「そういえば、前話してたわよね。」
「なんのこと?」
二人でベットに横になっているとルイズが唐突に言った。
「始祖ブリミルと会ったって夢のことよ。あんた言ってたじゃない。」
「ああ、あれ? そういえばそんな話したっけ。あれ、不思議だったなぁ。まるで現実みたいだったなぁ。ねえ、デルフ。」
トゥは、デルフリンガーを抜いて聞いてみた。
『よお、相棒。どれぐらいぶりだ。』
「ごめんね。ねえ、デルフ。私、ブリミルさんの夢見たの。」
『ああ、らしいな。』
「あれって、本当に夢?」
『さあな。けど本当のことだろ。ルーンに刻まれた記憶がおまえさんに見せたんだろうよ。』
「じゃあ、エルフのサーシャさんも本当だったんだね。」
『おう! サーシャとおりゃあ良いコンビだった! 二人して散々暴れたもんだぜ。』
「始祖ブリミルの初代ガンダールヴがエルフだったなんて、歴史的大発見じゃない! どうしてあんたそのこと黙ってたのよ?」
『そう言われてもよぉ…。昔のこと過ぎるし、断片的なことしか覚えてねぇ。連中が朝何食ってたとか、何時に寝てたとか、そういうつまらないことなら覚えてるだけで、あとはさっぱりだ。ちなみにブリミルは、ニンニクが食えなかったんだぜ。』
「ニンニク嫌いだったんだね。」
「そんなんじゃなくて、もっと具体的なことは?」
「ブリミルさん、サーシャさんに、この蛮人!って言われてゲシゲシ蹴られてたよ。ブリミルさん、すっごく謝ってた。」
「わあ…。」
想像したルイズは、呆れた顔をした。
『ただな、なんか悲しいことがあったことだけは覚えてんだ。』
「なにがあったの?」
『覚えてねぇ…。いや、思い出したくねぇ。』
デルフリンガーは、そう言うと、黙ってしまった。何か考え込んでいるかのように。
「なによ、肝心なところで黙っちゃって。」
「話したくないら無理しなくて良いよ?」
「そういうわけにはいかないわ。こいつは、ブリミルの初代ガンダールヴのエルフを相棒にしてたんでしょ? ブリミルがエルフと仲良くしてたってことじゃない! だから今更私達がエルフとけんかする必要なんないってことよ。」
「あっ、そうか。」
「ね? だからしっかり喋りなさいよ!」
『……。』
「だんまりはやめて。」
「デルフだって全部覚えてるわけじゃ無いし、無理して喋らなくて良いと思うよ?」
「あら、なによ? こいつを庇うわけ?」
「ルイズだって聞かれたくないことや、思い出したくないことってあるでしょ? 無理矢理聞かれたら嫌じゃないの?」
「む…。分かったわ。でもこれだけは確かよ。これは、聖戦をひっくり返す大きなカードよ。それだけは忘れないで。」
「うん。……でも…。」
「なに?」
「……お姫様…、今頃何してるかなぁ? あれから全然連絡無いよね?」
「こら、話を逸らさないで。何か言いかけたでしょ。」
「…何も言ってないよ。」
「嘘おっしゃい。」
「……あのね、ルイズ。」
「なに?」
「……私…。」
トゥは、俯き、間を置いた。
ルイズは、次の言葉を待った。
「ううん。やっぱりいいや。」
「なにそれ! もう!」
「私も、何が言いたかったか分からなくなったの。」
「そ、そう…。」
なら仕方ないと、ルイズは無理矢理に納得しようとした。
***
翌日。
「タバサちゃん、おはよう。」
「っ!」
「?」
トゥは、普通に挨拶したつもりだったが、なぜかタバサは、読んでいた本を落として慌てて本を拾うと、俯き、小さく頷いただけだった。
「どうしたの?」
トゥが小首を傾げて聞いたのだが、タバサは、本に目を落としたまま、何も答えなかった。
トゥは、不思議に思いながらも、水精霊騎士隊の仲間達のところへ移動した。
「……ねえ、トゥ。」
「なぁに?」
水精霊騎士隊の仲間達とわいわいしていると、ルイズがやってきてヒソヒソと聞いてきた。
「タバサと何かしてないわよね?」
「? 何もしてないよ。」
「ほんとう~~~?」
「だって、昨日はルイズと一緒にいたでしょ?」
「あっ…。」
ルイズは、ハッとしたが、すぐに。
「で、でも、あたしが寝ているときにこっそり抜け出すぐらいできるわよ。」
「なんで、そんなに疑うの?」
「そ、それは…。」
ルイズは、直感だが、タバサは、トゥに対して淡い想いを抱いているのではと見ていた。
現在進行形で、トゥに恋している自分がそう感じているので、まず間違いないだろう。
できることなら、間違いであってほしいが第六感が警報を発している。
「と、とにかく、タバサには近寄らないように。」
「えー。」
「えー、じゃない! いいわね!」
「…むぅ…。」
トゥは、不満そうに声を漏らした。
***
さらに翌朝。
早朝から外が騒がしかった。というか、ロマリア軍とおぼしき人間達の歓声が上がっていた。
そのうるささと言ったら、窓を開けたら、まさに割れんばかりのというほどのレベルだ。
「なによ? うるさいわねぇ。」
「どうしたんだろう?」
「なんだね、いったい?」
「なんなんですか?」
壁に穴が空いてしまったため、ルイズとトゥの部屋の窓を開けたら、隣にいるマリコルヌとティファニアにも騒音が聞こえ起きてきた。
外を見ると、宿から一望できるリネン川の近くの草原に、ロマリア軍が展開しており、その中心には、コンサートのステージのような祭壇があった。
よく見ると、その上には、ヴィットーリオがいた。
「なんだ? こんな朝から説法でもするのかね?」
「……。」
「どうしたの、トゥ?」
「タバサちゃん…。」
「えっ? あ、トゥ!」
トゥがポツリッとつぶやき、部屋から飛び出していった。
外へ飛び出していったトゥを追い、ロマリア兵達をかき分けてヴィットーリオがいるステージの近くに来た。
ヴィットーリオは、祈りをしており、それが終わると、対岸にいるガリア兵達に挨拶をした。
当然だがヤジが飛んでくる。
しかしヴィットーリオは、にこやかに笑っている。
すると、ガリアの王家の旗があげられ、やがて…。
「あなた方が抱くべき、正統な王をご紹介いたします。亡きオルレアン公が遺児。シャルロット姫殿下です。」
「タバサ!」
キュルケが叫んだ。
そこに現れたのは、豪華な王族の衣装を着て、いつもの地味な眼鏡を外し、薄い化粧を施されて、まさに姫殿下というにふさわしい高貴さをまとったタバサだった。
するとガリア兵達が驚愕し混乱しだした。
ニセモノではないかという声も飛び交い、そこでニセモノかどうか確かめるべく、ソワッソンをはじめとした数名のガリア兵達が小舟で渡ってきた。
ディテクト・マジックでタバサを調べ、ニセモノではないことを確かめると、彼らは一斉に膝をついた。
「おなつかしゅうございます…! シャルロット姫殿下!」
っと。
そして、割れんばかりのどよめきが、ガリア軍側から沸いた。
川の中州に飛び出してきた貴族の中には、先日トゥと戦ったカステルモールも混じっていた。
彼は、かぶっていた鉄仮面をむしり取り、腕を振って叫んだ。
「私は、東薔薇騎士団団長、バッソ・カステルモールと申すもの! 故あって傭兵に身をやつしていた次第! 私はここにシャルロット様を王座に迎えての、ガリア義軍の発足を宣言する! 我と思う者は、シャルロット様の下へ集え!」
彼の言葉により、ガリア軍は混乱した。突然の展開にあたまがついていけないのだ。
そこにヴィットーリオがとどめの言葉を出す。
由緒ある王国にふさわしい王は誰かと。リュティスで今なお惰眠をむさぼる、弟を殺して冠を奪った無能王か、それとも……、っと。
ガリア側から貴族や兵達がロマリア側に集まってきたが、全部ではない。あまりの出来事に頭がついていかず固まっているのだ。
「これでは、ガリアはロマリアの言いなりになってしまうわ。そうなったらもう聖戦は止められない。」
っとルイズが悔しそうに言った。
「タバサちゃん…、どうして?」
トゥは、不思議そうにタバサを見つめて呟いた。
その時、空を圧するように大艦隊が飛んできた。
だがその艦隊が、突如発生した巨大な火球に飲み込まれた。
転がり出した、大岩は、止めるすべは無いのだ。
次回は、ジョゼブとの決戦かな。