二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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前半、アリィーに暴力を振るうトゥがいます。注意。


後半は、ビダーシャルとの会話で、トゥが自分自身を交渉材料に交渉します。


第九十四話  トゥ、ビダーシャルと再会する

 アリィーというエルフが、トゥ達を見る目は…、それはまるで動物を見る目だった。

「おい、蛮人どもに僕のベットを使わせているのか?」

「別にあなたのってわけじゃないわ。お客用よ。」

「どのみち、エルフが使うベットに蛮人を寝させるってのは感心しないな。」

「……ねえ、あなたが、私達を攫ったの?」

「なんだ?」

「ねえ、ルクシャナ。彼が私達を攫うときに誰かを傷つけたりした?」

「さあ? その過程は知らないけど。何人かは傷つけたらしいわ。女の子だって聞いたわ。」

「そう…。」

「さっきからなん…っゴフ!?」

 次の瞬間、くの字に曲がったアリィーが吹っ飛び泉に落ちた。

 アリィーがいた場所に、トゥが今まさにアリィーの腹に拳を振ったと言わんばかりの格好で立っていた。

「さっさと上がって。まだまだ足りないから。」

「き…さ…ま…!」

 水面に上がってきたアリィーが腹を押さえながら桟橋に上がってきた。

「トゥさん、やめて!」

「ちょっと喧嘩するならよそでやってよ!」

「何を言ってるんだ、手を出してきたのは向こうだぞ!」

「ルイズとタバサちゃんを傷つけた分…、まだまだ足りないよ。」

「ルイズ? タバサ? ああ、確かに君を連れて行こうとしたら、邪魔をしてきた奴らがいたが、一人は虚無の末裔だったから、殺しはしていない。安心しろよ。」

 アリィーは、まるでそうできなかったのが残念だったと言わんばかりに言った。

「そう…。じゃ、腕の一本や二本は覚悟してね。」

 トゥは、ゴキゴキと手を鳴らしながらアリィーに近づこうとした。

 一瞬肩を震わせたアリィーは、呪文を唱えようとした。

「いい加減にしなさい!」

 ルクシャナの怒声で、二人は止まった。

「ここは、私の家よ!」

「君は蛮人の味方をするのか!」

「そういうわけじゃないわよ。あなた、人の家で精霊の力を使おうとしたじゃないの。とにかく、私の家で争わないって約束して。じゃないと、二度と扉をくぐらせないわよ。」

「っ……、貴様、覚えておけよ。」

「そっちこそ。」

「トゥさん、落ち着いて。」

「……ごめん。」

 ティファニアにたしなめられ、トゥは謝った。

「とにかく貴様ら、竜に乗れ、ビダーシャル様がお呼びだ。」

 どうやらアリィーは、トゥとティファニアを呼ぶために来たらしかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 海に浮かんだ都市……。その光景はまさにその言葉通りのものだった。

 竜に乗って数十分すると、砂漠を越えた先にある海が見えた。

 その海に大規模な埋立地が並び、その間に無数の船が行き交っている。

 まるで、海の国みたいだなぁっと、トゥは思った。隣にいるティファニアは、目を丸くしてその光景に見ていた。

 確かにこれだけの都市を築けるのだから、トリスティンや、それ以外の国の人間達のことを蛮人と呼ぶのも頷けなくもない。

「驚かないの? 空からアディールを見た蛮人は、あんまり多くないはずだわ。」

 トゥとティファニアの後ろにいるルクシャナが聞いてきた。

「うーん。ああいう感じの建造物は、結構あったと思うから…。」

「あら、そうなの? いつの間にか蛮人の建造技術が私達に追いついたのかしら?」

「そういうわけじゃないんだけど…、私がもといた世界の話だから…。」

「興味深いわね。どういうこと?」

「おい、ルクシャナ。蛮人の言葉を真に受けるな。」

 不機嫌そうにそう言うアリィーに、ルクシャナは、べぇーっと舌を出した。

 やがて風竜が下降しだし、アディールの中央に位置する、カスバ、エルフの国ネフテスを動かす評議会が置かれた場所に降りていった。

 建物の屋上に着陸すると、何人ものエルフが出迎えた。

 彼らは物珍しそうにトゥとティファニアを見つめ、時折ニヤニヤしていた。

『チッ、感じ悪いぜ。』

「デルフ。静かに。」

 ボソッと言うデルフリンガーを、トゥは鞘に収めた。

 エルフ達は、喋った剣に一瞬驚いていた。

 しかし、やがて彼らは、ティファニアに驚きだしていた。

 悪魔であるトゥより、ハーフエルフのティファニアの方が驚くべき対象らしい。まあ、六千年前の言い伝えの悪魔とじゃ違うだろう。

 すると、一人のエルフがティファニアに近づいて、ティファニアに文句を言った。だが早口だったので聞き取れなかった。キョトンっとするティファニアの手を掴もうとしたのでトゥが間に入った。

「ティファちゃんに乱暴しないで。」

 トゥの顔を見たエルフは、顔を青くして何かわめいて離れていった。

 他のエルフ達も距離を取り、わめきだした。

「? 何を言ってるの?」

「シャイターンって言ってるのよ。」

「ふーん。」

 トゥがわめいているエルフ達を、目を細めて見回す。

 わめいたエルフ達は、トゥに睨まれていると判断したのか、黙りだした。中には短剣を取り出し構える者もいた。しかしその手は震えている。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 なんだかんだあったが、ビダーシャルの執務室に通された。

 警護の戦士達はいなくなり、アリィーとルクシャナだけになった。

 トゥは、建物内を見回した。

 なんとなく居心地が悪く感じた。

 なんというか、生活感が無いのだ。ゴチャゴチャしたトリスティンの貴族の屋敷に慣れてしまったというのもあるのだろうが…。

 しばらくすると、扉が開いてビダーシャルが姿を現した。

「久しぶりだな、蛮人の戦士よ。いや…悪魔か。」

「…久しぶりです。」

 挨拶を交わし、そして部屋に入ると、ビダーシャルは部屋の椅子に座った。

「何のご用ですか?」

「では、単刀直入に聞く。まずは、お前達…、虚無の力を持つ者の氏名をすべて述べてほしい。我々の方でも幾人かは確認しているが、すべてというわけではないし、確実性がほしいのでな。」

「それを知ってどうするの?」

「虚無の真の力が目覚めることは我々としては喜ばしくないからだ。」

「教えても良いけど、その代わり、私の心を消すのはやめてほしいな。」

「なぜだ?」

「そんなことをしたら、コレ(花)が勝手に動き出してエルフの国も全部滅ぼしちゃうよ?」

「……なるほど。」

 ビダーシャルは、少し考え込むように腕を組んだ。

「ウソでは無いようだな。」

「うん。」

「では、評議会には、そう進言しよう。では、教えてもらえるか?」

「ここにいる、ティファちゃん…、ティファニアが虚無の担い手だよ。」

「トゥさん…。」

「なんと…。」

 不安がるティファニアと、少し驚くビダーシャル。ルクシャナは、興味深そうにティファニアを見て、アリィーはかなり驚いていた。

「どうせ何が何でも聞き出すんでしょ?」

 トゥは、扉の外で待機しているエルフをちらりと見た。彼女は、薬のような物を持っていたのだ。

「何もかもお見通しか…。」

「全部じゃないよ。外に気配があったし、喋らせるなら自白剤とかありそうだったから。」

「では、残る者は?」

「そっちは、何人知ってるの?」

「おまえをここへ連れてくる際に、一人…、あと、ガリアの王がそうであったか…。」

「今のロマリアの教皇聖下さんと、ガリア王と、ルイズがそうだよ。」

「トゥさん…。」

「どうせどうあがいたってバレることだよ。隠したって意味は無い。そうでしょ?」

「次期ガリア王は、虚無ではなかったはずだが?」

「色々とあって…。ジョゼットっていう子が…。」

「そうか…。」

「ねえ、聞いてもいい?」

「なんだ?」

「シャイターンの門には何があるの?」

 するとビダーシャルは、口をつぐんだ。

「ちょっと、聞いたらダメよ。」

 ルクシャナが注意してきた。

「こっちは、虚無の担い手のことを話したよ。こっちが知りたいことを聞いたっていいでしょ?」

「それはできぬ。」

「どうして?」

「シャイターンの門を封じ続けることは、我ら一族の義務なのだ。虚無の担い手…、ましてや悪魔を近づけさせるわけにはいかぬ。」

「そう…。」

 トゥは、目を細め、スウッと息を吸った。

「貴様…!」

「…話してくれる?」

 トゥは、ウタおうとするのを止め、再び聞いた。

「それは、…できぬ。」

「そうそう。コレ(花)は、いつでも暴走させることはできるよ。それを忘れないでね。別に息を止めなくたってできるんだから。」

 汗をかくビダーシャルに、トゥは念を押すように言った。トゥの足下からは、床の材質から作られた触手が伸びてきて止まっていた。

「あと、ティファちゃんにも手を出してもダメだからね。」

「…分かった。」

 二人がそう会話していると、やがて扉の向こうからエルフがやってきてビダーシャルに何か伝えた。

「評議会に今一度進言すべき事があると。そう伝えてくれ。」

「はい。」

 評議会からの使いを帰し、ビダーシャルは、ため息を吐いた。

「どうしたの?」

「評議会は、お前達の心を消すと決定した。」

「そんなことしたら…。」

「決定はなんとしてでも止める。そんなことをすれば全てが滅びる。そうだな?」

「……うん。」

「お前の心と花は、密接な関係にあるモノならば、悪魔の力の源たる、花を止める心(精神)を消すことは、あまりにも愚かなことだ。決行される一週間までになんとしてでも止めなければ…。」

「お願いします。」

 トゥは、頭を下げた。

 ティファニアは、泣きそうな顔で、二人のやりとりを聞いていた。

 




原作と違って、身体能力が違いすぎるでぶっ飛ばされるアリィー。腹に穴が空かないだけ、まだ手加減してもらってます。

ビダーシャルを軽く脅す。でも喋らないビダーシャルでした。

次は、地下牢からの脱出。

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