少女達の真影、正義の味方の証明   作:健氏朗

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皆さん、お久しぶりです! 今回は戦闘オンリーなので士郎たらし成分は低めです。同時に一発目となる幕間も並行しておりますので今しばらくお待ちください。ではでは、どうぞ…


その者、打ち破ること能わず

さて、ここで少し春花という人物について話そう。

 

蛇女子学園所属の3年生にして学院を代表する選抜メンバーの1人にして最年長者。実力はメンバー内では最高ではないものの思考が実に柔軟にして臨機応変。リーダーである焔が純粋に自力が強く、正面からでも相手を粉砕できるのに対して春花は戦術を巧みに駆使して相手を掌中に踊らせるタイプだ。

 

自作の絡繰人形、自ら調合した毒物や小道具の併用、そして虚を突くかのように放たれる体術。その戦い方故に同じ選抜メンバーである4人からも相手にするのは非常に厄介と言わしめる人物こそが春花という忍びだ。

 

……そんな彼女がまさか自分以上に戦術を使いこなす者に巡り会うとは露ほども思っていなかったが。

 

 

「やれやれ、いい加減ガラクタが増えすぎているな。このままでは足場がなくなるんじゃないか?」

 

目の前の正体不明な人物が仮面の下で軽いため息をつきながら平然と立っている。発言通り、周囲には大量の絡繰人形が転がっているのだ。外傷の違いはあれど、全て再起動不可能なほどに破壊されており、文字通りのガラクタと成り果てている。

 

「…好都合ね、そのまま身動きできなくなれば後が楽になるかも」

 

春花は今、ポーカーフェイスを保つことに全力を注いでいた。自分の用意した忍人形が軽くあしらわれ、攻撃の隙間を縫って撒いた毒も躱され、さらに不意をついたと確信した体術すらも捌かれた。これだけの攻撃を対処されたにも関わらず、目の前の髑髏は息を乱しているような素振りが見えない。

 

「(皮肉ね…、表情を隠してるこっちが疲れちゃうなんて)」

 

現に春花は精神的な疲労と相手側からのプレッシャーにより少しづつ焦りが滲み始めている。いっそのこと自分も仮面を用意するべきだったかとくだらない思考を巡らせながらも手は一切休めない。

 

「行きなさい!」

 

命令と共に士郎へと肉薄する人形4体。その内2体はそれぞれクナイと刀を煌めかせて命を奪わんと振るう。

 

「っ!!」

 

相対する士郎は慌てることなく二刀を以て迎え撃つ。振るい迫る刀を双剣で捌いていく。振り下ろされる刃に己が剣をぶつけるのではなく、相手の太刀筋に合わせて剣を添えてずらす。必然的に刀の軌道は士郎を捉えることなく通り過ぎる。金属の激突音に混じって摩擦音が響く中、クナイを装備した人形も攻め込む。

 

「シッ!!」

 

しかしこれもまた士郎の想定範囲内。剣による防御と並行して体術の要領で逸らす。突き出される手首を狙って肘で打ちはらい、または膝を使って部分的に破壊する。

 

前世において士郎はカルデアにて様々な英霊たちに稽古をつけてもらっては彼らの技を目に焼き付けて、脳内に動きを叩き込んできた。しかし当然ながら剣の才能がない士郎に霊長の頂点と言わしめられた英霊たちの動きを完全再現出来るはずもない。

 

だが完全ではないものの、限りなく近づけることは可能。そして常人よりも頑丈な体と不倒の精神を持つ士郎は才あるものでも体を壊してしまうような修行に耐えうる。故に彼は自らの目で見た英霊たちの技術を模倣し続けて、その上で習得した技術を織り合わせて戦えるよう自分を鍛え続けた。

 

その甲斐あって士郎は複数の敵が混在する状況の中でも戦い抜いて見せた。前世での戦闘経験も役に立ったのだろう。ちなみに士郎は己のサーヴァントの1人、ナイチンゲールが持つ人体理解のスキルをアイディアに効率よく人体を破壊する術を身につけるべく身体構造を学んだりもした。…そんな理由で教えを請うたと彼女が知ったら憤慨しそうだが。

 

「(…やっぱりダメね、けど…)」

 

3体目の人形は素手であるにもかかわらず、士郎から距離を取っている。その差は明らかに間合いの外だ。しかし、人形が拳を向けてきた瞬間…

 

「っ!?」

 

炸裂する射出音。

 

同時に飛来する鉄の拳が士郎の頭部を狙う。身をずらして干将で弾こうと行動を起こすがここで春花の仕込みの1つが発動する。

 

「チッ!?」

 

飛んできた拳は本体である人形と細いワイヤーで繋がっていたのだ。そのワイヤーが蛇のごとくうねり剣を持つ腕を縛る。無論、それだけでは終わらない。

 

拘束に成功した人形が逆の腕をも構え、隻腕になったクナイ人形が仕留めんと刃を突き出す。数に任せるのではなく、動きを封じた上での同時攻撃に出たようだ。

 

だが、状況を把握しきってからの士郎の行動は速かった。右手の白剣を逆手に持ち替えて巻き込むようにクナイを捌く。そのままクナイごと腕を極める事に成功する士郎、そして捉えた腕を人形諸共前へと立たせる。

 

「チッ、上手いわね…」

 

判断力と実行への速さにさしもの春花も舌を巻く。盾のごとく差し出されたクナイ人形は拳の鉄球により頭部を破壊され、その上ワイヤーの餌食となった。

 

「ハッ!!」

 

裂帛の気合いと共にクナイ人形は蹴り飛ばされ、同時に白剣"莫耶"をワイヤー人形に向かって投射する。剣は稼働中枢を正確に捉え、人形の無力化に成功。…とひと息つく間もなく振り向きざまに干将を構える。

 

2体の襲撃に失敗に怯むことなく刀人形が背後を狙っていたのだ。春花とてこの事態は想定していなかったわけじゃない、なにせほんの少し前までは縦横無尽に襲い掛かる人形をこの髑髏は悉く倒してみせたのだから。…故に策はまだ成っていない。

 

士郎の背後にある空間が突如歪む。

 

…いや、その歪みは徐々に人の形へと変わる。

 

刹那に士郎は背後の気配を察知する。現れたのは春花がけしかけた人形、その4体目だった。実はこの人形、春花が試作として作った代物である。以前より春花は自分の人形たちにさらなる改良が出来ないか試行錯誤する中ある案に到達した。

 

忍とは気配を断つことを基本とする隠密者。相手に察知されない事で有利な状況で戦いを仕掛けるのを旨とする。それを人形に利用できないかと考え付いたのだ。とはいえ、忍の技である透遁術は人にしか使えない。いや、人形ならば迷彩を施せばいいだけだが他にも問題がある。

 

それは"音"だ。人間と比べて人形はその精巧な出来の代償として駆動音がどうしても発生してしまうのだ。発生音を最小限に抑える事は出来るがそれでも目の前にいる戦闘者には判ってしまう。

 

_____引き合え、干将・莫耶______

 

手に握る干将を起点に手元から離れた莫耶を呼び寄せる。ワイヤー人形に突き立った白剣は士郎目掛けて飛び、そのまま迷彩人形の頭を貫く。…しかし、

 

「(っ!しまっ…)」

 

無力化された人形はカチリという音を鳴らし、煙を発生させる。刀人形はいつのまにか武器を捨てて士郎の拘束に成功し、逃げる事すら許さなかった。

 

たちまち煙はたちこもり、士郎をその渦中に捉える。対する春花は策が功を成した瞬間すらも油断をせず、神経を尖らせながら目前の紫雲を見据える。……そして、

 

「…なるほど、これが本命か」

 

拘束してきた人形をも破壊するに成功するも時すでに遅し。先ほどの煙は考えるまでもなく毒の類いだろう、唯一の救いは麻痺毒であることだろう。体こそは動かないものの、致死毒特有の苦痛は今の所ない。

 

「これでチェックメイトね」

 

不敵に笑みながら歩み寄る春花。だが、接近はしても最低限の間合いを保ちつつ警戒を緩めない。確実に捉えたとはいえ戦闘においてなにが起こるか分からないのだ。油断してやられるくらいなら警戒しすぎるくらいが丁度いいだろう。

 

「流石だな、精鋭を集めて攻め込んだかと思いきや…全て囮とは」

 

「罠は忍の武器の1つ、それを駆使して戦うなら二重や三重じゃ足りないわ。それこそ、幾重にも張って使うものよ」

 

言葉と共にクナイを投射する春花。しかし、クナイは士郎に命中することなく傍らに落ちていた剣を弾いて遠ざける。おそらく人形に対処するためだったのだろう、先ほど使っていた双剣の姿はなく内反りの刀がたたずんでいたのだ。

 

「次から次へといろんな武器を出すわね。どれくらい隠し持ってるのかしら?」

 

「手品のようなものさ。残念ながらタネは明かせないがね」

 

「あら、この状況でまだ余裕そうね。次はどんな手品を見せてくれるの?」

 

「では、君の助言を見習わせてもらおう」

 

動けない状態の士郎の言葉に春花は怪訝な表情を覗かせる。……次の瞬間、

 

「っ!!?」

 

視界の端に不自然な灯りを察知すると同時に空気を焼き尽くさんばかりの熱を感じた。最速で後退することでようやく何が起こったか理解する。春花が立っていた位置に眩く、朱色に立ち上る火柱がそこにはあった。もし、一瞬でも回避が遅れていれば間違いなく火達磨になっていただろう。

 

……だが、仕掛けはまだ終わりではない。

 

「なっ!?」

 

今度は地面から氷の柱が伸び始め、氷柱のごとく尖ったそれはくノ一を目掛けて襲う。さしもの春花もこれには驚きを隠せず更なる緊急回避を実行。かなり無茶な体勢で避けたため、隙を晒してしまう…そして_

 

「っ!? きゃぁああ!!」

 

さらに壁の方向から風圧の塊が無防備な忍に叩きつけられる。咄嗟に人形を呼び寄せてからの防御に成功する。…が破城槌でも打ち込まれたような衝撃に春花は後方へと大きく吹き飛ばされてしまう、当然ながら直接それを受けた人形は無残に砕けた。

 

「っ……、はぁ…はぁ…」

 

着地と共に未だに膝をつく髑髏を見据える。

 

「(重傷ではないけど、かなりダメージをもらっちゃったわね)」

 

再度警戒し、今度こそ仕掛けがないことを確認する。先ほどの風圧が決め手だったのだろう。ならばこれで終わりと詰みをかけるべく自らも膝をついたところから立ち上が……

 

「!! …どうして!?」

 

どうしたことか、ついた膝が動かない…いや、動かせない。それどころか身体中に謎の痺れが奔っている。覚えのある感覚に春花はなんとなしに自分の左腕を見ると

 

「…毒針」

 

腕に引っかかった釣り針のようなものを発見。これで確定だ、自分はまんまと毒を受けてしまった。

 

「驚いて貰えたかね?」

 

極め付けはこれだ。さっきまで毒で動けないはずの髑髏が悠然とこちらへ歩み寄っている。

 

「アドバイスの返礼にいいことを教えよう。罠は複数張るのは定石だが特に重要なのは派手なものほど陽動に利用し、地味なものを本命にするとより効果的だ」

 

春花を襲った現象、実はそれら全てスカサハ仕込みのルーン魔術である。自在にとまではいかないものの、物質に刻む系統のルーン魔術なら戦術の一つとしては使えるくらいには扱える。…スカサハ()曰くまだまだだそうだが。

 

真に恐るべきは設置したルーン全てはただの陽動でしかなかったことだ。あれだけ派手な魔術を行使していればたかが小さな毒針など容易に覆い隠せる。

 

そしてなぜ士郎は動けるのか? 実は毒霧を受けた直後、完全に動けなくなる前にある宝具を発動している。

 

剣の銘は布都御魂ノ剣____

 

日本古事記に記述された神器、かの草薙ノ剣に次ぐ霊剣である。かつては神武天皇がその剣を帯び、自らの軍勢が負った毒気を剣の一振りで切り払ったという。

 

今回は身に受けた毒を解除するために使用したのだ。さらに相手に剣を遠ざけさせることで油断を誘う一助にしたことは春花には知る由もない。閑話休題…

 

「…完全に負けね。自ら罠に掛かっただけなんて」

 

ここまで来ればもはや完敗だ。せめて実力を測って情報を持って帰ろうとするも、結局底も知れないまま。撤退を思案するが自分は毒で動けず、部下たちも謎の布に未だ捕らわれている。万事休す、もはやここから生還など絶望的だ。

 

死神が迫る…、じきにこの命は絶たれるだろう。せめてこちらの情報を渡さないよう自決するのが最善。意を決して自らの舌を噛み切ろうと行動に移そうとしたその時、髑髏から意外な言葉が出る。

 

「さて、そろそろ頃合いだろう。ここで失礼させてもらう」

 

「…えっ?」

 

ここまで自分を追い詰めた張本人はあろうことかトドメを刺さずに踵を返したのだ。流石の春花もこれには呆然。訝しげに表情を曇らせた彼女はこの状況に混乱せざるを得ない。

 

「貴方、何が目的なの?」

 

「今回、依頼されたのは侵入者の撃退と時間稼ぎでね。それ以外の事柄に関しては特に厳命されていない」

 

「理解できないわね、だったら尚更ここで侵入者を始末した方がよっぽど効率的なはずよ」

 

「考えの相違だな。こちらからしてみればここで君を殺しても面倒なだけだ」

 

____面倒。

 

あまりにも予想がつかないキーワードにまた呆気にとられる。面倒だから殺さないなんて言う裏世界の住人がいるとでもいうのか。何という冗談みたいな考え。…そんな人物に負けてしまった自分はどうなんだと思う春花は思わず己を笑ってしまう。

 

「向こうもいい加減()()()()が済んでいるだろう。そちらも離脱した方がいいのではないか?」

 

髑髏の言葉に含みを感じた春花。今回の襲撃、本来の目的は別にある…どうやらそれすらも見抜かれていたようだ。

 

(予想してはいたけど、やっぱりお見通しってわけね)

 

「はぁ、…降参。せっかく見逃してくれるみたいだし、今回は大人しく帰るわ」

 

「是非、そうしてくれ。できれば今後会わないことを願うよ」

 

「あら、それはどうかしら? わたしこれでも負けず嫌いなの。だから…」

 

毒で痺れる体に鞭を打ちながら髑髏に不敵な笑みを浮かべる。敵ながらその精神力には天晴れと言わざるを得ない。

 

「この借り…、必ず返してあげる」

 

「……ああ、楽しみにしていよう」

 

その言葉を最後に髑髏は背を向け、その姿を消す。

脅威が去った安堵感から春花は全身から力が抜けるのを感じる。力量差を明確に感じた上に向こうは本気ではなかった。当の春花は全力ではあったが自身の手札は全て切ってはいない。…とはいえそれを持ち出してもあの髑髏に勝てるビジョンは浮かばない。

 

「春花様!」

 

「お前達、拘束が解けたの?」

 

「はい、どうやらあの妙な布は奴の姿とともに消えたようです」

 

どう言う原理なのかあの赤い布は拘束した部下たちに一切の抵抗を許さなかった。それだけでなく戦闘中に取り出した武器の数々、正直厄介極まりない相手だ。

 

「春花様、如何なさいますか?」

 

「…撤退よ。特定の方は失敗に終わったけど、本来の目的は果たしたわ。十分でしょう」

 

「はっ!」

 

これから報告しなければと思うと気が重くなる春花。計画の大きな障害になりうるあの人物にどう対処すればいいか検討せればなるまい。未だに動けない春花に部下の1人が肩を貸し、残りの2人が先導する。

 

「(…作戦を見直さなきゃいけないわね。さて、みんなにどう話したものかしら)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やめろ、ショッカー! ぶっ飛ばすぞー!!

「HAHAHA! 何だねそのショッカーというのは。私はただの通りすがりの天才発明家さ!!」

通りすがりの天才がいきなり人を拉致って改造紛いなことしてたまるか!!

「むぅ、何が不満なのかね? かなりの頻度でサーヴァント達から襲撃を受けていると聞いてちょっとした親切をと思ったまでだが」

これのどこが親切!?

「まずは生存率を上げるために身体の強度を引き上げ、その上で魔術に対する抵抗力をも高めるために色々施す予定だが…まあ、その影響で精神の方に多大な反作用があるかもしれないが、なぁに心配は要らない。何事も失敗はつきものだからね!」

心配しかねぇぇええ!! 放せぇぇぇぇええええ!、!!

「では早速始めるとしよう。直流式オペレーションシステム起動!」

Noooooo!!? なんかエイリアン映画とかに出そうな機械が迫ってくるーーーーーーー!!!!

「さあ、力を抜きたまえ! 終わる頃には君は最強のボディを得ているだろう!!」


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