零これ   作:LWD

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エクスは結構恥ずかしがり屋です。

褒められたりする事に対して殆ど耐性がありません。


歓迎会②

 

 

――夕立たちの元を離れ、金剛たちがいるテーブルに移動して数分。エクスは未だに恥ずかしい気分が抜け切れず、片手で顔を覆っていた。

 

「~~~……」

 

「エックス。大丈夫デース?」

 

隣にいる金剛が、心配そうに声をかけてくる。その隣にいる古鷹も、眠っている加古を支えながら心配そうにこちらを見る。

 

「だ、大丈夫です…」

 

それに対し、エクスは力なく返事する。

 

「まぁ、あまり気にしないでください。卯月ちゃんはイラズラしたり人をからかう事が好きな性格ですが、根はとてもいい子なんですよ」

 

(…あなたの新聞のせいじゃないですか)

 

恥ずかしい思いをした切っ掛けである新聞を作った青葉が、ジャガイモの煮物を食べながら卯月のフォローをする。そんな彼女をエクスはジト目で見る。

 

「でもよかったですね、金剛さん。ようやく戦艦が来てくれて」

 

青葉の隣で同じ料理を食べている彼女と同じ髪の色の少女――重巡『衣笠』が金剛に話しかける。

 

「そうデスネ。今までは私1人しかいませんでしたから大変デシタけど、エックスが来てくれマシタからこれでひと安心デース」

 

「あはは…。ですが、私が戦力になるにはまだ時間がかかりますけどね」

 

にっかりと笑って返答する金剛と、すぐに戦力にはなれないと言うエクス。衣笠は昨日の戦闘について話し始める。

 

「青葉から聞いたんだけど、エクスさんの撃つ砲弾は青く光るっていうのは本当なのですか?」

 

「そうデース!とってもビューティフルだったネ!あんな攻撃は初めて見まシタ!」

 

「えぇ、あまりに綺麗だったので私たちも敵も皆見とれてしまいました」

 

「まさに魔法の国の戦艦!という感じでしたね!かっこよかったです!」

 

金剛、古鷹、そして青葉の順にエクスの戦いに関する感想を述べる。ようやく落ち着いてきたエクスは、それを聞いて再び恥ずかしくなる。

 

「た、大した事はやっていないですよ。私は普通に砲撃しただけですから…」

 

「そんな謙遜しないでくださいよ。本当にすごかったんですから」

 

「…そんなにすごいの?あたしも見てみたいな~、エクスさんが砲撃するところ」

 

衣笠が羨ましそうにエクスを見る。

 

「今後は演習や訓練で見る機会がありますから、その時見れると思いますよ?」

 

「本当?やった!楽しみだな~。…ところで、エクスさん。エクスさんの祖国ってどんな所ですか?詳しく聞かせてください!」

 

「えぇ、いいですよ」

 

エクスは少し自慢気に自分の祖国について説明する。祖国、神聖ミリシアル帝国は高度な魔法文明を築いた世界最強の国家であること。他の文明圏の国家群との玄関口であり、多種多様な種族が観光に訪れる港街カルトアルパス。超高層ビルが立ち並び、夜は光魔法による幻想的な光に包まれる美しい街、帝都ルーンポリス。それ以外にも雄大な自然を満喫できる観光地の数々。

衣笠たちはその話を、まるでお伽噺の国に来たかのように聞き入る。

 

「良い国ですね~。もし行けたら行ってみたいな~」

 

衣笠は頬を紅潮させながら感想を述べる。

 

「あはは、ありがとうございます。もしできたらその時は案内しますね」

 

「それにしても世界最強の国ですか…。なんだかアメリカをイメージしますね」

 

「あめりか?」

 

「この世界でエクスさんの祖国みたいなポジションにある国ですよ。この日本からずっと東に進んだところにある大陸国家です」

 

「へぇ~、いつか行ってみたいですね…。その国に」

 

神聖ミリシアル帝国と同じ世界最強の称号を持つその国に、エクスは興味を抱く。

 

 

――――

 

 

その後金剛たちと別れ、まだ話したことのない人がいるところへと移動する。

 

(それにしても、金剛さんってあの体型でものすごくたくさん食べてたな。…というより私もさっきから結構食べてるはずなのに…あまりお腹が膨れない…。なぜ…?)

 

道中お腹をさすりながら、軽巡洋艦と呼ばれる少女たちがいるテーブルへ向かう。

 

「あら、あなたは…」

 

近づいてくるエクスに気付き、一人の軽巡洋艦娘がこちらを向く。

 

「はじめまして、戦艦『エクス』です」

 

「こんばんは。長良型軽巡、4番艦の『由良』です。ここの艦隊では主に対潜任務を行っています。よろしくお願いしますね」

 

「こちらこそよろしく(”たいせん”って何だ?)」

 

初めて聞く単語の意味を尋ねようとしたところで、一緒にいた黒セーラー服の少女が両腕を振り上げた独特のポーズをとりながら、由良の前に出る。

 

「こんばんは!由良と同じ長良型の5番艦『鬼怒』です!よろしくね、エクスさん!」

 

「こ、こちらこそよろしく…」

 

そして最後の一人も続けてあいさつする。

 

「はじめまして!同じく長良型6番艦『阿武隈』です!よろしくお願いします!」

 

「うん。よろしく」

 

全員のあいさつが終わったところで、鬼怒がエクスに再び話しかける。

 

「ねぇねぇ、エクスさん!古鷹さんから聞いたんだけど、性能試験で鳳翔さんの艦載機を相手にした時、パナイ対空砲火で迎え撃ったって本当!?」

 

「え?あぁ、本当だけど。でも、結局手も足も出ず惨敗だったけど…」

 

エクスは苦笑したまま、鳳翔の艦載機と相対した時の事を思い出す。自分の対空魔光砲が織りなす濃密な弾幕。あれだけの激しい攻撃を、あの艦載機たちは全くものともしなかった事に今でも驚いている。

 

「まぁ、鳳翔さんの航空隊は滅茶苦茶強いし、奇跡でも起きないと勝つことは出来ないからねー。私も何度も挑んだけど、ほとんど撃ち落せてないんだよね~」

 

「だからって負けるわけにはいかないものね。鬼怒は艦隊防空を担っているし」

 

「え、そうなのか?」

 

「そうだよ!摩耶さんと同じあたしも艦隊の空を守ることが役目なんだよ。もしかしたら敵に鳳翔さんよりも強い奴がいるかもしれないからね!だから鳳翔さんに勝つこと、これがあたしの今の目標なんだ!」

 

「そっか。鬼怒はすごいな」

 

「えへへ、ありがとう。…でもエクスさんの対空攻撃も凄かったって聞いたし、もしかしたら一緒に艦隊防空ができるかもしれないね!」

 

「あはは、そうだな。そうなれるようにこれから一生懸命自分を鍛えるよ」

 

「うん。いつか一緒に皆の空を守ろうね!」

 

「あぁ」

 

満面の笑顔を向ける鬼怒にエクスは頷く。

あの時も自分たちは、多数の航空機を相手にほとんど手も足も出なかった。これから先同じような事が起こらないとも限らない。航空機でも戦艦を沈められるという事を身をもって知った以上、対空戦闘能力の強化も必要であった。幸い自分の対空魔光弾投射量は非常に多い。何らかのコツを見つければ、自分の対空戦闘能力を大幅に向上させる事ができるかもしれない。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

由良たちと別れ、今度は鳳翔と同じ空母艦娘の『龍驤』がいるテーブルへと移動する。そこには彼女以外にも霞と清霜もいて、彼女からたこ焼きと言う料理を振る舞ってもらっていた。エクスも早速もらい、一口食べる。

 

(あちち…。これ結構美味しいな。あ、これはタコかな…?…あぁ、だから”たこ焼き”か)

 

ほくほくの衣の中に入っているタコの歯ごたえがくせになり、10個、20個と食べ進めていく。

 

「…しっかし、よく食べるな自分。さすが戦艦やな」

 

それを見て感心している龍驤の声を聞き、たこ焼きを食べる手を止めて彼女の方を向く。いつの間にかエクスの隣にはたこ焼きが載っていた皿が何枚も重ねられていて、既に100個近く食べていたことが分かる。

 

「んぐっ…。え?あぁ、さっきからたくさん食べているはずなのに、まだあまりお腹が膨れなくて…」

 

「別に不思議な事やないで?元々戦艦という船は、他より燃料や弾薬をいっぱい消費するやろ?だから艦娘になるとそらものすごい大喰いになってしまうんや」

 

「そうなのか?」

 

「せやで。うちら艦娘は船だった頃の特徴が再現されとる。うちらが戦うのに必要な燃料も弾薬も、修理に必要な鋼材も、大きくて強い艦になればなるほどたくさん必要になるんや。資材が無ければ、うちらは戦うどころか動くこともできひん」

 

ここでエクスは、真理恵から深海棲艦について説明を受けた時を思い出す。

 

「…たしかこの国、元々資源がほとんどなく輸入に頼っていたはずだよな…?それじゃあ…」

 

「…そうや。深海棲艦に制海権を奪われ、うちらが活動を始めてしばらくの間は補給が途絶えてしまったせいもあってわずかな資源であいつらと戦わなきゃならなかったわ。今は遠征のおかげである程度余裕ができたけど、最初の頃は本当に苦労したんやで」

 

「龍驤は艦娘が現れた頃にはもう戦っていたのか?」

 

龍驤は、半分側が焼けたたこ焼きを棒で回しながらゆっくりと頷く。

 

「そうや。この鎮守府が稼働する前も他の鎮守府に所属して深海棲艦と戦っていてな、ここが稼働したと同時に提督や霞、鳳翔、そして吹雪と共に着任したんや」

 

「さっき会った特型の1番艦の子か…。あの子も最初の時にいたんだな」

 

たこ焼きを食べ終え、こちらにやって来た霞と清霜が会話に加わる。

 

「それも最初の最初にいた子よ?吹雪は」

 

「?どういう事だ、霞?」

 

「あの子、吹雪は最初に存在を確認された艦娘の一人よ。当時一緒にいた4人の駆逐艦娘と、巡視船を沈められて孤立していた客船を深海棲艦から守ったって聞いたわ」

 

「吹雪ちゃんすごいんだ!吹雪ちゃんも霞ちゃんに負けないくらい強いんだよ!」

 

興奮しながら話す清霜に、霞は苦笑する。

 

「私より吹雪の方が強いわ。艦としての性能は私の方が上だけど、練度と合わせた総合力は彼女の方が上よ」

 

「そんなに強いのか、吹雪は?会った時はいたって普通の子だったけど…」

 

「普段わね。でも戦闘時はすごいわよ。この前の作戦でも戦艦級2隻を沈めてたしね」

 

「!!?」

 

これを聞いてエクスは耳を疑う。小口径砲しか持たない小型艦がどうやって戦艦を沈めたのだろうか?不可能とはいかずとも相当困難なはずだ。特型は従来より攻撃力が高いと言っていたが、そこまで強くなれるのだろうか?彼女の疑問は後の訓練で解けることになるが、質問しようとしたところで後ろから龍驤が声をかけてくる。

 

「……ところでエクス」

 

「何、龍驤?」

 

「今まで見てきたけど自分、重巡以上の艦娘には敬語で話すんやな…?」

 

「?あ~、そうだな。何となく重巡以上の人は大人っぽく感じるから、自然と敬語になるんだよな…」

 

因みに重巡以上でもエクスが素の口調で話す相手は第零式魔導艦隊のメンバーのみである。

 

「……自分、うちの艦種は何やと思うとる?」

 

龍驤はジト目で確認するようにエクスに尋ねる。それにエクスは全く悪意もなくさらりと答えてしまった。

 

「?駆逐艦だろ?」

 

瞬間、龍驤の表情が一気に暗くなる。同時に放たれた凄まじい威圧感に、エクスはおろか周りの者たちも気圧される。エクスの後ろにいる霞は、あちゃ~と言いながら額を片手で押さえる。清霜だけはその威圧感を感じ取れなかったのか、きょとんとしている。

 

「…え?龍驤?どうしたんだ?」

 

エクスは威圧されつつも、恐る恐る声をかける。

 

「……うちは空母や。駆逐艦やない」

 

「えぇ!?鳳翔さんと同じなのか!?」

 

エクスは目を見開く。彼女の頭の中では大きい艦が艦娘になった時は大人の姿になり、小さな艦は子供の姿になるのだと思っていた。だが目の前の少女は、艦時代の大きさと反比例する小柄な姿をしていた。

 

「…あはははははは。こりゃ参ったわ…。うち駆逐艦と思われてたんやな…。…自分、うちのどこから駆逐艦と判断したんや?…まさか」

 

龍驤は乾いたような笑い声を上げ、自身の胸を見下ろす。その目に光はなく、エクスは少しばかり恐怖を感じた。

 

「…まぁ、ええわ。とりあえず、その認識を正さなきゃあかんな…」

 

「な、何を…?」

 

どす黒いオーラを纏いながら、じりじりとエクスに近づく龍驤。エクスは恐怖で少しずつ後ずさる。

 

「うちは駆逐艦やなく、鳳翔と同じ空母やという事や。……実際にうちの艦載機を相手にしてもらってな。…勿論実弾で」

 

「じ、実弾…!?」

 

後ろのテーブルが背中に当たり、エクスはそれ以上下がれなくなる。やがて彼女の目の前まで来た龍驤は、ハイライトの消えた瞳で向けたまま、彼女の腕を力強く掴む。

 

「え、ちょ!!」

 

「…さぁ、行くで演習場にごふん!!?」

 

そう言ってエクスの腕を引っ張ろうとした時、突如龍驤の体が沈んだ。

 

「ダメですよ、龍驤さん。まだ資材は十分ではないのですから」

 

「…!?」

 

続いてついさっき会ったばかりの声が龍驤の後ろから聞こえてきた。崩れ落ちる龍驤の後ろから姿を現した一人の少女。

 

「あらっ、私が止めるまでもなかったわね」

 

「あっ、吹雪ちゃん!」

 

霞は握った拳を下ろし、清霜は龍驤を鎮めた特型駆逐艦の長女の名を呼ぶ。吹雪は気絶した龍驤を抱えたまま、エクスににっこりと笑顔を向ける。

 

「大丈夫ですか、エクスさん」

 

「あ、あぁ、ありがとう、助かったよ…」

 

エクスはぎこちなく礼を述べながら、吹雪の顔を見る。

 

(な、なんだこの子の目…?さっき会話したときと雰囲気が全然違う…。本当に小型艦か…?)

 

先ほどとはまるで異なり、強者を思わせる威圧感を出している吹雪に、エクスは息を飲む。

 

「お気になさらず。…じゃあ私、龍驤さんを医務室まで連れて行きますから、これで…」

 

そう言って吹雪は踵を返し、鳳翔と共に気絶した龍驤を連れて大食堂を後にした。彼女らを見送ったところで、霞が呆然としているエクスに話しかける。

 

「エクス。あんたに一つ言い忘れてたことがあったけど」

 

「え?」

 

「龍驤さんに『駆逐艦』や『胸が小さい』は禁句よ。言うと実弾演習まっしぐらだから、くれぐれも気を付けなさい」

 

「あ、あぁ、分かった」

 

エクスは頷き、同時に絶対に言うものかと心に誓うのだった。

 

「エクスさん、大丈夫…?」

 

清霜が心配そうに話しかける。エクスは笑みを浮かべ、彼女の頭を撫でてあげる。

 

「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう」

 

「えへへ。よかった」

 

清霜も満面の笑みを浮かべる。

 

その後は清霜、霞の3人でいろんな所を回り、神風姉妹や天龍姉妹、明石、憲兵、そして職員の人たちと楽しく会話をしていった。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

あっという間に時間が過ぎ、歓迎会はお開きとなった。2次会をする者はそのまま大食堂に残ったが、軽巡や駆逐艦は全員寮へと帰っていく。

 

「じゃあ、エクスさん。また、明日ね。おやすみなさい!」

 

「あぁ、おやすみ」

 

エクスに見送られ、清霜も霞も大食堂を後にした。

 

(さて、ようやくお腹いっぱいになったし、少し外に出て涼んでくるかな…)

 

エクスは大食堂の出口と反対側にある広いベランダへ出ようと歩き始める。

 

「あっ、エクスさん。お酒飲みませんか?」

 

1人の女性職員がチューハイ入りの缶を片手に話しかけるが、エクスは首を横に振る。

 

「いえ、今回は遠慮しておきます。ちょっと涼みに行きたいので…」

 

「そうですか。すいません」

 

「いえ…」

 

やんわりと断り、エクスはベランダに出る。そこには既に先客がいた。

 

「あら、エクスちゃん」

 

「あっ、提督」

 

真理恵がビールを片手にこちらを向く。

 

「……隣、良いですか?」

 

「えぇ、いいわよ」

 

「失礼します」

 

エクスは真理恵の隣に移動し、手すりに両腕を乗せる。

 

途端、風が吹く。春の夜に吹く風は涼しく、とても心地良かった。

 

(本当…。こうして風に当たっていると、自分が実体を持ったことが未だに信じられない気分になる)

 

ふと上を見上げる。夜空に浮かぶ満月が、やさしい光でエクスと真理恵を照らしていた。そこに風の吹く音と遠くから聞こえる波の音も加わり、それらは2人に、どこか神秘的な場所にいると錯覚させる。

 

「どうだったかしら、歓迎会は?」

 

ビール缶を何度か傾けてから、真理恵がエクスに今回の催しの感想を尋ねる。

 

「はい、とても楽しかったです。私のためにこのような会を開いてくださって、本当にありがとうございました」

 

「そう、それは良かった」

 

真理恵は笑みを浮かべ、再びビールに口を付ける。エクスは海に目を向け、素直な感想を述べる。

 

「…提督。海ってこんなに綺麗なんですね」

 

「エクスの世界の海はどんな感じ?」

 

「この世界と同じ、青く美しい海です」

 

「へぇ~」

 

「…でも、この海は私のいた世界の海とは違って平和ではないのですよね?」

 

「えぇ、深海棲艦が闊歩している場所だから、誰も海に近づけない。それどころか陸で暮らす人たちにも”奴ら”は襲ってくる。……だからこそ、”彼女たち”は戦っている。…守るべき人たちを守るため、そして海を取り戻すため」

 

「……」

 

エクスは今後どうするか考える。真理恵は自分を元の世界へ帰してくれると言ったが、自分はあの世界で仲間ともども沈んだ身。仮に戻れても前と同じ状態に戻れるのかよく分からなかった。

 

(そういえば、ミスリル姉はどうしているだろう…?)

 

エクスは祖国にいる姉のことを想う。彼女は大切な妹を2人も失ってしまったのだ。きっと今頃悲しんでいるかもしれない。

 

「…提督。私を元に世界に帰すって仰っていましたよね?元の世界に帰った時の私はどうなるのですか?」

 

エクスは真理恵に確認をとる。

 

「無論艦娘のまま戻ることになるわ。元の世界でもその状態で暮らせるように、私が先にその世界に行ってあなたの生活基盤を整えてきてあげる。…こう見えても私、優秀な魔導師なの。なんとかしてみせるわ」

 

どや顔で答える真理恵に、エクスは再度質問する。

 

「私…向こうに姉がいるんです。姉に…会えるのでしょうか?」

 

「……」

 

真理恵はしばらく黙り込み、再び口を開く。

 

「実体化した船魂は、…同じ存在だった船魂を見ることはできなくなってしまうらしいわ。…残念だけど」

 

「そう…ですか…」

 

元の世界に帰れたとしも、姉はおろか、他の船魂の存在を認識することができないと言う事実を知り、エクスは大きくショックを受けて俯く。

元の世界に自分の居場所は…存在しない。そう思うと、目から涙が溢れてくる。それを見た真理恵が、そっと手をエクスの頭に乗せる。

 

「…ごめんなさい」

 

「…提督のせいじゃないです。むしろ私は提督に感謝しています。私が今もこうしてここにいるのは提督の…いえ、提督たちのおかげなんですから…」

 

エクスは涙を拭き、ゆっくりと顔を上げる。

 

「私、この世界に来てまだ3日しか経っていませんけど、数えきれないほどのたくさんの出会いを経験しました。…その誰もが、異世界から来た私を仲間として温かく迎えてくた」

 

この3日間で出会った人々の姿が脳裏を横切る。私を元気づけようとおにぎりを持ってきてくれた清霜。悲しむ私を慰めようと優しく抱きしめてくれた提督。きつい物言いながらも心配してくれた霞。まだこの鎮守府についてよく分からない私に色々教えてくれた鳳翔さん。可愛らしい妖精たち。深海棲艦の攻撃を受けた時、助けてくれた青葉さんと古鷹さん。それ以外にもこの鎮守府にいる多くの人々。

 

「…それは前の世界で仲間を全て失い、悲しみに暮れていた私にとって大きな支えになりました」

 

彼らと交流していくうちに、私は空っぽになっていた自分の心が、次第に何かで満たされていくのを感じた。それはとても温かくて心地良いものだった。

 

「だから私も、彼ら…”仲間”の支えになりたい。そして強くなって、…今度こそ”仲間”を守りたい」

 

私はもう無力じゃない。この世界の”仲間”たちを必ず守ってみせる。

 

「だからお願いがあります、提督」

 

私は姿勢を正し、敬礼する。

 

「私、戦艦「エクス」も…深海棲艦と戦わせてください…!」

 

「……」

 

しばしの沈黙。真理恵が満面の笑みを浮かべ口を開く。

 

「ダメ~」

 

「…………は?」

 

エクスはその答えに固まる。

瞬間、真理恵は一瞬でエクスの後ろに移動し、……彼女の脇をくすぐり始めた。

 

「えっ!?ちょっ、ていと…!ひひっ…!」

 

「ほらほら~、エクスちゃ~ん。我慢しないで笑って笑って~!」

 

「ひひっ、は……あは…あははははっ!!や、やめてください!」

 

くすぐられる事数分。ようやくエクスは解放される。

 

「い、いきなり何するのですか…」

 

その場に座り込み、息も絶え絶えに尋ねるエクス。真理恵はポッケから煮干しを取出し、口にくわえる。

 

「うん。やっぱりあなたは笑っているのが一番よ?その方が可愛いし」

 

「かわ…!?…ってそれより!先ほどのダメってどういう意味ですか!?」

 

顔を上げた途端、真理恵がエクスに向かって指をさす。

 

「まずは訓練!」

 

「…!!」

 

「昨日も言ったでしょ?あなたは訓練すらやっていない素人艦娘。まずは訓練で練度を上げてもらうわ。深海棲艦と戦ってもらうのはそれからよ?OK?」

 

エクスの顔が明るくなる。

 

「提督…!」

 

「ふふっ、嬉しいわ~。あなたが一緒に戦ってくれることを決意してくれて。これでこの鎮守府はもっと賑やかになるわ~」

 

真理恵はエクスの腕を掴み、立ち上がらせる。

 

「じゃあ、改めまして。…戦艦『エクス』。ただ今を持ちまして、貴艦に横須賀鎮守府への着任を命じます」

 

煮干しを飲み込み、敬礼する真理恵。エクスは凛とした笑顔で、再び彼女に敬礼する。

 

「はいっ!神聖ミリシアル帝国、第零式魔導艦隊旗艦、ミスリル級魔導戦艦2番艦『エクス』。ただ今着任致しました!仲間と共に必ずや、この世界の暁の水平線に、勝利を刻んでみせましょう!よろしくお願いします!」

 

こうして魔導戦艦『エクス』は艦娘となり、この世界の危機に新たな仲間たちと共に立ち向かっていく事になった。

 

 

 

第1章『邂逅編』 ~完~

 

 

To be continued...





第1章はこれにて完結です。この後番外編を何分か挟んで第2章『訓練編』に移ります。

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