二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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ジャックとの戦いと、ルイズの帰還。



第八十三話  トゥとルイズの帰還

 

 外に出ると、二つの月が夜空に美しく浮かんでいるのを見た。

 下水道の入り口に行こうとした時だった。

 

「おい。」

 

 その声を聞いてトゥとレイナールは振り返った。

 すると、瓦礫の上に腰掛けていた男が立ち上がった。

「誰?」

「初めましてと言ったところか。トゥ・シュヴァリエ。」

「私?」

「いやぁ、懐かしい場所だな。俺も昔よく、ここで依頼を受けてたもんだよ。もしかしたら、お前も北花壇騎士なのか? いや、まさかな……。」

「あんた、何者だ?」

「俺は、ジャック。」

 レイナールが警戒しながら聞くと男は答えた。

「ドゥドゥーを倒したらしいな?」

「あの人の知り合い?」

「あいつらは、俺の兄弟なのさ。」

「そう…。」

「なあ…、まさか、こいつは…。」

「レイナール君。これ。」

 トゥは、暗号表をレイナールに渡した。

「お、おい…?」

「先に帰ってて。あとから行くから。」

「で、でもな…。」

「この人は、私に用があるんだよ。そうでしょ?」

 トゥが聞くと、ジャックは頷いた。

「じゃあ、地下水さん。レイナール君をよろしくお願いします。」

 トゥが微笑んで言うと、地下水は頷き、レイナールの腕を取って下水道に消えていった。

 それを見送ったトゥは、ジャックの方を見た。

「それにしても誰なの? 私を殺してって言ったのは?」

「残念だが、それは言えないな。お前さん、よっぽど恨まれてたもんだね。外国まで追っかけていって殺してくれなんざ…。」

 まあ、その方が都合が良いとジャックは言った。

 外国なら国内の調査が及ばないからだという。

「そっか。じゃあ帰ったら、その依頼者の人に言ってね。こんなんじゃ私は殺せないって。」

「お? どういうことだ? 俺じゃあ役不足だって言うのか?」

「そういう意味じゃないんだけど…。」

 トゥは、困ったように頬を指でかいた。

「ドゥドゥーさんもすっごく強かったから、あなたもきっと強いよね。だから少しだけ楽しみ。」

「それは光栄だ。なら存分に楽しませてやる。」

「うん。」

 トゥは、背中の大剣を抜いた。

『相棒…。前に言い忘れたがよ。あいつら…、関節部に先住魔法を仕込んでるぜ。だから魔法無しにあんな身体能力を発揮できんだ。』

「ふーん。」

『おいおい! 重要なことだぜ! なんで興味なさそうなんだよ!?』

「どうせ戦うんだし。今更だよ。」

『あーもう! 知らねーぞ!』

「じゃあ、戦おうか。」

「ならば、こちらから行くぞ。」

 トゥがニッコリ笑い、剣の先をジャックに向けた。

 ジャックは笑い、杖を抜いた。

 次の瞬間、礫が飛んできた。

「これだけ?」

 トゥは、ゆらりゆらりと動いて礫を避けた。

「いいや、まだだ。」

 次に無数の鉄の矢が飛んできた。

 それをトゥは、大剣を振ってなぎ払った。

 その時には、ジャックが距離を詰めており、トゥの体に向けて拳を振るっていた。

「……それだけ?」

「!」

 ジャックの拳がトゥの腹に決まったが、トゥは平然としていた。

 ジャックは、殴ってみて驚いた。薄い腹筋だというのにトゥの体はまるで鋼のごとく固いのだ。いや、鋼以上かもしれない。

「私、筋力が発達し続けてるの。」

 一瞬固まったジャックのその腕を掴み、トゥが片手でジャックの巨体を放り投げた。

「…いやはや…、侮っていた。」

 空中で体制を整え、軽い身のこなしで着地したジャックは、一筋の汗をかいた。そして、トゥの腹を殴った手をプラプラとさせた。

「ドゥドゥーの馬鹿が苦戦するのも納得した。その見た目で…、確かに異常だ。」

「そうだね…。」

 次にジャックは、十数体のゴーレムを錬金で作り上げた。

 ゴーレムは、一体一体がジャックの身体能力と同等で、とんでもない速度でトゥに迫った。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 トゥは、ウタった。

 青い輝きをまとったトゥが信じられない速度でゴレームを切り伏せていった。

「それが貴様の力か! 確かに、得たいがしれん! だが…。」

 ジャックは、足下の土を錬金で一瞬にして火薬に変えた。

 それをトゥに向けて放ち、そして。

「着火。」

 爆発がトゥを包み込んだ。

 もうもうと黒煙が上がる。

 次の瞬間、青い光が煙のなから飛び出した。

「なに!?」

 トゥは、無傷だった。トゥの体にまとう光は、天使文字と魔方陣のようなものを光に絡ませていた。

「この程度では死なんか!」

「アアアアアアアアアアアア…。……?」

「?」

 トゥの動きが急に鈍くなった。

「ドゥドゥー……、ドゥドゥー……? あれ? 私、なんでその人と戦ったんだっけ?」

「何を言っている? あいつらは、お前さんを始末するために行ったんだぞ?」

「あのとき私は…、誰を…誰かを…探して…。…さが…さが…して…?」

 トゥの顔から表情が消え、それと共に光も消えていった。

「私…私は…あの夜…誰かを探していた…、夜のド・オルニエールを走って…ずっと探した…。でも見つからなくって……。」

「独り言を言う前に、戦え!」

「私…私が…探してたのは……、ルイズ…、ルイズ!」

 トゥが剣を落とし、両膝をついた。

「私は、あの夜! ルイズを探していたんだ!」

 トゥの目から涙があふれた。

「なんで、なんで! ルイズが、いなくなって…、だから…だから! 探した、探してたら、あの人達に会ったんだ! それで戦いになって…。それから…それから私は……、わ、たし、は……。」

「おい? おい! 何を呆けている!」

「ルイズ………どこ…?」

 トゥの目から光が消え、虚ろに宙を見上げて小さく弱々しい声で言いだした。

「こ、この期に及んで…、泣き出した上に、女の名前を呼ぶとは……。うぬ、なんたる軟弱、なんという貧弱、なんという柔弱…!」

「どこにいるのぉ…、ルイズぅ…。」

 トゥは、全くジャックの言葉も、そしてジャックの姿さえ見てなかった。

 ジャックは、顔を歪め、杖を振り上げた。

 それと共に、地面の土くれが火薬に変わる。先ほどよりも量が多い。

「ルイズぅぅぅぅ、どこぉぉぉ!」

「塵も残らぬようにしてくれるわ!」

 ジャックは、火薬をトゥに放ち、着火の魔法を唱えようとした。

 

 だがそれは、先に発生した小さな爆発により阻止された。

 トゥに火薬がかかるまえに火薬が爆発したため、爆風はジャックを襲い、ジャックは吹き飛ばされた。

 

 月明かりの下に、ピンクのブロンドが舞う。

 

「何してんのよ? トゥ。」

 

「あ…。」

 

 その人物は、トゥが求めていた人物だった。

 その人物を認識した瞬間、トゥの目に光が戻った。

「る…い…ず…。」

「しっかりしなさい!」

「ルイズ! ルイズ!」

「こ、こら、抱きつかないでよ!」

「ぐ…、な、何者だ?」

 吹き飛ばされたジャックが起き上がった。

「何者? あいにくとあんたみたいな傭兵風情に名乗る名前はないわ。」

 ルイズは、キリッとした目で言う。

「ば、馬鹿にしおって…。よかろう、まとめてヴァルハラに送ってやる。」

 ジャックは、杖を振り、錬金で無数の鉄の矢を作りだし、ルイズに飛ばした。

 ルイズは、いくつものエクスプロージョンを発生させて、それを防いだ。

 バラバラと地面に落ちる鉄の矢を見て、ジャックは呆然とした。

「そ、その呪文はなんだ…?」

「…私の敵じゃないわね。」

「な…。」

「ルイズ?」

「ほら、トゥ。いい加減離れなさい。目の前の敵に集中するの。」

「うん!」

 トゥは、ルイズから離れ、前に出て大剣を拾って握った。

 ジャックが複数のゴーレムを再び錬金した。

 襲いかかるゴーレムをトゥが切り裂いていく。そのスピードは、先ほどの非じゃ無い。

 ジャックは、その間に、練り上げた錬金を地面に向けて放った。

「兄さん! あとは任せたぜ!」

 表土三十センチほどの土の量が一瞬にして火薬に変わり、そして着火を唱えようとした。

 だが、それは、ルイズの放ったディスペルにより、錬金は解除され、火薬は元の土の戻ってしまった。そして着火は、むなしく土の上で一瞬燃えただけで終わった。

 すべての精神力を使い果たしたジャックは、地面に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「言い訳をしてくださっても構いませんわよ?」

「……モウシワケアリマセンデシタ。」

 ルイズは、綺麗なポーズで土下座していた。アンリエッタ並びに、ギーシュ達に向けて。

 ルイズは、自分が家出してからのことをすべて聞いた。

 全部自分の勘違いで早とちりを起こし、結果、トゥが精神崩壊寸前に陥ってしまったことを。

 トゥは、キョトーンとしていた。

「ほら、トゥ君。ルイズに言いたいことがあるなら言いなよ。」

 レイナールがそう言うと、土下座しているルイズがビクリっと震えた。

 嫌われた! 絶対に完全に嫌われた!っと、ルイズは、覚悟した。

「別にないよ。」

 トゥは、あっけらかんと言い、アンリエッタ達をポカンっとさせた。

 トゥは、土下座したままのルイズの前に来て、ルイズを起こした。

 そして目線を合わせて。

 ニッコリと笑った。

「おかえり。ルイズ。」

「…た…、ただいま!」

 ルイズは、決壊したように涙をあふれさせて、トゥに抱きついた。

 アンリエッタ達は、やれやれとため息をついたのだった。

 




なんだかトゥの体が半端なく硬いみたいに書いたけど、ちょっと筋肉に力入れているだけです。普段は柔らかい。

ドゥドゥーとの戦いの時を思い出して、記憶が戻って精神崩壊が再び始まりましたが、ルイズが帰還したことでなんとか元に戻りました。
でも確実に終わりの時は迫っています。

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