天狗の幻想入り   作:ジャジャジャジャーン

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長い夜『永夜異変』も決着がつき、また幻想郷に平和が訪れた。

そんな中、大樹は魔理沙にとある人物を紹介される。


第28話 香霖堂

 

「お、ここに居たか大樹。」

 

寺子屋での授業が終わり、一息ついていた所に魔理沙が来た。

 

「それに慧音も、久しぶりだな。」

 

「その声は魔理沙か。久しぶりと言っても、この間の異変であったばかりだがな。」

 

あの2人も仲が良さそうだ。会話からすると、永夜異変の時に争っていたみたいだけど。

 

「それでさ、大樹。お前に会いたがっている奴が居るんだが、ちょいと来てくれないか?」

 

てっきり宴会の誘いかと思ったが違うようだ。

 

「……その人は常識人か?」

 

念の為に聞いておく。厄介事にはもう巻き込まれたくないからなあ。

 

「なんだそりゃ。まあ、普通だと思うぜ? 」

 

ええー、本当かな? 俺は魔理沙に疑いの目を向ける。

 

「……もしかして、霖之助か?」

 

思い当たりがあったのか、慧音はとある人物の名をあげる。

 

「ああ、そうだぜ。」

 

どうやら霖之助という人で合っているみたいだ。

 

「霖之助は常識人だよ。少なくとも大樹が心配する必要は全くないから安心しろ。」

 

「慧音が言うなら安心だ。」

 

「私の時は疑って、何故慧音の時は即答で納得してるんだよ! 少しは私を信用しろよ!」

 

うーん、その魔理沙の難題は出来そうに無いなあ。

 

 

 

魔理沙についていき、魔法の森へ。どうやら魔法の森の入口付近に今日会う人物は居るという。

 

「んで、ここ『香霖堂』に霖之助は居るぜ。 ここは古道具屋で外の世界の道具も扱っているぜ。」

 

「その人は外の世界の人間なのか? 」

 

人里には一昔前の様な道具ばかり売っていたが。

 

「いいや。霖之助は能力でその道具の名前や使い方が分かるらしいぜ?」

 

なるほど、それは便利そうな能力だな。

 

「ここに来るのは少し危険だけど、人里からそこまで遠くないから客は来そうだな。」

 

魔理沙は凄い勢いで首を横に振る。

 

「いつもガラガラだぜ、あそこ。」

 

……店の前でそんな事言うなよ。

 

 

 

「お邪魔します。」ガラガラッ

 

俺は店の中に入っていく。中は物が沢山積んであった。書物もいくつか積んであり、本当に幅広い物が置いてあるといった感じだ。目の前のカウンターには眼鏡をかけた銀髪の男性が腰をかけていた。何よりも跳ね上がったくせっ毛が特徴的だ。

 

「邪魔するぜ!」

 

大きい声で魔理沙が入ってくる。

 

「ああ、魔理沙か。本当に連れてきてくれたのかい? ありがとう。今お茶を出すよ。」

 

そう言って先程の男はカウンター近くの食器棚から湯呑みを3つ取り出す。もう茶は用意していたのか、すぐにその湯呑みに注いでいた。

 

「それによく来てくれたね。僕の名前は森近霖之助。」

 

「俺は藤村大樹。わざわざお誘いありがとうございます。」

 

そうして握手を交わす。慧音が言っていた通り、本当に普通で優しい人だ。

 

「敬語はよしてよ。窮屈な店だけど、あそこの椅子に腰をかけてくれ。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

3人はカウンター近くの椅子に腰を降ろした。霖之助さんが入れてくれたお茶はとても美味しかった。

 

 

 

「君の事は新聞で見たよ。外の世界からの外来人だけでなく、人妖だなんて驚きだよ。」

 

2人で茶を飲みながら話をする。僕と大樹君とで話がしたい、と霖之助さんが魔理沙を帰らせたからだ。

 

「結構前の記事だけどね。取材を受けたけど、まさか俺がネタになるとは思わなかったよ。」

 

あの記事を書いたのは射命丸さんだっけ。

 

「君に興味を持ったのはそれからなんだよ。それに、僕も君と同じで人妖なんだよ。」

 

「おおお! 本当に?」

 

今まで俺と同じ境遇の人に会わなかった事もあり、少し興奮する。人妖―人と妖怪のハーフは珍しいと聞いたが、まさか他の人にも居たなんて。

 

「ああ。」

 

「ごめん。ちょっと興奮した。」

 

「僕もだよ。だから是非とも会いたかったし、こうして2人で話をしたかったよ。」

 

内心でナイス魔理沙! と呟く。ただえさえ少なかった男友達で、しかも同じ人妖なのは本当に嬉しい。

 

「俺で良ければ話をしよう。気軽に話せる男友達が欲しかったし。」

 

「ああ、そうしよう。」

 

男2人の会話は1時間は続いた。

 

 

 

「……それで、その無縁塚に落ちている物を一緒に見て欲しいと。」

 

「ああ。名前と何に使うかが分かっても、使用方法が分からないと何も出来ないからね。」

 

霖之助さんの能力は『道具の名前と用途が判る程度の能力』と言って、あらゆる道具の名前と用途が見ただけで分かるという凄い能力だ。しかし、使い方までは分からないらしい。そこで、つい前まで外の世界で暮らしていた俺に聞いてみたいという事だ。

 

「俺は全然構わないけど、その無縁塚という場所は人里では危険だと噂だっていたけど……。」

 

無縁塚という地名は聞いたことがある。が、危険な場所であるとよく聞いていたため、少し心配だ。

 

「大丈夫さ。普通の人からすると確かに危険さ。でも、僕達人妖にはそこまで危なくないよ。実際、僕は何回も行っている訳だし。」

 

それは霖之助さんが強いだけじゃないかなあ。

 

「……危険じゃないなら、行ってみようかな。」

 

霖之助さんが身支度を済ませてから、店の外を出る。

 

 

 

香霖堂を出て暫く北を向いて歩くと、再思の道と呼ばれる道に出る。彼岸花が沢山咲いている道だ。道中、凄い妖気を漂わせる妖怪が通りかかったが、運良く襲われることは無かった。暫く歩くと、墓標みたいな石が転がっている場所に辿り着いた。

 

「ここが無縁塚。彼岸の時はもうちょっと物が沢山転がっているけど、少し遅かったからまだ少ないな。」

 

少ないという割には、ガラクタが複数転がっていた。ちょうど永夜異変の前の数日が秋の彼岸だったかな。

 

「何というか、不思議な場所ですね。」

 

「そう感じるのは結界の綻びがあるからかな。ここは幻想郷の端で、冥界や地獄とも繋がるからね。」

 

幻想郷の端……。そういえば、幻想郷には海が無い。有限というのは分かっていたが、思ったよりかは幻想郷は狭いのかな。日本の一部をくり抜いたという話には合点がいく。

 

「早速だけど、これはどう使うのかな? 娯楽物らしいけど、こんな箱の塊でどう遊ぶのかい?」

 

もう霖之助さんはガラクタを拾い始める。……あれは某超有名な日本企業のゲーム機! しかもゲームでボーイなアドバンスときた。

 

「あー、それは電源を入れて遊ぶ物だけど……。多分電池が無いから動かないな。」

 

霖之助さんの手から少しゲーム機を触る。電源ボタンを押しても反応しなかった。電池が無い幻想郷にとってはガラクタ同然である。

 

「電池……。そういえば、そのような名前の物を拾った事があるぞ。店に置いてある。」

 

あ、電池は知っていたのか。でもここに落ちているということは中の電気は空だろうなあ。

 

「次の物だけど、これはどう使うのかな? 風を出して涼むらしいけど、うんともいわないんだ。」

 

次に霖之助さんが紹介したのはとても古そうな扇風機だ。まず電気が無い幻想郷では無意味なガラクタだろう。それに、根本的に羽の部分が破損している。たとえ電気があっても動くかが怪しい。

 

「多分それは壊れているね。加えて、電気がないとうんともすんとも言わないよ。」

 

霖之助さんは少しがっかりした表情を浮かべた。他にもいくつか見てみたが、結局はどこかが破損した電化製品が主で、ほとんどがガラクタだった。

 

 

 

「今回はこのサッカーボールだけが成果か……。」

 

日が暮れないうちに、香霖堂へ戻ってきた。今日見てきた中で唯一使えそうなボールを眺めながら、霖之助さんが悲しそうに嘆く。そのサッカーボールですら、ルールを知る人が殆ど居ないから恐らく誰も使わないだろう。

 

「残念だったなあ。幻想郷に電気があれば使えそうなものもあったけどね。」

 

例えば、あのゲームでボールなアドバンスとか。

 

「ううむ。大樹君が言うには、電気を作るのは大変なんだろう? ……実に残念だよ。」

 

流石に俺は発電の詳細は全く分からない。そもそも高校1年から幻想郷に来たもので、高校の範囲レベルの事もいまいち分からないからなあ。

 

「もう時間が遅いな。今日はもう帰った方が良いよ。」

 

「おや、もうそんな時間か。」

 

外を見ると辺りは真っ暗になっていた。森の中だからより一層暗くなっていた。

 

「またいつでも来てくれ。僕はだいたいこの店でくつろいでいると思うから。」

 

「ああ、もちろん。次は店の中の物も見るよ。」

 

「それはありがたい。」

 

そう言葉を交わし、香霖堂を後にした。

 

 

 

翌日、慧音に無縁塚に言った話をするととても怒られた。どうやらあそこは幻想郷で1番危険だと言われているという。……おい、霖之助さん!

 




ここまでお読み下さってありがとうございます。

次回も更新不定期です。

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