途中からオリジナル展開で、コルベールがトゥを刺激してしまい…。
明後日が教皇即位記念式典だ。
水精霊騎士隊は、大聖堂の中庭で、訓練をしていた。
出席するアンリエッタを護衛するのが表向きの任務だが、その実、敵(ミュズニトニルン)を捕まえるために呼ばれたのだと聞き、大はりきりだ。
「うーん…、やっぱりダメ…。」
「こ、渾身の出来だったんだぞ?」
現在、ミュズニトニルンがアルビオンで繰り出してきたあの大きなガーゴイル、ヨルムンガンドを想定してラインのメイジ達に大きなゴーレムを作らせて戦う訓練を行っていたのだが…、ヨルムンガンドと直接戦ったことがあるトゥは、ダメだと何度目かのダメ出しをした。
アニエスの指導で接近戦ではそれなりに強くなってきた水精霊騎士隊だが、魔法の才能はいまいち。
またトゥが渾身の出来だと言う大きなゴーレムを難なく破壊していくため、ゴーレムを作る側もいい加減に嫌気がさしてきていた。
「今度という今度は、生きて帰れないかもしれないな…。」
ヨルムンガンドとの戦いに参加していたギーシュも、そんなことを呟いていた。
「でも、戦っちゃダメだなんて言えないよ?」
「皆、手柄を立てたがっているんだから…、見てろなんて言えないよな…。」
ラインクラスが作ったゴーレムを相手に訓練を行っている仲間達を見て、トゥとギーシュは、何とも言えない表情をした。
「最後は、私が何とかするよ。」
「君一人に負担を賭けさせるのは忍びないが…、今の状況で最強となる力は君のウタだろうな。」
「うん。」
トゥは、頷いた。
***
訓練が終わり、昼食の時間となった。
訓練でクタクタになった水精霊騎士隊の少年達は、我先にと食堂に集まった。
先に食堂にいたルイズは、トゥの姿を見つけると頬を膨らませた。
「まだ機嫌悪いの、ルイズ?」
「別に…。」
来たるべき時のために訓練をしている水精霊騎士隊に対し、精神力を溜めるために休まざる終えないルイズ。精神力が無くなっていることは、カルロ達との戦いで分かっているので仕方がない。
「ねえ…、トゥ。」
「なぁに?」
「こっち来て。」
「?」
ルイズに連れられ、食堂を出て廊下の隅に来た。
「どうしたの?」
「あんた分かってる?」
「なにが?」
「敵は虚無の担い手を狙ってるわ…。その三人が集まる。きっと敵は本気で来るわ。」
「うん。」
「うん、って…、あんたそれがどれだけ危険か分かってないでしょ! 今までは、相当ツイてたのよ! 確かに、あんたは大したものよ、アルビオンで七万の敵を相手にしたし…、ガリアじゃエルフに勝ったし…。でも、一歩間違えれば屍を晒してたのは私達だわ。それに…。」
ルイズは、睨むようにトゥを見た。
「戦いになったら、最前線で戦わなきゃならないのは、あんたよ。あんたしかいないのよ。ガリアの虚無の使い魔のガーゴイルと戦えるのも、エルフと戦えるのも…。」
「大丈夫だよ。」
ルイズの震える声に、トゥは答えた。
そしてトゥは、自分の右手のひらを見て、握ったり開いたりした。
「まだ、大丈夫。」
「ちょっと…、まさか、トゥ…? まさか…。」
「私のことは気にしないで、ルイズ。」
「気にするわよ!」
ルイズは、トゥに掴みかかった。
「どういうことよ? あんた…、まさか…、あのウタって力を使ったせい?」
「違うよ。」
「じゃあ、なに!?」
「…ごめんね。」
「なんで謝るのよ!」
「ごめんね…。」
「だから謝るんじゃないわよ!」
ルイズが怒鳴り散らすが、トゥは、儚げな笑みを浮かべているだけで動じなかった。
やがてアニエスが来て、ヴィットーリオのところに始祖の祈祷書を持ってくるようにと言った。
「ルイズ、行って来たら。」
「まだ話は終わってないわよ!」
「あとで話しよう。だから行っておいで。」
「……逃げるんじゃないわよ。」
そう言ってルイズは、アニエスと共に行った。
残されたトゥは、その背中を見送り、食堂に戻っていった。
***
食堂で食事を終え、午後の訓練をしていたトゥのもとへ、コルベールが訪ねて来た。
「ちょっと、いいかね?」
「はい。」
コルベールに呼ばれて、食堂に戻った。
「ゼロの剣は持ってきたようだね。」
「はい。」
トゥは、返事をしてから食堂のテーブルの上にゼロの剣を置いた。
「実は…、君には秘密でその剣の成分を調べさせてもらったんだ。」
「…はい。」
「それで分かったんだが。これは、何か巨大な生物の歯で出来ているのではないかね?」
「…はい。」
「この剣ほどの大きさの生物となると…、竜…ではないかね?」
「…はい。」
「君がその剣で殺されることに拘るのも、やはり竜が関係しているのだね?」
「…はい。」
「やはり竜でなければ、その花を駆逐できないのか…。」
「…はい。」
「しかし、なぜ竜なのだ?」
「それは…、分かりません。けど、竜種は、花の天敵だから…。」
「君はそれを知っていながら、竜に喰われるという選択を真っ先に選ばなかったのかね?」
「それは…。」
トゥは、口ごもった。
「ミス・ヴァリエールことか?」
「まだダメ…。」
「なぜ?」
「あそこへ…行かなきゃ…、行かなきゃ…。」
「あそこ、とは?」
「姉さんが…待ってるから…。」
「姉さんとは…?」
「……。」
「…トゥ君? トゥ君?」
「最強の竜がいる…。」
目に光のないトゥがスクッと立ち上がり、フラフラと食堂を出て行った。
コルベールは、焦り、トゥの後を追った。
***
ルイズが、始祖の祈祷書をヴィットーリオに貸し、ヴィットーリオが新たな虚無の呪文を得るという瞬間に立ち会った時だった。
ジュリオが何か嫌な予感を覚え、席を立ったのだ。
「どうしたのです?」
「いえ…、今、アズーロの声が…。」
「アズーロ?」
それは、ジュリオの風竜の名前だ。
それと同時に、ルイズも何か胸騒ぎを感じた。
「まさか……、トゥ!?」
「ルイズ!?」
ルイズは立ち上がり、走って行った。
「行きなさい、ジュリオ。わたくしも嫌な予感がしますので。」
ヴィットーリオの許可を得たジュリオは、ルイズの後に続いて走った。
ルイズが駆けつけた先では、凄まじい光景があった。
大聖堂の庭で、アズーロを含めた竜達が、争っている。
水精霊騎士隊は、竜の争いに巻き込まれないよう遠巻きにすることしかできず、コルベールもいたが呆然としていた。
「トゥ!!」
ルイズの視線の先には、竜達の争いを目の前にして突っ立っているトゥがいた。
やがて他の竜を押しのけ、地に叩きつけるように倒して、アズーロがトゥの前に来た。
「だ…、だめーーーーー!!」
グワッと口を開けたアズーロにルイズが杖を振るい、エクスプロージョンを唱えた。
小さな爆発は、トゥとアズーロの間に置き、アズーロが怯み、トゥは爆風で尻餅をついた。
「トゥ!」
「……邪魔…しないで。」
「トゥ!?」
トゥがデルフリンガーの切っ先をルイズに向けた。
『相棒! 正気に戻れ! ちくしょう、あの先こう! 下手に炊きつけやがって!』
「せん…。ミスタ・コルベールが?」
「…すまない。」
目を見開き、コルベールを見ると、コルベールは顔をそらして苦し気に謝罪した。
「落ち着け! 落ち着くんだアズーロ!」
一方で、なおトゥを喰おうとするアズーロを落ち着かせようと、ジュリオが悪戦苦闘していた。
他の竜達も、トゥを狙って動き、ジュリオは、ヴィンダールヴとしての力を使い、落ち着かせようとするが、花を喰らいたいという衝動に駆られてしまった竜達は中々落ち着かない。
「トゥ、お願い、立って! こっちに来て!」
「ジャマシナイデ。」
「トゥ!!」
どれだけ言ってもトゥは、聞きそうになかった。
ならばと、ルイズは、前に進み出た。
「ジャマ。」
「邪魔なら私を切りなさい!」
「何を言っているんだ、ミス・ヴァリエール!?」
コルベールと水精霊騎士隊の少年達がギョッとした。
「……っ。」
トゥの光のない目が僅かに狼狽えたように見えた。
ルイズは、デルフリンガーの刃を掴み、自身の首に切っ先を付けた。
「さあ!」
「ぅ…うぅ…、る、い、ず…。」
「トゥ! 戻ってきなさい!」
「…るい、ず…、ルイズ?」
「トゥ?」
「あ…、あぁぁ…。」
「トゥ!」
デルフリンガーを握るトゥの手が落ち、トゥは、膝から崩れ落ちた。
その時、竜の口が、牙が、トゥの頭上に迫った。
「トゥ!!」
ルイズがトゥの頭を抱くようにして、竜から庇おうとした。
だが次の瞬間、ドンッと、ルイズの体が後ろに押された。
後ろに向けて倒れていくルイズは、スローモーションになるその光景を見た。
トゥが微笑んでいる。ルイズを突き飛ばしたであろう片手を伸ばして、儚く笑っている。
竜の大きな口がトゥに迫った。
ルイズは、声にならない悲鳴を上げた。
私は、コルベールをどうしたいんだ…? 分かんなくなってきてしまいました。
竜に喰われるように仕向けたわけではありません。一応…。
DODの世界の竜種って希少種みたいなので、竜がたくさんいるハルケギニアでは、花を巡って争奪戦が行われたということにしました。
ワールドドアの件はどうしようかな?