二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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過去編かな。

サーシャとの出会い。
そしてブリミルとの接触。


第六十一話  トゥ、サーシャと出会う

 トゥが目を覚ました時、最初に目に映ったのは、草の緑だった。

「…あれ?」

 身を起こし、周りを見回した。

 トゥが寝ていたのは、大聖堂のあの部屋ではなく、一本の木の根元だった。

 そこは、小さな丘の上で、遠くまで続く草原が広がっていた。

「ルイズ?」

 名前を呼んでも返事はない。たった一人であった。

 ハッとして腰にあるデルフリンガーを抜いて状況を把握しようとしたが、なぜかデルフリンガーがなかった。

 そして、気付いた。

「あれ?」

 右目の違和感。

 恐る恐る手を伸ばすと、そこには、花がなかった。

 トゥは、何が起こっているのか分からずしばらく放心した。

「…夢?」

 酷く現実味がないので、そう結論付けようとした時、誰かがこちらに向かって来るのが見えた。

 草色のローブを纏った…、顔は見えないが、体格からするに女性のようである。

 トゥがボーっとその女性を見ていると女性が近くに来た。

「あら、起きた?」

 そしてフードを軽く上げた。

 恐ろしいほどの美しい女性だった。

 人懐っこそうな笑みを浮かべた彼女は、革袋をトゥに差し出してきた。

「水を汲んできたわ。飲む?」

「あっ、はい。」

 ハッとして革袋を受け取り、水を飲み込んだ。夢にしては酷くリアルである。

 トゥが革袋を見つめて俯いていると、女性が自己紹介をしてきた。

「わたし、サーシャ。あなたは?」

「…トゥ。」

「こんなところで寝てるなんて、見たところ旅人? それにしても荷物なんてもってないし…。」

「分からない。目が覚めたらここにいたの。」

「ふーん。」

 サーシャは、そう声を漏らしながらフードを外した。

 そこから現れたものにトゥは目を見開いた。

「エルフ?」

「あら、あなたエルフのこと知ってるの?」

「えっと…。」

 一回戦ったからとは、言いにくかった。

「まあいいわ。ここら辺の蛮人って、わたしのこと珍しい珍しいって言うばっかりだもの。どこの田舎よ。」

「はあ…。」

「それにしてもあなた…。」

「はい?」

「ううん。たぶん気のせいだわ。気にしないで。」

「…私、どうしてここにいるんだろう?」

「さあ? わたしに聞かれても。」

「あっ!」

「どうしたの?」

「大変! 早く帰らなきゃ。」

「どこに?」

 慌てて立ち上がるトゥにサーシャが言った。

「えーと、えーと…。悪い王様がいて…、その王様を倒すために頑張らなきゃいけなくって…、それで…。」

「落ち着いて。深呼吸しなさい。」

 サーシャに落ち着くよう促され、トゥは深呼吸した。

「私がいなくなったらみんなが…。」

「それは私も同じよ。」

「えっ?」

「わたし達の部族は、亜人の軍勢に飲み込まれそうなのよ。こんなところで遊んでる場合じゃないのよ。それなのにあいつときたら…。」

「あいつ?」

 サーシャが言う、“あいつ”とは、誰なのか。サーシャの表情からするに言いたいことあるらしい。

 やがて雨が降り出してきたので、トゥとサーシャは、木陰に隠れた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 木陰で雨宿りをしていると、サーシャが言った。

 自分は結構人見知りなのだが、トゥといるとそう言う感じはしないのだと言う。

 言われてみると、トゥもサーシャに対して恐怖心とか不審な気持ちは湧いてなかった。

 一度は戦い、ハルケギニアにおいて最強の敵であると聞かされていたのだが、不思議とサーシャにはそういう気持ちは湧かなかった。

「私も…、そう感じる。」

「あなたも?」

「不思議。初めて会ったような気がしないの。」

「わたしもよ。」

 トゥとサーシャは顔を見合わせた。

 初めて会ったはずなのに、まるでどこかで会ったことがあるような不思議な感覚であった。

 その時、サーシャが厳し顔をして立ち上がった。

「どうしたの?」

「呑気ね。狼よ。」

 言われて、サーシャが見ている方向を見ると、一匹の狼がこちらの様子をうかがっていた。

 一匹だけじゃない、次々に数を増し、トゥとサーシャの周りを取り囲むように集まってきた。

 トゥは、背中に背負っていた大剣を抜いた。

「あなた、只者じゃないわね。」

「そう?」

「そんな細身でそんなに大きな剣を振るうなんて…、すごいわ。」

「私、力持ちなの。」

 トゥは、微笑んだ。

 サーシャも懐から短剣を出した。

 するとサーシャの左手が輝きだした。

 トゥは、それを見て驚いた。

「ガンダールヴ!」

「あら? あなた知ってるの?」

「だって…。」

 トゥは、自分自身の左手を見せた。

「まあ! あなたもガンダールヴなの? じゃあ、頼りにしてるわよ。」

 そして狼達が襲い掛かってきた。

 飛び掛かってきた狼を、トゥが大剣で両断する。

 サーシャもローブを翻し、襲い掛かって来る狼の首や足を切って倒す。足を切ってのたうつ狼には、首に剣を刺してとどめを刺していた。

 仲間があっさりと殺され、残る狼たちは恐怖し、やがて逃げて行った。

 辺りに静寂が戻る。

「怪我はない?」

「大丈夫。サーシャさんは?」

「わたしは大丈夫よ。」

 お互いの無事を確認し合い、トゥは、考えた。

 なぜ、ガンダールヴのエルフがここにいて、自分の花がなくなって、自分がなぜこんなところにいるのか?

 夢にしては、あまりにもリアルだ。狼の血の匂いがする。先ほど狼を切った手ごたえが手に残っている。

 よく考えてみたら、サーシャがガンダールヴだということは、彼女を召喚して使い魔にした人物がいるということだ。

「あの、サーシャさん。あなたをここに召喚した人に会いたいんですけど。」

「わたしもよ。」

「?」

「でもここがどこかも分からないし。ニダベリールはどっちかしら? まったく、魔法の実験か何か知らないけど、人を何だと思ってるのかしら?」

「まほうのじっけん?」

「そうよ。あいつは、野蛮な魔法を使うの。」

「やばんなまほう?」

 トゥが首を傾げていると、サーシャの近くに鏡のようなものが現れた。

 それは、サモンサーヴァントのゲートに似たものだった。

 それを見たサーシャの顔が険しくなった。

 かなり怖い。先ほど狼を倒していた時以上の殺気がこもっている。

 サーシャが鏡のような物を睨みつけていると、やがて鏡の中から、小柄で金髪の男性が出てきた。

「ああ、やっとここに開いた。ご、ごめん。ほんとごめん。すまない。」

 っと、サーシャにヘコヘコと謝っている。

 そしてサーシャは。

「この…、蛮人がーーーーーー!」

 っと叫んで男性の頭にハイキックをかました。

 その後は、サーシャの怒鳴り声と暴力と、男性の謝罪する声が響き渡った。

「えー…。」

 トゥは、ただそれを見ていることしかできなかったのだった。

 




トゥの花を消したのは、ゼロとのニアミスを防ぐためです。
たぶん花が咲いてたら速攻で分かってしまって殺されると思うので…。
でもサーシャは、なんとなくですが、トゥに何かを感じています。

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