ああっ女神さまっ!   作:RoW

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ウォルバク様が書きたかった。
それだけだ。


一柱め!

チャプチャプと、身じろぎをするたびに水音が鳴る。

ふと思い立って頭までお湯につけてみると体の芯まで温まっていくのが分かる。

流石に温泉で有名なアルカンレティアなだけあっていい温泉なのだろう。

 

息が続かなくなってサバァと勢いよく顔を出す。

その際大きな水音を立ててしまったので周りに迷惑だったか?と思い辺りを見回す。

湯けむりがもわとわとあがり、視界があまりよろしくはない。

しかし見る限りは俺以外の人影は少し離れたところに一つしかなく、その人影は知り合いなのだから気にする必要はないだろう。

 

しかし、なぜ一緒に温泉に入る仲だというのにこんなにも離れているのだろうか?

寂しいじゃないかと、スススッとその人影に近づいていく。

 

すると湯けむりの奥に見えたのは赤い髪を肩まで伸ばし、その側頭部には人間では持つことのない角を持っている女性。

付け加えるならば猫のような目をしており、巨乳である。

 

すると、その女性もスススッと離れて行く。

そこからはイタチごっこである。

 

近づき離れ、近づき離れる。

 

むぅ、何故こんなにも避けられるのだろうか?

こうなれば何が何でも近づくしかないだろう。

 

ザバァ、と立ち上がり、本気で女性に近づこうと試みる。

 

「ちょっ!?み、見えてるわよ!」

 

焦ったように指摘する女性だが、俺としては別に見られても構わない。そんな粗末なものでは無いと思っている。

 

しかしながら、俺の知り合いであるその女性は顔を真っ赤にして顔を逸らしているが、ときおりこちらを見ているあたり、少なからず気にはなっているのだろうか。

 

「別に見えても構いません。だけど一方的にみられるのも癪なのでそちらも見せてください」

 

「ええっ!?いや、その私は見たくて見てるわけじゃないし…」

 

「でも、チラチラ見てるじゃないですか」

 

「み、見てないわ!ええ、興味なんてこれっぽっちもないもの。怠惰と暴虐を司る神の名に誓っていいと思うくらいには見てないわ!」

 

「自分に誓ってどうするんすか。てか、怠惰と暴虐を司ってる女神様に誓われても信用できないんですけどね」

 

怠惰と暴虐を司る女神ことウォルバク様は顔を真っ赤にしながら、俺の股間を見ていると言うことを否定する。

 

「と、言うわけでウォルバク様、そのたわわな胸を私めにお見せください」

 

「かしこまっても見せないわよ!?だいたい温泉はそんな不埒な目的で入っていいものじゃーー」

 

「この間、ゼスタとか言うアクシズ教の最高司祭が覗きしてたって騒ぎになってましたよ。最高司教様が不埒な目的で温泉を使ってるんだから問題ないですよね!」

 

「大有りよ!だめよ!アクシズ教徒なんて皆んなそんなものじゃない!だからそれは適応外!」

 

自分の肩を抱くようにしてそのたわわな胸を隠そうとするウォルバク様だが、その他よりもひと回りもふた回りも大きなその胸はウォルバク様の細腕では隠しきれずにはみ出ているのがまた扇情的である。

 

「じゃあ、見えなくてもいいんで触らせてください」

 

「もっとダメよ!そもそも、自分の信仰する女神に劣情を抱くなんてあってはならないことよ!」

 

「何をおっしゃるんですか!俺を含めあなたの信徒はあなたの胸を信仰してるんですよ!」

 

「ねぇ、それ初耳なんだけど!ほんと?それ本当!?私の子達ってみんなそうなの!?」

 

「すいません嘘です」

 

「終いには殴るわよ!?」

 

はぁ、はぁと息を切らすウォルバク様。

怒った顔も可愛い!

 

「…ウォルバク様」

 

俺にしては非常に珍しいことに真剣な声のトーンを出して、もう一度ウォルバク様に近づく。

 

ウォルバク様は俺のいつになく真面目な声のトーンに面食らったらしく俺が近づいても離れて行くことはなかった。

 

これ幸いと俺は逃げられないようにウォルバク様の正面に位置取り、ウォルバク様の両肩に手を置く。

 

「確かに俺はあなたに劣情を抱いています。ですが、それが不純なものだと、そう言い切れるのでしょうか?」

 

「な、なにを」

 

「子作りとは元来神聖なものとみなされて来ました。それはそのはず、新たな命を生み出す行為なのですから」

 

行ける!このトーンで正論みたいなバカなことを言っていればウォルバク様なら押し切れる!

なんてったって押しに弱いので有名だからな!ウォルバク様は!

 

「俺があなたの胸に魅せられるのも突き詰めればその子作りのためなのです!即ち、俺があなたの胸に触りたいと言う感情は神聖なものだと言えるのです!」

 

「……そ、そうかしら?」

 

「そうですとも!付け加えるならば、ウォルバク様は女神です。なら、その女神様の体の一部を触るのは神聖さを上乗せしている!なればこそ!あなたの胸を触ると言うのは超神聖なことだと言えるのです!」

 

我ながら天才かもしれないと思ってしまうほどの完璧な理屈だと思う。

例えそれが屁理屈だとしても理屈は理屈なので無問題である。

 

「……えと、じゃあ、いつもあなたには世話になってるし、………ちょっとだけよ?」

 

よっしゃキタァァァァァァァ!!!!

 

ウォルバク様はそのたわわな双丘の頂点こそ腕で隠してはいるものの、腕で少し押し上げるようにしてこちらに向けてくれている。

 

あとは、あれがその胸に向かって手を伸ばすだけ。

 

俺はウォルバク様の肩に置いていた手をどかし、その豊満な胸に手を伸ばしーー、

 

 

 

 

 

「お前ら、そう言うのは部屋でやれよ」

 

あと一息でその胸に触れると言うところで第三者の声がこの露天風呂に嫌に響いた。

 

その第三者の声で我に帰ったのかウォルバク様は顔を真っ赤に染め、今まで自分が何をトチ狂ったことをしていたのかと後悔しているように見える。

 

「テメェ、ハンスゥぅぅぅ!!!」

 

俺はその声をかけて来た第三者ことデッドリーポイズンスライムのハンスへと殴りかかる。

 

「うおっ!?いや、こんなとこで致そうとしてたお前らが悪いんだろうが!俺に当たんな!」

 

「るっせぇ!あと少し、あと少しだったのにぃぃぃ!!!」

 

「だから部屋に戻ってからやればよかったんだろうが!」

 

「部屋に戻ったらウォルバク様が正気に戻ってたに決まってんだろ!あんな屁理屈もう二度と通じないんだよ!」

 

「やっぱり屁理屈だったのね!?」

 

ウォルバク様が何やらご立腹のようだが今の俺にはそんなことは関係ない。

今はただこの空気の読めない不届きものを排除することしか頭にないのだから。

 

「てか何お前までしれっと混浴に入って来てんだよスライムのくせに!俺とウォルバク様の花園に入ってくんなよ!出てけ!すぐ出てけ!」

 

「ちょっ、まっ!やめろ!引っ張んな!擬態が崩れるだろうが!ウォルバクに少し話ししたら戻るから落ち着け!」

 

これ以上ハンスに当たっていてもなにもならないので渋々と怒りを収めることにした。

 

「ウォルバク、このアルカンレティア攻略の話なんだが…」

 

すっ。

 

俺はハンスの正面に立ちハンスの視界にウォルバク様が映らないようにする。

するとハンスはムッと顔をしかめ、ウォルバクの見える位置に動くが、それに合わせて再びハンスの正面に俺は動く。

 

バッ、バッ、バババババ。

 

おおすごい、俺ってこんなに早く動けたんだな。

もはや残像とかできちゃうレベル。

全力でハンスの視界からウォルバク様が映らないように動く。

 

「お前、いい加減殺すぞ!?調子にのるな!なぜ邪魔をする!」

 

「別にこのまま喋ればいいじゃねぇか」

 

「喋る相手が目の前にいないと喋りづらいだろうが!」

 

「それはつまりウォルバク様の裸体を見ることになるだろうが!ダメだ!絶対にウォルバク様の貞操は守る!」

 

「別に狙ってねぇわ!」

 

 

 

ギャーギャー。

 

 

 

ワーワー。

 

 

 

 

 

「で、アルカンレティア攻略の話なんだが…」

 

「ちょっと待ってもらっていいかしら?」

 

「…いい加減話を進めさせろと言いたいところだが、許す」

 

「なんであなたは私に抱きついてるのかしら?その、恥ずかしいどころじゃないから早く離れて欲しいのだけれど」

 

今の俺の状況は俺が正面からウォルバク様に抱きついているのだ。

これならば俺はハンスにウォルバク様の裸体を見せることがないし、ハンスもウォルバク様と対面して話すことができる。まさにwin-winである。

 

「いやー、ウォルバク様は大変いいものをお持ちですね!」

 

この手でウォルバク様の胸を触ることは叶わなかったが、抱きつくことはできたので、俺の胸板にウォルバク様の胸が押し付けられるような形になっている。

 

たいへん、やわらかいです。

 

「ねぇ、私は別に大丈夫だから。お湯も乳白色で浸かっていれば見えないでしょ?」

 

「ダメです」

 

「この状況の方が見られるのより恥ずかしいのだけど」

 

「気のせいです」

 

「わたしのお腹あたりに何か硬いものが当たってるのだけど」

 

「気のせいです」

 

困ったような顔をするウォルバク様。

その顔はほんのり赤く染まっていることから羞恥を感じているのだろう。

かわええ。

 

「はぁ、もういい。俺は上がるぞ。お前がいるんじゃ話が出来ねぇからな」

 

「じゃあ一生話せねぇじゃん」

 

「うるさい!今度は時と場所を選んで来るからな!……あ、あとウォルバク、お前温泉だからって気を抜きすぎだ。角くらい隠しておけ。誰が来るか分からんぞ」

 

「あ、そうね。ご指摘感謝するわ」

 

ウォルバク様の角はフッと消える。

うーむ、全くもってこの仕組みがわからん。

ウォルバク様が言うには実際に消えていて、見えなくなっているわけではないのだと言う。

かといってハンスのような擬態とは少し違うようで。

 

脱衣所からハンスの叫び声が聞こえたことからアクシズ教の入信書でも籠に入れてあったのだろう。

ほんと、この街は頭がおかしいとしか思えない。

 

いやぁ、それにしてもここが天国だったんだなぁと今更ながらに思うほどの感触が未だに俺の胸を襲う。

この状況をウォルバク様は強く拒否しないことからこれはゴーサインなのではなかろうか。

このままウォルバク様とアレなことをしてしまっても構わないと言うことなのだろうか。

 

「ねぇ、もうハンスもいないから、離れてもいいんじゃないかしら?」

 

「嫌です」

 

おっと、考えている側から離れろとの事だが、俺は離れる気など全くない。

俺がウォルバク様から離れるとき、それは俺が死ぬときに他ならない。

 

「ウォルバク様」

 

「な、なにかしら?この状況でそんなに見つめられたら恥ずかしいのだけど。と言うかこの状況がすでに恥ずかしすぎるのだけれど」

 

「目、瞑ってください」

 

「な、何をする気なの!?え、ほんとに!?ちょ、顔、ちかっ」

 

「だめ、ですか?」

 

「ぇ、だ、ダメではない、けど……」

 

歯切れ悪く口をもごもごさせながら何かを言わんとしているウォルバク様。

しかし、ダメではないと本人の口から言わせた事で俺の勝ちは決まったようなものである。

 

「目、瞑ってください」

 

秘技、無限ループって怖くね?である。

 

「……特別よ?」

 

意を決したようにウォルバク様はそう口にして、ゆっくりと目を瞑った。

初めてのキスが温泉で、なんてだれが考えただろうか。

しかし、何はともあれあれのファーストキスはウォルバク様に捧げーー

 

さばぁん。

 

……誰かが温泉に入って来たらしい。

またも俺の邪魔をする奴が現れたかと、音がした方に目を向ける。

やはり湯気が漂い邪魔者の顔は見えなかった。

 

「っ!はい、時間切れ!もう私は上がるから!」

 

邪魔をしたクソ野郎の警戒をしすぎたせいか、ウォルバク様から死刑宣告に等しい言葉を放つとウォルバク様はバッ!と俺から身を離し、ものすごい勢いで脱衣所の方へと消えていった。

 

 

 

……さて、邪魔者は消さないとな。

 

 

 

「あ、こんちわ。いい湯ですねってあぶなぁっ!?」

 

風呂桶を邪魔者に向かって全力投擲。

しかし回避されカコーンと温泉定番の音が響きわたる。

そうか、風呂のカコーンという音は怒りに任せ風呂桶を叩きつける音だったのか!

 

俺の初めてのキスの邪魔しやがった奴は一人の平凡な男だった。

別段筋肉隆々な訳でもなく、イケメンな訳でもなく、何か取り柄があるように見えない。

 

普段ならばかなーり好感を持てそうな外見をしているが、いまこの状況においてこいつは許されない罪を犯したのだ。

 

「テメェ、死ぬ覚悟はできてんだろうナァァァァ!!!」

 

先ほどのハンスの時よりも憎悪のこもった声が温泉の中で響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

「でさぁ、うちのヘッポコパーティメンバーたちがさー!」

 

「あー、お前も苦労してんのな」

 

結果、先ほどの邪魔男と仲良くなった。

サトウカズマという名前らしく冒険者をやってるとのこと。

話を聞く限りではとんでもないパーティメンバーに振り回される毎日を送っていると言うなんとまあ不憫な男だった。

 

「そういや、あんたも湯治で来たって言ってたけど、どっか悪いのか?なんならうちのヘッポコアークプリーストに診てもらうか?」

 

「いや、大丈夫。湯治に来たのは俺の連れだからな。それにしても、首チョンパされて湯治に来る男なんて初めてみたぞ、カズマ」

 

「冬将軍の恐ろしさを思い知ったよ」

 

「冒険者って大変なんだな」

 

「あれ、アンタは冒険者じゃないのか?」

 

「俺は付き人だからな、冒険してる暇なんてないんだ」

 

実際、冒険者になろうかとも考えたが、ウォルバク様のそばにいるのが俺の中では最優先事項なので、冒険者にはならなかった。

しかし、冒険者のスキルには興味があるので、登録だけでもしようかと考えている。

 

「ふーん。付き人って偉い人の?やっぱそう言うのって儲かるのか?」

 

先程から話していてわかったことはこのサトウカズマは中々に下衆な思考をしているらしく、金、女にはグイグイ食いついて来る。

時折女湯の方へ意識をやっているのがモロバレであるし、俺に対して給金の話を振って来たことからもよくわかる。

 

「いや、無給だよ。んでもって無休」

 

「マジで!?どんなブラック企業だよ」

 

「でもまぁ、生活費は全部払ってくれてるし、俺が好きで付き従ってるだけだからな。何にも文句はないさ」

 

「おぉ、付き人の鏡だな!」

 

「だろ?」

 

先ほどまではぶっ殺してやろうかと思っていたが、話してみればなかなかにいいやつだと言うことがわかって来た。

仕方がないから殺すのは勘弁してやろう。

 

「さて、俺はもう上がるわ。俺の主人も上がっちゃったしな」

 

「俺は覗きを敢行するためにもう少し入ってるよ」

 

「おぉ、お前まじか。まぁ、頑張れ」

 

俺も覗きには興味があるが、ウォルバク様が一人先に上がってしまったので、ほったらかしにしておくわけにもいかない。

一応俺はウォルバク様の補佐役的な立場であるのだ。

 

あんまり一人にしておくとウォルバク様拗ねちゃうからな。

猫みたい、まじかわいい。

 

脱衣所だ俺が着替えている間、何やら風呂の方から叫び声が聞こえて来たことから、カズマの覗きがばれたようだ。

 

……よかった、カズマに便乗してたら死ぬとこだった。

 

 

 

 




更新はそんなにしない。
少なくとも今年はあんまし投稿しない。
それでも待っていてくれると言うのならお気に入り登録してくれてもええんやで?

ちなみに名無し系主人公。
後から名前つけるかも

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