大樹は絶句する。幻想郷を作った妖怪がまさか大樹を幻想郷に連れてきたなんて。
そもそも大樹と妖怪の賢者に関係性は皆無。幻想郷を知っている外来人ではあるけれど。
「この黒い空間……。見覚えがある!というか俺はこれに呑み込まれて幻想郷に来たんだ!」
「やっぱり紫の仕業じゃない。」
この騒動の黒幕が分かったのに、霊夢は落ち着いている。もしかして、常習犯なのか?
「だいたい幻想郷を作った妖怪なんて言ってるけどただの黒い空間じゃないか! 声は女性っぽいけど。」
「あら。酷い言われ様ね。」
「そう思うならスキマから出ればいいじゃないか。」
慧音は呆れたように言う。
「それもそうね。」
「そのスキマ(?)が本体じゃないのか。……それは失礼しました。」
「あんたあんまり紫に変な事言って殺されても知らないわよ?」
そんな真顔で怖い事言わないでくれ……。
「殺すって……。恐ろしい。」
「まだ会ってもいないのに怖がられるなんて…。」
慧音のいうスキマから1人の少女が出てきた。
妖怪の賢者と言われているらしいが、見た目だけでいえば慧音や霊夢と同じ人間とほぼ変わらない。
「八雲紫よ。妖怪の賢者とは私の事よ。」
「紫さん…ですか。俺は藤村大樹です。」
「貴方の事はよく知っているわ。藤村大樹。貴方がただの人間で無いこともね。」
……紫さんがもしあの黒い物体で俺を観察していたならば、バレていてもおかしくない。
「! ……何の事やら。」
慧音は驚いたように、霊夢はとりわけ反応を示さなかった。
「あら。あの2人に喋ってないの?まあいいけど。」
「……。もうすぐ帰るつもりでしたから。」
「さあ? 今から私が話す内容によっては、幻想郷に住み着くかもしれないのに。」
「そんな事予測出来ないですよ……。」
それに話とは一体……?
「あーあー。紫、やっぱりあいつは妖怪だったという事よね?」
「今はほぼ人間よ。でも数年経てば変わるはずよ。」
「妖怪の賢者が言う事は本当か大樹?」
慧音はこちらに質問してきた。
「どこから説明していいか分からないけど。俺に宛てた母親からの手紙が本当ならば、そうなる。」
「貴方は親の手紙を信じているの?」
紫さんも加わってきた。
「最初は何かの比喩表現か何かだと思っていました。でも、いきなり知らない森に放り出されて、ここまでの経緯を体験したら、信じられる。かな。」
もしこんな場所に招待(?)されなければ、一生気にせずに暮らしていたかもしれない。
「信じられるのね? その手紙通り、貴方は天狗よ。」
「手紙にはそう書いていました。」
「そして貴方の母親は昔、ここ『幻想郷』から自力で抜け出した烏天狗なのよ。」
紫さんが本当のことを言っているならば、母親はやはり幻想郷出身らしい。
「ねえ、紫。昔と言っても結界はあったのよ? とても紫以外で外の世界に出れるとは……。」
そういえば霊夢も俺を外に出させる為に結界を緩めたとか言って空間を巫女パワー(?)で歪めていたが。
「彼女は『結界を越える程度の能力』を持っていた。」
紫さんの言う『彼女』は、俺の母親の可能性が非常に高い。そして特殊能力らしきものも持っているのか? 紫さんのスキマや、霊夢の巫女パワーの様に。
「なるほどねぇ〜。それなら不可能じゃないわ。」
そんな説明で納得しちゃうのか。この場所では、それが常識なのかなあ。
「しかし、そのような天狗を何故外の世界へ出させたんだ? 妖怪の賢者なら止めると思うのだが。」
「彼女とはある程度約束したから、見逃したわ。もし幻想郷の事をバラそうとしていたら、即刻スキマ逝きにしているわ。」
……『行き』じゃなくて『逝き』なのが怖い。
「話を戻すけど、私は最初に言った通り、貴方の願いを叶えるために幻想郷に連れてきたのよ。」
「俺の、願い……。もしかして、七夕の短冊に書いた事ですか?」
「へぇ〜。外の世界にも七夕があるのね。」
「博麗大結界で隔離する前にあった習慣は、外の世界でも幻想郷でも共通だと思うぞ。」
霊夢と慧音は本当に幻想郷に出たことが無いらしい。
「ていう事は……。」
亡き母親について教えてくれるのか!
「貴方の想像通り、母親は生きているわ。幻想郷で。」
うん、想像は大いに外れた……。いやいや、母親が、ここで生きているのか!?
「貴方の母親は『幻想入り』したのよ。」
大樹は暫く考え込む。『幻想郷』、外の世界では忘れ去られる……。
「もしかしてですけど、母親は死んだのでは無く、『忘れ去られた』?」
「んー……。ハズレ。でもよくそこまで考えられたわね。『忘れ去られた』のは原因ではなく結果よ。」
「あ、幻想郷に戻った……『戻された』からか。」
「正解よ。よく出来たわね。」
紫さんの助けもあって、その答えを導き出した。最も、褒められても全く嬉しくないが……。
「戻されたのは、ここの結界の仕組みが原因。外の世界で生活している妖怪は数は少ないけど居る。その妖怪が力を失うと、自動的に幻想郷に戻されるのよ。それにしても、『幻想入りすれば外の世界では居ないことにされる』事に良く気がついたわね?」
「ああ、その結果、幻想郷に居るから存在を忘れてしまうんですね。……実は、俺は母親の名前を覚えていないんです。だから、幻想入りしたら外の世界で忘れ去られてしまうのではないかと考えた訳です。」
墓参りには俺しか行かなかったし、母親の墓に刻まれている名前は消えていた。もしかして、これも幻想入りが……
「それじゃあ、俺は此処に残ります。……迷惑をおかけすると思いますが、いいですか紫さん?」
衝動的に、口が先に動いた。
「私は最初からそうするって言ってたでしょ?」
「ハハハ。そうでしたね。」
久しぶりに笑った気がする。そして俺は、霊夢と慧音の方を振り返る。
「突然だけど、幻想郷に残ることにしたよ。2人とも、これからもよろしく。」
「里は外来人歓迎だ。こちらこそ、よろしくな。」
「はいはい、よろしく〜。」
「コホン。」
わざとらしく紫さんは咳き込む。どうやら話がまだあるようだ。
「?」
もう1度紫さんの方を向く。
「ここには人と妖怪との共存関係があるのは知っているわね?」
「はい。慧音から聞きました。」
「じゃあ話が速いわ。ここ幻想郷での妖怪と人間との決着方法について。それと……。」
スキマを出して、そこに手を突っ込む。どうやら何かを取り出すようだ。
「決闘で用いる『スペルカード』について。」
大樹「『スペルカード』……?」
紫さんの手には、護符のような紙があった。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
次回も説明ですね。自分の文章力不足でなかなか話が進まなくて申し訳ないです。
大分慣れては来ましたが誤字脱字、原作設定との乖離等にはご了承ください。
更新は不定期です。