俺が目を覚ました時。どうやらここは紅魔館のとある一室みたいだ。見覚えがあるので、俺がここを訪れたときに案内された部屋と同じ可能性がある。ひとりでに窓が開いている。そこから秋の少し乾いた風が俺の寝ている体をやさしく撫でるように流れ込む。
フランドールに殺されかけた事や、冥界に迷い込んだ事。俺は1鮮明に覚えている。体を起こしたいけれど、まだ傷が痛むので暫く安静にしておこうか。
ある程度治っているみたいで、一応穴は塞がっている。
「おはようございます。今食事の準備を。」
俺が目覚めた事を察したかのように、またいつも通り咲夜さんが現れる。相変わらずの瞬間移動スキルだ。
「おはようございます咲夜さん。」
その心臓に悪い出方にはまだなれない。
咲夜の後ろをよく見ると。カラフルな羽が見えた。
「フランドールもいるのかい?」
あの特徴的な羽は、フランドール意外に居ないだろう。
「妹様。いい加減前に出てきてください。」
咲夜さんにそう言われて、前に出てきた。
「……。」
初めて会った時と同じ、悲しそうな表情を浮かべている。
「おはよう、フランドール。」
「……。」シュン
どうやら昨日の事を気にしているらしい。……あの後レミリアにでも怒られてしまったのかな。
「お嬢様に言われたでしょう? 妹様自身の口から言わないと意味無いです。」
「咲夜のいじわる……。分かってるよぅ。」
「? 話があるのか?」
何だろうか。姉同様に血を求められても、今は困るけど。
「うん……。」
フランドールは恥ずかしそうにしながらこちらへ来る。
この娘は他人と話すことに慣れていないようすだ。
暫く下を見つめていたフランドールも決心がついたのか、俺の方を見ながらついに喋り出す。
「……昨日はごめんなさい。その、大樹を壊しちゃって……。」
壊したって言う表現が怖い。ゾッとする。
「何だその事か。もう別に気にしてないよ。」
「でも……。」
今にも泣きそうなフランドールを見て、俺は彼女の頭をそっとさする。
「でもとか言うな。それに悪いのは俺も。遊び相手になるって言いながらすぐ壊れちゃったから。俺はこの通り体も弱いけど、今フランドールのお姉さんやその友人の魔女に鍛えてもらっているんだ。数年かかるかもしれないけど、もし俺が強くなったら、今回みたいに壊れずに遊びに付き合えるからさ。」
「……。分かった。それじゃあ約束してね?」
「友人との約束だ。破らないさ。」
「友人?」
フランドールは突然きょとんとする。
「フランドールの事だけど? 」
「……。私と、大樹は友達?」
「そうだよ。これからもよろしく、フランドール。」
「うんっ!」
大樹とフランは手を握りしめた。フランドールはとても嬉しそうに笑った。寺子屋で小さい子供を相手にしていたためか、うまく事が運んだ。
「あら。用事は済んだのかしら?」
先程までに様子を伺っていたかのようなタイミングで
レミリアが部屋に入ってきた。
「うん! 用事終わった。」
フランドールは嬉しそうにレミリアに抱きつく。レミリアも少し微笑んでいる。
「レミリア……。何故フランドールを地下室に閉じ込めていたの? この質問には答えてほしい。」
「……。私の妹、フランドールは普段こそ大人しい。だけど、精神状態が不安定なの。それも日常に支障が出る程ね。だからそれが治るまで地下室で生活してもらっていたの。」
レミリアは静かに語り始めた。自分の事を言われているためか、フランドールはまた恥ずかしそうにする。
「咲夜が言ってた紅魔館に招待された人間が皆死んだという話。前は私が気分を害して殺したと説明したと咲夜が言ってたけれど……。実は私じゃなくて、フランドールがその人間全員殺してしまったからなの。もう500年程前の話よ。」
そういえば、初めて俺がレミリアの部屋に来た時のことか。その話を聞いたあの時の俺は怯えてたっけ。
「そうだったのか……。」
「あの頃のフランはその事で、無意識に自分を追い込んでいたの。そうして精神が乱れていった。だから一層他人と関わらせないように物理的に隔離したわ。」
レミリアなりにフランドールの事を考えた結果だろう。
「第3者が口を入れるけれど、これからフランドールを外に出してやってほしい。距離を置くのは、教育者の目線からしても正しくない……と思う。」
と言っても、俺は教師になって数ヶ月の身だから、あまり偉そうなことは言えない。だけど、それでもフランドールを閉じ込めるのは間違っている。
「そうねえ……。今回の事を踏まえて、流石に紅魔館の外は危険だけれど。ちゃんとフランの部屋を用意しているわ。」
「でも……。私、危ないのに。」
「フラン。貴女、友達が出来たのでしょう? もし友達が遊びに来た時、地下室なら困るじゃない。」
「お姉様。ありがとう……ございます。」グスッ
フランドールはレミリアに抱き着き、暫く泣いていた。
その光景を眺めていた俺は、本当にいい姉妹だと思った。それにやはり、どことなく似ている。
「お世話になりました。そろそろ人里へ帰るね。」
「また紅魔館に遊びに来てね。」
「ああ。遊びにくるよ。」
フランドール達に見送られ、大樹は人里へ戻るため空を飛んだ。
夕方頃。珍しく紅魔館前の湖に霧がかかっていなかった。その水面には紅魔館とオレンジ色の空が映り込んでいた。とても綺麗だ。
紅魔館を後にして人里に付いた頃。すっかり寺子屋の授業をすっぽかしてしまった大樹は慧音から頭突きを喰らった挙句、減給された。
ううっ……痛い(物理的にも、経済的にも)。
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