤーはモンスターを特殊召喚するとき、可能な限りこのカードのリンク先に特殊召喚しなければならず、このカードのリンク先に存在する特殊召喚された相手モンスターは攻撃できず、効果は無効化される。
「…僕は、カードを1枚伏せてターンエンド。同時に、《星座の領域》の効果発動!僕は墓地の《C.C.ユニコーン》を手札に加える」
男
手札2(うち1枚《C.C.ウッドピッカー》)
LP4000
場 C.C.カオス・カペル リンク3 攻撃1800(《C.C.ガンレオン》と相互リンク)(EX1)
伏せカード2(2)(3)
星座の領域(フィールド魔法)
誠
手札6→3(うち1枚《C.C.ユニコーン》)
LP4000
場 C.C.ガンレオン リンク2 攻撃2000(《C.C.カオス・カペル》の影響下 《C.C.カオス・カペル》と相互リンク)(4)
伏せカード1(2)
(《ユニコーン》を手札に戻したか…)
男は誠の手札に加わった《C.C.ユニコーン》を見る。
エクストラモンスターゾーンに置くことで、ある程度相手の特殊召喚されたモンスターの動きを封じることのできる《C.C.カオス・カペル》だが、問題なのはリンク先に通常召喚されたモンスターだ。
そのモンスターに対しては、さすがの彼女でも無力だ。
「私のターン、ドロー」
男
手札2→3
「私は手札から《C.C.ウッドピッカー》を召喚」
C.C.ウッドピッカー レベル3 攻撃1000(4)
「そして…現れるがいい、運命を定めしサーキット!」
再び上空にサーキットが生み出され、《C.C.ウッドピッカー》と3体の分身した《C.C.カオス・カペル》がその中へ飛び込んでいく。
(次に何を召喚してくるかわからない…けど、これで《ガンレオン》は動ける」
やぎ座のC.C.から解放された《C.C.ガンレオン》がジャレンチを振り回し、力を取り戻したことをアピールする。
そんな中、男が生み出したサーキットが黒く光る。
「アローヘッド確認。召喚条件はC.C.モンスター2体。私は《カオス・カペル》と《ウッド・ピッカー》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」
黒い光がサーキットにひびを入れていき、2枚の黒い羽根パーツに変わると同時にそれを砕いていく。
「終幕を夢見る黒き放浪者!リンク召喚!現れるがいい、リンク4!《C.C.シュロウガ》!」
サーキットを砕いた黒い鳥型のロボットがフィールドを旋回すると、変形して人型へと変わる。
その手には血のような赤さを持つ細身の剣を手にしており、胸部にはうお座と同じ配置の紫の球体が埋め込まれていた。
C.C.シュロウガ リンク4 攻撃2800(EX1)
「《シュロウガ》の効果。このカードをエクストラモンスターゾーンにリンク召喚に成功したとき、お互いのプレイヤーは墓地からこのカードのリンク先にリンクモンスターを1体ずつ特殊召喚することができる。ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、攻撃できない。私は墓地の《カオス・カペル》を特殊召喚」
《C.C.シュロウガ》の贄として姿を消したはずの《C.C.カオス・カペル》が再びフィールドに現れ、黒き放浪者の周囲を舞い始める。
C.C.カオス・カペル リンク3 攻撃1800(3)
「また《カオス・カペル》を…!」
「更に、私は《シュロウガ》の効果発動。1ターンに1度、相互リンクしているリンクモンスター1体を装備カード扱いにしてこのカードに装備する!私は《C.C.ガンレオン》をこのカードに装備させる!」
「何!?」
「ラスター・エッジ!」
《C.C.シュロウガ》は《C.C.ガンレオン》に狙いを定めると、額についている緑色のクリスタルパーツからビームを発射する。
ビームで貫かれた《C.C.ガンレオン》は緑色の光となって、《C.C.シュロウガ》のクリスタルパーツに吸収された。
「くうう…!」
《C.C.ガンレオン》を奪われ、誠のフィールドはがら空きになった。
もし手札に攻撃力1200以上のモンスターが存在し、それがC.C.モンスターなら、1ターンキルされる恐れがある。
「安心しろ。今の私の手札にはモンスターはいない」
「モンスター…は、だと??」
あまりにも含みを持たせた言い方にシャドーが怒りを抑えながら言う。
「私は罠カード《戦線復帰》を発動。その効果で、私は墓地の《C.C.ソラリウム》を守備表示で特殊召喚する」
C.C.ソラリウム レベル4 守備1500(2)
「相手がモンスターを特殊召喚したとき、僕は手札の《C.C.ケンタウロス》の効果発動。このカードは相手がモンスターの特殊召喚に成功したとき、僕のフィールドにモンスターが存在しないとき、手札から特殊召喚できる!」
フィールドに伝承にあるケンタウロスそっくりな構造で、茶色がベースの色彩となっている機械が現れ、誠を守るように《C.C.シュロウガ》の前に立つ。
彼が握る槍の刀身にはケンタウロス座を模した模様が掘られている。
C.C.ケンタウロス レベル6 守備1600(5)
「このカードは特殊召喚されたモンスターとの戦闘では破壊されず、戦闘で発生する僕へのダメージも0になる!」
「なるほど…それでこのターンを凌ぐつもりか…?ならば、再び現れるがいい、運命を定めしサーキット!」
このターン、2回目の登場となったサーキットに復活したばかりの《C.C.カオス・カペル》と《C.C.ソラリウム》が飛び込んでいく。
「アローヘッド確認。召喚条件はリンクモンスターを含むC.C.モンスター2体以上。私は《カオス・カペル》、《ソラリウム》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」
サーキットが紫色に光り、そこから青いダンゴムシのような大型の球体を背中につけ、右目部分から緑色のクリスタルでできた角が生えている赤い人型機械が現れる。
「憎悪に身を落とし、毒でフィールドを汚す魔蠍!リンク召喚!現れるがいい、リンク4!《C.C.アン・アーレス》!」
C.C.アン・アーレス リンク4 攻撃2600(2)
「今度は…さそり座…」
彼がこれまで召喚したC.C.はいずれも誠のデッキに入っていないモンスターばかりだ。
これが何を意味しているのか、今の誠にはわからなかった。
「《アン・アーレス》の効果。このカードのリンク召喚に成功したとき、このカードのリンク先にモンスターが存在しない場合、リンク先に《アーレス・スレイブトークン》を可能な限り特殊召喚する」
《C.C.アン・アーレス》の左右に紫色のナノマシンが集結し、球体となって浮遊し始める。
アーレス・スレイブトークン×2 レベル1 守備0(1)(3)
「そして、《アン・アーレス》の効果発動。このカードのリンク先に存在するモンスター1体をリリースすることで、フィールド上のカードを1枚破壊できる。私は《C.C.ケンタウロス》を破壊する」
「何!?」
「スキャフォード・エッジ」
《C.C.アン・アーレス》が左手に握っている3つ刃のロープ付ナイフを回転させ、不規則に振り回しながら接近する。
パターンをつかめない攻撃を避けることができない《C.C.ケンタウロス》はナイフで装甲をずたずたに切り裂かれた挙句、刃が突き刺さり、動きを止められてしまう。
そして、《アーレス・スレイブトークン》が《C.C.ケンタウロス》に装甲の隙間から入り込み、内部から同じナノマシンに分解されていった。
C.C.ケンタウロス
レベル6 攻撃2100 守備1600 効果 地属性 機械族
このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。
(1):相手がモンスターの特殊召喚に成功したとき、自分フィールドにモンスターが存在しない時に発動できる。このカードを手札から自分フィールドに表側守備表示で特殊召喚する。
(2):このカードは特殊召喚されたモンスターとの戦闘では破壊されず、戦闘で発生する自分へのダメージを0にする。
「ちっくしょう!《ケンタウロス》対策までされてやがった!?」
「これで…終わりだ。《C.C.シュロウガ》でダイレクトアタック。ディスキャリバー」
《C.C.シュロウガ》がブーストを全開にして旋回を始める。
そして、誠を手にしている剣で切り裂いた。
「うわあああ!!」
変身したことで、ある程度痛覚が抑えられているうえ、肉体への防御もできているものの、それでも鋭い痛みが襲い、スーツにも傷がついていた。
誠
LP4000→1200
「更に、《アン・アーレス》でダイレクトアタック。ノキアス・ブロッサム!」
《C.C.アン・アーレス》のダンゴムシ型ユニットから紫色のナノマシンが散布され、誠を包み込んでいく。
「う、うう!!ああああああ!!!?!?」
ナノマシンに包まれた誠の全身に激痛が発生し、耐えられずに涙を流しながらその場でのたうち回る。
特に、《C.C.シュロウガ》で斬られた箇所が本当に刃物で切られるのと同じ痛みになっていた。
「《アン・アーレス》のナノマシンがお前の痛覚を最高レベルにまで引き上げている。これで…お前の負けだ」
「ああ、あああ…僕は罠カード《スター・フォルト》を発動!特殊召喚された相手モンスターの直接攻撃宣言時、そのモンスターの攻撃力が僕のライフを上回っているとき、墓地のC.C.1体を特殊召喚して、その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」
墓地に眠っていた《C.C.ウルフ》がフィールドに飛び出し、咆哮するとともに誠の周囲のナノマシンを吹き飛ばす。
ナノマシンが霧散し、痛みから解放された誠はゆっくりと起き上がった。
C.C.ウルフ レベル3 守備1600
スター・フォルト
通常罠カード
(1):特殊召喚された相手モンスターの直接攻撃宣言時、そのモンスターの攻撃力が自分のLP以上の場合に発動できる。その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる。その後、自分の墓地から「C.C.」モンスター1体を特殊召喚する。
「私はこれで、ターンエンド。同時に、《星座の領域》の効果により、墓地から《C.C.ソラリウム》を手札に戻す」
男
手札3(うち1枚《C.C.ソラリウム》)
LP4000
場 C.C.シュロウガ リンク4 攻撃2800(《C.C.アン・アーレス》とリンク 《C.C.ガンレオン》装備)(EX1)
C.C.アン・アーレス リンク4 攻撃2600(《アーレス・ステイブトーク》とリンク)(2)
アーレス・スレイブトークン レベル1 守備0(3)
C.C.ガンレオン(装備カード扱い)(1)
伏せカード1(3)
星座の領域(フィールド魔法)
誠
手札3→2(うち1枚《C.C.ユニコーン》)
LP1200
場 C.C.ウルフ レベル3 守備1600(1)
「多分…これで僕のラストターン…」
誠はデッキトップに指をかけ、深呼吸をする。
先ほどの《スター・フォルト》の効果で《C.C.ケンタウロス》を特殊召喚したとしても、《C.C.アン・アーレス》の効果で破壊されるのは目に見えている。
頼りにすべきなのは次にドローするカードと手札、そしてフィールドの《C.C.ウルフ》と《星座の領域》だ。
「あの野郎…余裕な態度が気に食わねえ…!」
「でも、仕方ないよ…。僕は前のターンに踊らされた上に、さっきのターンで大きなダメージを受けてるし、ライフを1ポイントも削れていないから…」
男のデュエリストとしての技量はもはや認めざるを得ない。
だが、それでも負けられない理由がある。
「僕のターン…ドロー!!」
誠
手札2→3
「僕は手札から速攻魔法《星の瞬き》を発動!僕のフィールドに存在するC.C.1体をリリースし、デッキからC.C.モンスター1体を手札に加える。僕は《ウルフ》をリリースし、《C.C.インディア》を手札に加える!」
《C.C.ウルフ》が姿を消し、自動排出された《C.C.インディア》が誠の手札に加わる。
更に誠は迷うことなく次のカードを手にする。
「更に手札から魔法カード《聖天使の施し》を発動!僕のフィールドにカードがない時、デッキからカードを2枚ドローし、手札1枚を墓地へ捨てる。僕は《C.C.インディア》を墓地に捨てる!更に手札から魔法カード《逆境の宝札》を発動!自分フィールドにモンスターが存在せず、相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、デッキからカードを2枚ドローする!」
「一気に手札補充をしてきたか…」
立て続けに発動したサーチやドローカードによって、誠は手札補充していく。
逆転への望みをつなげるために。
「そして、手札から《C.C.バルゴラ》を召喚!」
C.C.バルゴラ レベル3 攻撃1200(3)
「《バルゴラ》の召喚に成功したとき、このカード以外に自分フィールドに存在するカードがこのカードだけで、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在するとき、1度だけ手札・デッキ・墓地から《バルゴラ》を特殊召喚できる!」
C.C.バルゴラ×2 レベル3 攻撃1200(1)(2)
「そして、現れろ!星を繋ぐサーキット!アローヘッド確認。召喚条件は《C.C.バルゴラ》を含むC.C.モンスター3体。僕は《C.C.バルゴラ》3体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク3!《C.C.バルゴラ・グローリー》!!」
C.C.バルゴラ・グローリー リンク3 攻撃1900(EX3)
「《バルゴラ・グローリー》のリンク召喚に成功したことで、墓地の《C.C.インディア》の効果発動!僕のフィールドに存在するモンスターがEXモンスターゾーンのリンクモンスター1体のみの時、このカードを墓地から除外することで、墓地からレベル4以下のC.C.2体を特殊召喚する!《バルゴラ》2体を特殊召喚!」
C.C.バルゴラ×2 レベル3 攻撃1200(1)(3)
「このタイミングで《バルゴラ》を召喚するとはな…そしてそのプレイング、C.C.を使いこなしつつあるか…」
男は低く見ていた誠の評価を少しだけ改めようと考えた。
未知のカードと言えるそのカードを使いこなすまで、自分はかなりの時間がかかった。
誠の持つC.C.は自身の持つC.C.とは全く異なるが、それでも評価に値することには変わりない。
「《バルゴラ・グローリー》の効果発動!このカードの特殊召喚に成功したとき、このカードのリンク先に存在するモンスター1体を装備カードとしてこのカードに装備する!この効果はこのカードがエクストラモンスターゾーンに存在する場合、もう片方のエクストラモンスターゾーンのモンスターも対象にできる!」
「その効果で《シュロウガ》を奪うつもりだろうが、そうはさせん。カウンター罠《天罰》を発動。手札1枚を捨て、相手のモンスター効果の発動を無効にし、破壊する」
右手ユニットから捕獲のためのビームを発射しようとしたが、その前に上空から突然降ってきた雷に打たれ、《C.C.バルゴラ・グローリー》は消滅した。
手札から墓地へ送られたカード
・フォーメーション・チェンジ
「なら…もう1度現れろ!星を繋ぐサーキット!アローヘッド確認!召喚条件はC.C.1体!僕は《C.C.バルゴラ》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク1!《C.C.ジ・インサー》!」
C.C.ジ・インサー リンク1 攻撃0(EX3)
「《ジ・インサー》の効果発動!このカードがフィールドに存在する限り、1度だけこのカードのリンク先にC.C.モンスター1体を特殊召喚できる。僕は墓地から《C.C.バルゴラ・グローリー》を特殊召喚!」
C.C.バルゴラ・グローリー リンク3 攻撃1900(2)
「更に現れろ!星を繋ぐサーキット!アローヘッド確認!召喚条件はC.C.モンスター2体。僕は《ジ・インサー》と《バルゴラ・グローリー》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク4!《C.C.アウストラリス》!」
C.C.アウストラリス リンク4 攻撃2800(EX3)
「更に手札から魔法カード《C・C・R》を発動!相手フィールド上に特殊召喚されたモンスターが存在するとき、墓地からC.C.2体を特殊召喚できる。ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効となり、ターン終了時に除外される。僕は《バルゴラ》2体を墓地から特殊召喚!」
C.C.バルゴラ×2 レベル3 攻撃1200(1)(4)
「そして…!」
「まだリンク召喚を行うつもりか…??」
このターン、4回目のリンク召喚を行おうとする誠にさすがの男も驚きを見せる。
誠はまだ、このデッキのエースを召喚していない。
「もう1度現れろ、星を繋ぐサーキット!アローヘッド確認!召喚条件はC.C.モンスター2体以上!僕は《バルゴラ》3体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク3!《C.C.ジェニオン》!」
C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500(3)
「《ジェニオン》の効果!自分のターンのメインフェイズ時、このカードのリンク先に存在するモンスターの数だけ、このカードにバリアカウンターを置くことができる。《ジェニオン》のリンク先に存在するのは《アウストラリス》1体。よって、1つバリアカウンターを置く!」
C.C.ジェニオン リンク3 攻撃2500(3) バリアカウンター0→1
「そして、バトルフェイズ開始時に《ジェニオン》の効果発動!このカード以外の自分のモンスターの攻撃を放棄する代わりに、リンク先に存在するモンスターの数だけ追加で攻撃できる!」
《C.C.アウストラリス》から放たれたエネルギーの矢を受け、力を得た《C.C.ジェニオン》はバックパックから2丁の銃砲を出し、それらを逆手で握る。
「だが、《ジェニオン》の攻撃力は2500。《アン・アーレス》と《シュロウガ》にはその攻撃力では及ばない」
「Dソリッドパニッシャー!」
青いエネルギーを凝縮させ、それを《C.C.シュロウガ》に向けて発射する。
攻撃力では《C.C.シュロウガ》が上回っているため、剣でビームを真っ二つに切り裂き、反撃のために最大戦速で接近していく。
そして、手にしている剣で切りつけようとするが、《C.C.ジェニオン》が銃砲で受け止める。
「何…?」
「《C.C.アウストラリス》のリンク先に存在するモンスターは戦闘では破壊されず、戦闘で発生する僕へのダメージは0にする」
「まさか…!」
「そして、相互リンクしているC.C.リンクモンスターが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行ったとき、そのダメージステップ終了時に…その相手モンスターを破壊する!」
銃砲を鈍器のように振り回し、《C.C.シュロウガ》の剣が宙を舞う。
そして、腹部に向けてゼロ距離射撃を行い、黒き放浪者の胴体が消滅し、四肢が吹き飛んだ。
「そして、この効果で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを…!?」
効果を説明する誠だが、男の間の前に再び現れた《C.C.シュロウガ》を見て、驚きのあまり沈黙してしまう。
「私はその攻撃を受ける前に、墓地の罠カード《フォーメーション・チェンジ》を発動した。このカードを墓地から除外し、《シュロウガ》を守備表示に変更した」
「でも…《シュロウガ》はリンクモンスター!リンクモンスターは守備表示には…」
「守備表示にすることができるのが《シュロウガ》の効果の1つ。そして、その時攻撃力を守備力として扱う」
C.C.シュロウガ リンク4 攻撃2800→守備2800
「そして、《シュロウガ》が守備表示で、更にリンクモンスターを装備しているとき、破壊されない」
C.C.トラッシュ
レベル4 攻撃500 守備500 効果 地属性 機械族
このカード名の(2)の効果はデュエル中1度しか発動できない。
(1):このカードが「C.C.」リンクモンスターのリンク素材として墓地へ送られたターン終了時に発動する。自分はデッキからカードを1枚ドローする。
(2):自分ターンのドローフェイズ時、自分フィールドにモンスターが存在せず、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在するときに発動できる。このカードを墓地から自分フィールドに表側攻撃表示で特殊召喚する。
C.C.アン・アーレス
リンク4 攻撃2600 リンク 闇属性 機械族
【リンクマーカー:右上 右 左 左下】
リンクモンスターを含む「C.C.」モンスター2体以上
このカード名の(1)(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードのリンク召喚に成功したとき、このカードのリンク先にモンスターが存在しない場合に発動する。このカードのリンク先に「アーレス・スレイブトークン」を可能な限り特殊召喚する。
(2):このカードのリンク先に存在するモンスター1体をリリースすることで、フィールドに存在するカード1枚を対象に発動できる。そのカードを破壊する。
(3):このカードが特殊召喚されたモンスターとの戦闘で破壊されたときに発動する。EXモンスターゾーンに存在するモンスターをすべて破壊する。
C.C.シュロウガ
リンク4 攻撃2800 リンク 闇属性 機械族
【リンクマーカー:上 右上 下 左下】
「C.C.」モンスター×2
(1):このカードは守備表示にすることができる。その時、攻撃力を守備力として扱う。
(2):このカードをEXモンスターゾーンにリンク召喚に成功したときに発動できる。お互いに墓地のリンクモンスター1体をこのカードのリンク先に特殊召喚する。
(3):このカードは表示形式によって、以下の効果を適応する。
●攻撃表示:1ターンに1度、このカードと相互リンクしているリンクモンスター1体を対象に発動できる。そのカードを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
●守備表示:このカードがリンクモンスターを装備カード扱いとして装備しているとき、戦闘・効果では破壊されない。
フォーメーション・チェンジ
通常罠カード
(1):フィールドのモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターの表示形式を変更する。
(2):墓地に存在するこのカードを除外し、自分フィールドに存在するモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターの表示形式を変更する。
C.C.アウストラリウス
リンク4 攻撃2800 リンク 地属性 機械族
【リンクマーカー:上 右 左下 右下】
「C.C.」モンスター×2
(1):このカードのリンク先に存在するモンスターは戦闘では破壊されず、戦闘で発生する自分へのダメージが0となる。
(2):このカードと相互リンクしている「C.C.」リンクモンスターが相手モンスターと戦闘を行ったダメージステップ終了時に発動する。その相手モンスターを破壊する。その後、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
(3):このカードが特殊召喚されたモンスターとの戦闘によって破壊され墓地へ送られたときに発動する。自分はデッキからカードを1枚ドローする。
「ぐう…!なら、《ジェニオン》で《アン・アーレス》を…!」
せめて、《C.C.アン・アーレス》だけでも倒そうと宣言しようとするが、その直前に森全体に揺れが発生し、その激しい揺れから誠は膝をつく。
「く…どうやら、時間切れのようだ。結城誠、そして裏切者よ!この勝負は預ける」
「預けるって…」
「いずれ神から奪ったものを返してもらう。それから…」
ソリッドビジョンが消え、男も姿を消そうとする。
捕まえるため、立ち上がるにもこの揺れのせいでどうにもならない。
「待て…!」
「1つだけ教えておいてやろう。トビーという男、明後日の夜には再び姿を現すだろう。一度敗れた相手にどこまでやれるか…見ておいてやる」
そう言い残すと男が姿を消した。
「待て…!」
「誠、足元に気を付けろ!」
「え…?」
シャドーの叫びを聞いた直後、誠の足元で地割れが発生する。
急なことで反応が遅れた誠はそのまま落ちていく。
「うわあああああ!!!」
「わあああああ!?はあ、はあ、はあ…」
ガバッと掛け布団を押しのけ、誠は目を覚ます。
周囲を見渡し、愛用のノートパソコンが置かれた机などの見覚えのある空間から、自分の部屋にいることは分かった。
「どう…して…?」
昨晩、馬廻神社の森の中で、地割れの中へ落ちていったはず。
しかし、今の誠は自分の部屋にいて、パジャマ姿だ。
全身が汗でびっしょりになっており、不快感を覚えた。
机の上の時計を見ると、時刻は午前0時半だ。
どういうことかさっぱりわからないまま、コンコンと柱にノックする音が聞こえる。
「姉さん…?」
「誠君、さっき悲鳴が聞こえたけど、どうかしたのー?」
「ああ…起こしちゃった?ごめん、なんでもないよ。その…変なこと、聞いてもいい?」
「変なこと…?」
「うん。僕…いつぐらいに帰って来たの?」
「ええっと、夕方ぐらいだったと思うよ。虫歯の治療に時間がかかったって…。それからご飯を食べて、お風呂に入ったらすぐに寝たわ。よっぽど疲れてたみたいね」
「そっか…ありがとう…」
近くの襖が開閉する音が聞こえ、再び布団の中に入った誠は天井を見る。
自分はトビーに敗れ、夜中に森の中で男とデュエルをし、地割れに飲み込まれたはず。
そうだとしたら、夕方ぐらいに帰った来たという明日奈の発言は嘘になる。
だが、彼女がそのようなつまらないうそをつく女性ではない。
「一体…何がどうなっているんだ…?」
必死に考えるが、それで何かがわかるはずもなく、考えすぎたせいで中々眠りに就けなかった。
なお、誠は気づいていないものの、治療予定だった虫歯は既に治療済みの状態になっていた。