ジュリオが、トゥを場違いな工芸品の保管庫に案内します。
翌朝。
トゥは、目を覚ました。
誰かが部屋の扉を叩く音がして。
「だれ?」
「僕だ。ジュリオだよ。」
「ジュリオ君?」
扉を開けると、確かにジュリオがいた。
「おはよう、兄弟。」
「? 私達、兄弟じゃないよ。」
「まあまあ、同じ使い魔同士仲良くしようじゃないかい。」
「…うーん。」
「ちょっと辛いな~。」
微妙そうな顔をするトゥに、少なからずショックを受けたジュリオだった。
「で、何しに来たの?」
「ああ、そうだった。ちょっと一緒に来てほしいんだ。」
「ルイズは?」
「君一人で来てほしい。」
「分かった。」
トゥは、ジュリオを追いかけて部屋から出て行った。
***
ジュリオに連れてこられたのは、大聖堂の地下だった。
ジュリオは、かがり火の中から火のついた薪を取り上げ、松明にして更に奥へと進んだ。
「ここに何があるの?」
「着いてからのお楽しみさ。」
ジュリオはわざとらしくそう言った。
なんだか不気味なところだとトゥが漏らすと、ジュリオは、ここが大昔の地下墓地をそのままにした場所であることを語ってくれた。
「お墓なの?」
「ああ、だがここに眠っているのは死人じゃない。」
「?」
やがてちょっと開けた場所についた。そこは厳重な鉄扉があり、鎖で封印されていた。
ジュリオが鍵を出し、錠前を外して鎖も外した。
そして、一生懸命扉を開けようと踏ん張った。
「手伝おうか?」
「すまない。助かるよ。」
そしてトゥは、難なく扉を開けて見せた。
「随分と力持ちなんだね。あんな大きな剣を振るぐらいだし。」
「うん…。」
「おっと、気にしてかい? すまない。」
「んーん。別に。」
そして二人は扉の向こうへ入った。
「何があるの?」
「えーと。確かここに。あった!」
ジュリオは、魔法のランプに手を突っ込み、ボタンを押し、その光でソレを照らした。
「これ…。」
「驚いたかい?」
そこには、無数の武器があった。
そのうちの一つを手に取る。
するとトゥの左手のガンダールヴが光り、トゥにその武器の情報を与えて来た。
「銃…。」
それは、銃と呼ばれるものだが、ハルケギニアにある銃とはまるで構造が違った。出来がまるで違う。圧倒的にこっちの方が技術的に上だ。
銃だけでも何十丁もあり、それらは、ボロボロだったり、逆に新品同然にピカピカだったりと状態は様々だった。
奥へ行くごとに、武器はどんどん時代が古くなる。火縄銃などだ。
その隣には、また違う種類の武器が並んでいた。剣や槍、石弓やブーメラン、日本刀みたいなものまであった。
さらに、その隣には、大砲などの雑多な兵器が置かれていた。何やらミサイルランチャーのようなものなどがあるが、それらはすべて壊れていた。
ごろりと、戦闘機の機首あろう部分が転がっていたりもした。
「なにこれ…、何なのこの部屋…。」
「これは、東の地で、僕たちの密偵が何百年もの昔から集めて来た品々さ。向こうじゃ、こういうものがたまに見つかるんだ。エルフ共に知られないように、ここまで運ぶのは結構骨だったらしい。さて、東の地と言ったが、正確には、聖地の近くでこれらの武器が発見されているんだ。」
さらにジュリオは、部屋の奥を示した。
「これで全部じゃない。」
ジュリオに促されてついていくと、そこにはテントのように布をかぶせられた大きなものがあった。
ジュリオが布を取り去った。すると埃が舞い、そこに隠されていたものがぼんやりとした光に照らされた。
「これ…。」
「驚いたろう?」
「戦車…。」
トゥが触れるとガンダールヴがまた情報を与えてきて、これがタイガー戦車と呼ばれる種類の戦車という兵器だということが分かった。
「僕たちは、これらを“場違いな工芸品”と呼んでいるんだ。見覚えがあるんじゃないかい?」
「…さあ? たぶん、旧世界の遺物だろうけど、私はあんまりこういうの見たことない。」
「ああ、そうだったのかい。それはすまないね。」
「別にいいよ。でもどうしてこんなにたくさん旧世界のものがあるんだろう?」
「それだけじゃない。僕らは、何百年も昔から君のような人間と接触している。」
「ウタウタイを知ってるの?」
「それは…知らないな。だが、君はこの世界の人間ではない。そうだろう?」
「うん。」
「聖地には、これらがやってきた理由が必ずあるはずなんだ。もしかしたら…、いや必ず元の世界に帰る方法だってあるはずさ。」
「私…別に元の世界に帰りたいわけじゃないよ?」
「…そうかい。」
「むしろ……。ねえ、アズーロだっけ?」
「僕の竜がどうしたんだい?」
「あなたの竜は…、私を食べてくれる?」
「! なにを…言っているんだい?」
「最強の竜が必要なの。」
「さいきょうのりゅう?」
「そうしないと……いけないの…。だって、私は…。」
トゥの目から光が消えだしている。
ハッとしたジュリオは、慌ててトゥの肩を掴んだ。
「……?」
トゥの目に光が戻り、ジュリオは、ホッとした。
「何の話、してたっけ?」
「っ、…君は…。」
「それで…、なんでここに私を連れて来たの?」
「あ…、ああ、そのことなんだが。この部屋の武器をすべて君に進呈したくて来たんだ。」
「えっ? これ全部?」
「君は、この武器たちの所有者になれる権利を持っている。まずは、これらが君の世界から来たものだということ。君の世界の物だから、本来の所有権は君にある……、強引に言えばね。もう一つの理由は…、これらはもともと君の物なんだよ。ガンダールヴ。」
「どういうこと?」
「つまり、これらは、君の槍ってことさ。」
「やり?」
「そうさ。君はこの歌を知ってるかい?」
ジュリオは、そう言って歌いだした。聖歌隊の指揮を務めるだけあり、その歌声は美しかった。
『神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。
神の右手ヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。
神の頭脳はミュズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知恵を溜めこみて、導きし我に助言を呈す。
そして最後にもう一人…。記すことさえはばかれる……。
四人の僕(しもべ)を従えて、我はこの地にやってきた……。』
「ティファちゃんが歌ってた歌だ。」
「僕は、ヴィンダールヴ。ありとあらゆる獣を手懐けることができる。ご婦人方もね。」
「そして私がガンダールヴで、ガリアにいるミュズニトニルン……。」
トゥは、無意識にジュリオの最後の言葉の部分を無視した。
「えーと…、そして君はガンダールヴだ。最後の一人は僕もよく知らない。まあそれは今は関係ない。君だ。君! 歌の文句にある大剣は、デルフリンガーのことだよ。でもって、右手の長槍……。」
「でも、この部屋の武器って槍はあったけど、戦車も槍じゃないよ?」
「ガンダールヴは、左手の剣で主人を守る。そして右手の槍で敵を攻撃する。当時考えられる最強の武器でね。」
「さいきょうの、ぶき?」
「強いってことは、間合いが遠いってことだ。」
つまり、最初の、六千年前の右手の武器として最強だったのが槍であり、それは時代を超えるごとに変化していき、より多くの敵を倒せるように武器はどんどん物騒なものになっていたらしい。
そしてなぜ武器ばかりが来ているのか。それが不思議ではないかと問われたが、トゥは首を振った。
これについて、ジュリオは、始祖ブリミルの魔法はいまだに聖地にゲートを開き、たまにこういうプレゼントを贈ってくれるのではないかと言った。
自分達が持っていても使い方が分からないので、トゥに進呈するのだと言った。
「聖地に…、ゲート…。」
「そうさ。他に考えられるかい? 聖地には穴がある。たぶん何らかの虚無の魔法が開けた穴だ。」
「……たぶん、違う。」
「えっ?」
「ん? なに?」
「えっ、いや、今…君は違うと言ったけど?」
「なんのこと?」
「! す、すまない。聞き間違いだったよ。気にしないでくれたまえ。」
「?」
「そうだ! せっかくロマリアに来たことだし、飲みに行かないかい? とっても美味しいお店を知っているんだ。」
若干慌てたようにそう言うジュリオに、トゥは首を傾げたのだった。
部屋を後にする時、トゥは、一度振り返った。
自分のために用意されたと言われた、武器の数々。
鋼鉄の“槍”たちが出番を待つかのように、暗がりでひっそりと佇んでおり。
「私のために用意された武器…。」
そう小さく呟いた。
「ぜ…ろ…姉さん…、の、ため…。」
無意識に出た言葉にトゥは驚いて口に手を当てた。
さすがにトゥがおかしいことにジュリオも気づきます。
トゥは、なんとなく、武器たちが自分のために贈られて来たものじゃないと思っている。