「さて、何があったか説明してくれ春花」
ここは秘立蛇女子学院、その中でも選抜メンバーと言われるエリート達が集う生徒会執務室である。表社会はもちろんのこと裏社会でさえ、蛇女学院の場所も情報も不明と言われている。
襲撃後、選抜メンバーは皆部下の肩を借りて合流した春花の様子を見て事態の急変を察した。確認した焔は一旦、学院への帰還を優先してから報告を聞くこととなった。
「正直、驚いたぞ。お前ほどの実力者がそこまで追い込まれるなど」
「あら、心配してくれるの? ありがたい限りね」
「茶化すな」とため息混じりに焔は苦言する。蛇女メンバーたちは半蔵学園の忍学生同様に仲間意識もあるがそれ以上に彼女たちはお互いの実力に強い信頼がある。春花に至っては不利な状況でも立ち回り方で巧く切り抜けることが出来ると皆が確信している。
「教えてくれ、春花。探索中になにがあった? …お前をそこまで追い詰めたのは一体何者だ?」
問いかける焔はその好戦的な眼光をさらに細めた。半蔵学園での襲撃で些か不完全燃焼だった焔はその場にいなかった刺客と相対した春花にちょっとした嫉妬を覚えた。彼女もまた強者と戦う事で喜びを感じる戦闘者だった。
「…そうね、ハッキリ言って今後私達にとって一番厄介なのは彼? なのでしょうね。いいわ、みんなもよく聞いて…もしあの人物を一言で表すなら……」
重苦しく話す春花に詠、日影、未来とが注目する。今回の任務の成果報告を聞きに来た鈴音教諭も腕を組んだままその怜悧な視線を春花へと向ける。
「………イレギュラー…かしらね」
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Side 霧夜
いつも見慣れた半蔵学園の隠れ部屋。かつては俺も在籍し、俺が担当している教室だ。いつもなら俺が入れば飛鳥が元気な挨拶を交わし、葛城が今日の授業内容を急かし、斑鳩が佇まいを正し、柳生が静かに目をこちらに向け、雲雀が緊張で強張る。
だが俺が目にしたのは重苦しく、悔しげに顔を伏せる生徒たちの姿だった。この様子の飛鳥たちに事情を聞かないわけにもいかず、彼女たちの話によると…。
「蛇女子学院…か」
俺の言葉にみんなの肩が微かに揺れる。おそらくだが今回の襲来に彼女たちは苦い経験をしたのだろう。敗北を喫したのか、或いはそれ以外の要因か…。いずれにせよ、結果は芳しくないことは確かだ。
「霧夜先生……」
元気と笑顔がトレードマークと言えるあの飛鳥が縋るような目で俺を見る。これは彼女たちにとって本当の意味での実戦。忍と忍の戦いでスポーツマンシップも正々堂々というものはない。あるとすればたった1つの真理、勝者は生き、敗者は死ぬ。
飛鳥たちの初めての実戦は敗北に終わったが、彼女らはまだ生きている。これだけでも僥倖なのだ、そうでなければとっくに…。
「(いや、考えるのはよそう…)」
ありえたかもしれない最悪の結果を頭から振り払う。今はそんな場合ではない。生徒たちは皆揃って俺の言葉を待っている。おそらく初めて見るみんなの力ない目から慰めの言葉を待っているのだと予想できる、…だが
「いつもの威勢はどうした? まさかとは思うが蛇女の忍に負けて気落ちしたのか?」
ここで優しい言葉は彼女たちのためにはならない。それは決して彼女たちが目指す忍道ではないはずだ。
「もしそうだと言うのなら…、忍の道を諦めてここから出て行け」
俺の突き放すようなセリフに全員が驚愕の顔を一斉に向けてきた。一様の顔はまさしく裏切られたかのような心情を映し出す。…とここで1人が俺に噛み付いてくる。
「霧夜先生! 流石にその言い草はないだろ!! たしかに負けはしたけどアタイたちだって…」
「一生懸命やった…か? そこは認めよう。だが、それで敵が引き下がってくれるとでも?」
そう、これは競技でも遊戯でもない。命の奪い合いに発展してもなんらおかしくない世界なのだ。
「今回はなんの気まぐれなのか蛇女たちは見逃してくれたが、次はないだろう。2度目の敗北が最後になりかねない」
残酷な事実に飛鳥たちは暗い顔を伏せる。…それでも、
「(俺は…あの時の間違いを繰り返したくない)」
霧夜の脳裏に浮かぶのはかつての自分の教え子であり、飛鳥たちの先輩にあたる忍学生。自分の甘さ故に未熟なまま戦地へと送り出し、その結果彼女の命を落とす事態を招いてしまった。
あの時、心を鬼にしてでも厳しくすれば結果は変わっていたかもしれない。試験には合格しても戦地に向かわないように説得することもできたかもしれない。しかしそれはもう過ぎた話だ。今ここにいる自分がどう足掻こうと起こってしまったことはどうすることもできない。
「(だから今は信じよう、この子たちが折れずに立ち上がってくることを…)」
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飛鳥side
今まで努力を怠らずに自分を鍛えてきたと自負していた。来る日も来る日も鍛錬を続けて、自分が志す忍道を貫いてきたつもりだ。
けれども昨日のことを思い出すと、心が揺らいでしまう。
__お前の忍道がどれほど薄っぺらいか教えてやるよ
__軽い…、軽いんだよ! お前の信念と同じように
大した反撃をすることなく、ただひたすらに攻撃を受けていた焔ちゃんはなんてことないかのように立っていた。つまらなそうな顔でわたしを見下していた彼女は期待はずれだというように言葉を吐き捨てた。
霧夜先生の言う通り、焔ちゃんがその気になればいつでもわたしを殺せていたかもしれない。生きていればまた挑むことはできる…、けど次に会った時は果たして自分は彼女に勝てるだろうか? もし負ければ自分は……。
悪い想像を振り払おうとしてもまとわりつくように最悪の未来が何度もよぎる。焔が放った言葉に自身の意思が塗り潰されそうになる…、自分と彼女の力の差に心が挫けそうだ……、彼女の言った通り…自分の忍道は……
「(……違う)」
静かに、微かに、自分の心に小さな火が灯る。
「(…まだ終わりなんかじゃない)
折れかけていた飛鳥の心にある風景が蘇る。それはかつての幼き頃の事…
_____わたしはね、りっぱなしのびになるの!
将来の夢を士郎に問いかけた時、彼がなんの躊躇いも恥もなく「正義の味方」と告げた。その事実に同じ志を目指す仲間を見つけた様な気分になった飛鳥は臆面もなく祖父のような忍になりたいと語った。
…しかし、忍に関する事は決して口外してはいけないという祖父と両親の言いつけを思い出した飛鳥は取り繕おうと咄嗟に撤回をしようとするが…
___な、なんてね! ジョーダン…
_____いいんじゃないかな。
戯言だと笑ってくれてもいい。悲しいけれどもそれで秘密が守られるなら構わないとも思っていた。それでも彼は肯定した。
____あすかなら諦めないかぎり、絶対になれるさ。
自分を安心させてくれる、励ましてくれる笑顔で彼は確かにそう言ってくれた。
「霧夜先生…、わたしたちを鍛えてください!」
「………」
静かに見返す霧夜に飛鳥はなおも自分の意志を吐露する。
「今回は負けたけど、わたしたちはまだ生きてる。…だから次こそ勝てるように鍛えて欲しいんです、お願いします!」
今度こそ、自分の忍道を証明するために。揺るぎなき意志を貫くために。
「霧夜先生、アタイからも頼む!」
「私からもどうかお願いいたします、霧夜先生」
「このままじゃ終われない、それはきっと皆も同じはずだ」
「雲雀も鍛えてください、霧夜先生!」
「…肌で感じ取ったとは思うが、今のお前たちと蛇女の忍たちとの差は歴然だ。それに勝つとなると並大抵の修行では埋められない。それに耐えられる覚悟はあるか?」
試すように問う霧夜は教え子たちを信じるように返事を待つ。
「…あります! そうじゃなきゃ、わたしたちの正義は証明できないから!!」
強き意志のこもった目が霧夜を見返す。そこにはもはや先ほどの迷いも、苦渋も、ましてや諦めの色もない。代わりに彼女たちからは溢れる闘志が満ちている。上出来だ、それでこそ半蔵の忍。
「よく言った、みんな。ならばもうお前たちの覚悟は問わない、俺の知りうる全てを伝授しよう。今までの比ではないくらいに厳しくなると思え!」
「「「「「はい! 先生!!」」」」」
〜〜〜蛇女学院生徒会室〜〜〜
「それは間違いないんだな? 春花」
「ええ、厄介なことにあれだけの事をしておいてまだ余力があったわ」
そう供述する春花はやれやれと肩を竦めてため息を零す。いつも余裕のある態度がデフォルトの彼女にしては大変珍しい光景だ。その様子に他のメンバーは一層件の人物に興味が湧く。
「赤い外套の髑髏面か…。大層な実力の持ち主である事は間違いないな。 実にいい…、叶うなら私の手で確かめてみたいものだ」
「わしらが相手しとる間にそないな事があったんか。それも春花を相手にそこまで立ち回れるヤツとはな」
「っていうか逆にどうやったらそこまで翻弄できるか教えて欲しいかも…」
「何か言った、未来?」
「なんでもないです春花さま!!」
春花と未来のじゃれあいを他所に話し合いは続く。彼女たちの計画内では想定外の事態はある程度予測してはあるものの、今回の場合はほれをさらに超える代物だ。
「どうされます? 看過できないほどの障害であるなら手を打つべきではありませんか?」
「……計画に変更はない、大筋はこのまま続行する。但し髑髏の刺客に関しては精密な調査も必要になるだろう。本計画に情報収集も加える」
「「「「「はい」」」」」
詠の意見に淡々と答えるのは蛇女子学院の教師にして、選抜メンバー顧問、鈴音である。春花から提示された情報に表情を動かされる事はなく、ただ次の行動を思考して言い渡す。
「髑髏面なら遭遇した場合、可能であるなら生きたまま捕らえろ。春花たちの探索を妨害したなら巻物の場所を知っている可能性が高い」
「もし不可能だと断定した場合は?」
問いかけるはリーダーである焔。捕獲の有無を訪ねる彼女の様子は鋭さが増し、否が応でも空気が張り詰める。
「考えるまでもない、排除せよ。最もそのためには対策を練らねばならないが」
「はい、了解です」
焔の返事を聞き届けた鈴音は踵を返して生徒会室の隠し扉へと身を滑らせる。その足運びは無音の体現にして洗練され尽くした隠形。
「赤い外套か…一致するのはその点だけだが、可能性はある」
エレベーターのからくりに身を任せる鈴音は1人呟く。手を顎に添えながら今しがた聞かされた刺客の容姿特徴を脳内にて繰り返す。
「…朱き英雄か、ヤツだとするなら焔達には荷が重いやもしれん」
様々な思案が交差する中、少女たちの激動の初戦は幕を閉じた。
アルトリア「お疲れ様です、作者」
うん、労いの言葉は嬉しいんだけど聖剣を喉に添えながらいうセリフじゃないよね。
アルトリア「でしたらさっさと私とシロウの幕間を書きなさい」
アンタの他に何人リクエストしてると思ってんだ! 今初めて士郎のたらし振りを恨んだわ!!
アルトリア「それについては同意できなくもありませんが…」
アルトリア「ともかくです! 原作を辿れば正ヒロインである私が優先的に書かれるのが筋というものでしょう」
いや、それを言ったら遠坂嬢や桜嬢もいますが…
アルトリア「ここにはいないのですから除外でいいでしょう」
ぶっちゃけた!!?
アルトリア「という事なので貴方には2つの選択肢があります」
アルトリア「可及的速やかに私の幕間を書くか」
アルトリア「我が聖剣の前に塵となるか」
ちょ、待って! 今はまだm…
アルトリア「エクスカリバー!!!!」