天狗の幻想入り   作:ジャジャジャジャーン

14 / 32
夕食を紅魔館のメンバーで食べた主人公、藤村大樹はレミリアに吸血されて意識を失う。



第13話 紅魔郷(R)

少し懐かしい記憶を思い出す。

母親が突然、俺を抱き寄せる。小さい頃の俺には意味が分からず、『どうしたの? 』と聞く。母親は何も応えず、ただ涙を流していた。俺の記憶が正しければ、これが母親との最後の記憶だっけ。

 

また別の記憶を思い出す。そこにはとある2人の墓がある。1つの名前は少し薄れているが、充分読み取る事が出来る。やはり、もう1つ―母親の名前ははっきり見えない。

今日は中学校の卒業式。もう俺以外に用がない墓に、俺は1人でその墓に報告する。周りが創り上げた死は、どうやら本当みたいだ。

 

ふと、母親の名前を思い出そうとするが……。

 

 

 

「……。」ファ~

 

俺は目が覚めた。見慣れない天井が俺の目に移り込むが全く知らない訳ではなかった。どうやらここは夕食を前に咲夜さんに案内された個室みたいだ。

酷く痛い頭を抱える。随分長い間、ねていたのかな? 周りを見渡すが誰もいない。昨日の記憶ですらあやふやな俺は寝ているベットから起き上がろうとするが、力が入らない。どうにも体がうまく動かない。

 

「……昨日何かあったっけ? 食事を食べたのは覚えているのだが……。」

 

記憶がいまいち浮かばない。そういえば、この感覚をつい最近体験した事があるような。そうだ、人里に始めてきた日のその夜。周りに強制されてたくさんの日本酒を飲んだ時だ。その次の日も、こんな感覚だったはず。

 

「昨日は酒呑んでないよなあ?」

 

起きたばかりのせいか、なかなか機能しない脳を使い必死に思い出そうとする。うーん、何かあったかな?

 

「失礼します。」コンコン

 

扉越しに俺にかけられた声には聞き覚えがある。

 

「咲夜さんですか。どうぞ。」

 

「おはようございますお客様。」カチャッ

 

今日は普通にドアを開けてきたのか。……ん?

 

「ああ。おはよう。」

 

「朝食の準備ができたのでお呼びしましたが……。まだ体力が回復していないようなのでこちらにお持ちしますね。」

 

「それはありがたいです。」

 

先程の違和感はさておき、もうどうやら朝の時間みたいだ。

 

「それにしても、普通の人間なら致死量の出血量だったはずだけれども。お客様はやはり人間とは違いますね。」

 

ええっ!? 致死量? 出血?

 

「……ああ、そういえば昨日はレミリアに殺されかけたのか。やっと思い出した。」

 

俺は咲夜さんの言葉を聞いてやっと昨日の夜の事を思い出した。

レミリアが突然俺に近づき、吸血。俺は目の前で見た光景を再び目に映し出す。

あの真っ赤な血飛沫と。それを浴びながらも不敵な笑みを浮かべるレミリア。

綺麗ではあったがそれ以上に今は恐怖感を呼び起こされるなあ。

俺は少し身震いした。

 

「あれはお嬢様の吸血行為です。お客様は突然の出来事の様でしたか……。」

 

「……。メインディッシュって俺の事だったんだな。」

 

そうそう。喋っていると完全に記憶が蘇った。確か、手元のステーキを食べないことに訪ねたら、メインディッシュがあるとか言ってたっけ。

 

「お嬢様はB型の血がお好みですから。」

 

俺は自分がB型と答弁した事を後悔した。

日本人に多いA型とでも適当に言っとけばよかったなあ。

 

「勝手ながらこちらの方で服を着替えさせていただきました。」

 

「……? あ。本当だ。」

 

俺は自分の体を見る。吸血された右手首には、止血の為の包帯などが施されていた。

咲夜さんに言われた通り、服も浴衣に変わっていた。

流石にあの出血でそのままの服で寝てしまえばせっかくの綺麗なベットを汚してしまうだろう。

 

これって、誰かが意識のない俺を脱がせた事になるけど。

 

「……。咲夜さんが俺の着替えを?」

 

咲夜「いえ。妖精メイド達が。」

 

俺は少しホッとした。流石に意識を失っている状態でも出会って数時間の女性に服を着替えさせてもらうのはとても恥ずかしいから。

その点妖精メイドはそういう目では見れないのでまだマシ。……マシなのか? 見た目は女性だけど。

そういう事にしておこう。深く考えてはいけない。

 

「それではこちらに運びますね。」

 

「大丈夫みたいだ。喋っている間に元気が出たみたいだ。」ムクッ

 

俺は自分でも驚いた。さっきまで立てなかった自分が今起き上がって咲夜さんの所まで自力で歩いている事に。

……こういうことが出来ると自分が人間離れしている事を実感、微妙と言うか、複雑な感情になる。

 

「……あまり無理はされないように。」

 

「了解。何かあったら呼ぶね。」

 

 

 

「あら。こんなに速く起きてくるなんて。常人なら死んでいるかもっと時間がかかるだろうに。」

 

夕食と同じ部屋へ向かうと、昨晩の原因の主が居た。

 

「おはようレミリア。」

 

「凄い再生力ね。本当に妖怪の血が入っているのね。それにいきなり吸血されたのに怒ってないの?」

 

全く悪びれないその様子には、もはや憤りを感じなくなる。

 

「……まあ、夕食準備して貰ったし……。それに、怒る程元気がないからなあ。」

 

「フフフ。」

 

またレミリアがニヤリとする。もはや悪人面だな。

 

「……昨日のあの出血で良く死ななかったわね。」

 

「おはようございます。大樹さん。お身体は大丈夫ですか? あまり無理されない方が……。」

 

他の人達も既に来ていたようだ。心配してくれるのは、心に染みるほど嬉しい。

 

「ええ、心配には及びません。」

 

ほぼ完全に治ったみたいだ。倦怠感などはもう一切感じなくなってきた。

 

「突然悪かったわ。お詫びにパチェが君に魔法を教えてあげるって。」

 

パチュリーさんもその言葉に驚きを隠せないようだ。

 

「そんな事一言も言ってないわよ!?」

 

「どうせパチェも暇でしょ?」

 

「レミィのお詫びに私が何か施す必要があるのかしら。……まあ暇だけど。」

 

暇なのかいっ。

 

「いいじゃない。パチェの数少ない友人の頼み事よ?」

 

「数少ないって言うのは余計よレミィ。……分かったわよ。面倒見ればいいんでしょう。」

 

「フフッ」

 

本当に仲が良さそうだなあ。などと傍観していると、パチュリーさんがこちらを向いた。

 

パ「藤村大樹……だったわよね? もし紅魔館に来て尚レミィの相手に飽きたらここの図書館に来て。教えられる範囲なら私が魔法を教えるわ。仕方なくね。」

 

突然の流れで魔法かあ……魔法、ねえ。

 

「うーん。魔法かあ。面白そうだし教えて貰って損はないな。じゃあ頼みます。お願いしますパチュリー先生。」

 

「……。」

 

パチュリーさんは無言で返す。俺くらいの年齢の男が、魔法に興味がない訳が無い。……ね?

 

「ますます面白くなってきそうね。」

 

何故か面白がるレミリア。そしていかにも面倒臭いオーラを放つパチュリーさん。これからはもっと大変な事になりそうだなあ。

 

 

 

朝食をとった後、紅魔館を出た俺は美鈴が護衛についてもらい人里に帰ることに。

紅魔館に入ってから半日ぶりに日光を浴びた俺はあまりの気持ちよさに体を伸ばす。

空を見上げると紅魔館から出ている紅い霧は大分人里の方まで伸びている。そういえばこの霧について聞き忘れたな。何かするのかな?

 

 

 

人里に帰ってきて数日後。

あの霧は人里へ伸びてきていた。人間には有害らしいとのことで、人里の人々は家の中で避難している。

俺には特に何ら影響は無いのだが―まだ人里の人達は俺が妖怪である事を知らないため迂闊に外には出れない。

 

これが後に語られる紅霧異変の始まりである。

 




ここまでお読みくださってありがとうございます。

明日以降は投稿間隔が開いてしまうと思います。ご了承ください。
次回は紅霧異変解決後から始まると思います。

更新不定期です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。