二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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タバサがトゥに対して、そういう好意的な気持ちを向けるのは無理があるかな…?


第六十八話  トゥ、ルイズに疑われる

 

 

「そういえば、前話してたわよね。」

「なんのこと?」

 二人でベットに横になっているとルイズが唐突に言った。

「始祖ブリミルと会ったって夢のことよ。あんた言ってたじゃない。」

「ああ、あれ? そういえばそんな話したっけ。あれ、不思議だったなぁ。まるで現実みたいだったなぁ。ねえ、デルフ。」

 トゥは、デルフリンガーを抜いて聞いてみた。

『よお、相棒。どれぐらいぶりだ。』

「ごめんね。ねえ、デルフ。私、ブリミルさんの夢見たの。」

『ああ、らしいな。』

「あれって、本当に夢?」

『さあな。けど本当のことだろ。ルーンに刻まれた記憶がおまえさんに見せたんだろうよ。』

「じゃあ、エルフのサーシャさんも本当だったんだね。」

『おう! サーシャとおりゃあ良いコンビだった! 二人して散々暴れたもんだぜ。』

「始祖ブリミルの初代ガンダールヴがエルフだったなんて、歴史的大発見じゃない! どうしてあんたそのこと黙ってたのよ?」

『そう言われてもよぉ…。昔のこと過ぎるし、断片的なことしか覚えてねぇ。連中が朝何食ってたとか、何時に寝てたとか、そういうつまらないことなら覚えてるだけで、あとはさっぱりだ。ちなみにブリミルは、ニンニクが食えなかったんだぜ。』

「ニンニク嫌いだったんだね。」

「そんなんじゃなくて、もっと具体的なことは?」

「ブリミルさん、サーシャさんに、この蛮人!って言われてゲシゲシ蹴られてたよ。ブリミルさん、すっごく謝ってた。」

「わあ…。」

 想像したルイズは、呆れた顔をした。

『ただな、なんか悲しいことがあったことだけは覚えてんだ。』

「なにがあったの?」

『覚えてねぇ…。いや、思い出したくねぇ。』

 デルフリンガーは、そう言うと、黙ってしまった。何か考え込んでいるかのように。

「なによ、肝心なところで黙っちゃって。」

「話したくないら無理しなくて良いよ?」

「そういうわけにはいかないわ。こいつは、ブリミルの初代ガンダールヴのエルフを相棒にしてたんでしょ? ブリミルがエルフと仲良くしてたってことじゃない! だから今更私達がエルフとけんかする必要なんないってことよ。」

「あっ、そうか。」

「ね? だからしっかり喋りなさいよ!」

『……。』

「だんまりはやめて。」

「デルフだって全部覚えてるわけじゃ無いし、無理して喋らなくて良いと思うよ?」

「あら、なによ? こいつを庇うわけ?」

「ルイズだって聞かれたくないことや、思い出したくないことってあるでしょ? 無理矢理聞かれたら嫌じゃないの?」

「む…。分かったわ。でもこれだけは確かよ。これは、聖戦をひっくり返す大きなカードよ。それだけは忘れないで。」

「うん。……でも…。」

「なに?」

「……お姫様…、今頃何してるかなぁ? あれから全然連絡無いよね?」

「こら、話を逸らさないで。何か言いかけたでしょ。」

「…何も言ってないよ。」

「嘘おっしゃい。」

「……あのね、ルイズ。」

「なに?」

「……私…。」

 トゥは、俯き、間を置いた。

 ルイズは、次の言葉を待った。

「ううん。やっぱりいいや。」

「なにそれ! もう!」

「私も、何が言いたかったか分からなくなったの。」

「そ、そう…。」

 なら仕方ないと、ルイズは無理矢理に納得しようとした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌日。

「タバサちゃん、おはよう。」

「っ!」

「?」

 トゥは、普通に挨拶したつもりだったが、なぜかタバサは、読んでいた本を落として慌てて本を拾うと、俯き、小さく頷いただけだった。

「どうしたの?」

 トゥが小首を傾げて聞いたのだが、タバサは、本に目を落としたまま、何も答えなかった。

 トゥは、不思議に思いながらも、水精霊騎士隊の仲間達のところへ移動した。

「……ねえ、トゥ。」

「なぁに?」

 水精霊騎士隊の仲間達とわいわいしていると、ルイズがやってきてヒソヒソと聞いてきた。

「タバサと何かしてないわよね?」

「? 何もしてないよ。」

「ほんとう~~~?」

「だって、昨日はルイズと一緒にいたでしょ?」

「あっ…。」

 ルイズは、ハッとしたが、すぐに。

「で、でも、あたしが寝ているときにこっそり抜け出すぐらいできるわよ。」

「なんで、そんなに疑うの?」

「そ、それは…。」

 ルイズは、直感だが、タバサは、トゥに対して淡い想いを抱いているのではと見ていた。

 現在進行形で、トゥに恋している自分がそう感じているので、まず間違いないだろう。

 できることなら、間違いであってほしいが第六感が警報を発している。

「と、とにかく、タバサには近寄らないように。」

「えー。」

「えー、じゃない! いいわね!」

「…むぅ…。」

 トゥは、不満そうに声を漏らした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 さらに翌朝。

 早朝から外が騒がしかった。というか、ロマリア軍とおぼしき人間達の歓声が上がっていた。

 そのうるささと言ったら、窓を開けたら、まさに割れんばかりのというほどのレベルだ。

「なによ? うるさいわねぇ。」

「どうしたんだろう?」

「なんだね、いったい?」

「なんなんですか?」

 壁に穴が空いてしまったため、ルイズとトゥの部屋の窓を開けたら、隣にいるマリコルヌとティファニアにも騒音が聞こえ起きてきた。

 外を見ると、宿から一望できるリネン川の近くの草原に、ロマリア軍が展開しており、その中心には、コンサートのステージのような祭壇があった。

 よく見ると、その上には、ヴィットーリオがいた。

「なんだ? こんな朝から説法でもするのかね?」

「……。」

「どうしたの、トゥ?」

「タバサちゃん…。」

「えっ? あ、トゥ!」

 トゥがポツリッとつぶやき、部屋から飛び出していった。

 外へ飛び出していったトゥを追い、ロマリア兵達をかき分けてヴィットーリオがいるステージの近くに来た。

 ヴィットーリオは、祈りをしており、それが終わると、対岸にいるガリア兵達に挨拶をした。

 当然だがヤジが飛んでくる。

 しかしヴィットーリオは、にこやかに笑っている。

 すると、ガリアの王家の旗があげられ、やがて…。

「あなた方が抱くべき、正統な王をご紹介いたします。亡きオルレアン公が遺児。シャルロット姫殿下です。」

「タバサ!」

 キュルケが叫んだ。

 そこに現れたのは、豪華な王族の衣装を着て、いつもの地味な眼鏡を外し、薄い化粧を施されて、まさに姫殿下というにふさわしい高貴さをまとったタバサだった。

 するとガリア兵達が驚愕し混乱しだした。

 ニセモノではないかという声も飛び交い、そこでニセモノかどうか確かめるべく、ソワッソンをはじめとした数名のガリア兵達が小舟で渡ってきた。

 ディテクト・マジックでタバサを調べ、ニセモノではないことを確かめると、彼らは一斉に膝をついた。

「おなつかしゅうございます…! シャルロット姫殿下!」

 っと。

 そして、割れんばかりのどよめきが、ガリア軍側から沸いた。

 川の中州に飛び出してきた貴族の中には、先日トゥと戦ったカステルモールも混じっていた。

 彼は、かぶっていた鉄仮面をむしり取り、腕を振って叫んだ。

「私は、東薔薇騎士団団長、バッソ・カステルモールと申すもの! 故あって傭兵に身をやつしていた次第! 私はここにシャルロット様を王座に迎えての、ガリア義軍の発足を宣言する! 我と思う者は、シャルロット様の下へ集え!」

 彼の言葉により、ガリア軍は混乱した。突然の展開にあたまがついていけないのだ。

 そこにヴィットーリオがとどめの言葉を出す。

 由緒ある王国にふさわしい王は誰かと。リュティスで今なお惰眠をむさぼる、弟を殺して冠を奪った無能王か、それとも……、っと。

 ガリア側から貴族や兵達がロマリア側に集まってきたが、全部ではない。あまりの出来事に頭がついていかず固まっているのだ。

「これでは、ガリアはロマリアの言いなりになってしまうわ。そうなったらもう聖戦は止められない。」

 っとルイズが悔しそうに言った。

「タバサちゃん…、どうして?」

 トゥは、不思議そうにタバサを見つめて呟いた。

 

 その時、空を圧するように大艦隊が飛んできた。

 だがその艦隊が、突如発生した巨大な火球に飲み込まれた。

 

 転がり出した、大岩は、止めるすべは無いのだ。

 

 

 




次回は、ジョゼブとの決戦かな。

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