二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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勘違いによるルイズの家出。

元素の兄弟との初戦。

最後、トゥが壊れ始める。



第七十八話  トゥと、ルイズの家出

 

 しばらくして、トゥは泣き止んだ。

「落ち着きましたか?」

「うん…。あの、お姫様…。」

「わたくしのことは、アンと呼んでください。」

「えっ?」

「いつだったか、わたくしが城抜け出したときに、わたくしのために兵の目を欺いてくれたではありませんか。その時に呼んでくれた名ですわ。」

「で、でも…。」

「こうして、二人きりの時だけでよいのです。わたくし…、あなたとは、本当のお友達になりたいのです。」

「私と?」

「そうですわ。」

「いいの?」

「もちろんですわ。」

「ルイズのことは?」

「ルイズももちろん大親友ですわ。」

「そっかぁ。」

「お友達になってくれますか?」

「もちろん。」

「良かった!」

 アンリエッタは、トゥの手を握り、嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 アンリエッタを、城の寝室に送った後、自分も部屋に戻ろうと思ったトゥは、部屋の前にスリッパが落ちているのを見つけた。

「ルイズ?」

 それはルイズが履いていたスリッパだった。

「ルイズ!」

 嫌な予感がしたトゥは、階段を駆け上がり、部屋に飛び込んだ。

 そこにはルイズはおらず、机に一枚の手紙が置かれているだけだった。

 

 “ごめんね”

 

 手紙には、そう書かれていた。

「デルフ! ルイズは!?」

 トゥは、部屋にあったデルフリンガーを掴み、揺すった。

『おおおお!? やめてくれ相棒! あの娘っ子なら、さっき一時間ほど前に泣きながら荷物まとめて出て行っちまったぜ。』

「!」

 一時間前。大体、アンリエッタに胸を借りて泣いていた時間帯だ。

 もしかしたら何か大きな誤解を生んでしまったかもしれない。

「ルイズーーー!」

 トゥは、デルフリンガーを腰に引っかけると、大慌てで外に飛び出していった。

 強化された脚力で全速力で走り抜ける。

 森を抜け、荒野を抜け、闇雲に走った。

『なあ、相棒。いくらおまえさんの足が速くたって、馬の足にゃ追いつけねぇぜ?』

「どこなの、ルイズ!」

『落ち着けって、なあ!』

 三十分ほど走った時、トゥは、前方に二人の貴族らしき人間を見つけた。

「すみません!」

「おわ! どうしました?」

 口論をしていた二人は、トゥの接近に驚いていた。

「ここを…、馬に乗った貴族の女の子が通っていませんか?」

「先ほど、すれ違った女性がそうかしら?」

「桃色がかったブロンドの髪の女性かい?」

「そうです! よかった、こっちに来てたんだ!」

「あの、こちらもちょっと聞きたいことがあって…。」

「ちょっと待て、軽々しく話していいことじゃないだろ?」

「何を言っているの? 勝手に資料をなくしておいて!」

「早くしてください!」

「ほら、この方も困っているじゃない。」

 もう一方の男は仕方ないという風にトゥを見た。

「お尋ねしてよろしいですか? この辺りに、トゥ・シュヴァリエ様という貴族がおられるという話なんですが…。」

「それ私のこと?」

「えっ!」

 二人はお互いの顔を見合わせた。

「そういえば、依頼者が花がどうのって言ってたわね。」

「じゃあ、彼女が…。」

「? 何の用事ですか?」

「君を殺しに来たんだ。」

「!」

 トゥは、一瞬固まり、背中の剣に手をかけて素早く距離を取った。

「そうなのよ。なのにこの人ったら、肝心のあなたの資料を置いてきてしまったのよ。兄様、資料なんてものは、そらで覚えてしまうものよ。」

「しょうがないじゃあないか、ジャネット、僕は忘れっぽいんだ!」

「本気?」

「ああ、残念ながら。」

「そうよ。おとなしくしていれば、眠っているようにヴァルハラへと送ってあげるから。」

 トゥの問いに、二人は答えた。

「そう…。」

 トゥは、声を低くして呟いた。

 次の瞬間、もう片方の手で、腰のデルフリンガーを抜き、居合いの一撃を放った。

 しかしドゥドゥーの姿はすでにそこにはなかった。

 魔法も使わず、彼は跳躍したのだ。

 次に、横から風の魔法が飛んでくる。それを大剣を抜いて防ぐ。

「剣士のくせに、たくさん、メイジを抜いたそうじゃないか。」

「邪魔。」

 トゥは、無表情をして無機質な声で言うと、ジャネットに斬りかかった。

 それより早く、杖を抜いたドゥドゥーがブレイドで斬りかかってきた。だがそのブレイド。今まで見てきたブレイドとは規模が違った。

「!」

 トゥは、それを大剣で防いだ。

「たいしたもんだ! 今の一撃を防ぐとは! 君が初めてだ。」

 ブレイドが…、とにかく大きいのだ。大木のように。

「なあ、ジェネット。楽しんでいいだろ?」

「ダメって言っても、どうせするんでしょう? 知らないわよ。」

 ジャネットは、呆れたようにそう言った。

「邪魔!」

「おおっと!」

 瞬時に接近してきたトゥの大剣の一撃を、ドゥドゥーは、ブレイドで防いだ。

「くっ、重いな! こんな剣を振り回すなんて本当に人間かい?」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 トゥは、ウタった。

 夜の闇の中にトゥの青い光が輝く。

「うっ!」

 至近距離で耳を裂くような大声を聞かされて、ドゥドゥーは、思わず顔を歪めた。

「邪魔ああああああああああああああああ!」

「ぐっ、くっ!」

 凄まじい斬撃をブレイドで受け流し続けるが、地面がえぐれ、どんどん後ろへと後退していった。

『相棒! これじゃあ、じり貧だ! 俺を使え!』

 トゥがそれを聞いて答えたのかどうかは分からないが、もう片手に握っていたデルフリンガーと二刀流でドゥドゥーに斬りかかった。

『相棒! 俺を地面に突き刺せ!』

「!」

 ふと我に返ったトゥが言われるまま、地面にデルフリンガーを突き刺した。

 すると地面に当たっていたブレイドの魔力がデルフリンガーに吸い取られ始めた。

「んなっ!」

 ドゥドゥーは、驚いた。自分の魔力が音を立てて吸い取られていることに。

『今だ、相棒!』

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「このぉ、剣の分際で!」

 ドゥドゥーは、懐から液体の入った小瓶を取り出した。

『あ、相棒! 逃げろ!』

「!」

 ドゥドゥーは、その液体を飲み込んだ。

 すると。

「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 ドゥドゥーは、竜のような咆吼をあげ、ブレイドを再び形成し始めた。

 だが、規模がおかしい。ただでさえ大木みたいだったのが、もはや魔力のほとばしりと呼ぶべきものに変わり、巨大な大蛇のように暴れる。

 しかし、それを。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 トゥは、ウタった。

 周囲に天使文字が浮かび、暴れ回るブレイド絡み取るように動く。

 凄まじい破壊はやがて治まっていき、ドゥドゥーは、倒れた。同時にブレイドと天使文字も消えた。

「信じられない。」

 ジェネットが唖然とした声で呟いた。

 トゥは、じろりとジャネットを見た。

 その時、彼女のもとへ一羽の鳥が飛んできた。

 その足にある手紙をジャネットが開くと、顔をわずかにしかめた。

「……あなたを殺すのは中止だわ。」

「…そう。」

「殺さないの?」

「邪魔するなら、殺す。」

『落ち着きな、相棒。もうそいつらに敵意はねぇ。』

 そうこうしているうちに、ジャネットは、気絶しているドゥドゥーを馬に乗せて、走り去っていった。

 残されたトゥは、二人が去った後、両膝をついた。

「ルイズ…、どこに、いるの?」

 トゥの悲しい呟きが夜の闇に溶けた。

 




このネタでは、デルフリンガーは、壊さないことにしました。

ルイズがいなくなり、精神的な支えが欠けて、精神が壊れ始めるトゥ。

元素の兄弟との戦いは、かなり悩みました。
精神状態が荒ぶっている状態じゃ、この場で殺しかねなかったので、いかに殺さないように倒すか…。結果、ウタで魔力の増幅を無効化して倒しました。

次回は、原作沿いながら、オリジナルな展開にしたいと思っています。

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