二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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パソコンが思ってたより早く直って戻ってきたので投稿します。


第八十七話  トゥとルイズ、我が家に帰る

 

「驚きましたか?」

 カステルモール達、そして聖堂騎士達と共にやってきたヴィットーリオが言った。

「山が浮いたんだもの。驚きますよ。」

「浮き上がった大地は、徐々に風石を消費して、再び地に還ります。アルビオン大陸は、かつての大隆起の名残なのです。」

「……。」

 トゥは、俯いた。

 ヴィットーリオは、話を続けた。

 自分達の独自調査では、ほぼ五割の土地が、こうして浮き上がるとの予測が出ていて、誤差があるにしても、相当の被害を被るとみており、数十年間にわたってこの現象は各地で起こっているのだという。

 ジュリオは、トゥから聞いた話をヴィットーリオには話さなかった。黒い手のようなモノが、山を持ち上げたということを。それは、トゥにしか見えなかったからなのかもしれない。

 そしてヴィットーリオは、聖地に、巨大な魔法装置があり、そして先住の力を打ち消すのは、虚無の力のみだと答えた。

「違う…。」

「トゥ君。」

 ジュリオが、トゥの肩に手を置いた。

「君の言葉には、確証が無い。」

「……。」

 そう耳打ちされ、トゥは黙った。

 トゥには、ヴィットーリオほどの説得力がある言葉がない。

 はっきりとした証拠がないため、ただ黙っていることしかできなかった。

「協力してくれますか? ガンダールヴと、その主人よ。」

 ヴィットーリオの言葉に、トゥは現実に引き戻された。

「聖戦と言っても初めは交渉します。平和裏にエルフが聖地を返してくれるなら、何の問題は無い。そうでなければ戦いになりますが、それは仕方ない。我々にだって、生き延びる権利はあるはずですから…。」

 トゥ達は顔を見合わせた。

 あまりにも話が大きすぎる。

 しかし現実に山脈が浮き上がったのを見たとあっては納得しなければならないのだろうが、はいそうですかと納得できる話でもないのだ。

 なにせ今までロマリアが自分達にやってきたことを考えると、おいそれと『はい、協力します』っとは言い切れない。

 そうやって悩んでいると、ルイズがトゥの手を握ってきた。

 そしてルイズは、ヴィットーリオを見た。

「私達の一存では返答できません。考慮する時間をいただきたく存じます。」

 でも、その前に条件が一つっと、ルイズは言った。

「どうぞ。」

「まず、これからは私達に隠し事はなさらぬようにお願いします。」

「約束しましょう。」

 ヴィットーリオがそう返答すると、ルイズは、タバサを見た。

「次に正統なるガリア女王に冠を返還すること。」

「それはできません。」

「なぜですか?」

「ガリアは、大国。女王が担い手でなければ末端まで士気が上がりません。」

「じゃあ、タバサは…。」

「私は、あなた達と行動を共にする。」

「それでいいの?」

「初めからそのつもり。もともと冠を被ったのも、あなた達に協力するため。私にそうしろと言ったのは、ロマリアが寄越したニセモノだったけど…。」

 トゥの問いにそう答えたタバサは、トゥの手を握った。

「では、決まりですね。ここにいる、全員が証人だ。我々はここで初めて真実をわかり合い、真に兄弟となった。我らの前途に、神の加護がありますように。」

 そして、東薔薇騎士団と、聖堂騎士達は、それぞれお互いを怪訝な顔で見ていたが、そのうち手を取り合い、抱擁し始めた。

 ルイズ達は、納得しがたい顔をで、そんな様子を眺めていた。

 トゥは、俯きぶつぶつと。

「違う…。」

 っと呟いていた。

「トゥ…、落ち着いて。」

「ルイズ…。」

「大丈夫。だいじょうぶだから。」

「ルイズ…。」

 トゥは、そっとルイズに抱きついた。

 タバサは、手を離され、トゥと自分の手を交互に見た。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 園遊会が終わり、帰ってきた水精霊騎士隊に待っていたのは、アンリエッタからの招集と、臨時の地層調査の出動命令だった。

 アカデミーの土の研究員であるエレオノールが指揮官に任命され、エレオノールに怒られ、ムチで叩かれながら、水精霊騎士隊のメイジ達は、機械を魔法で操作し、トゥは、トロッコで土を排出する作業をしていた。

 エレオノールの気の強さと言ったらもう…、マリコルヌは、そんなエレオノールの叱咤を喜んでいるしで、水精霊騎士隊の仲間達を呆れさせていた。

「ふう…。」

「ちょっと、あなた!」

「はい?」

 トゥがトロッコを押して戻ってくるとエレオノールに声をかけられた。

「あなた…、本当にイライラするわね?」

「えっ?」

「なに、わかんないって顔してんのよ! わ、わわわわ、分かってんだからね! あんたが、ラ・ヴァリエールの娘を娶りたいなんておおそれた欲望を、い、いいいいいいい、いだ、いだいて、ふぉ、ふぉふぉふぉふぉ、おおおお、おきながら…!」

「はい?」

「う、うわ、浮気をするなんて……!」

「あの…違います。」

「何が違うと言うの!?」

「あのですね。」

「私が説明するわ。」

 昼食を持ってきたルイズが来てエレオノールに説明した。

 説明を聞いたエレオノールは、顔を真っ赤にしてプルプルと震えた。

「か、勘違いしちゃったじゃないの!」

「エレオノール姉様が勝手に勘違いなさったんじゃないの。」

「お黙り、ちびルイズ!」

「もう私は子供じゃありません。」

「ルイズ? まさかあなた…。」

「うふふふふ。」

「まさか、まさか!?」

 意味深に笑うルイズに、エレオノールが詰め寄った。

「私よりも先に!?」

「どーでしょうねぇ?」

「ルイズ! …はっ!」

 エレオノールは、水精霊騎士隊の少年達に見られていることに気づいた。

 エレオノールは、再び彼らに作業をしろと怒鳴り散らし、作業は再開された。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 調査の結果は。…真っ黒だった。

 ヴィットーリオの言うとおり、巨大な風石が深い鉱脈にあったのだ。

 その風石が現れたとき、トゥがふらりと倒れ、ちょっとした騒ぎにもなったが、ヴィットーリオの証言が真実であることがはっきりしたのでアンリエッタにすぐ報告となった。

「やはり、教皇聖下の話は本当なのでしょうか。」

 トゥ達が戻ってきて、火竜山脈が浮いたという報告を受けたが、当初は半信半疑であった。

 だが三日後、空の彼方に、百十キロもの長さの新たな浮遊島を見て、信じざるおえなくなったのだ。

 現在、浮遊島の帰順をめぐって、ロマリアとガリアは係争中であるという。

「おそらくは、間違いないと思います。」

 トゥとルイズに挟まれる形になっているエレオノールが恭しく一礼して言った。

「そうですか…。」

 アンリエッタは、そう言い、しばらく考えた。

 そして。

「よろしい。トリスティン王国は、ロマリアに協力することにいたしますわ。」

 考えている暇はないのだ。

 住む場所が無くなる。この事実がすべてを決めた。

 いったん決断するとアンリエッタの行動は早かった。大臣や将軍を集め、協議に移る。

 聖戦を支持するからには、再び外征軍を組織しなければならない。ロマリアやガリア、そしてゲルマニア、各列強が分裂統治するアルビオンに向けて、密書が飛んだ。そして、教皇ヴィットーリオに向けて、近いうちに書く王を集めて会議を開催を打診した…。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 三日ほど、アンリエッタからの雑用を手伝うことになったトゥとルイズは、ド・オルニエールにやっと帰ることができた。

「おかえりなさい! トゥさん、ミス・ヴァリエール!」

「おやおや、お帰りなさいまし。奥様方。」

 帰るなり、シエスタとヘレンが出迎えた。

「あ、良い匂い。」

「たくさん美味しいお料理を作って待ってましたからね!」

「あ~、お腹すいた~。」

 すると。

「美味しい料理~。美味しい料理~。楽しい料理~。楽しい食卓~。」

 っと歌いながら皿を運んでくるタバサと、同じくその後ろから人型になったシルフィードが大きな鍋を持って、きゅいきゅいっと楽しげに歌いながらやってきた。

「ミス・タバサ! おやめになってください! そんなガリアの王族の方に…。」

「もう、私は王族じゃない。この家に仕える召使い。」

 あれから、タバサは、なんとジョゼットに女王の位を委譲してしまったのだ。

 ただし、条件付きで。

 それは、聖戦が終わるまで、である。

 しかし、双子の片割れがいなかったことにされるガリアの風習だけは、廃そうと決めていた。

 今頃、タバサの意を受けたイザベラが、その悪習を絶ちきろうと奮闘しているだろう。

 オロオロするシエスタに、シルフィードがにこにこ笑って言った。

「気にすることないのね。お姉様は好きでやってるのね。ほら、おちび。例のアレを披露してごらん。」

 するとタバサがこくりと頷き、手に持っていた皿を上に放り投げた。上に乗っていたローストビーフの塊が宙に舞い、その瞬間、タバサが杖を抜いた。

 するとローストビーフが薄く切れ、それぞれの皿の上にパタパタと乗っかっていった。

「すごい!」

「よくできました、なのね。」

 トゥとシルフィードが拍手した。

 するとタバサの頬が僅かに赤らんだ。

 調子に乗ったのか、次にパンを放り投げてまた杖を抜いて切り裂いた。縦に。

 ルイズが怪訝そうになぜ縦に切ったのか聞くと、シルフィードがグラスに注いだクリームに付けて食べて見せた。

 なるほどっと感心していると、そこへ陽気な声が聞こえてきた。

「あら、あなた達、帰ってきたの?」

「おやおや、君達帰ってきていたのかね?」

 キュルケとコルベールだった。

 現在、オストラント号は、近くの湖に浮かべてある。

 聖戦に向けて、オストラント号は、正式に参加することになったのだ。

 そのために色んな改造がなされ、現在ド・オルニエールが、オストラント号の母港となっていた。

 キュルケとコルベールが着席を待って、シエスタがワインをグラスに注ぎだした。

「では、皆さん! トゥさんと、ミス・ヴァリエールの無事帰還を祝って!」

 そしてかんぱーいっと唱和が重なった。

 楽しい会話がしばらく続いたが、コルベールがぽつりと。

「で、王政府は決定したのかね?」

「うん。」

「なるほど。では、また慌ただしくなるなぁ。」

「今度は、いったいどんなお仕事なんですか?」

 シエスタが聞いてきた。

「またお家を空けるんですか?」

 トゥとルイズは、顔を見合わせた。なんとも言えない。なにせシエスタは、ただの一般人。まさか今からハルケギニア全土の未来をかけて聖戦をするなんて言えない。

「まあ、なんてことないですよね。どんなことがあったって、トゥさん達なら解決しちゃいます。だって、今までだって大変なことたくさんあったけど、どうにかなったじゃないですか。」

 だから今度も、きっとそうだと言うシエスタに、その場の全員が救われた気持ちになった。

「ま、暗くなっても始まらないわよね。今を楽しまないと……、ね? ジャン。」

「君は、なんかというと私の頭に食べ物を乗せるが、趣味なのかね?」

 キュルケがコルベールの頭にクリームをかけていた。

「タバサちゃんは、それでいいの?」

「あなたがいる。」

 トゥがタバサに尋ねると、タバサはそう返してきた。

 トゥは、視線を前に戻し、ワインをぐーっと飲んだ。

 

 色んな人たちの顔がよぎる。

 ルイズとキュルケ、ギーシュ達、水精霊騎士隊の仲間達、そしてタバサにイザベラ、ここにはいない仲間達。

 少し前までいがみ合っていた関係でも今は大切な仲間だ。

 エルフも話せばもしかしたら…。

 

「話せば…、分かってもらえるかな?」

「トゥ…。」

「ううん。何でもない。さあ、食べよう。」

 心配そうに見てくるルイズに笑いかけ、トゥは食事にありついた。

 

 




空回りのエレオノール。

パソコンの画面の故障(たぶん)だったので、案外早くパソコンが帰ってきました。
昔のパソコンで執筆自体はやってましたが、なんかうまく進まなくって…。

これでヴィットーリオの言うとおりに聖地に行ったら、えらいことになるんですけどね…。このネタでのB分岐を見ている方は分かると思いますが…。

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