二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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ほぼ原作通りですが、アンリエッタとの会合は、若干オリジナル展開。




第七十七話  トゥと、アンリエッタ

 トゥは、ルイズから、貴族としての作法を教えられることになったのだが、その教育は熾烈を極めた。

「うぅ~。」

「ほら、これくらいで根を上げない!」

「無理だよ~。」

 作法というのは、単純な食事のマナーとは違う。何気ない仕草や、歩き方や、一礼の仕方など、とにくかく細かい。果ては、ベットの出方、入り方まで指南される始末だ。

「ねえ、ルイズ…。」

「なによ?」

「私と住むのは、エレオノールお姉さんじゃないよ?」

「なによ、あんた私と住みたくないわけ?」

「違うよ。」

「私は…、あんたが家族に馬鹿にされるのがイヤなだけよ。」

「そんなのいいよ。動き一つで馬鹿にされるなら、それでいいよ。それが貴族でも、私は、私はだもん。仕草や歩き方まで貴族になるなんてできないよ。だって、私は貴族として生まれてないもん。」

「分からず屋!」

「ルイズもだよ。」

「私と暮らすなら、ちゃんと貴族らしくして! そんなんじゃ、恥ずかしくって、舞踏会のエスコートも任せられないわ!」

「なにそれ…、結局、ルイズにとって、私のことより周りの目が気になるだけなんだね…。」

 トゥは、悲しそうに言った。

「ち、ちが…。」

「違わないよ。」

 トゥにきっぱり言われ、ルイズは、目にいっぱい涙をためて、走り去っていった。

 この場にいたシエスタは、オロオロとしていた。ヘレンは、早々に退散していた。

 トゥは、疲れた様子で、椅子に座り直し、テーブルに顔を伏せた。

「平和になったら、平和になったで、大変…。」

「ま、まあ、トゥさん…。」

 シエスタがテーブルにワインを出した。

「これでも飲んで落ち着きましょう?」

「うん…。」

 シエスタに注いでもらったワインを見つめ、トゥは、しばらく黙った。

「あの…、正直、トゥさんの言っていることももっともだと思います。」

「…も?」

「でも、ミス・ヴァリエールの気持ちも分かるんです。」

「…そう。」

「私だったら、そんなの全然気にしませんけど…。貴族の方は色々と大変なんですねぇ。」

「本当だね。こんなことなら…。」

「こんなことなら?」

「貴族になるんじゃなかった。なまじ貴族になんてなったから、ルイズもうるさく言ってくるんだ。」

「まあ!」

「どうしたの?」

「そんなめったなことを、軽々しく口にするものじゃありませんわ。平民から使い魔、そして貴族…、大出世じゃありませんか。」

「しゅっせ? 私は、そんなの望んでないよ。なんだか分からないうちに、こんなことになっちゃって…。」

「トゥさん…。」

 トゥは、再びワインを見つめて黙った。

 するとシエスタが、トゥにもたれかかってきた。

「シエスタ?」

「わあ。」

「?」

「む、虫が…。」

「虫?」

「はい…。シャツの中に入って…。取ってくれますか?」

「えっ?」

「だって…、私、虫苦手で…。」

「えっ? この間の掃除でゴキブリ平気で潰してたよね?」

「もう!」

 シエスタがぷりぷりと怒った。

「分かってます。トゥさんには、ミス・ヴァリエールがいますものね。まあ、そんなトゥさんだからいいんですけどね。でも、私に感謝してください。今の、作戦は本気じゃないですから。」

「さくせん?」

「もう、いいです。トゥさんってば、そういうこと全然興味ないんですもの。」

 シエスタは、そう言ってトゥから離れた。

 しかしトゥの方を向いたまま立ち。

「でも、ちょっと試してみます?」

 スカートの裾を持ち上げ、それで口元を隠しながら囁いた。

 トゥは、それをジッと見ていたが、それだけだった。

 そして顔と視線をワイングラスに戻し、またボーッとし始めた。

 シエスタは、諦め、二人はしばらく無言のままワインを飲んだ。

 そのうちシエスタがテーブルに突っ伏し寝息を立てだした。

 そんなシエスタに、トゥは、毛布を持ってきてかけててあげた。

 ルイズがいるであろう部屋に行くと、鍵が閉まっていた。どうやらまだふて腐れているらしい。

 ため息を吐いたトゥは、気晴らしにと、台所に行って、ワインのおつまみになるものを作ろうかと思った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 戸棚を探り、飲むためのワインを探していると思わぬモノを見つけた。

「カギ?」

 古ぼけたカギだった。

 こんなところにカギを忘れるなんておかしいと思ったが、ふと閃いた。

 確かこの屋敷には、鍵がかかった地下への入り口がなかったかと。

 あそこは使わないから、修繕する際に無視するようにと言って、修繕費を安く上げようとしたのだ。

 真鍮のそのカギは、古ぼけており、色もあせていた。

 気分が滅入っていたトゥは、興味本位で、その地下室へと向かった。

 鍵穴に差し込むと、音を立てて鍵は開いた。

 念のため、大剣を背負い、拳銃も腰に隠して階下に続く階段を下りていった。

 階下に行くと、そこは闇に包まれており、ろうそくの火を灯しただけで十分の狭さだった。

 ガラクタだろうか、色んな物が転がっており、瓶らしきものもある。古いワインだと思われる。

「?」

 その時、トゥは、壁の隙間に違和感を感じた。

 何か突起があり、それを思わず押し込んで見ると、突起は壁に沈み、低いうなりをあげて目の前の壁がずれていった。

「隠し部屋…。」

 最初はただの古びた貴族の屋敷だと思っていたが、どうやら少々普通では無いらしい。

 それとも、知らないだけで、貴族の屋敷にはこういう仕掛けが普通にあるのだろうか?

 そう思いながら、ちょっとワクワクしてきたトゥは、先に進んだ。

 そこには、少ししゃがんでくぐれるくらいの小さな通路があり、トゥはかがみながら進んでいった。

 すると突き当たりに扉があった。

「扉?」

 興味引かれるままに扉を開けた。

 

 その向こうには、部屋があった。

 

 寝室であろうか、タンスなどがあり、シンプルながら全体的な作りは豪華だ。

 レースカーテンや、ベットのカバーなど、さらに小物には宝石がちりばめられている。

 地下にあるにしては、埃はないし、ベットの作りからするにド・オルニエールの屋敷のベットよりずっと高価だ。

 ド・オルニエールの年収を考えると、前の領主が残した物だったとしてもあまりに不相応だ。

 部屋の壁に、大きな姿見の鏡があり、トゥが近づくとなぜか、キラキラと光りだした。

 なんとなく、見覚えがあるなぁっと思っていると、ふと思い出した。

 ルイズがトゥを再召還する際に発生したゲートに似ているのだ。

「魔法の…鏡?」

 どこかにつながっているのだろうか?

 そういえば今までいなかったスピリットが、屋敷に出現したが、ここを通ってきたのだろうか?

 前に水の精霊を暴走させたスピリットもそうだが、どこかにトゥがかつていた世界への穴があるのではないか?

 そこからモンスターが流れ着いているのだとしたらいい迷惑だ。

「もしかして…、つながってる?」

 自分が元いた世界に…。

 そう思うと、今すぐにこの鏡を破壊すべきなのだろうが、実行しなかった。

 トゥは、何を思ったのか、鏡に触れていた。

 

 そして、背後に光るゲートのある、一メートル四方の石壁に囲まれた場所に出た。

 思わず手を伸ばすと、壁が開いた。というか、回転した。

「回転扉?」

 トゥがその向こうに出て最初に見たのは。

 ろうそくの火の明かりに照らされた、女性の姿だった。

「あれ?」

「きゃあああああああああ!」

「えっ、あっ、え? あ、あの、あのぉ。」

「えっ、あなたは…。」

 悲鳴を上げられてしまい、慌てて声をかけると、女性は悲鳴を止めて驚いたように言った。

「…お姫様?」

「トゥ殿?」

 お互いの声でやっと、お互いが誰なのか分かった。

「陛下! どうされました!」

 アニエスの声が聞こえ、アンリエッタは、ハッとしてトゥの手を取り、引っ張ってベットに押し込んだ。

「陛下!」

 部屋に飛び込んできたアニエス。

「陛下の悲鳴が聞こえましたので……、駆けつけましたが…。」

「驚かせて申し訳ありませぬ。ネズミがいたので、つい大声をあげてしまいました。」

「さようですか…。」

 アニエスは、多少呆れた様子で部屋から去って行った。

 アンリエッタは、ホッとし、ベットの中に押さえ込んでいたトゥが這い出てきた。

「いったい、どうしたのです? こんな夜中に。」

「えっと…、あの…。」

 トゥは、いじいじと指を動かし、わけを話した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「まあ、城の寝室と、ド・オルニエールがつながっていたなんて……。」

「びっくりだよ。」

 二人は今、ド・オルニエールの地下室にあったベットに腰掛けていた。

「まるで虚無のゲートみたい。」

「おそらく、それを利用した古代のマジックアイテムなのでしょう。」

 一方で城の寝室の方には、ディテクト・マジックでは感知できず、今日まで気づかなかったのだ。

「あれなのかな? これって秘密の抜け穴?」

「たぶん、違うと思います。」

「どうして?」

「この部屋の作りを見るに…、以前、ド・オルニエールの土地は、父か祖父の妾宅だったでしょうね。」

「しょうたく?」

「ええ、いわゆる……、こういう言い方はあまり褒めら得た物ではありませんが、愛人ということです。」

「あ…。」

 言われてみれば、ド・オルニエールの土地に不相応な豪華な作りなのは、王家の人間を迎え入れるため、あるいは、寵愛を受けた者を喜ばせるためのものだ。

「城の抜け道は知っておりますが、ここは知らされておりませんでしたわ。つまりは、そういうことなのでしょうね。」

「なんで、笑ってるんですか?」

「すみません。でも、おかしくって。父も祖父も、厳格な王と呼ばれていました。そんな彼らにも、このような一面があったのですね。」

「あ、なるほど。」

「ふふ、それにしても、私が与えた土地と王官がこんな風につながっていたなんて…。」

「びっくりだよ。」

「そういえば、あなたに与えたっきりでしたわね。いずれ、訪れようと思っていたのですが……。住み心地はどうでしょうか?」

「……えっと、気に入ってます。」

 実は、話と違っていたなどとは言えない。

「そうですか。それはよかった。」

「あは…。」

「どうかしたのですか?」

「いえ…、ちょっと色々とあって…。」

「まあ、どうしたのです?」

「ルイズと喧嘩しました…。」

「まあ。」

 それから、トゥは、ルイズと喧嘩した理由などを話した。

 アンリエッタは、親身になって聞いてくれた。

「どうしてなんだろう? こんなはずじゃなかったのに…。どうしてこうなっちゃうんだろう?」

 トゥの目に涙が浮かんだ。

 涙を抑えようと思っても、次から次に涙があふれてきて、やがてトゥは、グスグスと泣き出した。

「トゥ殿…。」

「わっ。」

 アンリエッタが、トゥを抱き寄せてその胸にトゥの顔が埋まった。

「お優しいのですね。」

「そんなことない…。」

「いいえ。悩むと言うことはルイズのことも、そして周りの者のことも大切に思っているからなのですよ。わたくしは、人の王として、時に切り捨てなければならない非情さを求められます。慈悲だけでは、人の上に立つことはできないからなのです。しかし、慈悲を忘れてしまっては、あの狂った王のようになってしまうでしょう。」

「私…、あの人のこと…、悪い人だったなんて思ってないないの…。」

「あなたは、とても慈悲深い方ですね。わたくしは、それが羨ましい…。」

「私は…、私は…。」

「泣いていいのです。トゥ殿。わたくしの胸で良ければ、ぞんぶんに泣きなさい。」

「うぅ…、う~~~。」

 トゥは、決壊したように泣き出した。

 アンリエッタは、よしよしと子供をあやすように、トゥの頭を撫でた。

 

 




トゥは、別に興味が無いわけじゃなです。それ以上に思うことがあるからです。
ドラッグオンドラグーン3のように、やっちゃったら、15禁じゃ済まなくなるので…。

次回は、ルイズの家出と、元素の兄弟との戦いかな。

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