二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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お家探し編。

ルイズとシエスタの攻防(?)。


第七十二話  トゥ、屋敷を探す

 

 シエスタ以外のメイド達は帰り、残ったシエスタとルイズは、言い合いをしていた。

 トゥはというと、眠いのでベットに横になっていた。

「過激ですね、まさか酔いの任せてあんな…。」

「それより、なんであんた、トゥはお帰りなさいで、私は無視なの?」

「え~~~、だって私はトゥさんの専属ですもん。ミス・ヴァリエール関係ないですもん。でも、ご無事でなによりです。」

「全然気持ちがこもってないわ!」

「トゥさん、ちゃんとお布団かぶってないとお腹冷やしますよ?」

「話を逸らさないで!」

「聞いてますよ。今回もトゥさん、大活躍だったらしいですわね。ほんと、自分のことのように誇らしいです。」

「聞きなさいよ!」

「静かに、トゥさんが起きちゃいますよ?」

「むぐっ…。」

 シエスタに唇を人差し指で押され、ルイズは、黙った。

 シエスタは、ルイズが黙ったのを見てから、トゥの方に顔を向け、ニコニコしながらその髪の毛を撫でた。

 ルイズは、そのシエスタの手を払いのけたかったが、ふとあることに気づいて勝ち誇ったように笑った。

「? どうしましたか?」

「べーつーにー。」

「言ってください。」

「そこまで言うなら言ってあげるけど。まあ、今だけだからね、トゥに触ってもいいわよって。そんな感じ。」

「どういう意味ですか?」

「いやね。卒業したら私、トゥと暮らすし! ま、それまではあんたも少しは楽しめば? って、そんぐらいならいいわよって、そんな感じ。」

「何言ってるんですか?」

「は?」

「トゥさんが引っ越したら私もついていくに決まってるじゃないですか。お忘れですか?」

「なんでよ! メイドはいらないのよ。こぢんまりしたところでいいから。」

「いやですね。それを決めるのは、ミス・ヴァリエールじゃないんです。」

「は?」

「もう、本当にお忘れなんですか? 私をトゥさんの専属メイドにしたのは、他ならぬ女王陛下ですよ。つまり、私は女王陛下よりトゥさんに下賜された持ち物みたいなものなんです。勝手にクビにしたら、逆心ありってことになっちゃいますよ?」

「あ…。」

「そういうわけですので。お屋敷を探すのなら、もちろんお供させていだきます。なにせ、私の新しい職場ですからね!」

 シエスタは、ワナワナと震えるルイズに勝ち誇った声で言い、それはそれは良い笑顔を浮かべて見せたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌日。虚無の日。

 予定通り、トゥは、ルイズと住む家を探しに出かけた。シエスタがついてきたので、理由を聞いたら、前日の夜にシエスタがルイズに説明したことをトゥに説明し、トゥからの了承を得ていた。それを見てルイズは、ギリギリと歯を食いしばった。

「そっかぁ。シエスタも大変だね。」

「そんなことありません。私はトゥさんの専属メイドになれて本望ですから。」

「それなら、いいけど…。ルイズ? どうしたの?」

「な、なんでもないわ…。」

 ルイズは、引きつった顔でそう答えた。

「そう?」

「きっと今日が楽しみで眠れなかったんじゃないですか?」

「そうなの?」

「そうね…。」

「無理しないでね。」

「ええ…。」

 ルイズは、引きつった笑い顔を浮かべて返事をした。

 

 

 そしてお家探し…あらためお屋敷探しとなったわけだが、…難航した。

 っというのも。

「気に入らないわ。」

 ルイズがことごとく却下するのである。

「えー? なんでぇ?」

 トゥは、首を傾げた。

 不動産業を営むヴァイユという人物を訪ねて物件を見せてもらっているのだが、どれもこれもルイズがダメ出しをするのである。

 一方でトゥは、子供のようにワクワクとした目で物件を見ていた。

「若奥様。お気に召しませんか?」

「壁の色も良くないし、そこの縁がボロいし、向きが悪いし、庭の花も木も気に入らないわ。」

「えー? そんなに言うほどじゃないでしょ?」

「ああ、分かっていただけますか?」

 ルイズのダメ出しにいい加減うんざりしていたらしいヴァイユが、トゥからの賛同を喜んだ。

「とにかくダメ! 次!」

「…ごめんなさい。」

「はい…、では、次の物件へご案内します。」

 結局この物件もルイズのわがままで却下されてしまったため、ヴァイユは、次の物件にトゥ達を案内した。

 次から次に紹介した物件を却下され、プライドを傷つけられたヴァイユは、ついにとっておきの物件を紹介した。

 それは、一言で言うなら、まるで屋敷が森をくりぬいたかのような、今まで普通な感じの作りの物件ばかりだったのにたいし、芸術的な部分が強い。

「わあ、すごい!」

「素晴らしいでしょう! このお屋敷はかの高名な建築家、ロッサリーニ氏が設計、建築したものでございます!」

「その人のことは知らないけど、すごいお屋敷。」

「さすが近衛騎士殿、お目が高い! これがあなた。一万エキューとは、破格も破格! これ以上の屋敷は、トリスティン中を探したって見つかりませんよ!」

「ねえ、ルイズ。どう?」

「あっきれた。あんた、こんなのがいいわけ?」

「えー? だって、面白そうじゃん。」

「そんな理由で住居を決めるなんて、あんた馬鹿なの?」

「えー。だって、ルイズ文句ばっかりなんだもん。いい加減にしてよ。」

「なんですって?」

「まあまあ。」

 言い争いになりそうなった時、後ろに控えていたシエスタが止めに入った。

「お二人とも喧嘩なんてしないでください。せっかく素敵なお屋敷を探しに来たんですから。ね?」

「うるさいわね。あんたは関係ないじゃない。」

「関係あります。だって、家事をするのは私なんですから、きちんと見ておく必要があります。」

「お料理は私がしたいなぁ。」

「もちろん、トゥさんのご要望を最優先にします! 私はアシストで!」

「わ、私だってするわよ!」

「いえいえ、ミス・ヴァリエールにそんなことをさせるわけにはいきませんわ。なにせかの高名なヴァリエール家のご令嬢なのですから。」

「できるわよ! 私にだって!」

 シエスタに遠回しに家事ができないことを突かれてルイズはムキになった。

「台所見せてもらっていいですか?」

「あ、あの…、いいんですか?」

「いつものことだから。」

 あっけらかんと言うトゥに、ヴァイユは、呆然とした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「トゥさん見てください! このお屋敷の台所、とっても広くて素敵ですよ!」

「わあ、本当だ。」

 シエスタとトゥは、キャッキャッと嬉しそうに屋敷を見て回っていた。

 その後ろをムスッとした顔をしたルイズが追いかける。

「メイドはいらないって言ったのに…。」

 だがそうは言っても、シエスタがアンリエッタの命によりトゥに下賜されたメイドである以上、クビにはできない。分かっている。分かっているのだが、それだけにイライラは募った。

 それに、メイドを雇わないわけにはいかないのだ。

 なにせ男に任せられない仕事もあるのだから。

 しかもシエスタは、メイドとしては有能であり、そう考えるとどこの馬の骨とも知れないメイドを雇うよりかは…、っということになってくる。

 だが理屈ではないのだ。こういうのは。ましてやシエスタは、トゥに主人に対する敬愛以上の感情を抱いているのも問題だ。

「見てください、このかまど! これならなんでも作れちゃいますね!」

「本当だ! これなら、色んな料理が作れそう!」

「トゥさんは、どんな料理がお好きなんですか?」

「う~ん、何でも作るけど。お肉の料理が多いかな?」

「素敵です、トゥさん。」

「そう?」

 キャッキャッうふふっとはしゃいでいるトゥとシエスタの後ろでは、ルイズがハンカチをかみ切りそうな勢いで噛んで、きぃーーーっとなっていた。

「ねえ、ルイズ。何が食べたい?」

 急に話をふられ、ルイズはびっくりした。

「? どうしたの?」

「えっ…、あ…。なんでもないわ。」

「お家が決まったらね。ルイズの好きな食べたいもの作ってあげるよ。」

「そうね…。クックベリーパイなんか作ってくれたら嬉しいかしら。」

「べりーぱい? シエスタは知ってる?」

「はい。レシピは知ってます。」

「じゃあ今度教えて。」

「なんでそうなるのよ!」

「えっ? だって、私クックベリーパイの作り方知らないから、知ってる人に聞くのが普通でしょ?」

「だからってなんでシエスタなのよぉ!」

「シエスタって、お料理上手だもん。」

「はい! トゥさん!」

 褒められてシエスタは、満面の笑みを浮かべた。

 その笑みが“勝った”というものに見えてならないルイズは、顔を引きつらせてなんとか話題を変えようと思って、天井の一角にぶら下がっているものを指さして言った。

「素敵な、シャンデリアね。なるほど、さすがに芸術嗜好の貴族が建てただけはあるわ。ずいぶんと前衛的な作りじゃない。うん。質素な中に気品があるわ。」

 すると、シエスタがぷっと吹き出した。

「……それ、野菜を干すための籠ですよ?」

「ルイズ、面白いこと言うね。」

 二人に笑われルイズは、耳まで真っ赤にした。

 いたたまれなくなったルイズは、床についた扉を開けた。

「見て! 地下室もあるわ!」

「それ貯蔵庫だよ?」

「そ、そうともいうわ。ねえ、トゥ。入ってみない?」

「入らない。」

 トゥに拒否され、ルイズは、貯蔵庫に入って膝を抱えてしまった。

「ルイズー。どうしたの? さっきから。」

「トゥさん、トゥさん! このオーブン見てください! 最新式ですよ!」

「えっ? 本当?」

 シエスタの言葉の方が気になったトゥは、そちらを向いてしまった。

 残されたルイズは、ルールールーっと鼻歌を歌い出したが、誰も聞いてなかった。

 その時、ピョンッと不意に何かが現れた。

 それはよく見ると、ルイズにとって最大の天敵であった。

「か、カエルーーー!!」

 次の瞬間、ルイズは、魔法を使っていた。

 悲鳴と共に爆発によって舞い上がる煙…。

 その結果…。

 

「申し訳ありません。わたしくしには、ラ・ヴァリエール様に満足いただける物件を紹介することは不可能のようです…。」

 

 ヴァイユからそう告げられてしまったのだった。

 ついでに屋敷の修繕費として二百エキュー取られたのだった。




シエスタに嫉妬するあまりに物件探しが難航。
ルイズが台所のことを知らないのは、まあ雇い主側だから入る事なんてないでしょうからね。

次回は、ド・オルニエールの領地をもらうかな?

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