少女達の真影、正義の味方の証明   作:健氏朗

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皆さんお久しぶりです!! 久々の投稿がやっとできました。ただ内容をまとめるのに手間取ってしまい文字数が8000字以上になり記録を更新してしまった^_^; 長ったらしかったらすいません。ではごゆっくりどうぞ…。


本当に大事なコト

「うう〜、どうしよう…。やっぱり見つからないよ〜」

 

至極困った声でそう呟くのは半蔵学園忍学生が1人、雲雀である。何やら落ち着かずに隠し部屋の中をウロウロとしている。そんな調子で右往左往していれば嫌でも目につくものだが、あいにく今はほとんどの仲間は出払っていた…1人を除いて。

 

「雲雀ちゃん? どうしたの?」

 

…飛鳥である。

 

 

ウサギっ娘、説明中__________

 

「ええ!? 巻物を落としちゃったの!!?」

 

「う、うん」

 

雲雀の失敗に飛鳥は驚愕を示す。以前説明された通り、彼女たちの言う巻物、秘伝忍法書はいわば鍵である。もちろん日々鍛えている彼女たちならばそのままでも戦えるがそれが通用するのはそこらのチンピラ程度である。同じ忍が相手となると分が悪い。

 

「どうしよう、飛鳥ちゃん。このままじゃ…」

 

泣きそうな顔で問いかける雲雀。そんな表情を向けられた飛鳥は見過ごすことなど出来るはずもなく…。

 

「…大丈夫! わたしに任せて雲雀ちゃん。巻物を探してきてあげる!」

 

不安げな雲雀を安心させようとやる気に満ちた顔で応える。

 

「え、でもそれじゃ飛鳥ちゃんに迷惑かけちゃうよ!」

 

「迷惑なんかじゃないよ、大切な仲間のためだから」

 

飛鳥の力強い応えに雲雀は一筋の光が差し込んだ様な想いに満ちた。だが、同時にある疑問も湧き上がる。

 

「(…本当にそれでいいのかな?)」

 

このままいけば飛鳥は快く引き受けてくれるだろう、でも自分は? 大事な仲間に巻物を探させておいて自分はただここで待つだけなのか?

 

話は変わるが雲雀は忍学生の最年少の1人だ。そして彼女はその中でも輪を掛けて精神が些か幼い。そのせいかどこか"甘え"が目立ってしまい、仲間を第一に頼ってしまう傾向にある。もちろん仲間に頼ってはいけないわけではない…しかしそれもいき過ぎれば一種の依存に変わってしまう。

 

雲雀という少女は頑張り屋でやる気もある生徒だ。しかし、いかんせん"精神"がまだ弱い。どれだけ肉体が強くても心が折れてしまえば意味をなさない。故に…。

 

「…やっぱりダメだよ、飛鳥ちゃん」

 

「雲雀ちゃん?…」

 

「巻物を失くしちゃったのは自分のせいなのに、飛鳥ちゃんだけ行かせるなんてできない」

 

小動物のような、それこそウサギのように気弱な女の子はその目に活力を滾らせる。内から湧き上がるのは変わろうという"意思"。

 

「だから…、雲雀も探す! 2人でならきっと見つかるよ!」

 

踏み出したその一歩…いや、下手したらほんの半歩ほどかもしれないがそれでも確実な前進である。たとえそれが僅かな進みだとしても…。

 

「…うん! 一緒に行こう、雲雀ちゃん!」

 

"仲間"が応えるには十分だ。

 

 

 

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商店街にて…

 

「…ふぅ、こんな所かな」

 

ここは商店街に居を構える精肉店。この店は士郎が個人だけでなく店の買い出しにおいても贔屓にしている所であり、必然的に店主やその奥さんとも顔馴染みなのだ。さて、実の所士郎は買い出しのためにここにいるわけではない、では何故いるのか? それは…。

 

「ウチの備品を見てくれて、本当にありがとうね 士郎ちゃん」

 

「いえ、時間はありましたので気にしないで下さい」

 

そう、修理である。曰く、コロッケなどを揚げるための機械が最近調子が悪いらしく業者もすぐには来れないからと士郎に頼み込んだのだ。

 

「応急処置はしましたが、一応業者の方に相談して新しいのに買い換えることも考えた方がいいかも知れませんね」

 

「そうね、気づけば長いことこき使ったからそろそろ潮時かと思っていたし。そうするわ」

 

自前の道具を片付けながら肉屋の奥さんと雑談に興じる士郎。余談だが士郎は商店街の住人とは交友が広く必然的にその繋がりで知り合ったりする者も多い。例えば…。

 

「ごめんくださ〜い、って士郎さん!?」

 

「あら、いらっしゃい。おつかいかしら?」

 

「う、うん お母さんに頼まれて。それとこんにちは士郎さん」

 

「ああ、こんにちは」

 

入店してきた客は中高あたりの年齢でショートボブの黒髪が印象的な少女。実はこの少女、一時期成績が芳しくなく塾に通おうかと母に相談した所、士郎に家庭教師を頼めないかとお願いされたのだ。

 

短い間ではあったが教わった甲斐あって見事成績アップに成功して今もなお、それを維持し続けている。ただそこまでの道のりが非常に険しかったらしく、勉強を教えてる時の士郎は普段と違い、結構厳しかったのだ。

 

だがそれも無理からぬこと。この士郎、カルデアに来る前まではとある魔法使いの下で修行していたのだ。曰く、「ワシの弟子なら知識面も鍛えねばならん」とのたまって勉強という名の苛烈な虐めを強いられた。体育会系らしい勉強方で一問間違えればまず拳骨が振り下ろされる…ただし魔力強化された拳で。また間違えれば今度は遠坂やルヴィアを足した様な威力の魔力弾で狙い撃ちにされる……それも全部急所狙い。挙げ句の果てにはテストが合格点に届かなかった時は宝石剣による制裁………言うまでもなくて大斬撃である。

 

と言った風に知識を詰め込めるだけ詰め込んだ結果、士郎は学園でもトップクラスの成績を収めた。とはいえ流石に士郎は同じ様な方法ではなく自分なりに効率的な勉強方を模索して、且つ本人にやる気と向上心を持たせる方針で指導したのである。

 

「この間は本当にありがとうございました」

 

「俺はあくまで手解きをしただけさ。最後は本人の頑張り次第だからな」

 

「それでもです。士郎さんに教えてもらわなかったら危なかったし」

 

「そうか、まあお役に立てたなら何よりだ。それというまでもないと思うが継続のためにも日々の勉強も怠らない様にな」

 

「もちろんです! あ、あの…士郎さん」

 

元気快活な挨拶と打って変わってしおらしい態度で切り出してきた少女に士郎は先を促す。ちなみに少女の顔は不安ながらも若干赤らんでいる。

 

「どうした?」

 

「その…受験の時期になったら、また教えてもらっていいですか?」

 

身長の関係上、必然的に見上げる形になる少女。年頃の女の子の上目遣いというのは大層破壊力のあるものだ。さらに赤い顔と潤んだ瞳が追加されればもはや抗いようがない。並みの男子であれば狼狽えながら、口をどもらせながらも了承を示すだろう。

 

…しかし!そこは百戦錬磨(爆)の我らが衛宮士郎。いろんな面(意味深)でそこらの男子をも凌駕する彼は動揺することなく、代わりに…。

 

「ああ、時間は限られるだろうがそれでもいいか?」

 

相手に安心感を与える様な優しげな、"天然の女殺し"の笑顔で快諾する。

 

「本当ですか!!?」

 

士郎の返事に少女は顔の赤さが増し、先ほどの不安など微塵に吹き飛ばしたかのような喜び顔を咲かせる。

 

………さて、読者の方の何人かはお気づきかも知れませんがこの少女も士郎に惚れたクチである。顔合わせの時からすでに好印象ではあったがあるトラブルの際、士郎に助けられたのをきっかけに距離を縮めて、あわよくば関係を深めようと日々頑張っている。

 

まあ要するに、また、である。

 

 

________________

 

「結構話し込んでしまったな」

 

肉屋のおばちゃんと教え子との会話を終え、帰路に着く士郎。自前の工具箱をぶら下げながら今夜の献立を考えていると視界の前方に人の集団が映る。身なりや座り方からして明らかに不良の部類に入る連中だろう。

 

しかし彼らは通行の邪魔をしてるわけでも、誰かしらに迷惑をかけてるわけでもない。士郎が気になったのは彼らではなく彼らが話している内容だった。

 

「なあ、これマジでなんなんだ?」

 

「何って巻物だろ。なんでこんな所に落ちてるのか知らねーけど」

 

「なんだっていいだろ? 質屋にでも売っぱらっちまおうぜ。丁度遊ぶ金がたりなくなったし」

 

不良集団の中の1人が妙に見覚えのある巻物を目線の高さに持ち上げながらぼやく。まさかこんな所にあるはずがないと思いながらも念のため手中の巻物に解析をかける。その結果…

 

「(はぁ、間違いなく秘伝忍法書の巻物だな…)」

 

当たって欲しくなかった予感が見事に的中する。何故、どうしてという疑問は一旦置いといてとにかく回収するために行動する士郎。

 

「あー、少しいいか?」

 

「あ? んだよてめー」

 

いきなり声をかけられた不良の1人は不愉快そうに反応する。内心、徒労に終わるかも知れないと思いつつも一応は話し合いから入ろうとする。

 

「すまないが、それは俺の知り合いのものでな。今友人達と総出で探していた所なんだ。返してもらえないか?」

 

「へっ わりーけどそうはいかねぇな」

 

予想通り不良は嘲笑うかのように引き渡しを拒否する。しかしそれだけでは飽き足らず…

 

「どうしてもってんなら条件付きで考えてやってもいいぜ?」

 

提案を述べようとする不良に大体察しがつくのかため息を付きつつも先を促す士郎。その顔は酷く呆れたものになっている。

 

「条件は何だ?」

 

「オレらさぁ、今小遣いなくて困ってんだよね〜」

 

「とりあえずサイフ出しなよ。そっから商談と行こうぜ」

 

あまりに…あまりにも予想通りすぎる展開。連中のニヤついた顔に

もはや反応するのも億劫になってしまった。

 

「はぁ…やめだ。これ以上はもう時間の無駄だな」

 

「あ?」

 

先ほどの仏頂面から相手を小馬鹿にするような表情へと変わり、挑発混じりに士郎は言い放つ。

 

「せめて拾った分の礼くらいは支払うつもりではあったが、質屋に持って行こうという戯けたセリフが出た時点で帳消し。貴様らにくれてやる金など一銭もない」

 

「あん? テメー…ヒトが下手に出てやったってのに、調子乗ってんじゃねぇぞ?」

 

士郎のセリフにこめかみにくっきりと青筋浮かべる不良。気弱い者なら萎縮してしまうその剣幕にむしろ鼻を鳴らして肩をすくめる。

 

「これはいけない、あの態度を下手と呼ぶなら常識以前に日本語から学び直した方が良さそうだ」

 

「スカしてんじゃねぇ!!」

 

集団の中の1人が痺れを切らして殴りかかる。意外なことに攻撃してきた不良の拳は伸びがよく、顔ではなく胴、つまり腰の入った中段突きを放ったのだ。突きは吸い込まれるように士郎の鳩尾に炸裂し、不良は会心の一撃にニヤリと笑みを浮かべる。

 

「おっと、言い忘れてた。オレ実は空手の有段者何だよね〜。しばらくはメシが食えねぇかもな」

 

「これで自分の立場ってヤツが分かったろ? つべこべ言わずに言う通りにしな。これ以上痛い目に会いたいってんなら話は別だけど」

 

嘲りの言葉と共にげらげらと笑う男たち。目の前の拳が刺さったままの士郎に自分たちの圧倒的な優位を微塵も疑っていない。しかし、腕に覚えがあるものが見れば一様に言うだろう……。

………彼らの目は節穴だと。

 

「…この程度か?」

 

「え?」

 

苦悶も呻きもなく、何事もなかったかのように語りかける様子に不良たちは唖然となる。

 

「空手の有段者と言ったか? だとしたら随分緩いな。それとも昇段試験のラインが低かったと見るべきか」

 

通常、人は鳩尾を打たれれば思わず蹲るほどの激痛を伴う。骨や筋肉などと言った邪魔なものが最も少ないため内臓に直接ダメージを与える。だというのに彼らの目前に立つ士郎は苦しそうな顔どころか息すら乱さずつまらなそうな目を向ける。

 

「…っ! ナメんなぁ!」

 

相手の底知れなさに恐怖を感じたのか、それを振り払うかのように乱撃を繰り出す。腹を集中的に狙った連打からの右回し蹴り、それはかつて不良が得意としていた技である…最も今はあまりの素行の悪さに道場から破門にされた身であるが。

 

「ハァ、ハァ…ど、どうだ!?」

 

「決まった! みっちゃんの必殺ラッシュ食らって無事なワケねぇ!」

 

みっちゃんと呼ばれた男の実力をよく知っているのか、今度こそ士郎が沈んだと集団の誰もが思った。しかし…

 

「……ウソだろ?」

 

視界に映ったのは食わない相手の倒れる姿ではなく、自然体のまま片手で渾身の蹴りを防いだ士郎だった。

 

「さて…もう十分か」

 

「は? な、なにを」

 

セリフの意味がわからず困惑する不良。そんな当人の様子に士郎は言葉を続ける。

 

「いや、正当防衛の条件を成立させたんだ。まさかと思うが何の意味もなく攻撃を受けていたとでも?」

 

返された返事に不良たちは戦慄する。つまり自由に動けるようにわざとこっちに暴力を振るわせたのだ。ただ、それだけなら怖くはない。相手が反抗しようが数で押せばだけだからだ。だが目前の赤毛の男は自分たちの最大戦力でも傷一つつけられないという事実が彼らを絶望させる。

 

「クソっ、クソっ! やってやらぁ!!」

 

もはや先程の威勢はカケラも無く、集団のうちの何人かがナイフを抜く。男たちの表情は恐怖一色に染まっていて歯を食いしばっていなければカチカチと鳴らしていたことだろう。それでも逃げずに反抗したのはなけなしのプライドのなせる技か。

 

「流石、往生際が悪いな。だが…」

 

ゆっくりと腰を落とし、両手を構える士郎。その構えはかつてのカルデアにて徒手戦闘の訓練をつけてくれた魔拳士のそれと酷似したもの。

 

「それを抜いたからには…覚悟はできているんだろうな?」

 

この日、男たちは初めてどうしようもないほどの力の差というものを体感した。

 

_____________________

 

 

「えっと、確かこの辺のはず」

 

所変わって、商店街を疾走する雲雀。学園で飛鳥と巻物を捜索することに決まった2人は早速二手に分かれて、1時間後に中央区で合流する手筈だ。今朝から訪れた場所の記憶を頼りに探してはいるものの一行に見つからず、すでに30分は経過していた。

 

「もしここにもなかったら、あとは飛鳥ちゃんの方にあるかも」

 

いよいよ飛鳥が探している区にあることを祈るしかないかと思ったその時、思案に暮れていた雲雀の目に自分が持っていたものと全く同じ配色の巻物が映ったのだ。

 

「あ、あれだ!」

 

ようやく見つけた歓喜と早く回収しなくてはという焦燥に駆られたせいかその巻物が誰かの手の中にあるとようやく認識する。本来、隠密を主とする忍びにとって自身の道具が一般人の目に触れるのはよろしくない事態だ。それが痕跡ではなく物的なものとるとなおまずい。

とにかく何とか説得して返してもらわなければと踏み出してようやく巻物を手にした人物が誰なのか気づく。

 

「衛宮先輩!?」

 

「ん? 雲雀か。急いでるみたいだが何かあったのか?」

 

 

_____________________

 

 

 

「見つかってよかった〜。衛宮先輩、拾ってくれてありがとうございます!」

 

「どういたしましてっと言っても本当に拾っただけだから礼を言われるほどじゃないが」

 

巻物が無事見つかり、一安心した雲雀は士郎と並んで中央区へと歩いている。士郎から巻物を返してもらってからは何度も礼を述べては謙遜で返すという状況が続く。

 

「しかし、飛鳥と2人で手分けしてまで探すとはよっぽど大事なものなんだな」

 

「は、はい…まあ」

 

尋ねるかのようなセリフに雲雀は曖昧な返事で返してしまう。実は大事な忍道具なんですなどと言えるはずもなく、かと言ってうまいウソも思いつかず言葉に詰まるという失態を晒してしまう。

 

「そうか、まあそれなら見つかって良かったな」

 

しかし、士郎は特に追求することなく前へと視線を戻す。巻物が何なのかと聞いてこないのは雲雀としては助かる。だが、先程明らかに言いにくそうにしていたのに全く関心を示さない態度が少し気になってしまう。…聞くつもりはなかった、なのに口が勝手に動いてしまう。

 

「あの…何も聞かないんですか?」

 

何をとは言わない。先程のやり取りから見れば何の事かなど分かりきっているのだから。

 

「ふむ…なら聞いたら教えてくれるのか?」

 

「え!? えーっと…」

 

またもや答えづらい質問にあたふたと慌て始める雲雀。視線が泳ぎ、口がどもりまくる様子は見ていて可哀想なほどだ。

 

もはや思考がショートしてしまうかというところで不意にポンっと頭に何かが乗っかる感触に気づく。上を見上げて見ればそこには腕があり、今現在頭に手を乗せられていることに気づく。そのまま髪が乱れない程度にわしわしと撫でられる。

 

「はわっ!…」

 

「冗談だ、そう慌てなくてもいい。誰しも言いづらいことの一つや二つはあるものだろ? なら無理に聞こうとは思わないさ」

 

困ったかのように笑いかける士郎にしばし唖然としてしまう。そんな雲雀の様子に士郎は慌てて手を引く。

 

「あ、すまない! 気に障ったか?」

 

機嫌を損ねてしまったかと勘違いし、謝罪を述べる先輩に雲雀は慌てて言葉をかける。

 

「う、ううん! 大丈夫です! ちょっとびっくりしただけですから……それに嫌じゃなかったし」

 

セリフの最後らへんは照れのせいか小さすぎて士郎の耳には届かず、顔を伏せてしまう。しかし、最初は赤らんだ顔が徐々に沈んだものへと変わり、ぽつりと呟く。

 

「わたしってダメダメだなぁ…」

 

「? どうした? 急に」

 

落ち込んだ様子の後輩に士郎は尋ねる。心配そうに問いかける先輩に雲雀は躊躇いながらも告げる。

 

「…えっとね、今回の事もそうなんだけど普段からみんなに迷惑かけてばっかりな自分が情けなく思えちゃって」

 

おっちょこちょいな所もある雲雀は学校でも忍道具を忘れたりなどして霧夜によく怒られている。そしてその度に助けてもらったり、庇ってもらったりと守られてばかりな自分の不甲斐なさを痛感してしまう。

 

「今日だってわたしが巻物を失くしちゃったせいで飛鳥ちゃんの手をわずらわせちゃったし…、1人じゃ何も出来ないんだなって」

 

「………」

 

悩みを打ち明けてくれる後輩に士郎は真剣な表情で耳を傾ける。言葉を聞くだけでなく、目の前の雲雀の落ち込んだ顔を見て、どう言葉をかけるか考える。しかし、深く考えずとも答えは至って単純だ。

 

「ふむ…、なら何でも1人で出来なくちゃいけないものなのか?」

 

「え?…」

 

返ってくる言葉に雲雀は鳩が豆鉄砲を食らったかのように惚ける。そんな様子に構う事なく士郎は続ける。

 

「確かに今回の事で飛鳥に迷惑を掛けてしまったかもしれない。けれど、飛鳥に頼るだけではなく自分も一緒に探すと決めたんだろう?」

 

「? う、うん」

 

士郎に言いたいことが分からず困惑する。

 

「そこで君が共に探す選択をしなかったらこうして見つからなかったかもしれない…そう考えることもできるんじゃないか?」

 

それは所謂たられば(IF)の話。確かに、もし飛鳥が巻物を見つけるのを待っているだけなら見つかることすらなかったかもしれない。仮定の話をしてもしょうがないと大抵の人は言うかもしれないが士郎からすれば案外バカに出来ない。何故なら彼はあらゆる特異点で"たった一つ"の出来事が変わったことで大きく変貌してしまった歴史を見て来たのだから…。

 

「それに失礼な言い方になるかもしれないが、少し勘違いをしているぞ?」

 

「勘違い…?」

 

「人間1人でできることなんて、限られているどころか案外少ないもんだ。だから誰かの力を借りて解決するんだ」

 

諭すように士郎は語る。それはかつて自分も言われた事。人理修復の旅で誰かを救うために体を張る彼にサーヴァントたちは一様にハラハラしていた。…そして一度それが度を過ぎてしまい、重症を負った。

 

その時はロマンとダヴィンチの一考で治癒に長けたサーヴァントがいたため命に別状がなく済んだが、仲間たちに多大な心配をかけしまったのだ。その事で謝ろうとみんながいる食堂に着いた途端…。

 

……立花から平手を食らった。

 

"どうして何も相談してくれないのか" "自分たちはそんなに頼りないのか" …ひとしきり怒鳴った後、立花は泣いてしまい慰めようと頭を撫でたり、抱きしめたりと色々要求されたが一応は収まった。

 

結果、ちゃんと仲間(みんな)を頼るようにと念を押されたのだ。

 

「重要なのは頼らないんじゃなくて、依存しないことなんじゃないか? ただ寄りかかるだけじゃなくて支え合って、乗り越えて、そして初めて人は成長するんだ」

 

 

どこか懐かしむ顔をしながらそう言う士郎は大人びており、実年齢より上に見える。その言葉に聞き入った雲雀は衝撃を受けた。

 

"飛鳥たち"に助けられるたびに雲雀は感謝すると同時に申し訳なさをいつも感じていた。やがてソレは蓄積していき、無意識にみんなの手を煩わせてはいけないと心の何処かで思い込んでいた。

 

けれど目の前の先輩は気に病み過ぎであり、杞憂だと断言する。

 

「支え合う……」

 

「そうだ、今回の事で助けられたと思うのなら今度は雲雀がみんなの力になればいい」

 

恩を受けたら恩で返す、それは誰もが知ってる当たり前のこと。けどそれはあまりにも当たり前過ぎて忘れがちな事。結局のところ雲雀は悩み過ぎてそれが見えていなかったのだ。

 

それがわかった途端、胸につっかえたものがストンと落ちるような気分になった。先程沈んでいた気持ちも今や見る影もない。

 

「これからどうやってみんなに返していけばいいのかな?」

 

「さあ、それはその時になってみないと分からないな。でも…」

 

再び大きくて優しい手が雲雀の頭に乗せられる。さっきとは違い、撫でられはしなかったがまるで包み込まれるような安心感を感じる。

 

「今は困ったり、苦しんでいる誰かのために何かしてあげたいと思っているだけで十分だ」

 

「…うん!」

 

優しく笑いかける士郎に雲雀は自然と顔が綻ぶ。屈託のない笑顔を取り戻した雲雀はすっかりいつもの天真爛漫で明るい少女だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雲雀編終了!! さて、残るは後1人ですねぇ(^ν^)今回の反省で以降は2話に分けて書くことも考慮しようと思います。それでは皆さん、次回の投稿でまたお会いしましょう!

あ、ちなみに今回は珍しいお客さんが来ております。

「ふむ、ここが作者とやらの部屋か」

ようこそいらっしゃいました、書文先生。今回は前世で士郎の拳法の師匠としてご紹介させていただきました。

「珂々っ! 師というほどのものではない。儂はただ実践さながらの体で手合わせをしているに過ぎん。あとはあやつが勝手に吸収するだけよ」

いや、それでも士郎からしてみれば貴重な経験でしょうよ。

「かも知れぬな。さて、早速用を済ませるとするか」

おや、自分に用ですか? 何でしょう?

「なに、他のサーヴァント曰くお主は殺しても死なぬというらしいからな。ならば儂の拳で殺しきれるか試そうと思ってな」

なにそれ物騒。ってか死ぬに決まってるでしょう!?

「坷々っ! 逃げても構わんぞ、その方がやり甲斐がある」

俊敏に特化したアサシンから逃げられるワケないだろ!!?

「七孔墳血________」

いいぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁあああ!!!(生涯最速の全力疾走)

「_____巻き死ねぃ!!」



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