ここは人理修復機関カルデア。その施設内にある衛宮士郎の個室では…
「きゃ〜♪ やっぱり似合うわメアリー!」
「うぅ〜……」
…ちょっとしたファッションショーが繰り広げられていた。
さて、何故こんな状況になっているのか? それを説明するためにはまず数十分前の出来事を話そう。
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「ふぅ…、こんなところか?」
一仕事終えたかのように息をつくのは我らが主人公、衛宮士郎。旅に出る発言をしてから2日、正確にいつ行くかまでは決まってはいないがいつでも出れるように荷物の整理や、装備の手入れを行なっていた。
「それにしても、随分と驚かれたな」
旅に出る旨を伝えた時のみんなの反応を思い出す。鼓膜が破れるかと思うほどの驚愕の声、何故という疑問、そしてダメ、絶対許さないという怒号。反応こそそれぞれだがそれだけ惜しんでくれているということだろう。
作業がひと段落したところでベッドに腰掛ける…、すると。
「お邪魔しますわ、シロウ♪」
突然の来訪者、その者の名はアン・ボニー。海の荒くれ者供がのさばるカリブ海にてかつてその名を轟かせた比翼の女海賊の片割れである。長身にグラマラスなスタイルを誇るアンはまさしくモデルのごとくであり、金糸を思わせる髪を揺らしながら部屋へ入る。海賊と名乗っちゃいるがその破天荒な性格と相反する上品な言葉遣いはどこかのご令嬢を彷彿とさせる。
「アンか、何か用か?」
「ええ、メアリーを探しているのだけどここに来ませんでした?」
「メアリー? いつも一緒にいると思っていたが、何かあったのか?…ってそれを見たら嫌でも分かるな」
アンが入室した時から手に持っていたモノ、それはゴスロリ服だ。黒を基調としたそのドレスはフリルがふんだんにあしらってあり実に華やかだ。…当然ながら同色のカチューシャも忘れない。
「察するにまたメアリーを着せ替え人形にしたのか?」
「あら、人聞きの悪い。私はただメアリーに似合う服を見つけたから着せて見たかっただけですわ」
アンは一般の女性と同じように服を見繕うのが趣味と言ってもいいほど好きだ。ただ、ほとんどの場合は着るのが自分ではなく相方であるメアリーだ。
「けど、メアリーが逃げるほど嫌がってるなら無理に追う必要はないんじゃないか?」
「本気で嫌がってるならここまでしませんわ。それにシロウだって似合うと思うでしょう?」
目の前に掲げられたゴスロリドレスを着たメアリーを想像してみる。小柄で幼さが残る容姿を持つ彼女にはこういった可憐な服装は確かによく似合う。そして普段はクールで凛々しい表情が常のメアリーが恥ずかしがりながら着ている様子もアンを悪ノリさせている原因だろう。
「ところで話は戻りますが、メアリーを知りません?」
「いや、すまないが見ていないな。力になれなくて悪い」
「…ふ〜ん」
士郎の返答に意地の悪い笑みを浮かべるアン。彼女達を召喚してから随分経つがその間に2人のクセや性質をそれなりに知った。中でもこの笑顔を見せる時のアンには注意すべきである。何故かって? それはロクでもないことを考えているからさ。
「フフ、では仕方ありませんわね♪」
そういうや否や、士郎の隣に腰掛ける。この部屋にはいないと知ったはずなのにどこか嬉しそうですらある。
「え〜っと…、アン? メアリーを探しに行かなくていいのか?」
「ええ、ここにもいないとなると諦めるしかありませんわね。では代わりにマスターと久々のスキンシップでもしようかと」
言いながらごく自然な動作で腕を絡め、まるで恋人同士のように寄り添う。長身美女であるアンが平均身長の男性と並ぶとどうしても差がありすぎてしまうのだが隣が士郎だと別だ。
冬木の聖杯戦争を経てから数年、高校を卒業した後気持ち悪いくらいに士郎の背が伸び続けた。そして現在はその身長はアーチャーに届きうるくらいに到達している。故に身長差はほとんどなく、アンの頭がコテンっと士郎の肩に難なく乗っかる。
「久々って…、いつもスキンシップを取っているような気がするが」
「あら、あんなの軽い挨拶ですわ。仲のいい友達同士がハイタッチするようなもの」
んなわけがない…。
彼女のいう"挨拶"とは会うなり腕を組んで密着、ハグをしつつも士郎の顔を見事なソフトマウンテンに埋めたりなどというものだ。…最近に至っては朝にアンのディープキスによって目覚めるという事件まで発生した。……ちなみに今まで挙げた挨拶の1つを他のサーヴァントも実行しているがここで名を言うまい。
…とにかく、そんな"挨拶"を友達同士のハイタッチと同レベルだと言うなら世の友情観念が歪む。
「まあせっかく来てくれたことだし、紅茶でも入れよう。なので一回離してもらってもいいか?」
流石に何度も同じようなことをされれば多少は慣れるもの。特に慌てることなく来客にお茶を出そうと持て成す士郎。しかし、当のアンにとっては喜ばしい反応ではなかった。
「むぅ〜…、あまり反応しなくなりましたわね。つまんないですわ」
「まあ、わりといつものことだからな」
他サーヴァントたちにも過剰なスキンシップを受けている士郎にとってもはや彼女達なりの挨拶であると認識されており、意識してしまうのは失礼だという勘違いが発生してしまっている。それをいいことに徐々に行為がエスカレートしてしまってもいるが…。
アンの行動も単に揶揄っているだけという結論が士郎の中に認識されている始末だ。
「…私は魅力がありませんか?」
さっきとは打って変わって、捨てられた子犬のような悲しげな顔で見つめてくるアン。言うまでのことではないがカルデアに召喚されている女性サーヴァントは皆平均以上に容姿が整っている。それこそ絶世の美女といっても過言ではないほどだ。
それはアンも例外ではない。抜群のプロポーションにモデルレベルの長身、おまけに長く豪奢な金髪まで揃えた彼女はまさしく艶やかだ。そんな美人が涙目で見つめてくる仕草は絶大な破壊力を有する。…もっともそこは正義の味方、衛宮士郎に女性を悲しませるような事態は許さない。
「そんなわけないだろ、魅力がないなんてそんな馬鹿なことがあるか」
「でも、見てくれは良くても所詮、私は海賊ですわ。…理由はどうあれ、奪うために殺めることを肯定した。所謂、血に塗れた女ですわ」
士郎の言葉がまだ心に響かず、アンはその端整な顔を俯かせ、自嘲気味な言葉を紡ぐ。その様子に士郎は意を決してアンに語りかける、ただの言葉じゃ足りない…自身の有りのままに心を伝える。
「アン」
そっと肩に手を置き、彼女の注意をこちらに向ける。こちらを見るアンはまだ不安そうな顔を覗かせ、縋るような目が視界に映る。
「確かにアンは生前から好き放題してきたんだろう。そしてそれは他者から奪うと言う海賊の性質にもっとも最適だった。…けど…」
間を置いた士郎はそこからアンを安心させるように優しげな笑顔で続ける。
「そんなことは関係ない。心の底から自由であるからこそアンは輝いている。何者にも縛られず、自分の意思で生き様を決めるアンは魅力に溢れた素敵な女性だ」
嘘も偽りもいらない。
たとえ世界中の人間がアン・ボニーを悪名高き海賊として覚えていても、目の前のマスターにとって彼女は最期まで己の生き方を誇り続けた者だから。
「……本当ですか?」
「ああ、嘘じゃない。誓ってもいい」
「嬉しい♪」
「うmっ!!?」
さっきまでのしおらしい態度が嘘のようにアンは声を弾ませながら士郎に抱きつく。弾けたかのような勢いで飛び交ったせいで士郎はベッドに押し倒される。完全にホールド状態のごとく組み敷かれた士郎は苦しげに声が呻く。…え? なんでかって? そんなのアナタ謎の2つのお餅で顔を押さえつけられてしまってるからに決まってるじゃない、言わせんな。
「そんな風に思っていてくれたなんて感激ですわ♪」
「ん〜!んん〜!!」(ちょ…、苦しい…!!)
「あら、ごめんなさい」
「プハッ、ぜぇ…ぜぇ…なあ、アン。さっきのはまさか演g…」
「なんのことだか分かりません♪」
あまりの豹変ぶりに落ち込んだフリをしていたんじゃないかと疑う士郎。しかし、問い詰めようにも当の本人は体制を変えて士郎の胸板に頬擦りしている。呆れた顔をしながらも演技とはいえ、悲しい顔を見ずに済んだと一安心……かと思いきや。
「ちょっ! アン!! 何やって」
「え〜、何ですか〜♪」
あろうことかアンはこっそりと士郎のシャツの下へと手を伸ばしているではないか。というかすでに潜り込んでおり見事に鍛えられた腹筋から胸へと手を這わせている。ゆっくりと滑っていく手指の動作は実にエロティックで官能的だ、見るものがいたら確実にxxxなことをしていると断定するだろう。
「づぁ!…ぐっ、アン、本当にこれ以上は…マズい」
「うふふ、いいんですよ。こーんなにも私を思ってくれるマスターになら精一杯のご奉仕を致します♪」
「こーんなにも」という台詞でアンはとある部分をさわさわしていたがどこなのかは公表すまい。とにかく、士郎はただいまライヴでピンチだ。このままではアン・ボニーと言う名の雌虎に喰われてしまう! というか今すぐ止めなければこの小説をR-18に書き換えなければならん!!
しかしこの瞬間、奇跡は起きた。無残に貪られる直前の羊に女神の救いがもたらされた!
「そこまでだよ、アン!!」
バン!!っと登場したのは比翼の海賊、そしてアンの相方であるメアリー・リード。颯爽と現れた彼女の姿は凛々しいの一言に尽きる……但し、出てきた場所が部屋のクローゼットでなければの話だが。
「あら、そんな所にいたのメアリー」
「話がちがうよアン。シロウを襲う時は2人一緒でって言う約束のはずだよ」
…訂正、現れたのは救いの女神ではなく便乗目的の女豹であった。
さて、皆の者は覚えているだろうか? アンが入室した時士郎は確かにメアリーを見ていないと発言した。にもかかわらずメアリー本人は士郎の部屋のクローゼットに隠れていたのだ。では士郎は嘘をついたのか? 答えは否である、士郎は実質嘘はついてはいない。これを説明するためには少し時を遡らなければならない。
〜アンが入室する五分前のこと〜
「ふぅ…そんなに経ってないとはいえ、大分こき使ったからなぁ。流石に傷んでいる」
装備のメンテナンス中だった士郎は特に来客の予定はなく、次の装備に移ろうとした瞬間を皮切りにスライドドアの音が耳に届く。
「ん? 誰d…」
「ストップ、シロウ。振り向かないで」
聞こえたのは幼さが残った気だるげな声。召喚してから付き合いが長いこともあって声の主がメアリーであることは瞬時に気づいた。サーヴァント達の中にはクセが強いものが多々いることもあり、普段ならもう少し警戒する。しかし相手がメアリーなら大丈夫だろうと言う信頼が士郎の動きを止まらせる。
「…うん、オッケー。そのまま話を聞いて」
「ふむ、何かあったのか?」
いつもより真剣な声色に思わず士郎も顔が強張る。
「(カルデア内で異常が発生したのか? いや、それならダ・ヴィンチかマシュから連絡が来るはず…)」
「よく聞いてシロウ、数分後にアンがこの部屋に来る。もし訪ねてきたらボクのことは見ていないって言って」
「…はい?」
思わず変な声を出してしまった士郎を誰も責めはすまい。深刻な事態かと思ったら…
「もしかしてまた、アンが服を見繕ってきたのか?」
「うん、だから今逃亡中なんだ。作業を続けてて、ボクの方で勝手に隠れとくから」
「…隠れてる所も見ない方がいいか?」
「念のためそうしてくれると嬉しいかな」
士郎のプライベートルームには何故か隠れられる場所が多数存在する。何故そんなものがあるのかは幾人かの読者はお分かりであろうからここには記さないでおくw
閑話休題…
そう、士郎が言っていたメアリーを見ていないという発言は事実だ。何せ彼女の姿を自らの目で捉えてはいないから。しかし…
「う〜ん、…こんな子供の屁理屈みたいな言い分が通用するか?」
「そこは大丈夫、アンのことだからボクが隠れそうな場所を片っ端から抑えるよ。当然ここも探しに来るけど士郎が上手く誤魔化してくれれば無問題」
「シロウのポーカーフェイスに期待してる」と呟きながらゴソゴソと音を立てるメアリー。ただこの案には1つ誤算があった。アンとメアリーは生前も今も互いに付き合いが長い。それこそ死後英霊となっても2人で1つのクラスに収まるほどだ。
メアリーはこの絆の深さを逆手に取ったつもりだが、逆を言えばアンとてメアリーが考えそうなことは手に取るように分かる。どうやらこの鬼ごっこはアンの方が一枚上手のようだ。
〜そして現在へ〜
「残念、メアリーがそこに隠れてなければ…」
「隠れてなければどうするつもりだったの? っていうかアン、ボクが隠れてる事に気付いてたよね」
そう、メアリーがクローゼットの中…正確にはクローゼット内にある潜伏スペースに潜んでいる事はすでにお見通しだったのだ。だというのにアンはあえてメアリーを直接捕らえるのではなく、誘き出す事にした……それも共通の意中相手を誘惑するという意地の悪い手段で。
ともかく、目の前で抜け駆けされてはさしものメアリーも飛び出ざるを得ない。
「とにかく! それ以上は許さないよアン」
「では、私が持ってきた服を着てくれるの?」
「ぐっ…そ、それは」
「嫌ならこのままシロウと(ゲイ・ボルグ!!)しますわ♪」
「ダメ! シロウと(エクスカリバー!!)するならボクも混ざる!!」
この状況、アンからしてみればどちらに転んでも得だ。そして冷静さを失ってしまったメアリーはどんどん視野が狭まってしまい、決断に窮する。
「さあ♪ どうするのメアリー?」
「うっ……ぐっぐぐぐぐ!っ」
そして冒頭へ…
「可愛いわー♪ メアリーももっと普段からこういうものを着ればいいのに」
「う〜…、こんな格好普段から出来るわけないよ。ボクが恥ずか死ぬ」
結局メアリーは大人しく着せられる羽目となった。了承を確認してからのアンの行動は早く、代わる代わる服を着せ変えた。清楚な白ワンピース、黒ゴスロリ、ミニスカキャミソールスタイル、果てにはスクール水着まで着せられたのだ。……ちなみにメアリーはスク水を特に嫌がったとか。
こうしてメアリーはアンに全面降伏したかのように見えるが転んでもただでは起きないのがメアリー・リードだ。彼女は最期の悪あがきにある条件を提示した。そしてその条件とは…
「………なんで俺まで」
そう、道連れである。メアリーは着せ替えをするなら士郎も一緒にと提案したのだ。これを聞いたアンは二つ返事で了承。メアリーの衣装に合わせた男性服を即座に見繕い、カップルファッションショーと化した。
当の士郎は衣服に別段、頓着はない。高校時代でも簡素なシャツにジーンズスタイルから始まり、現在ではレイシフトの時に自前のボディーアーマーと黒コート&聖骸布のスカーフといった出で立ちだ。…といってもこれは戦闘服だが。
「…うん、今更だけどごめん…シロウ」
「できれば思いとどまって欲しかったよ」
今になって冷静になったメアリーは事態の悪化具合にバツの悪そうな顔をしながら逸らしている。メアリーは現在、青のフリルドレスを身につけており容姿も相成って貴族のお嬢様のような出で立ちとなっている。アンはそれに合わせてリボンタイのピシッとしたタキシードを士郎用にコーディネイト。あっという間にご令嬢と執事の完成だ。
「それにしてもシロウの執事服姿は本当に似合ってますわね」
「それね、気のせいか着替えてから佇まいが一段とキチッとしてるよ」
「そうか? まあ、バイトで一時期執事を勤めてたからな。そのせいかすっかり着慣れた感じがするよ」
言いながら襟や裾を軽く直す。実質士郎は時計塔に在籍していた期間にエーデルフェルト家に雇われていたのだ。家事なら大得意な士郎だが執事の振る舞いなどはからっきしだったため、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトのお付きオーギュストにみっちり鍛えられた。
「では、折角ですので執事らしく対応して見ましょうか♪」
「唐突だな…、ってメアリーまで」
自分の隣に立っていたはずのメアリーがいつのまにか備え付けのテーブルに付き、ちょこんと淑やかに座っている。
「ごめん、シロウ。でもボクもシロウにお嬢様扱いされてみたい」
顔は無表情ながらも目がキラキラと期待に満ちており、視線をずらすとアンまでもがテーブルで待機している。2人がこうなってしまうと要望通りにしない限り事態は収まらないだろう。
「はぁ……、では僭越ながらお茶を淹れましょう。暫しお待ち下さい、お嬢様方」
エーデルフェルト家付き、オーギュスト仕込みの作法と礼儀をもって完全に執事と化した士郎。そして流れるかのように踵を返して調理場へと向かう。
…今からお茶菓子用意など無理? そんなもの誰が決めた? 執事ならこの程度可能にしてこそ真の執事だ。行くぞ、ティータイムの用意は十分か?
十分後〜
「美味しい〜♪ このビスコッティ、紅茶と相まって味が深まるわ」
「うん、そのまま齧ればサクッとした歯応えが際立つし、紅茶に浸せば風味が絶妙に合わさってまた違う味わいがある」
それぞれが紅茶とお茶菓子に舌太鼓を打つなか、士郎は粛々とお嬢様たちに紅茶のお代わりを淹れる。
「本日のティータイムにはくるみとイチジクを使ったビスコッティを、紅茶は旬のくるみと合わせてオータムナルをご用意しました」
メニューの説明を一字一句詰まることなく、焦ることもなくスラスラと述べる。もちろん、手を動かすことも忘れない。説明が終わる頃には追加の紅茶の入ったティーカップが音を立てることなくテーブルに置かれる。
「流石はシロウですわね。あのマリー・アントワネットが直接スカウトするのも頷けるもの」
「確かに、これだけ優秀な執事だったら是非とも欲しくなるよね」
アンが説明した通り、過去に士郎はあのマリーに執事にならないかと勧誘されたのだ。発端は第一特異点修復後、次の特異点への備えと戦力強化のために召喚を行った時だ。
なんと士郎は特異点で別れたばかりのマリー・アントワネットの召喚に成功した。ただ、残念なことにオルレアンで出会ったマリーではないため共に旅した記憶はない。しかしそんなものはこれから積み上げられるということで気を取り治して親睦を深めるために士郎発案の下、お茶会が開かれた。
そしてその茶会に出されたお菓子と紅茶のセレクションにマリーは大いに満足した。何せ一通り味わったあとに言った言葉が「私の執事にならない?」なのだ。
「と言われてもな、俺としてはただ召し上がってもらうなら常に最高の出来のものをとおもってるだけだぞ? まあ、かの王妃様にそこまで評価してもらえたなら光栄だ」
「むぅ……、今のシロウはボクたちの執事でしょ。主人の前で他の女のこと考えてデレデレしない」
「そうですわよ? 私たちよりマリーに褒めてもらう方が嬉しいのなら妬けちゃいますわ」
「えっと…、すまん。別にそんなつもりはなかったんだけど」
「だめ、許さない。罰としてそこに座って」
指差す先は士郎のベッド。いつもより有無を言わさない強引な態度に逆らったらいけないと察して士郎は大人しく従う。士郎がベッドに腰掛けたことを確認したメアリーとアンは椅子から立ち上がり、そのまま士郎の両隣へと腰を下ろす。左右を陣取った2人は自らの頭をコテンと寄りかからせる。
「…あー、これが罰なのか?」
「ううん、罰はこれからだよ? 執事なら主人の命令にはしたがうものだよね?」
「……俺にできる範囲なら」
「そう……、なら」
一拍置いたメアリーは声から重さを感じるようにはっきりと士郎へと伝える。
「旅に出ないで…このままボク達と一緒にいてよ」
「………」
「以前、ダヴィンチからカルデアの正規所属の勧誘があったのでしょう? なら…」
「ごめん、…それだけはできない。それだけは…」
「どうしても…ですか?」
「……ああ」
士郎の返答に重い沈黙が広がる。…分かっていたことだ。士郎の決意は揺らぎも変わりもしない、契約と絆で繋がっている彼女たちにはそれが嫌でも伝わってしまう。
「ごめんな…メアリー、アン」
「…ううん、半ば分かってたことだし」
「もう、そこは嘘でも行かないって言って欲しかったですわ」
気まずい空間を吹き払うように2人は拗ねた演技をする。対する士郎は気を遣わせしまったことに申し訳なさそうに顔を伏せる。共に特異点を戦い抜いた仲間として、いつしか心を交わした大切な人たちとして2人の望みは出来るだけ叶えてやりたい。…ただ、これだけはどうしても譲るわけにはいかない。
「でもやっぱり納得出来ないから、罰の追加だね」
「…はい?」
「記念すべき最初の命令に従わなかったのだから、うんと厳しいお仕置きが必要ですわね♪」
「いや、ちょっとまっ…?」(グッ)
反論しようと身じろぎした士郎は妙に動きづらさを感じた。何事もかと視線を下に向けると…
「これは…メアリーのリボン?」
そう、メアリーが普段から自分の剣に巻いているリボンがいつのまにか自分の手首を拘束しているではないか。とはいえ、体の幅と同じくらいに繋がれているのでそこまで不自由ではないがそれも…
「えい♪」
続くアンがリボンを引っ張り、瞬時に士郎の両手が後ろでに拘束される。どうやら密着中、密かに士郎の手にリボンを結びつけていたようだ。流石は比翼の女海賊、以心伝心もかくやのチームワークである。
「な、何するだぁ!?」
「もちろんお仕置き。 覚悟した方がいいよ、アンはともかくボクの方はいつもよりヤる気が湧いてるから」
「あら、その言い方だと私がいつもがっついてるように聞こえるわ」
「実際そうでしょ?」
「待て! さっきから不穏なセリフが聞こえるがどうするつもりだ!?」
「「えい」」
掛け声と同時に士郎はベッドへと押し倒され、2人の美女に組み敷かれる。倒れ込んだ士郎は仰向けざまに2人を見ると頰を薄っすらと赤らんだアンとメアリーが視界に映る。
「「いただきます♪」」
「ちょ、待て、シャレになら……アーっ!!」
こうして哀れな羊は雌虎と女豹にじっくり、骨までしゃぶられてしまったとさ。
……………大丈夫だよな?
メアリー「さて、どういうことか説明してもらうよ作者」
あの、説明も何も有無を言わせずカトラスとマスケット銃を突きつけられてもなんのことだかさっぱり…。((((;゚Д゚)))))))
アン「あら、言わなきゃ分かりませんか?」
メアリー「じゃあハッキリ言うけど…、どうしてあそこで話をきったの?」
え? そこに何か問題でも?
アン「大ありですわ! あそこはあのままシロウと私たちの情事へとつなげるのが常識でしょう?」
いやいやいや!? 常識じゃねえよ!! 何考えてんのこの人たち!? 作品がR-18入りしちゃうよ!!?
メアリー「そう、ならR-18版も書こうか」
無茶言うな!? 大体読者の方々にそんなに見せたいの!!?
アン「確かにジロジロと見られるのはいい気分じゃないわ」
メアリー「でもここに載せることで他のみんなへの牽制になる」
アン・メアリー「「全ては正妻の座を手に入れるために!!」」
メアリー「分かったら早速PCを立ち上げようか」
アン「もちろん、通勤中も休憩中も端末で更新してもらいますわよ♪」
いやだ……やめろ………オレのPCとスマホを手にジリジリとにじり寄るなぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!、!、!!!
…こうして作者のやつれた顔を見ない日がなかったとか。