最初はタバサを加えるつもりはなかったんですが、加えることにしました。
美味しいご飯を食べてお腹いっぱいになり、お酒を飲んだトゥは、ウトウトと眠ってしまった。
キュルケもあくびをし、コルベールの首根っこを掴んで二階の部屋に消えた。
ヘレンも、帰り支度をしてさっさと出て行ってしまった。
シエスタは、寝ているトゥの腕を掴んで起き上がらせようとした。
「むぅ…。」
「トゥさん、風邪引いちゃいますよ?」
「うぅ~。」
「もう、仕方ないですね。」
シエスタは、そう言いつつ、よっこらしょとトゥを背負い、二階の寝室へと運び込んだ。
「今日は久しぶりですから、私がお借りしちゃいますね! ミス・ヴァリエール!」
「そ、分かったわ。」
「?」
あっさりと返事を返したルイズに、シエスタは、一瞬キョトンとしたが許可を得られたと理解するや否や、寝ているトゥに、キャアキャアっとわめいてトゥに頬をすり寄せた。
トゥは、寝ながらむ~っとか、う~っとか唸っている。
シエスタは、チラッとルイズの方を見たが、ルイズは全然動じてなかった。
おかしい…。こんなの見せられたら、前のルイズなら、怒りと嫉妬に震えていただろう。だが、ルイズは、ものすごい余裕な感じで椅子に座って自分の髪をすいていた。
「トゥさんにキスしちゃいますよ!」
シエスタが、唇をトゥに近づける。だがそれでもルイズは動じない。
もうなんというか、別人のような余裕ぶりだ。
シエスタは、汗をかいた。
「どうしたんですか、ミス・ヴァリエール!」
「なに?」
「いつものように怒らないんですか!? 嫉妬しないんですか!?」
「怒る? 嫉妬? なにそれ?」
もし扇子を持っていたらパタパタと自分の顔を扇いでいるような余裕ぶりでルイズは答える。
「ガリアで何かありましたね?」
「べっつに~。」
ルイズは、足を組み、髪をかき上げながら心底余裕そうに言った。
「何したんですか!?」
頭に血を上らせたシエスタがルイズに近づいた。
「別に~、ホントに、なにもなくってよ。」
シエスタの睨みなどモノともせず、逆にそんなシエスタを哀れみように見るルイズ。
「あのね。私達、わかり合っちゃったの。」
「か、身体で?」
「下品なこと言わないで。」
「合せてしまったですか? あんなことやこんなことしたんですか?」
「バカね! してないわよ! ……あとちょっとだったんだけど…。」
「なんだぁ、まだだったんですね。」
顔を赤くして焦るルイズの様子に、シエスタは胸をなで下ろした。
「うるさいわね! トゥがしないって言うからしなかっただけで、何も無かったわけじゃないわ。」
「どうせ嫌がるトゥさんに無理矢理迫ったんでしょう?」
「本気で嫌がってはなかったわ。単に私を気遣ってくれただけよ。」
「何をですか?」
「……私と最後まで一緒にいるためよ。」
ルイズは、真剣な顔で、どこか悲しさを含ませた声で言った。
「最後までって…、なんですかそれ? まるでトゥさんがもう長くないみたいな言い方しないでくださいよ。」
苦笑するシエスタに、ルイズは無言だった。
「えっ…? うそ…ですよね?」
「きっと、…本当よ。」
「嘘です!」
シエスタが声を上げた。
「信じません! 信じない!」
「シエスタ!」
「トゥさんは、死なない! 絶対そんなことない!」
「落ち着きなさい!」
わめき散らすシエスタの頬を、ルイズが叩いた。
頬を押さえて呆然としたシエスタは、ルイズを見ると、ルイズは、泣いていた。
「そう思いたいのは、あんただけじゃないんだから…。」
「ミス・ヴァリエール…。」
「私だって、私だって! トゥを死なせたくなんてないわよ!!」
「ごめんなさい…。ごめんなさい…、ミス・ヴァリエール…。」
ボロボロと泣くルイズに、シエスタは、謝罪した。
二人は、抱き合い、わんわん泣いた。
しばらくしてどちらともなく泣き止むと、ルイズは、部屋の扉の向こうに気配を感じた。
「だれ?」
「バレたのね…。」
扉を開けると、そこには、シルフィードと、マクラを持ったタバサがいた。
「何してんのよ?」
「入るタイミングと、戻るタイミングを逃したのね。」
「なによ?」
「お姉様も争奪戦に混ぜてなのね。」
「ど、どういうことよ!」
声を上げるルイズを無視して、タバサの両脇に手を入れて抱えたシルフィードがトゥの隣にタバサを押し込んだ。
「ま、まさか…!」
ルイズは、ハッとし、タバサを見た。
タバサは、身じろぎもせず、トゥの隣にいた。その頬が微かに赤らんでいる。
「のおおおおおおおお!!」
ルイズは、よく分からん声をあげタバサをどかそうと動いた。
それをシルフィードが立ちはだかって止めた。
「どきなさいよ!」
「使い魔としてのお役目を果たしてるだけなのね。」
「シエスタはともかく、私と被る女はダメよ!」
「どういう基準ですか。」
シエスタが言った。
「とにかくダメだったらダメ!」
シルフィードの横を素早く通り抜け、毛布を取ろうとすると、タバサが毛布を握って放さなかった。
「うわ、お姉様、正直すぎて可愛いのねー!」
シルフィードは、きゅいきゅいとわめきながら部屋の中をぐるぐる回った。
「離れなさいよ!」
「まあまあ、落ち着くのね。桃髪つるぺた娘。」
「だれが桃髪つるぺた娘よ。バカ竜。調子に乗ってると自然に返すわよ!」
「お姉様は、お前達と違って、まだお初なお子様なのね。発情期のお前らとは違って隣で寝れるだけで幸せって年頃なのね。」
「いちいち、イラッとくる竜ですね!」
「まったくよ!」
「お姉様は、可哀想な子なのね。ずっと一人で寂しい想いをしてきて、やっと得られた安住の場所なのね。隣で寝るぐらい、我慢してあげるのね。それが大人の女の優しさなのね。」
「む…。」
シルフィードの言葉にルイズは、言葉を詰まらせた。
少し考え、ルイズは、まあ隣を取られるぐらい、まあいいかと認めたのだった。
だが…。
「今日は私の番ですからね。」
っと、シエスタに反対側を取られてしまい、キーッとなるのであった。
***
トゥは、目を覚ました。
窓のカーテンから光がまだ入ってこないので深夜だろうと思い、寝返りをうとうとすると、胸の間に何かがうまっているのを感じた。
「ん?」
ルイズだろうかと思ったが、なんか違う。
ルイズより少し小さく感じたし、いやに控えめな感じでくっついている。
今、屋敷の中にいる人間で、ルイズ並に小柄な人間は一人しか思い当たらない。
「タバサ…ちゃん?」
名前を呼ぶと、胸にくっついているタバサが僅かに動いた。
「えっと…、なんで?」
状況がよく分からない。
反対側からも寝息が聞こえたので、首を後ろに向けてみると、そこにはシエスタがいた。
二人とも、すうすうと安らかな寝息を立てて寝ている。
ルイズは、どこに?っと思って、身体を起こし、部屋の中を見回した。
ルイズは、部屋のソファーの上にいた。
寝ているのか、こちらに背中を向けた状態で毛布を被っている。
ルイズの姿を見つけたことで、酷くホッとしている自分がいて、トゥは自分で驚いた。
かつて自分には、愛する人がいた。
けれど、もう…彼はいない。
鳥となって消えてしまった彼は、もういない。
それを思い出しているのに、自分の心が悲しみと絶望に沈まないのが不思議だった。
ルイズと出会った頃なら、自分の心も記憶もメチャクチャになっていただろう。
だが今は…。
トゥは、シエスタとタバサを起こさないようにベットから抜け出ると、ルイズが寝ているソファーに近寄った。
ソファーの背に顔を向けて、スヤスヤと眠っているルイズの顔を見下ろし、それからソファーの傍で両膝を床につけた。
「ルイズの…おかげ?」
起こさないように小さめの音量で呟く。
ドゥドゥーとの戦いの後、心が消えていく感じに囚われ、気がつけばルイズを求めていた。そして周りが見えなくなりかけてしまった。シエスタを殺しかけてしまった。自分に向けられる全ての言葉が遠く感じてうまく聞き取れなかった。
気がつくと、ルイズが仕事に行っていていないことになっていて、ルイズがいない寂しさはあったが、心が消える感じはなくなった。あとで、それがティファニアの虚無によって記憶を一部操作したのだということは聞いた。
……ルイズが、帰ってこなかったら、どうなってしまっていたんだろう?
もう身体の中にある、コレだってかなり成長してしまった。コレに支配されてしまうのだろうか?
そうなったら……。
思考していたトゥは、ふと我に帰った時、ギョッとした。
いつの間にか自分の手が、ルイズの首に、触れていたのだ。
我に帰らなかったら、この細くて白い首をへし折っていたかもしれない。
慌ててルイズから手を離し、自分の手首を握った。
「ああ…ぁあ…。」
恐怖に震えたトゥは、思わず壁に立てかけていたゼロの剣にすがった。
「私は…、私は…!」
ゼロの剣を握りしめ、剣の切っ先を自分の顎の下に向けた。
「何してるの?」
「っ!」
その声でトゥは我に帰り、ゼロの剣を落とした。
その音に反応したタバサが杖を握って起き上がった。
「トゥ、何しようとしてたの?」
「る…ルイズ…。」
上体を起こしたルイズが顔をしかめる。
「答えなさい!」
「ごめんなさい…。」
「どうして謝るの? 言ってくれなきゃ分からないわ。」
「私…ルイズを…。」
「私を?」
「……殺そうとしちゃった…。」
「えっ?」
ルイズは、驚いて表情を失った。
「私、生きてちゃいけない…。」
「だからって自殺なんて考えないでよ!」
「ああ、そうだ…。私、自殺なんてできないんだ…。あははは…。どうしよう、どうしよう。私…、私…。」
トゥは、泣き笑いの顔で額を押さえた。
「しっかりしなさい、トゥ!」
「トゥさん、どうしたんですか!」
騒ぎで目を覚ましたシエスタが泣いているトゥの傍に駆け寄った。
「ごめんなさい、ごめんなさい…。」
「ミス・ヴァリエール、トゥさんに何かしたんですか?」
「違うわ…。」
責めるように見てくるシエスタに、ルイズは首を振った。
タバサは、杖を手にしたままベットの上で事の成り行きを見ていることしかできなかった。
トゥが泣き止んだのは、朝日が昇る頃だった。
トゥの中に巣くうモノは、確実に成長しつつあります。かなりスローペースですが。
原作と違って、タバサをルイズとは間違えませんでした。
部屋にソファーあったっけ? まあ、あるということにします。さすがに床で寝ているのは…。
活動報告でも書きましたが、ゲームが面白くてちょっと執筆が遅れてます。すみません。