ああっ女神さまっ!   作:RoW

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二柱め!

俺はウォルバク様を信仰するウォルバク教信者である。

しかしながら、俺はウォルバク様以外の女神様とも交流があるし、ウォルバク様が唯一神である!なんて馬鹿なことは言わない。

 

「あのー」

 

もちろん、アクシズ教のように他の宗教を貶したりもしない。

ウォルバク様を信仰しているとは言え、俺はソフトなウォルバク教信者であるのだ。

 

「えっと、無視しないで貰えますか?」

 

ウォルバク様のことは確かに大好きで、愛しているが、宗教となるとまた別の話である。

そんな俺はエリス教徒に入信しないかと神父に誘われた際にホイホイ付いて行った事もある。

 

「無視されたら私、さみしいなーなんて」

 

その際、結局はエリス教に入信しなかったものの、ウォルバク様が涙目になっていたのでとても可愛かった。じゃなくて、ウォルバク様の涙目を見たいがために改宗してもいいのではないかと常々考えていたりする。

 

「すいませーん、ほんと無視は勘弁してもらえませんか?」

 

その際改宗先の女神様といったらやはり幸運を司る女神であるエリス様だろう。

 

「泣きますよ?泣いちゃいますよ?いいんですね?」

 

水の女神アクア様や傀儡と復讐の女神レジーナ様というエリス教と比べればマイナーな女神様もいるが、アクシズ教は言わずもがなクレイジーであるし、レジーナ教もアクシズ教ほどでないにしても中々に過激である。

 

「………あの、マジで泣いちゃいますからね?」

 

結論、信仰する女神様をウォルバク様から変えるとするならばエリス様が1番無難であるし、社会的扱いもまともである。

 

「ぅあ、えぐっ、ぐすっ、むじしないでぐだざいよぉ」

 

「さっきからなに?うるさいんだけど。今ウォルバク様とエリス様の素晴らしさを再確認してたところなんですけど」

 

「女神様なら傀儡と復讐の女神様であるレジーナ様が一番かと思われますよ!」

 

「やだよ、だって絶対レジーナ様ヤンデレ気質だもん」

 

「そ、そんなことありませんよ!ちょーっと恋人を裏切ったような男をドン底に叩き落とすくらいでヤンデレまではいきません」

 

「十分こえぇよ!……てか、普通に喋ってたけど、またあんたか」

 

「はい、傀儡と復讐の女神レジーナ様の敬虔なる使徒ルーシーです!今日も今日とて貴方の背後に這い寄ります!」

 

「帰れ!」

 

俺が先程から会話をしている女性。

ルーシーはゴーストである。

昔、なんやかんやでルーシーと関わったことがあり、それから懐かれてしまったのだ。

それからと言うもの、俺の背後霊よろしく付きまとったり、レジーナ教と言う消滅寸前の女神様の信仰を勧めて来たりするのだ。

 

「てかお前なんでここにいんだよ。俺たちがアルカンレティアに着いた時には気配とか何もなかったぞ」

 

「はい、それはもちろんあなたにバレないよう生前に取っていた潜伏スキルなどを駆使して尾行をしておりました。あなたの入浴の際などもこっそり覗いてーー」

 

「変態だ!ここに変態がいる!」

 

ウォルバク様と一緒にお風呂に入っていたところも全部こいつには見られていたと言うのか。怖い。

 

「それでですね、あの女神と一緒にいるので話しかけづらかったのですが、あなたがこのように早朝に宿を抜け出してくれたおかげで私は堂々とあなたに話しかけられたわけです!」

 

「お前ゴーストのくせにしれっと朝日の下で行動してんじゃねぇよ!てか、アクシズ教徒に見つかって除霊されても知らんからな」

 

「大丈夫ですよ。心配してくださってありがとう御座います。ですが心配ありません!つい数時間前もこの町のアクシズ教徒が寝静まった中、枕元に立ち呪いの言葉をぶつぶつと呟いて来ましたから!」

 

「何も安心できねぇよ」

 

礼儀正しい言葉遣いをしているくせして中々に行動や言動の端々に荒々しいところが見え隠れしている。

 

「ところであなたはなぜかのような早朝に外へ?何か催し物があるのですか?」

 

そう言うとルーシーはキョロキョロと辺りを見渡すが、辺りはまだです早朝なだけあって静まり返っている。

 

「俺が抜け出して来たのはな、これが理由だ」

 

そう言って俺は目的のものを見るために進めていた足を湖の側の桟橋で止め指を指す。

その俺の指先から視線をやりルーシーは俺の目的を目の当たりにするやいなや、わあっ、と感嘆の声を漏らした。

 

白く、暑さを感じさせない神々しさすら覚える朝日に照らされ輝く湖が俺たちの目には映っていた。

 

白く淡い光が透明度が高く青い湖がキラキラと輝いて見える。

なんとも美しい光景である。

 

「これを私に見せるためにこんな朝早くに……」

 

「いや違う」

 

「ええっ!?そこは嘘でも『あぁ、ルーシー、この湖よりも綺麗なお前に俺はずっと前から惚れたいた』とか言うとこってあだっ!」

 

馬鹿なことを言い出すルーシーの頭にチョップを食らわせてやる。

あれ?ゴーストって物理攻撃効かないんじゃ…まぁ、いいか。

 

「あなたがこんな朝早くに宿を抜け出すから私に告白を!?なんて考えていた私の乙女心は傷つきました!責任とって結婚してください!」

 

「そもそもお前が付いて来てること自体さっき知ったんだぞ。告白なんてするわけないだろ」

 

「あ、それもそうですね。じゃあどうしてこんな朝早くに?」

 

それはもちろんーー

 

「朝起きたら俺がいないことに気づいて涙目で俺を探しに来たウォルバク様とこの光景を見るために決まってんだろ」

 

そのままこの美しい光景をバックにキスをできたらな、なんて淡い期待なんかも抱いていたりする。

 

「あなた、ゲスいですね」

 

「うっさい。涙目ウォルバク様は可愛いんだよ」

 

「へぇ、そんなことのために抜け出してたんだ」

 

「そうだ、ウォルバク様って困らせるとほんとかわいい反応とかしてくれてーーってあれ?」

 

今の声はルーシーの声ではなかった。

俺のよく知る声である。

ウォルバク様だ。

 

「あはは、では、私はこれでー」

 

ルーシーは何か危険を感じ取ったようでスッと消えるように俺の目の前からいなくなった。

あぁ、振り向きたくねぇなぁ。

絶対ウォルバク様怒ってるもん。

雰囲気でわかる、ウォルバク様が結構本気で怒ってらっしゃる。

 

「ねぇ、わたし言ったわよね。アルカンレティアは何があるかわからないからひとりで行動しないでって」

 

「い、言いましたかね?」

 

「えぇ、確かにアルカンレティア行きの馬車の中で言ったわ」

 

「ご、ごめんなさい。でも見てくださいウォルバク様!この景色」

 

「えぇ、確かに綺麗。でも、今はそんなことよりもあなたに言わなくてはならないことが出来てしまったわ」

 

ジリジリと俺を逃さぬように間合いを詰めて来るウォルバク様。

普段なら喜んで飛びつくところなのだが、説教モードのウォルバク様は近づかぬが吉とウォルバク様を信仰している者たちの中で密かに言われている。

ウォルバク様が近寄って来るに連れて俺も少しずつ後ずさりをして行く。

 

「もう、逃がさないわよ」

 

「いやいや、ウォルバク様、話し合いましょう、ね?」

 

「そうね、たっぷりお話ししましょう?」

 

「いや、そう言う意味じゃなくてー「危ないっ!」え?」

 

唐突にウォルバク様は焦った様な表情をして俺に声をかけた。

ぐらりと急に視界が傾いたと思ったら浮遊感。

足を踏み外したような感覚だ。

 

あ、そうだった、桟橋の上だからこんなに後ずさりとかしてたらーー

 

ドボーン。

 

湖の中へダイブである。

 

まずった、俺泳げない。

がぼぼぼぼぼぉ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけなのでウォルバク様が怒りを収めたくらいに帰るので少しここにいさせてください」

 

「ええっ!?」

 

あっけなく溺れ死んだ俺は天界と呼ばれる場所で幸運を司る女神のエリス様と対面していた。

 

天界といえば神聖かつ崇高な場所であると言うイメージが強いが俺に取っては近所の公園に行くようなノリで来るような場所である。

詰まる所、よく死ぬのである。

 

「今日も、勝手に生き返っちゃうんですよね?天界規定破っちゃうんですよね?」

 

「いやー、毎度毎度すいませんねエリス様」

 

「申し訳ないと思ってるなら死なないでください!それもこれもアクア様がよく確認もしないで強力な特典を渡すからーー」

 

「まぁまぁエリス様、そうやって愚痴ばかりこぼしてないで俺と楽しくお喋りしましょう!」

 

「誰のせいだと思ってるんですか!」

 

ぷりぷり怒ってるエリス様は可愛い。

何が可愛いってもう全部可愛いのだけれど、根底には優しさが溢れてるところとか堪らない。

 

これは本気でウォルバク様からエリス様に乗り換えてしまうかもしれない。

 

あ、でも、胸的にはウォルバク様の方がーー、

 

「何か失礼なことを考えていませんか?」

 

「いや、エリス様って貧乳だなぁって」

 

「思いっきり考えてましたね失礼なこと!」

 

おっと、つい本音が漏れてしまった。

別に俺は巨乳好きと言うわけでもないのだが、大きくて悪いことはないだろう。

貧乳も好きだよ!

 

「大丈夫ですよエリス様。俺、貧乳だって愛せます」

 

「あなたは何とんでもないことを言ってるんですか!?」

 

「エリス様、胸って男に揉まれると大きくなるって話があるのは知ってます?」

 

「はい、小耳に挟んだことくらいはーーってまさか」

 

「はい、エリス様が胸のサイズで悩んでいると言うのならこの私めがエリス様のお胸を揉み、大きくしてあげようではありませんか!」

 

「間に合ってます!」

 

ふむ、ここはやはりウォルバク様にも使ったあの屁理屈ゴリ押し攻めを使ってみるか?

 

「まったく、あなたはあなたの信仰する女神にも似たようなことを言って迫ってましたよね」

 

「似てませんよ。ウォルバク様は巨乳ですから」

 

「そのことではなく!セクハラ発言のことです」

 

ふむ、天界にお住まいになっているエリス様が下界住みの俺の言動を把握していらっしゃるエリス様は下々の人間にも気をかけてあげられるような女神だったようだ。

 

「あなたは私以外にもそのような発言をしていますが、そのような不貞を働いてはいけませんよ」

 

人差し指を立ててエリス様はめっ、とこちらを諌めてくる。

うむ、エリス様にこう言われては辞めざるを得ないとさえ思えてしまう。

しかしながら、俺はウォルバク様の事が好きだし、エリス様のことも好きなのだ。

 

好きになった理由も浅くはないと自負している。

ならば俺のこの恋心、何人も止める権利など持ち得てはおるまい!

 

「エリス様!結婚しましょう!」

 

「ええっ!?えと、話を聞いていましたか?」

 

「もちろんですとも。聞いた上で言ってます」

 

「最低です!何も分かってないじゃないですか!」

 

ぐっ、エリス様に最低です!と言われるとこう、心にグサリとくるものがある。

しかし俺は未来に大きなものを得るために、今の小さな傷など気にしてはいられない。

 

「えぇ、わかりませんとも。分かりたくもない。俺は好きな女を好きでいるなと言われて引き下がるような男じゃない!」

 

「そのセリフはこのタイミングで言われても…」

 

「俺はウォルバク様が好きです!」

 

「はい、恋をするのはいいことです」

 

「エリス様も好きです!」

 

「なんでそうなっちゃうんですか!」

 

どちらも好きと言うことでいいではないか。

まったく、エリス様はお堅いなぁ。

 

ここは一つ、エリス様に意地悪な質問を投げかけてみることにしよう。

 

「じゃあ、エリス様。俺がウォルバク様を諦めてエリス様一筋になると言えばあなたは俺と結婚してくれますか?」

 

「えっ、そ、それは……」

 

おぉ、エリス様が困ってる。

耳を赤くして、きっと俺のエリス様への求婚の数々を思い出して恥ずかしいのだろう。ふふっ、可愛い。

 

さて、かわいそうなのでこの質問は取り下げることにーー、

 

「分かりました。あなたが私だけを愛すると誓うのならこの身はあなたに捧げましょう」

 

「えっ」

 

「では、今からあなたを生き返らせますので、あなたの信仰している女神との縁を切ってください。そして直ぐにエリス教へ改宗し、教会で祈りを捧げるのです。そうすればこの身はあなたのものです」

 

えっ、まじか、えっいやマジで!?

こ、これは、エリス様をいじめるつもりがこちらが追い詰められているだと!?

 

「えっと、エリス様?」

 

「どうしました?私の事が好きなのでしょう?ならば何も迷うことなどありません。あの邪神を捨て、今すぐ私だけを愛すると違うのなら私はあなたに寵愛を捧げましょう。では、行きますよ」

 

そう言ってエリス様は俺の額に人差し指を突きつける。

ま、マズイ、これはもう今更冗談でしたなんて言えない空気。

しかしウォルバク様は俺の恩人でもあるし裏切ることはできない。

 

ヤベェまじどうしよう。

調子に乗りすぎた結果のこのざまである。

 

そして、エリス様は俺の額を軽くツンッと弾いた。

 

「冗談です♪」

 

「へ?」

 

「ふふっ、あなたが少しでも懲りてくれたらと思ってイタズラしてみました。これに懲りたらもう複数の女性に言い寄るのはやめてくださいね?……それでは、下界へお送りします」

 

エリス様が手をかざすと俺の足元に魔法陣が現れ、俺の身体を少しずつ持ち上げて行く。

天界から下界へと送り出す魔法陣が作動したようだ。

 

「あなたは何かと危険に巻き込まれやすいタイプなので、心配です。ですからーー」

 

チュッ。

 

俺の前髪を手で上げ、額に唇を落とした。

 

「ふふっ、おまじないです」

 

エリス様がそう言うと俺の体は完全に作動した魔法陣によって復活させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

少し体が冷えているのを感じた。

体も少し重い。

着ている服が、湖に落ちたことで水を吸って重くなったのだろう。

 

後頭部には何やら柔らかい感触が。

もしや、と思い目を開けると、目に映ったのは、ウォルバク様の下乳だった。

 

いや、やはりデカイな!

じゃなくて、この状況はもしかしなくとも膝枕なのだろう。

この体勢だと立派なお胸に隠れてウォルバク様のお顔が見えないので少し勿体無く思いながらも体を起こす。

 

「大丈夫?どこか痛くない?」

 

自分のせいで俺が湖に落ち溺死してしまったと責任を感じているようだ。

よく見ればウォルバク様は目尻を涙で濡らすだけでなく髪や服も濡らしている。

 

俺を助けるために自らも湖に飛び込んだと言うのだろうか。

 

「…ウォルバク様」

 

「どうしたの?やっぱりどこか痛いの?」

 

あたふたと焦っているウォルバク様を可愛いなぁと思いつつ、思いの丈を口にした。

 

「女神様って本当、女神様ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




レジーナ教とルーシーに関してはこの素晴らしい世界に祝福を!の11巻をお読みください。

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