人里には紅い霧が消えて久しぶりの朝日が差し込む。
無論人々にも活気が生まれる。あの霧の影響で暫く外出する事ができなかったからだ。原理は分からないがあれには人体に影響を及ぼすらしい。その情報がどこから出てきたのかはわからないけど……。
俺も数日ぶりの朝日が部屋に光が入ってきて目が覚める。当然学校も臨時休業としたので暇だった。
誰にも見られない事を利点に俺は室内で『スペルカード』で使う弾を出す練習をしていた。あまり派手にはできなかったので結局進歩は無かった。
「大樹先生。おはようございます。」
「おはよう。」
生徒と交わすさりげない会話も久しぶりに思える。
いくら霧が消えたとしてもまだ影響はあるかもしれない。その為今日の学校は午前中だけ行う。
……あの霧を出した理由が少し気になる。でも今は授業に集中しなくては。俺は集中する。
意外な人物に会うのは授業が全て終わり生徒が帰った後である。
いつものように教室を掃除していた時の事。奥からつい最近聞いた事がある声が俺を呼ぶ。
「突然すみません。藤村大樹さんはいらっしゃいますか?」
「ああ。意外ですね。咲夜さんが来るなんて。」
「そう? 食料を買いに結構こちらに。」
「そうなんだ。」
あの大きな庭園を持つ紅魔館のことだから、てっきり自家栽培で食事を作っていたと思っていた。そういえばあのステーキの為の牛はどこにいるのだろう。少なくとも人里にはいないはず。そんな取り留めの無い事を大樹は考えた。
「大樹様を博麗神社で行われる宴会に招待させて頂こうかと。」
「宴会? それに紅魔館じゃないのか。」
宴会? 何かのお祝いなのかな? それをわざわざあの博麗神社でやるとはまた珍しい。あそこの巫女にイベントを催すやる気があるのだろうか。
「ええ。事情を話すと少し長いので説明は省かせていただきますが。」
外の世界でいう祝日か何か? でも、人里はとりわけ特別でも無く普通なので、その可能性は低い。
「怪しそうだけど、せっかく直々のお誘いだから行ってみようかな。」
「分かりました。今日の夕暮れ時に博麗神社へお越しください。」
夕暮れか。寺子屋が午前だけで助かる。
大樹「了解。」
紅魔館の面子と博麗神社か。何か怪しい……。
咲夜さんが寺子屋を後にした時。博麗神社までの道は覚えているが歩いて行くのは幾分しんどかったはず。
……断ればよかったかも。
それでの行くと言ったので、大樹は自宅に戻り準備をする。準備と言っても普段の私服に着替える。
そこでくだらない疑問が浮かぶ。
(そういえば俺って天狗だよなあ。もしかして飛べたりとかしないかな?)
ほんの、出来たらいいなあ程度での思いつき。でも気になったし、もし出来たらとても便利そうなので実際試してみることに。
流石に人里の人に見られるのはまずいので人里から外を出てしばらくした所で。
人が飛ぶ。物理的には不可能だが幻想郷にいると何だかできる気がする。大樹はイメージした。以前人里を飛んでいた霊夢の姿を。
すると―突然、体が軽くなった感覚―。
「……!? おっ?」
みるみる上空へ飛ぶ。ある程度、自分が想像した高さまで上昇するとそこで止まった。
「凄ぇ!! 俺ホバリングしてるぞ。」
大空から見る景色は絶景だ。人里、周りを囲む森。湖らしきものと紅魔館も見える。目的地の方向を向くとうっすらと博麗神社の姿が映る。
地上より風が強い為か少し肌寒い。だが少し暑かった地上に比べると今は快適である。
「とりあえず、博麗神社に向かうか。」
大樹はこの興奮をひとまず抑え、もう一度集中する。自分の行きたい方向に飛んでいく姿を。今度は大樹自身をイメージの対象とする。
すると―俺の体は博麗神社の方へ動き始める。
スピードも最初こそ遅かったもののどんどん加速していき、今では自動車位のスピードが出ているだろうかと体感する程速くなった。
少し強い風に煽られながら、生身での飛行は生まれて初めてだ。恐怖は一切無く。ただ楽しい。
(うぉおおおおおおおお! 何だこれ!)
などと内心呟く。というのも口を開くと大量の空気が流れ込み乾燥しそうなので、叫びたい気持ちを心で抑える。
みるみる博麗神社が近付いてくるようだ。歩いていくより楽チンで何より速い。
しばらくすると博麗神社に。俺は最後まで気を抜かずしっかり自分が減速して下に降りていくイメージを描く。体はその通りに動いていく。
案外空を飛ぶことは簡単なのかもしれない。これが天狗の力か―将又別の力か。今はそんな事を気にする心の余裕が無く大樹は自分が行った事に興奮していた。
「あら。あんた、空も飛べたのね。」
「久しぶりだな霊夢。たまたま外出する機会があったから、少し試したら出来ただけだよ。それに、人間の霊夢だって俺より上手く飛んでいるじゃないか。」
それを聞いた霊夢は、少し呆れた顔をする。
「私は練習させられたのよ。あの馬鹿に。」
霊夢が指さす方向を見てみると―
そこには金髪の黒い服装の少女が座っていた。
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