そしてルイズとの約束。
2017/05/10
コルベールが戦闘のエキスパートなのに、トゥを見捨てるようなことをしているので一部書き換えました。
巷と騒がせる盗賊が魔法学院に侵入し、宝物庫から宝を奪った。
教師達は大騒ぎであった。
当直がさぼっていたとか、責任のなすりつけ合いばかりする彼らを、オスマンが一喝した。
現場にいたルイズとトゥは、学院長室に呼ばれ、事情聴取となった。
「つまり…、宝物庫の壁を破壊したのは、君かね?」
「うん。」
トゥは頷いた。
「貴様の責任じゃないか!」
教師一人が叫んだ。
「なぜ、そんなことを?」
「……えっと…、窓に誰かがいて…、追いかけたらゴーレムが現れて、戦ったら…。」
「壁を壊しちゃったと? しかし、どうやって?」
「こうやって。」
息を吸ったトゥが、ウタを使い始めた。
絶叫のような大きな声じゃなく、最初は小さくだんだんと大きくしていく声と共に、彼女の体が光りだす。
「もうよしなさい!」
「ふぇ?」
オスマンに止められ、トゥはウタを止めた。それとともに体の光も消えた。
魔法ではない異質な力に、誰もが呆然とした。
「君はその力を行使して、その不審者と戦ったのだね?」
「うん。」
「……寮の方で何やら騒ぎがあったことは聞いていたが、君のその力の所為だったのか。恐らくフーケは、君のその力に目をつけて利用したのだろう。…つまり早い段階でフーケは学院に侵入していたことになる。」
「しかしオールド・オスマン、この女が勝手な事さえしなければ!」
「当直の件といい、ここで議論していても奪われたもんは戻ってこん。今は、フーケに奪われた宝を奪還することを優先するのじゃ。」
「それはつまり…。」
「この件は学院全体の責任じゃ。降りかかった火の粉は自分で払うのが道理じゃ。」
「オールド・オスマン!」
そこへ秘書であるロングビルが入室して来た。
「おお、ミス・ロングビル。して、どうじゃった?」
「はい。フーケと思われる人物が潜んでいる場所を突き止めました。」
「うむ。では、これより捜索隊を編成する。我と思う者は杖を上げよ。」
しかし誰も上げなかった。
「おらんのか? フーケを捕え、名を上げようという者はおらんのか?」
「志願します!」
ルイズが杖を上げた。
「ミス・ヴァリエール! 君は生徒じゃないか!」
「誰も上げないじゃないですか。それに宝物庫の壁を破壊したのは私の使い魔です。使い魔の責任は主である私の責任です。」
「ルイズ…。」
「もちろんあなたも行くのよ? 責任は取らなきゃ。」
「うん!」
ルイズの言葉に、トゥは力強く頷いた。
「ならば、私も行きます!」
コルベールが杖を上げた。
「生徒を危険な目に合わせられません。」
「そうか。では、頼むぞ。」
ロングビルの案内でフーケのもとへ行くことになったが、オスマンはコルベールを呼び止め、耳打ちした。
「あのトゥという娘を監視してくれ。」
「…はい。」
そしてフーケからゼロの剣を取り返す任務が始まった。
***
しばらく馬車で移動し、途中から馬車を降りて徒歩でフーケの隠れ家に近づいた。
「誰かが偵察に行かなければ…。」
「私が行くよ。」
トゥが挙手した。
「私、速いもん。」
「では、頼もう。」
「気を付けて行くのよ。」
「うん。」
トゥが茂みから出て、そろそろと隠れ家と思われる小屋に近づいた。
そして中に入り、しばらくして出てきてルイズ達を呼んだ。
「誰もいないよー。」
「ワナはないようだね。」
コルベールが杖を振るって魔法の確認をした。
「これがゼロの剣?」
小屋にある乱雑に置かれた荷物に立てかけられた一本の剣。
「この剣…。」
「トゥ?」
剣をジッと見て、何かもの思いにふけるトゥ。
っと、その時。地響きがあった。
外に出ると、巨大なゴーレムがそびえ立っていた。
「フーケか!」
コルベールが杖を振るい、火炎を放った。
ゴーレムの表面を焼くが、ゴーレムは変わらずそこに立っていた。
「くっ、一旦退却を!」
「私がやる!」
トゥが前に出て、大剣を構えた。
振り下ろされたゴーレムの拳を一薙ぎで打ち砕くが、すぐにゴーレムは再生した。足を切っても同じだった。
「なら…。」
トゥは、ウタを使った。
青い光を纏った彼女の凄まじいスピードと攻撃力によりゴーレムが打ち砕かれていく。
「す、すごい…。なんという力だ…。」
コルベールは、トゥの凄まじい力に驚愕した。
しかし砕いても砕いてもゴーレムは再生した。
やがてトゥの体から光が消え、トゥはその場にへたり込んだ。
「うう…。」
「トゥ!」
「いかん!」
トゥに向かってゴーレムの足が振り下ろされようとした。
ルイズは、とっさの判断で杖を振るい、爆発を起こした。ゴーレムの足が砕け、トゥの上に土が降り注いだ。
コルベールは、急いでフーケ自身を探した。ゴーレムの操り手さえなんとかすればゴーレムは無力化できる。
トゥのことで意識を持っていかれていたコルベールは、その基本中の基本のことを忘れていた。
「トゥ、しっかりしなさい!」
ルイズがトゥに駆け寄った。
「ルイズ…、私…。」
「立つのよ!」
ルイズがトゥを立たせようと腕を引っ張った。
再生したゴーレムは、すぐにまた足を上げ、ルイズとトゥを踏み潰そうとした。
コルベールが炎を放ち、ゴーレムを焼くが、ゴーレムは止まらない。
「ルイズ!」
「きゃあ!」
トゥは、ルイズを突き飛ばした。
トゥの上にゴーレムの足が踏み込まれ、トゥの姿が消えた。
「い、いやあああああ!」
ルイズの悲鳴が木霊した。
『私を死なせたくなければ、戦ってください!』
「……セント…。」
次の瞬間、ゴーレムの足が粉々に砕け散った。
青い光を纏ったトゥが飛び出し、絶叫に近いウタ声を発した。
凄まじい衝撃波が発生し、巨大なゴーレムは、すべて粉々に砕け散った。
「………トゥ?」
ルイズがトゥの名前を呼んだ。
するとトゥの体から光が消え、トゥはルイズを見た。
「よかった…。無事だね?」
「……バカ!」
ルイズは涙目になり、トゥに駆け寄った。
「……よかった。」
コルベールも、トゥの無事を喜んだ。
「ミスタ・コルベール、ゼロの剣は?」
「ああ、ここにあるよ。しかし、これは本当にただの剣のようだね。マジックアイテムではなさそうだ。」
「違うよ。」
「はっ?」
「その剣は……。」
トゥが言いかけた、その時、コルベールの体が吹き飛んだ。
ゼロの剣が地面に転がり、ロングビルが剣を踏みつけた。
「ミス・ロングビル!?」
「チッ……、本当にただの剣だったのかい。とんだ無駄足だったよ。」
「まさか、あなたが…。」
「そうだよ。私がフーケさ。」
ロングビル、あらためフーケが狂的に笑った。
「宝物庫の一番のお宝だって聞いたから盗んでみれば、ただの剣だったとはねぇ…。本当にただの無駄足だったよ。この私がお宝の価値を違えるとはねぇ。」
吹き飛ばされたコルベールは、地面に蹲り、呻いていた。
「悪いけど、死んでもらうよ。そっちの青い女も相当力を使って疲れてるだろうしね。」
「……。」
トゥは、まっすぐフーケを見据えていた。
「? なんだい?」
「私…、疲れてないよ?」
次の瞬間、トゥが動いた。
フーケが杖を構えた瞬間、杖が真っ二つになり、トゥに首を掴まれ地面に背中から叩きつけられた。
「ぐっ! なんだとぉ!?」
「不思議。最初は疲れたけど、もう疲れてない。」
トゥの手がギリギリとフーケの首を絞めた。
フーケは、暴れ、トゥの手を離そうともがいた。
「トゥ、ダメ!」
「大丈夫。殺さない。」
やがて力尽きたフーケは、酸欠により気を失った。
フーケの上からトゥはどき、倒れているコルベールに近づいた。
そして助け起こした。
「大丈夫ですか?」
「ああ…、なんとか…。それよりもフーケを縛らなければ。」
そう言ってロープを出し、ルイズが受け取ってフーケを縛った。
「……。」
傷ついたコルベールを見て、トゥは、ウタを使おうとした。
『私が…、ウタの力なんてもってなければ!』
「っ…!!」
突然脳裏をよぎった自身の叫び声に、トゥは咄嗟に自分の口を手でふさいだ。
「? どうしたのかね?」
「…なんでもない、です。」
トゥは、首を振った。
こうしてフーケ討伐と、ゼロの剣の奪還の任務は終わった。
***
任務から帰還したルイズ達は、オスマンから労いの言葉をもらい、そして、シュバリエの称号をもらうよう手配したと言われた。しかし貴族ではないトゥには何もなかった。
「あの、オスマンさん。」
「何かね?」
「あの剣をもらっていいですか?」
「ちょっと、トゥ。それは厚かましくない?」
「いいじゃろう。フーケを見事討ったのはお主なんじゃろう? ならば君にアレを進呈しよう。」
「ありがとうございます。」
トゥは、オスマンに頭を下げた。
ルイズとトゥが学院長室から出ていった後、傷を癒したコルベールが報告した。
「やはり、彼女は…、まともな人間じゃなかったのかね?」
「はい…。あんな力…、あれは魔法ではありません。かといって先住魔法でもありません。あれは……、もっと恐ろしい…。」
コルベールは、冷や汗をかいていた。
「……あの娘のことは、極秘で調査しよう。あの力のこともじゃ。」
「はい…。」
***
部屋に戻ったルイズとトゥ。
トゥは、しゃがみ込んで、壁に立てかけたゼロの剣をずっと見つめていた。
「どうしたのよ? その剣をずーっと見て。」
「ねえ、ルイズ。」
「なによ?」
「お願い、聞いてくれる?」
「なに?」
「………もしもの時は、この剣で、私を……、殺して。」
「はあ!?」
とんでもない言葉に、ルイズは驚いた。
「な、なんでよ! なんでそんなことしなきゃならないわけ!?」
「もしもだよ。もしもの時は、だよ?」
「そんなことできるわけ…。」
「お願い…、嘘でもいいから約束して?」
トゥは、ルイズを見た。
その瞳は、とても澄んでおり、冗談ではないことを物語っていた。
ルイズは、口ごもり、やがて、意を決して。
「…分かったわ。」
「…ありがとう。」
トゥは、微笑んだ。
その微笑みは、とても綺麗で、今にも消えてしまいそうな…、そんな儚さがあった。
***
フーケ討伐が終わったことで、予定していたフリッグの舞踏会が予定通り開催されることになった。
「ぶとうかい?」
「パーティーよ。みんなが踊って、食べて飲んで、楽しむの。」
「ふーん。」
トゥは、興味なさげに声を漏らした。
ルイズは、トゥを見た。
着飾ればさぞかし…。
「?」
「トゥ、来て。」
「えっ? なぁに?」
「いいから。」
トゥは言われるまま、ルイズについていった。
そこは衣裳部屋だった。
色んなドレスが保管されており、ルイズはそこを管理している人に説明し、トゥを呼んだ。
「ここにあるドレスを着てもらうわよ。」
「えー。」
「いいじゃない。折角なんだし、着飾らせてあげるわよ。」
「…分かった。」
気が乗らないトゥであったが、渋々ドレスを着ることになった。
トゥのドレスと化粧については、人に任せ、ルイズもルイズで、着飾り、化粧をした。
「トゥ、まだ終わらない?」
「もう少しかかります。」
トゥの衣装着替えを担当した人間が、そう頭を下げた。
仕方なくルイズは、先にパーティー会場へ向かった。
ルイズの登場に、異性達がどよめいた。
普段のルイズは可愛らしく、それでいて美しい見た目をしており、ドレスと化粧は彼女の魅力をより引き立てていた。
次から次に、ぜひ自分とダンスをと誘いの言葉をかけられるが、断り、ルイズは、トゥを待った。
やがて、おおーっという歓声が聞こえた。
見ると、トゥが、自身の髪の毛と瞳と同じ色の青いドレス纏って登場した。
ほとんど化粧はしておらず、僅かな化粧がそれだけで彼女の美貌を引き立てていた。
あまりのその美しさに、生徒達も教師達も言葉を失い、彼女に魅入っていた。
「ルイズ。」
トゥがルイズを見つけ、近寄ってきた。
「トゥ…。」
「ルイズ。綺麗だねぇ。すっごく似合ってる。」
しかしトゥと並ぶとルイズは、霞んでしまう。それほどにトゥは美しかった。
知らず知らずのうちに拳を握るルイズに気付かず、トゥは、ルイズの手を取った。
「踊ろう。ルイズ。」
「……うん。」
そう言って、二人は踊りだした。
トゥは、どこかで踊りを習っていたのかイヤに慣れている様子だった。
男性側のようにルイズをリードし、ルイズは、踊った。
そんな二人のダンスを、周りの生徒達や教師達が魅入っていた。
「あんたダンスも踊れるの?」
「んー、なんとなく。」
「なんとなくで踊れるって…。」
「…私、誰かと踊ってたのかな? もちろん、私が女役で。」
「そんなの私が知るわけないでしょ。」
「そうだよね…。うん…。そうだよね…。」
トゥは、切なそうに笑った。
一通り踊った後、お腹をすかせたトゥは、ルイズから離れて食事にありついた。
「これ美味しい!」
「マルトーさんの新作なんですよ。」
給仕をしているシエスタと会話をしながらトゥは、料理に舌鼓を打っていた。
そんなトゥを、ルイズは見ていた。
ルイズは、考えていた。
なぜトゥは、ゼロの剣で自分を殺してほしいと願ったのか。
あの剣は何なのか。そしてトゥ自身の正体も…。
「分からないことだらけね…。」
ルイズは、そう呟いて、ワインを口にした。
ルイズが見ているトゥは、楽しそうに、本当に楽しそうに、笑っていた。その笑顔はとても可愛くて、綺麗だった。
トゥは、なんとなくですが、自身の存在について察しています。
コルベールを治療しようとウタを使おうとしましたが、脳裏をよぎった過去のことで止めました。ここでコルベールにウタを使うかどうか最後まで悩みました。
使えばどうなるか…、大変なことになるのは目に見えています。
2017/05/10
感想欄にご意見くださった方、ありがとうございました。
2017/05/17
ゼロの剣があることについて後付ながら物語に反映しようと考えたのでご都合主義ではないことにしました。