天狗の幻想入り   作:ジャジャジャジャーン

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ここまでお読み下さってありがとうございます。

文が長くなりそうなので区切りました。
陳腐な文章ですが最後までお付き合いお願いします。


第31話 終わりと始まり

「……実に不愉快だ。お前の母親そっくりの髪色にしおって!!」

 

そう言い放ち、羅刹は再び距離を置いた。そして抜刀の構え。どうやらもう一度切りかかってくる様だ。

 

「凄い…。今まで感じたことの無い力が……。」

 

何故白髪になったのかは置いておこう。兎に角、今は目の前の敵に集中する。

 

「今度は心臓を抉りとってやるわ!!」

 

その言葉を聞き終えた瞬間、羅刹はあのスピードで迫ってきた。……はずなのだが、体感前よりずっと遅い。と言うか、これは相手が遅く見えているのか! 妖夢戦などで起こっていたスローモーション現象(仮称)が発動している様だ。出会ったばかりの萃香からは『貴方の能力』と言われてはいたが。

 

「遅い!」

 

相手がこちらに迫ってくる中、すかさず羅刹の背中をとる。相手はこちらの移動に気付かず、斬撃を空気に撃ち込む。

 

「躱した……だと!?」

 

「生憎、躱す事には定評があるからな。」

 

「後ろか!?」

 

羅刹が振り返った刹那、こちらに向いた羅刹の顔に拳を入れる。面ごと上から一発。面はちょうど拳が当たった点から半分が剥がれ落ちた。羅刹の体はステージの端まで飛んでいき、柱に激突した。

 

「このパワーは……!?」

 

確かに力を込めて殴ったが……。まさか相手が吹き飛ぶ程のパワーがあったとは。

 

「……また恥をかかせるつもりか!!親子揃って儂を馬鹿にしおって!」

 

「何のことだ!?」

 

「黙れ! お前は知らなくても良い。何も出来ぬまま儂に殺されろ!!」

 

羅刹は一つの剣を捨てた。二刀流から一刀流に切り替えた様だ。片方残った面をも投げ捨て、その顔が明らかになった。

 

「死ぃぃぃねぇぇぇぇえええ!!!」

 

叫びながら突っ込んで来る。これは怒りのものか、それとも―憎しみのものか。そんな下らないことを考えている暇は無かった。

 

「もうその速度には惑わされない!」

 

羅刹はこちらの心臓を狙って次々に斬撃を加える。1つ1つよく見て躱す。羅刹の剣には隙が無く、反撃を入れるタイミングが無い。中には完全に躱しきれず体には少しずつ傷が入ってくる。それでも痛みを耐えつつ、相手の動きに集中する。

 

「はぁぁぁぁあああ!!」

 

相手の一声が上がり、その斬撃は右腕に入る。あわや切り落とされたかもしれないが、何とかまだ付いている。相手は少しバランスを崩す。……今頃になって頭に先程の拳の衝撃が入ったのか。

 

「そこだ!!」

 

その瞬間に体当たりをする。その姿勢はもはやショルダータックル。羅刹越しにステージの端の壁に激突させた。

 

「ハァ……、ど、どうだ!」

 

流石に傷が多かったのか、俺は息が上がっていた。これで効かなかったら少しまずいが―

 

羅刹は立ち起こる土煙の中からは現れなかった。

 

 

 

「か、勝った……のか?」

 

土煙が収まると、羅刹の体はぐったりとして地面に横たわっていた。どうやら意識を失ったらしい。

周りからは盛大な歓声が上がった。あっぱれだのよくやっただのそれぞれ聞こえてくるが、戦う前はあっちの味方していたくせに。

 

「あら。貴方が勝っちゃった?」

 

歓声が沸き起こる最中、入口で投げ飛ばされた例の白髪の天狗が空から舞い降りた。

 

「あ、貴女は……?」

 

「そういえば名乗ってなかったか。私は天魔。天狗の里の長、と言ったら分かるか?」

 

「名前は聞いたことがありますけど……。」

 

まさか、あんな凄い力で投げ飛ばしたのが例の天魔様だとは思いもしなかった。

 

「そう。それじゃあ、私からの要件は1つ。約束はちゃんと守らないとね。」

 

そう言いながら、また手を掴まれ、上空へ飛ばされる。

 

「え、ちょ……」

 

物凄いスピードで飛んでいき、口が開かなかった。

 

「さて! 今日の見せしめはおしまい。貴方達、片付けはちゃんとしておきなさい。」

 

 

 

「うごぉっ!?」

 

つい数十分前と同じように地面に激突する。話に聞いていたのと天魔様は大分違うなあ。仕事が雑というか…。

 

「あ、貴方は……。」

 

どこからか声が聞こえた。それを聞くと、酷い頭痛が走った。先程の戦いのものではない。これは―

 

「ほ、本当に大樹なの?」

 

頭を抱えながら、その声の主を見ると―

 

「……母さんなのか?」

 

少し華奢な体に、ボロボロの服を着ていた。だが、その顔には見覚えがあった。

 

2人は抱き合っていた。互いに涙を流していた。

もし神様がいるならば、これ以上の贈り物は無い。

 

 

 

「そうだったの……。」

 

少し心を落ち着かせた後、2人は家の中に入っていた。里のはずれに1つ悲しく建っていた。

 

「心配させてごめんなさい。これじゃあ、私、母親失格ね……。」

 

何故俺が幻想郷へ来たのか。その事を問われ、俺はこれまでの経緯を説明した。

 

「こうして会えてから、全然気にしていないさ。それより、俺は母さんから聞きたい事が山ほどあるんだ。」

 

そう言うと、母さんは少し笑をこぼした。

 

「息子から質問されるのは何年ぶりかしら。なんだか、とても懐かしいわ。」

 

「そうだったの?」

 

「ええ。貴方は小さい頃だからあまり覚えていないでしょうけど……。それで、質問って?」

 

「どれから聞こうかな? ……そうだ、何故母さんは幻想郷から外に出たの?」

 

母さんは少し気難しそうな表情を浮かべる。

 

「……話せば長くなるわね。」

 

「構わないよ。」

 

「そうねえ。私のこれまでを記録したノートを見て貰おうかしら。……天魔様から呼び出されているから。行ってくるわ。」

 

母さん1人で出て行くのには不安を感じたが、好奇心には逆らえず、渡されたノートに手をだす。

 

 

 

私は、物心ついた頃から好奇心旺盛だった。

考えても分からないことはすぐに親に尋ねた。この術を教えて、だとかね。兎に角、元気で煩くてね。

 

成人して暫くの後に、幻想郷が出来上がった。天狗達は幻想郷で暮らす事になったわ。住んでいた山は妖怪の山と呼ばれるようになって、天狗達が特に独占していた場所は天狗の里と呼ばれるようになったわ。

 

ある時、私は一冊の本にであった。それは妖怪について記された本だったの。無縁塚で拾ってきたから、恐らく外の世界のものだと思うわ。その中には細かい事も書かれて、中には天狗の事で何故人間が知っているのか不思議何な情報までね。そこで1つの仮説を考えたわ。それには根拠は無くて、思いついたのも直感だった。

それは『妖怪は人間によって作られたのではないか』と。

無論、誰にも言わなかった。こんな妄言は誰にも信じてもらえない。でも、こう考えると不思議な点が解消される。人間が作ったのなら、あの本の様にまるで設定の様に情報が乗るのもおかしくないから。

 

それからは情報を集める為に新聞を始めたわ。鴉天狗の多くは他の妖怪や人間に売り込んでいたし、これなら怪しまれずに聞き込みが出来ると考えたわ。でも、実際は新聞が売れただけで、情報は手に入らなかったわ。

 

それからは、私はどうにかして外の世界へ行こうとしたわ。誰にも見つからずにね。妖怪の賢者に何回も邪魔をされたけれど。何回も彼女と闘っていくうちに、幸運な事に私の能力が覚醒した。それもとても都合の良い能力『結界を越える程度の能力』が。私はすぐにその力を使って『博麗大結界』を抜け出してきたわ。

 

外の世界に着いて、早速私は情報を得るために世界中を旅したわ。お金は天狗の術で誤魔化せたわ。騙すのは良くないと分かっていたけど、兎に角自分の考えがあっているのか確かめたい衝動だけで動いていたわ。

 

そしてあらゆる危機を乗り越えて、私はようやく真相に辿り着いた。それも日本のとある小さな無人島でね。そこには妖怪が沢山住んでいたわ。その妖怪達に教えてもらったわ。その無人島の地下には巨大なマナと呼ばれる非科学的なエネルギー体があったの。話によると、そのマナは昔は世界中を覆っていたらしいわ。そのマナが人間の何かと反応して、実際には存在しないような者が生まれて言ったと言うの。要するに、私達妖怪はある意味人間によって生み出されたという訳ね。ただ、現在は科学によって、非科学的な事象は否定され始めたの。それ以外にも、夜でも明るくなって人は夜の恐怖も薄まった。複数の理由が重なって、人の想像をかたちどるマナは世界から衰退して今は限りある場所にしか残ってないと聞いたわ。

 

私は衝撃を受けた。無断で飛び出したから、幻想郷には帰りにくかったし、目的も無くなったから暫く日本で無気力に暮らしていたわ。その時に運命の出逢いがあった。それは大樹の父親とあった事よ。最初はそれぞれ1人暮しで、アパートの隣人関係だけだったけど、次第に私達は恋に落ち、結婚したわ。数年後には大樹も産まれてきたわ。

 

大樹が物心ついた頃、とんでもないことが起こったわ。大樹は天狗としての能力が覚醒したの。空も飛べるし、人間には無い力も使える。幸いなのは、あの人が見てなかったこと。最初は軽い封印で済んだ。けど、それもすぐに効かなくなったわ。どういう訳か、貴方には私とは違う能力がついたらしいの。様子を見に来たらしい妖怪賢者に見てもらったら、それは驚いたわ。まさか、『限界を越える程度の能力』を持っていたなんてね。その能力のせいで、封印がすぐに破られてしまったわ。

 

悩んだ挙句、私は天狗の秘術を使ったわ。それは特定の記憶や能力を封印する術。その効果は最早呪いの一種。代償も大きく、私は自分の持つ妖力の殆どを使い切ってしまったわ。力を失った私は、夫と息子を置いて幻想郷の結界に囚われてしまったわ。

 

幻想郷に戻された私は、すぐに里に連行された。天魔様からはきついお叱りを受け、罰も受けた。その罰は、複数の天狗から監視される事だった。私が力を取り戻せば、また外の世界に行くことを予想していたのね。無論、それは合っていた。残した夫と息子が心配でたまらなかったもの。

 

 

 

「ただいま。」

 

母さんの「ただいま」を聞くのはいつぶりだろうか。

 

「……つまり、母さんはこの世界や妖怪の真相を調べる為に幻想郷から出てきたのか。」

 

母さんは無言で頷く。母さんの記録からは、疑問に思っていた答えが複数散りばめられていた。

 

「母さんが幻想郷に引き返されたのは、俺を産んで力を失った訳ではないのか。」

 

「ええ。それは妖怪の賢者から聞いた話でしょう? ……誤魔化すようにお願いしていたから。」

 

「そうだったのか……。」

 

最初にあった時の説明は帳尻合わせだったのか。と言うか母さんと紫さんが旧知の仲とは聞いていたが、まさか戦っていたとは。

 

「話は変わるけど、これから貴方はどうするの?」

 

「? どうするって?」

 

「あの封印を解いたならば、貴方は並の人間では及ばない長い年月を生きる事になるわ。もう人里では暮らしていけないわよ?」

 

確かに、俺はもう人として生きることが出来ない。天狗がどれ程生きるのかわからないが、霖之助さんの様に何百年も生きる可能性はあるだろう。

 

「うーん……。多分、此処で暮らす事になるかな。外の世界にはもう戻れないし。」

 

「いいえ。貴方は出来るわよ。」

 

「えっ?」

 

「『限界を越える程度の能力』があれば博麗大結界も止めれないはずよ? ……と言うか、貴方の能力がどれ程危険な物か分かっているのかしら?」

 

俺は無言で首を振る。軽い封印程度なら解けると記してはあったが。

 

「実例を挙げるならば、貴方の魔法ね。」

 

「何故知ってるんだ!?」

 

「母は子供の事を何でも知ってますから!」

 

ここぞとばかりにドヤ顔をキメる。俺の記憶に居る母さんとは違い顔も若々しく身長も俺より低いのでもう年下にしか見えない。

 

「それで、俺の土魔法がどうしたんだ?」

 

「ええ、貴方の魔法は桁が違うの。普通の魔法は個人で使うものとしたら、貴方の魔法は世界にはたらきかけるのよ。」

 

うーん、いまいち何を言っているのか分からない。

 

「土は錬金、錬成に長けている。でも本来ならば作りたい物の構成とか細かい原理を知る必要があるわ。」

 

「えっ、でも俺は思いつきで結構作れるぞ。」

 

例えば、よく使う銃や鎖だって何の金属で出来ているのかやどういう構造で出来ているのか全く分かっていないからだ。パチュリーにもそこだけには才能があるとか言われたっけ。

 

「貴方は土魔法の『限界』を超えたのよ。貴方の魔法は世界に干渉して物を錬成しているの。構造を知る過程はどこからかバックアップされている。」

 

「その『どこか』と言うのは?」

 

「私の考えなら世界ね。厳密に言うと、幻想郷にも満たされているマナかしら。」

 

マナと言うのは母さんの記録にも出てきていた。妖怪を生み出したとされる非科学的なエネルギー。俺はそんなオカルトな存在に干渉され魔法を使っていたのか。

 

「でも、この根拠を認めるには証拠が無さすぎるから、もしかしたら違うかもしれないわ。」

 

「……でも、マナが実在する限り否定も出来ないでしょ?」

 

「もちろん。今でもまた調査しに行きたいけれどね。」

 

母さんの顔に少し寂しそうな顔が差し込む。

 

 

 

暫くしてから、俺も天魔様から呼び出された。正式に里の1員と認められて歓迎会が開かれた。まあ大半は酒を飲みたかっただけだろうがな。

俺との戦いで大怪我を負った羅刹は来ていなかった。傷が癒えた後に修行すると言って幻想郷から出たらしい。

そして約束通りに母さんは罪を許され、今回の件は収まった。他の天狗達は優しく接してくれる。まるで人里の住人のように。射命丸さんや萃香から聞いていた雰囲気とは違って少し安心した。『全てを受け入れる』。この言葉は実に幻想郷らしい。

 

就寝の時間になると、俺は新しい家に案内されていた。天魔様が建てたらしい。それは新築で美しい木造建築だった。もしかしたら天魔様は最初から俺を里に迎え入れるつもりだったのか?

すぐにベッドに行き、眠りにつく。あの戦いで傷を負い、特に右肩の傷が酷かった。それでも傷は半分近くは癒えていた。

 

……ベッドは気持ちいいなあ……zzz

 

 




ここまでお読み下さってありがとうございます。

これまでの話を一章とさせていただきます。その一章も次回で終わります。

次回も更新不定期です。すみません。

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