遊戯王VRAINS 幽霊に導かれし少年   作:ナタタク

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来週放送、ということで衝動的に第1話をかいてしまいました…。
アニメを見て、場合によっては書き直しがあるかもしれませんが、ご了承ください!


第1話 なんでこんな…!?

(おいしい水と肥沃な土地で育った牛のなめらかな味わいはいかがですか?霧山城牛、350gが現在10000円以上のふるさと納税でご提供いたします。霧山城市にお住まいの方でもそうでもない方も、この機会にぜひ!)

最近の法律改正によって、都道府県や市町村単独でのふるさと納税CM作成・放送が可能となったことで、テレビでネットの動画サイトでこういうCMを見るようになった。

現在、この映像はとある民家の2階にある個室のノートパソコンに流れており、そのあとでデンシティのLINK VRAINSでのVRデュエルの実況動画が流れ始める。

「いいなぁ、デンシティ…」

肩肘を机の上に乗せ、顎をその上に載せながら映像を見て、下の欄にあるコメントを入れる。

「LINK VRAINSでのデュエル、僕もやってみたいよ」

この空間ではアカウントを作り、かっこいいと思える姿で、まるで別人のようにデュエルをすることができる。

そんな楽しいことがSOLテクノロジー社のおひざ元であるデンシティで行われていて、もしかしたら東京などの各都市でもそういうことができるようになるかもしれない。

だが、K県の田舎であるこの霧山城市ではそんなことができるようになるのはだいぶ先の話だろう。

隣の県でなら、早くできるようになるかもしれないが。

「誠君ー!直葉ちゃんが来たわよー」

「はーい、今行くよ、姉さん!」

このMyTubeで流れている実況動画はまた後で見ることもできる。

ノートパソコンを閉じると、先ほどまでそれを見ていた少年が立ち上がる。

茶色がかった黒のショートレイヤーで白いシャツと青いデニムジャケット、黒のスキニーパンツ姿で黒ぶちのウエリントン型メガネをかけた、誠と呼ばれた少年は茶色いリュックサックを手にして部屋を出ていく。

 

「遅ーい!まさか、またデュエルの動画でも見ていたの!?」

降りてきて、待っていたのは幼馴染の女の子の怒った顔だった。

眉の上と肩のラインでカットした黒い髪で、赤いジャージと黒いシャツ、青いホットパンツ姿の少女だ。

彼女は幼馴染の桐ケ谷直葉で、誠と同じK県立霧山城高校2年3組の生徒だ。

剣道部に所属していて、インドア派で帰宅部の誠とは対照的な少女だ。

そんな彼女と誠をほほえみながら見て、皿を洗っているのは淡い茶色のロングヘアーで若干黄色が買っている誠と異なり、真っ白な肌をした、白いエプロン姿の女性だ。

彼女は結城明日奈で、誠の姉だ。

霧山城学園大学経済学部経済学科2回生で、開いている時間は自宅で『カフェランベント』という喫茶店を開いている。

なお、両親は既に世を去っており、明日奈は卒業後、完全にこの喫茶店に徹するつもりでいるとのこと。

「別にいいじゃないか。好きなんだから」

「だったら、誰かとデュエルをすればいいでしょ?今なら、近くのビデオ屋さんでデュエル大会をやってるよ?」

「まさか…それを誘いに。悪いけど僕、あんまり外には…」

「もう、そんなことばっかり。ほら、早くいくよ!」

乗り気でない誠を強引にでも連れて行こうと、直葉は誠の腕をつかみ、そのままひっぱっていく。

「た、助けてよ姉さん!!」

「いってらっしゃーい」

「姉さーーん!!」

ほほえみながら手を振る彼女に必死に手を伸ばしながら、誠は直葉に連れていかれてしまった。

 

「はぁぁ…外にあんまり出たくないのに…」

「文句を言わないの!ったく、どうして誠君は外に出るのがいやなの?」

「だって…」

観念した誠は直葉の隣で歩いている。

大会をやっているビデオ屋『SARUYA』は家を出て南に3分足らずで到着できる場所にある。

『SARUYA』はビデオやDVD、ブルーレイ、ゲームのレンタル・販売だけでなく、遊戯王カードの売買や大会などのイベントもやっており、10年前から営業している。

といっても、行われる大会はその店から東にある霧山城市でも1,2を争う大型スーパーマーケットであるアルト・テノールで行われる大会と比べると小規模ではあるが。

「…まぁ、いっか。そういえば、今日の実況ではどんなデュエリストが出ていたの?」

「ええっと、今日はブルーエンジェルって女の子がデュエルをしていたよ。アイドルグループのライブをやってるみたいな感じだったよ」

「ふーん…」

「な、なんでそんなジトーっとした目で見るんだよ!?」

質問されたため、素直に答えたにもかかわらず、このような目で見られるのは心外だ。

なぜそんな目で見られているのか、誠には全く分からなかった。

(うう…女の子ってよくわからない…)

 

『SARUYA』の店舗前の外部デュエルスペースでは、既に大会の準備が整っており、あとは開催時間を待つだけという状態になっていた。

「ほら、大会の受付済ませたわよ?大会の準備をしましょ?」

「うん。まぁ…直葉が相手なら…」

大会まであと20分も時間がある。

それならそんなに早く家から出さなくてもいいだろう、と言いたくなる。

誠はリュックサックからデュエルディスクとデッキを出す。

持っているデュエルディスクはこの大会の出場者と同じく、メインモンスターゾーンとエクストラモンスターゾーンが実体となっており、第2世代のデュエルディスクと同じく、モンスターゾーン部分が左右2つに分かれて収納される、都会で使われているものと比べると人世代遅れた型の物だ。

(はぁ…こうなったら、1回戦で負けて、帰っちゃおうかな?)

早く家に帰りたい誠はあろうことかわざと負けるというデュエリストにあるまじきことまで考えてしまう。

そんな彼に学生服姿で、背丈が誠よりも頭1つ上の少年が声をかけてくる。

真っ白な髪で真っ白な肌、そして青い瞳が印象的な彼はほほえみを見せていた。

「なぁ、見ない顔だな。ボクとテストデュエルしてくれないか?」

「え…?でも、僕は…」

もうすでに直葉とデュエルをするつもりでいた誠はすぐに断ろうとする。

「いいですよ。彼とデュエルしても!」

「ええ!?直葉ちゃん、どうして!?」

「いい加減、あたしや明日奈さん以外の人ともデュエルをしないと」

(直葉ちゃんと姉さん以外の人と…か…)

直葉の言葉を聞いた誠がなぜか悲しげな表情を浮かべる。

事実、誠はこれまでその2人としかデュエルをしたことがない。

他人と積極的にデュエルをするわけではなく、大会にも出場したこともない。

「さ、誠君!デュエリストなら、ちゃんと対戦に応じないと!」

「よく状況は分からないが、ま、いいか。じゃあ、デュエルをしよう」

2人の会話を聞いていた彼はもうデュエルディスクを展開しており、いつでもできるように開いているデュエルスペースの南側のプレイヤーゾーンに立つ。

「はぁ…もう、分かったよ…」

彼女には逆らえないところがある誠はやむなくデュエルに応じ、北側のプレイヤーゾーンに立つ。

「さぁ、楽しもうぜ!!」

「…はい」

「デュエル!!(デュ、デュエル…)」

 

???

手札5

LP4000

 

手札5

LP4000

 

「おーい、明日奈ちゃん!!オムライスとコーヒーお願い!!」

「こっちにはカレーライスを!!」

「はーい!」

『カフェランベント』の常連客である2人の男性の注文に応え、明日奈はテキパキと準備を始める。

開店前に仕込みを済ませており、2人が注文するメニューもある程度分かっていることから、ものの数分で盛り付けまで済ませることができ、お盆にのせて2人のもとへもっていく。

オムライスとコーヒーを赤いベレー帽と茶色い外套姿の男が週刊誌記者である品田治で、明日奈に惚れており、よく店に来ている。

カレーライスを注文した青いYシャツに藍色のサスペンダーをつけた、アフロ頭の男は笹村金太郎で、この市では珍しいブロガーで、周囲で起こった不思議な出来事をいつも書き込んでおり、彼もまた品田と同じく明日奈に惚れている。

「商売繁盛してますね、店長」

明るい茶髪のツインテールでオレンジを基調とした服装をした、誠よりも少しだけ背が低い少女が調理をしながら明日奈に言う。

彼女は綾乃桂子で、誠と直葉が通う高校に通っており、クラスは1年6組。

週に1回、こうしてアルバイトで『カフェランベント』に来ており、今日は部活があったためか少し遅れてきていた。

「そりゃあそうだよ!だって、明日奈ちゃんの料理はうまいし…」

「こんなにかわいい女の子2人がいる日だしー!あ、お代わりの水、頂戴!」

「今、取りに行きますね!」

料理を出した明日奈は笹村からガラスコップを受け取り、すぐにお代わりの水を入れるために厨房へ向かう。

「あっ…!!」

だが、厨房につくと急に手が滑ってコップがおち、粉々に割れてしまう。

「だ、大丈夫ですか!?店長!」

桂子は慌てて明日奈のもとへ走っていく。

「ご、ごめんね桂子ちゃん。ちょっと、疲れちゃったのかな…??」

「だったら、ちょっとだけ休んでてください。最近、休んでないみたいで、誠さん心配してましたよ?」

「じゃあ…5分したら少しだけ休むわ。あ、笹村さんのお代わりの水、用意しておいてくれる?ここの片づけは私がやるから」

「はい!」

水については桂子に任せた明日奈はロッカーを開け、ちりとりと箒を手にする。

砕けたコップの破片を一つも残さないように、丁寧に塵取りの中に入れていく。

(なにかしら…?この嫌な予感は…?)

塵取りに入っていく破片を見ながら、急に感じた胸騒ぎに疑問を持っていた。

 

「よし…!《エンディミオン》で《疾風の暗黒騎士ガイア》を攻撃!」

誠が召喚していた《神聖魔導王エンディミオン》の杖から放たれる紫色の魔力の球体に直撃した《疾風の暗黒騎士ガイア》が爆発し、爆風がデュエリストを襲う。

「うぐぐ…やってくれる!」

 

???

LP2100→1500

 

「だが、ここで僕は罠カード《補給部隊》の効果発動。1ターンに1度、僕のフィールド上に存在するモンスターが破壊されたとき、デッキからカードを1枚ドローする」

「僕はこれで、ターンエンド…」

 

???

手札4→5

LP1500

場 翻弄するエルフの剣士(3) レベル4 守備1200

  補給部隊(3)

  伏せカード(2,4)

 

手札1

LP1800

場 神聖魔導王エンディミオン(1) レベル8 攻撃2700

  魔導都市エンディミオン(魔力カウンター2)(フィールド魔法)

 

「キャーーー!!イケメンさんが負けちゃう…」

「何をするのよ!?あっちの眼鏡!そんな攻撃をしていいと思ってるの!?」

あのデュエリストにすっかりメロメロになっている一部の女子の観客が誠にブーイングをする。

(やりにくい…だから、大会はいやなんだ!!)

明日奈や直葉とやるときはこういうことがないため、気軽にやることができた。

こういう観客がいる中でデュエルをしたことのない彼にとって、今回はとてもやりづらい。

「かわいい女の子たちが僕を応援してくれている…。これは、期待に応えなければならないな…。僕のターン、ドロー!」

 

???

手札5→6

 

「僕は手札から魔法カード《蛮族の狂宴Lv5》を発動。手札・墓地に存在するレベル5の戦士族モンスター2体を特殊召喚できる。僕は墓地から《フォトン・スレイヤー》と《オーバーレイ・ブースター》を特殊召喚する」

 

フォトン・スレイヤー(4) レベル5 攻撃2100

オーバーレイ・ブースター(2) レベル5 攻撃2000

 

(なんだ…?この人のデッキ!?)

あのデュエリストが使うデッキに誠は疑問を抱いていた。

最初のターン、彼は《おジャマ・イエロー》を裏守備表示で召喚していたし、更にあの2体のモンスターはその次のターンに並べており、普通ならここからランク5のエクシーズ召喚もしくは上級モンスターのアドバンス召喚をするはずだ。

しかし、彼はそのようなことをしなかったし、種族や属性・効果にもかなりばらつきがある。

まるで適当にパックを購入し、それで即席で作ったデッキみたいな感じがしてならない。

「更に、僕は手札から《切り込み隊長》を召喚。その効果でさらに手札から《ライトロード・パラディン ジェイン》を召喚」

 

切り込み隊長 レベル3 攻撃1200(1)

ライトロード・パラディン ジェイン レベル4 攻撃1800(5)

 

「そして、永続罠《DNA移植手術》を発動。フィールド上に存在するすべてのモンスターの属性を僕が宣言した属性に変更させる。僕は光属性を宣言する」

「今度は《DNA移植手術》を…!?一体、どうして…!?」

「僕は…いや、私は《フォトン・スレイヤー》、《オーバーレイ・ブースター》、《切り込み隊長》、《ライトロード・パラディン ジェイン》の4体の光属性モンスターを素材にリンク召喚を行う!」

「な…!?」

一人称を言い換えたそのデュエリストのフィールドに強い光が発生する。

「な、なに!?何が起こってるの…!?」

目の前で起こっているこの光が何なのかわからない直葉が動揺しながらデュエルフィールドを見る。

「何!?なんだよ、この光は!?」

(さぁ…君の力を私に見せてくれ、小さき人間よ)

「何!?」

光の中から赤い仮面をつけ、天使を思わせるような純白の鎧と2本一対の剣を装備した戦士が現れ、右手の剣が誠の腹部を貫いた。

「あ、ああ…!!」

(怖がる必要はないんだよ、愛しき小さな人よ…)

腹部から伝わる激痛に苦しみながら、その戦士から聞こえるあのデュエリストそっくりな声を聞いた。

剣が抜かれると、誠はゆっくりと右手を刺された場所にあて、その手を目の高さまで持っていく。

その手はびっしょりと血でぬれていて、それを見た誠の口からも血が流れていた。

 

LP1800→0

 

「光が…!」

「消えてく…!?」

光りが消えると、そこには腹部を刺され、血を流しながらあおむけに倒れる誠だけが残っていて、あのデュエリストの姿はどこにもなかった。

「う…そ…誠君!?」

「誰か、救急車!!救急車を!!」

誠の姿を見た直葉が駆け寄り、周囲の人々は動揺する。

(え、え…!?僕、なんでこんなことに…??)

どうにか体を動かすか、言葉を発して助けを求めようとする。

だが、体の感覚がだんだんなくなっていき、口も動かなくなっていく。

あれほど痛かった腹部の感覚もなくなり、だんだん瞼が重たくなっていく。

(死ぬの…僕??嫌だ、まだ…僕は…!)

死にたくない、という思いとは裏腹に、もう体のほとんどが動かなくなっていて、腹部から流れる血が服や肌を濡らしていた。

もう、何も見えなくなり、直葉の自分を呼ぶ声も聞こえなくなる。

(死にたく…な…)

(死ねるかよ…俺は、まだ!!くそったれがぁぁ!!)

急に脳裏に別の誰かの声が聞こえてくる。

聞き覚えのない声で、かなり荒っぽい口調をしており、どうしてその声が聞こえたのかわからないまま、誠は意識を手放してしまった。




霧山城市
人口:89574人(去年行われた国勢調査の時点で)
市の花:桜
特産品:霧山城米・霧山城牛・地産有機野菜と果物のミックスジュース

K県の県庁所在地であるK市とは峠一つ隔てた北に位置しており、四方が山に囲まれた盆地の中にある市。
農業と牧畜を中心としていたが、10年ほど前から企業招致を始めており、IT企業を中心に進出しており、市内で生産された農作物や食肉を加工する企業づくりを生産者主導で行うことも計画している。
市の中心を流れる小五郎川沿いでのウォークラリーは市内のすべての小学校で行われている。

カフェランベント
場所:大型スーパーマーケット『アルト・テノール』から北へ約5分。アルト・テノール前通りバス停『桜が丘』から徒歩3分。霧山城市文化センターの隣

現役大学生である結城明日奈が経営するカフェ。
オムライスやカレーなどの洋食を中心としており、彼女の料理の腕前からアルト・テノールで食事が取れるにもかかわらず、わざわざここに来る客もいる。
なお、常連の中には彼女に惚れた男性もいるようだが、彼女が鈍いせいか、進展がない。
なお、現在は2人のアルバイトを雇っているが、人手不足であるため、弟である誠や彼の幼馴染の直葉に応援要請することもある。

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