天狗の幻想入り   作:ジャジャジャジャーン

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大樹が幻想郷に来てからはや1年が経過していた。今年も夏がやって来た。
大樹は普段のように人里の寺子屋で務め、時々紅魔館や白玉楼へ招かれ遊びに行っていた。たまに博麗神社での宴会にも出席した。
そうしていくうちに暑い夏は過ぎていき、外の世界でいう9月になり、それも下旬を迎えていた。


第23話 欠けた満月

「貴方の魔法、なかなか面白いわね。」

 

「そ、そうか?」

 

今日も夕方から紅魔館の図書館に来ていた。目的が魔法の練習だ。

ここ最近は紅魔館に行き詰めであった。大樹が幻想郷に訪れた日から1年以上が既に経っていた。

……1年の割には色んな事が起こったものだ。無論、ここ紅魔館でもではあるが。

 

「魔法って想像力が大切なのよ。貴方の場合、攻撃する時に『武器を使う』という固定概念に囚われすぎているの。だから外の世界の武器しか作れないんだわ。」

 

「確かに形の無い光の玉を出せって言われても……。正直、皆の弾幕ごっこのイメージがあまり出来ないな。」

 

パチュリーからそんな事を言われた。まあ実際問題、大樹が攻撃する時に出せる魔法はどうも武器を形成する事しか出来ない。この魔法は魔力を使って武器の骨格を作り、そこに別の魔力から作られた金属で生成すると言う。その為か魔力効率が非常に悪い。

 

「貴方の魔法属性『鋼』は恐らくどういう所からも出てきているんでしょう。」

 

そういうものか、と大樹は返事をする。

 

「でも実際に面白いのは……貴方の魔力の量ね。普通なら魔法で武器を5つくらい錬成したら魔力切れになる筈だけれども……。」

 

「まあ、多分それは俺が霊気も妖気も持ってるからだと思うけど……。」

 

大樹はその魔法を使っても全く魔力が欠乏する事が無い。その理由は自分でもよく分かっていないので適当に返答する。

 

「……それだけじゃないわ。恐らくね。」

 

そうパチュリーは呟きながら本を探しに行った。今日の練習は終わりみたいだ。

 

「ふぅ~。魔法は集中力を使うからやっぱり疲れるなあ。」

 

「お疲れ様です。お茶でもどうぞ。」

 

そう言って小悪魔が大樹にお茶を出す。

 

「いつもありがとう。」

 

「いえいえ。これもこの図書館のお客様への接待ですから。」

 

「……ちなみにここの図書館に来るのは紅魔館の住民か俺くらいじゃないのか?」

 

「はい……。あの白黒の魔法使いもたまに来ますけど。あの方は本泥棒ですから、お客様じゃありません!」

 

小悪魔は少し怒ったように語る。その様子から魔理沙がまだ懲りずに盗みを働いているらしい。

 

「そういえば今日はレミリアが居ないのか? いつもならもう来ている頃だけど。」

 

「その事なのですが……。今日は何やら月がおかしいと仰っていました。先程咲夜さんを連れて外へ出かけていきました。」

 

それは珍しい。今は夜ではあるがレミリアはあまり外に出ることは無かったからだ。たまに血を求めて咲夜と共に人里で見かけたことはあるが。

 

「そうか。それじゃあそろそろお暇しますか。」

 

「今日は泊まっていかないんですか? 一応レミリア様から許可は貰ってますけど?」

 

「流石に主人がいない時に泊まる事は辞めておくよ。」

 

「そうですか。それでは妖怪にお気をつけてお帰りください。」

 

小悪魔に見送られながら図書館を出る。紅魔館はかなり複雑―見た目以上に広いので暫く歩かなければ玄関に辿り着かない。

……今まで何回迷ったことやら。

 

さて、紅魔館を出て人里へ帰ろうか。

 

 

 

「ってあれ?」

 

大樹は辺りを見渡す。帰り道が正しければここに人里がある筈だが……?

じっくり目を凝らすと確かに人里はぼんやり見えた。だがいつも以上に薄いというか、見にくくなっている。

人は誰1人見つけることが出来ない。

 

「あれは……慧音か?」

 

微かに見える門にはに1人だけ立っているのは慧音であろう。

 

「どうしたんだ慧音? 何故人里が無いんだ?」

 

「! しまった! 大樹は外出していたか……。」

 

……慧音の反応から、どうやら人里の消失と何か関係があるように思える。

 

「所で人里やその人達は? どうやら慧音以外誰も居ないみたいようだが……。」

 

「……。人里を無かった事にした。私の『歴史を食べる程度の能力』を使って。」

 

その意外な返答に大樹は内心驚いた。

 

「もしかして、異変か何かが起こっているのか?」

 

「どうしてそう思う?」

 

「まず俺にはうっすらだけど人里は見える。確かに人は誰もいないけど……。もしかして、慧音が人里を守る為に何かしてるのかと。」

 

「やはり大樹には人里が見えるのか……。」

 

慧音は驚いたような表情を浮かべる。どうやら普通なら見えないというのか。

 

「それで……。今回は前の赤い霧とかとは違って、そんなに危険なものなのか?」

 

「ああ。ところで、大樹は今日の月を見て何か違和感を感じないか?」

 

「月? 今日は確か満月だったはずだけど……?」

 

大樹は月を凝視する。よく見てみるとその月は完全な満月ではなく少し欠けていた。

 

「……月が欠けているな。もしかしてこれが誰かの仕業だったりするのか?」

 

「絶対とは言えないが、恐らくその可能性が高い。そして妖怪もこの異変に気付いてもしかしたら人里に害を及ぼすかもしれん。だから人里を見えなくした。」

 

そういえば少し前に誰かからであったか、妖怪の中には月の光を依存している種類もあるという。そのことが関係しているかもしれない。

 

「それじゃあ、俺はどこかで野宿でもするか。」

 

「本来なら大樹も保護するつもりだったが……。すまないな。何なら私が面倒を見ようか?」

 

「大丈夫。どこか適当な所を見つけてやり過ごすよ。」

 

流石に自分よりも小さい女性に守ってもらうのは気が引ける。多分慧音は大樹よりも強いが、そこは見栄を張りたかった。

 

 

 

ふむ、人里の近くの森でもやり過ごすか? 大樹は慧音の元から離れ暫く飛行しながら考えていた。

……あそこはだめだ。よく妖怪に襲われている。いつもは切り抜けているが、寝床にするにしてはあまり安心できる場所では無い。

大樹は南西の方角を飛んでいるとそこには広大な竹林が広がっていた。ここは……。

名前を思い出そうとしていると突然横から弾幕が飛んできた。振り返ると妖精の大軍が迫っていた。

紅魔館で働いている妖精メイドと見た目はほぼ変わらないが、どうも異変中の妖精は攻撃的だ。

 

妖精をやり過ごす為にも、大樹はすぐにその竹林の中へ入っていく。

妖精は竹林までは追撃してこなかったようだ。

 

「さて、ここは何処なのだろう。」

 

人里から少し離れた所にあるので、人里の人から聞いたことも無かった。

早速中を進んでいく。……どうやら妖怪の気配は感じられないので、安心できそうだ。

とりあえず暫く進んだ先の竹に背をつけ、大樹は一眠りしようと瞼を閉じた。

 

 

 

「起きなさい大樹。」

 

聞いたことがある声が大樹を呼びかける。大樹はだんだん意識を起こして目を開ける。

 

「全く……。小悪魔にはちゃんと泊まっていいって言われた筈でしょ? 何でこんなに所に居るのかしら?」

 

大樹の目の前には紅魔館にはいなかった咲夜とレミリアがそこにいた。

 

「あれ? レミリアはどうしてここに?」

 

「異変解決の為ここに来たの。霊夢とあの妖怪がこの竹林に向かったって聞いたから。」

 

レミリアは得意げに語る。……紅魔館は異変を起こす側では無かったのか。

 

「それなら速くしないと、手柄を取られるよ。」

 

「だから大樹に声をかけたの。私はお腹が空いているから。」

 

「……。まさか、な。」サッ

 

逃げようとした瞬間に咲夜に捕まる。離してくれ、と騒いでみるも一向に応じてくれない。

そうしているうちにレミリアに手首を噛まれ、結局吸血されてしまう羽目に。

いつもならそんな事されてもケロッとしているが今日は魔法の練習に加えて夜飯も食べていなかったからか。大樹の意識はまた飛んでしまった。

 

 

 

 

「……。ここはどこだ?」

 

気絶してからどれ程たったのだろうか。気がついて目を覚ますとそこは竹林ではなく来たこともない室内であった。……前回みたいにここはまた冥界のどこかだろうか。内装的には白玉楼ではなさそうだが……。

辺りを見ると複数のベットに医者が座りそうな椅子が1つ。どうやら病院らしい。

人里でも医者はいるのだが……。そこの施設と比べるとここは随分外の世界に近いつくりだ。

 

「お師匠様~。例の人間、起きましたよ~。」

 

いきなり発した声に大樹はびっくりした。恐る恐るその声の主を見ると、そこにはうさ耳の少女が居た。

見た目がとにかくあざとい。外の世界で通っていた大樹の高校の女子制服のような服を着ている。しかもうさ耳も。もしかしたら兎の妖怪なのかもしれない。

 

とりあえず大樹は目線を別の方向にそらし、気づいていないふりに徹する事にした。

 




ここまでお読みくださってありがとうございます。
次回更新は日曜日です。

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