そんな中、大樹は魔理沙にとある人物を紹介される。
「お、ここに居たか大樹。」
寺子屋での授業が終わり、一息ついていた所に魔理沙が来た。
「それに慧音も、久しぶりだな。」
「その声は魔理沙か。久しぶりと言っても、この間の異変であったばかりだがな。」
あの2人も仲が良さそうだ。会話からすると、永夜異変の時に争っていたみたいだけど。
「それでさ、大樹。お前に会いたがっている奴が居るんだが、ちょいと来てくれないか?」
てっきり宴会の誘いかと思ったが違うようだ。
「……その人は常識人か?」
念の為に聞いておく。厄介事にはもう巻き込まれたくないからなあ。
「なんだそりゃ。まあ、普通だと思うぜ? 」
ええー、本当かな? 俺は魔理沙に疑いの目を向ける。
「……もしかして、霖之助か?」
思い当たりがあったのか、慧音はとある人物の名をあげる。
「ああ、そうだぜ。」
どうやら霖之助という人で合っているみたいだ。
「霖之助は常識人だよ。少なくとも大樹が心配する必要は全くないから安心しろ。」
「慧音が言うなら安心だ。」
「私の時は疑って、何故慧音の時は即答で納得してるんだよ! 少しは私を信用しろよ!」
うーん、その魔理沙の難題は出来そうに無いなあ。
魔理沙についていき、魔法の森へ。どうやら魔法の森の入口付近に今日会う人物は居るという。
「んで、ここ『香霖堂』に霖之助は居るぜ。 ここは古道具屋で外の世界の道具も扱っているぜ。」
「その人は外の世界の人間なのか? 」
人里には一昔前の様な道具ばかり売っていたが。
「いいや。霖之助は能力でその道具の名前や使い方が分かるらしいぜ?」
なるほど、それは便利そうな能力だな。
「ここに来るのは少し危険だけど、人里からそこまで遠くないから客は来そうだな。」
魔理沙は凄い勢いで首を横に振る。
「いつもガラガラだぜ、あそこ。」
……店の前でそんな事言うなよ。
「お邪魔します。」ガラガラッ
俺は店の中に入っていく。中は物が沢山積んであった。書物もいくつか積んであり、本当に幅広い物が置いてあるといった感じだ。目の前のカウンターには眼鏡をかけた銀髪の男性が腰をかけていた。何よりも跳ね上がったくせっ毛が特徴的だ。
「邪魔するぜ!」
大きい声で魔理沙が入ってくる。
「ああ、魔理沙か。本当に連れてきてくれたのかい? ありがとう。今お茶を出すよ。」
そう言って先程の男はカウンター近くの食器棚から湯呑みを3つ取り出す。もう茶は用意していたのか、すぐにその湯呑みに注いでいた。
「それによく来てくれたね。僕の名前は森近霖之助。」
「俺は藤村大樹。わざわざお誘いありがとうございます。」
そうして握手を交わす。慧音が言っていた通り、本当に普通で優しい人だ。
「敬語はよしてよ。窮屈な店だけど、あそこの椅子に腰をかけてくれ。」
「ああ、ありがとう。」
3人はカウンター近くの椅子に腰を降ろした。霖之助さんが入れてくれたお茶はとても美味しかった。
「君の事は新聞で見たよ。外の世界からの外来人だけでなく、人妖だなんて驚きだよ。」
2人で茶を飲みながら話をする。僕と大樹君とで話がしたい、と霖之助さんが魔理沙を帰らせたからだ。
「結構前の記事だけどね。取材を受けたけど、まさか俺がネタになるとは思わなかったよ。」
あの記事を書いたのは射命丸さんだっけ。
「君に興味を持ったのはそれからなんだよ。それに、僕も君と同じで人妖なんだよ。」
「おおお! 本当に?」
今まで俺と同じ境遇の人に会わなかった事もあり、少し興奮する。人妖―人と妖怪のハーフは珍しいと聞いたが、まさか他の人にも居たなんて。
「ああ。」
「ごめん。ちょっと興奮した。」
「僕もだよ。だから是非とも会いたかったし、こうして2人で話をしたかったよ。」
内心でナイス魔理沙! と呟く。ただえさえ少なかった男友達で、しかも同じ人妖なのは本当に嬉しい。
「俺で良ければ話をしよう。気軽に話せる男友達が欲しかったし。」
「ああ、そうしよう。」
男2人の会話は1時間は続いた。
「……それで、その無縁塚に落ちている物を一緒に見て欲しいと。」
「ああ。名前と何に使うかが分かっても、使用方法が分からないと何も出来ないからね。」
霖之助さんの能力は『道具の名前と用途が判る程度の能力』と言って、あらゆる道具の名前と用途が見ただけで分かるという凄い能力だ。しかし、使い方までは分からないらしい。そこで、つい前まで外の世界で暮らしていた俺に聞いてみたいという事だ。
「俺は全然構わないけど、その無縁塚という場所は人里では危険だと噂だっていたけど……。」
無縁塚という地名は聞いたことがある。が、危険な場所であるとよく聞いていたため、少し心配だ。
「大丈夫さ。普通の人からすると確かに危険さ。でも、僕達人妖にはそこまで危なくないよ。実際、僕は何回も行っている訳だし。」
それは霖之助さんが強いだけじゃないかなあ。
「……危険じゃないなら、行ってみようかな。」
霖之助さんが身支度を済ませてから、店の外を出る。
香霖堂を出て暫く北を向いて歩くと、再思の道と呼ばれる道に出る。彼岸花が沢山咲いている道だ。道中、凄い妖気を漂わせる妖怪が通りかかったが、運良く襲われることは無かった。暫く歩くと、墓標みたいな石が転がっている場所に辿り着いた。
「ここが無縁塚。彼岸の時はもうちょっと物が沢山転がっているけど、少し遅かったからまだ少ないな。」
少ないという割には、ガラクタが複数転がっていた。ちょうど永夜異変の前の数日が秋の彼岸だったかな。
「何というか、不思議な場所ですね。」
「そう感じるのは結界の綻びがあるからかな。ここは幻想郷の端で、冥界や地獄とも繋がるからね。」
幻想郷の端……。そういえば、幻想郷には海が無い。有限というのは分かっていたが、思ったよりかは幻想郷は狭いのかな。日本の一部をくり抜いたという話には合点がいく。
「早速だけど、これはどう使うのかな? 娯楽物らしいけど、こんな箱の塊でどう遊ぶのかい?」
もう霖之助さんはガラクタを拾い始める。……あれは某超有名な日本企業のゲーム機! しかもゲームでボーイなアドバンスときた。
「あー、それは電源を入れて遊ぶ物だけど……。多分電池が無いから動かないな。」
霖之助さんの手から少しゲーム機を触る。電源ボタンを押しても反応しなかった。電池が無い幻想郷にとってはガラクタ同然である。
「電池……。そういえば、そのような名前の物を拾った事があるぞ。店に置いてある。」
あ、電池は知っていたのか。でもここに落ちているということは中の電気は空だろうなあ。
「次の物だけど、これはどう使うのかな? 風を出して涼むらしいけど、うんともいわないんだ。」
次に霖之助さんが紹介したのはとても古そうな扇風機だ。まず電気が無い幻想郷では無意味なガラクタだろう。それに、根本的に羽の部分が破損している。たとえ電気があっても動くかが怪しい。
「多分それは壊れているね。加えて、電気がないとうんともすんとも言わないよ。」
霖之助さんは少しがっかりした表情を浮かべた。他にもいくつか見てみたが、結局はどこかが破損した電化製品が主で、ほとんどがガラクタだった。
「今回はこのサッカーボールだけが成果か……。」
日が暮れないうちに、香霖堂へ戻ってきた。今日見てきた中で唯一使えそうなボールを眺めながら、霖之助さんが悲しそうに嘆く。そのサッカーボールですら、ルールを知る人が殆ど居ないから恐らく誰も使わないだろう。
「残念だったなあ。幻想郷に電気があれば使えそうなものもあったけどね。」
例えば、あのゲームでボールなアドバンスとか。
「ううむ。大樹君が言うには、電気を作るのは大変なんだろう? ……実に残念だよ。」
流石に俺は発電の詳細は全く分からない。そもそも高校1年から幻想郷に来たもので、高校の範囲レベルの事もいまいち分からないからなあ。
「もう時間が遅いな。今日はもう帰った方が良いよ。」
「おや、もうそんな時間か。」
外を見ると辺りは真っ暗になっていた。森の中だからより一層暗くなっていた。
「またいつでも来てくれ。僕はだいたいこの店でくつろいでいると思うから。」
「ああ、もちろん。次は店の中の物も見るよ。」
「それはありがたい。」
そう言葉を交わし、香霖堂を後にした。
翌日、慧音に無縁塚に言った話をするととても怒られた。どうやらあそこは幻想郷で1番危険だと言われているという。……おい、霖之助さん!
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