二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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ロマリアへ到着。
でも問題発生編。いつものこと。


第五十五話  トゥ、ロマリアへ行く

 オストラント号の、狭い一室のベットに気絶したルイズを寝かせた。

 ふうっと一息ついていたトゥは、扉の外に気配を感じて、扉を開けた。

 そこにいたのはティファニアだった。

「ティファちゃん、どうしたの?」

「あの…、眠れなくて…。」

「大丈夫?」

 トゥは、ティファニアと共に甲板の方へ向かった。

 夜なので黒い雲と月が見え、そしてオストラント号の蒸気機関の音がする。

「トゥさん。」

「なぁに?」

「不安なの。」

「どうしたの?」

「ロマリアは、ブリミル教の総本山だって聞いてます。だから、エルフの血が混じった私のことがバレたら、魔法学院以上の騒ぎになりそうで…。」

「大丈夫。私が守るよ。」

「暴力はいけないです。」

「でも戦わなきゃ守れないよ?」

「……これから私…、どうなるんだろう?」

「?」

「私が虚無の担い手だなんて…、今でも信じられない。でも本当のこと。」

「うん。」

「これからどんな過酷な運命が待っているのか…不安で。」

「……そっか。」

「トゥさんは、怖くないんですか?」

「何が?」

「あ、あの…、なんでもないです。」

「そう?」

 ティファニアは、トゥの右目の花をチラチラと見て、それから目をそらした。

「子供達も元気にしてるかな?」

「きっと、元気ですよね。みんな頑張ってるのに、私だけ弱音を吐いてなんていられない。」

 ティファニアは、決意したように甲板から見える月を見上げた。

「子供達……。」

「トゥさん?」

「…う、うん? なんでもない。」

 トゥは、ハッとして首を振った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ティファニアと別れ、ルイズがいる部屋に戻ってきたトゥを待っていたのは、ベットの上でムスッとしているルイズだった。

「ルイズ?」

「…何してたのよ?」

「えっ? ティファちゃんと、ちょっとお話してただけだよ?」

「それだけ?」

「うん。」

「そう…。」

「どうしたのルイズ?」

「なんでもないわ。」

 ルイズは、ムスッとしたまま毛布にくるまった。

 トゥは、首を傾げながらルイズの隣に入り、目を瞑った。

 すると、もぞもぞとトゥの体を這うルイズの手の感触があった。

「ちょっと、ルイズ~。」

「ぐーぐー…。」

「もう、寝たふりしない。やめてよ~。」

 これが最近トゥを困らせているルイズのスキンシップ(?)だ。

「なによー。今まで人が胸にグリグリしても起きなかったくせに。」

「それは、熟睡してたから分かんなかっただけだよ~。これじゃあ寝れないよ。」

 このやり取りも日常化しつつあった。最近のトゥの寝不足の原因はこれだ。

「いいじゃない。」

「困るよ。」

「やめてほしかったらキスして?」

「…もう。」

 これも困ったおねだりだ。

 ルイズの方に寝返りを打ったトゥは、ルイズの額にキスをした。

「…もっと。」

「……もう、おしまい。」

「やだ。もっと。」

「ルイズは、わがままだなぁ。」

「悪かったわね。」

 プゥっと頬を膨らませるルイズに、トゥは、クスッと笑った。

「もう寝よう。」

「だーめ。寝かさないわ。」

「ダメだよ、ルイズー。これからロマリアで何があるか分からないんだからさぁ。」

「……そういえば、なぜ姫様は私達をロマリアへ派遣したのかしら?」

「着いてみないと分からないよ。」

「それはそうだけど…。」

「大丈夫。ルイズは、私が守るからね。」

「それ…ティファニアにも言ってない?」

「えっ? 聞いてたの?」

「否定しなさいよ!」

「だってティファちゃんも守らなくっちゃ…。」

「もういい!」

「えー。」

 ルイズは、不貞腐れてトゥに背中を向けて寝てしまった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 トリスティンから出発して3日後、オストラント号のはロマリアに到着した。

 南部にある港に停泊したのだが、問題があった。

 なぜならこの航行は、正式なものではないからだ。表向きは学生旅行ということにしてるのだが、会いにいかなければならないアンリエッタがお忍びで…ロマリアにいることもあり融通が利くはずがないのだ。

 まずオストラント号が珍しい船であることもあり、人だかりができてしまった。

 その次に入港手続きで難儀した。

 いかにも融通が利かなさそうなメガネの官史が胡散臭そうにオストラント号を見た。

 そこでコルベールがオストラント号の説明を簡潔にしたのだが、その科学的な内容について魔法を使っていないことから異端なのではないかと難癖付けてきたのである。

 ロマリアは、ブリミル教の総本山なこともあり、すべての役人が神官なのだ。その気になればその場で異端者審問を起こせるのだ。

 異端という言葉を聞いてティファニアが過剰に反応してしまい、被っている帽子を握ってしまった。それが怪しまれ、官史の助手に帽子を取るよう言われてしまった。

 そこでタバサがスクウェアクラスの魔法、フェイスチェンジを使い、更にキュルケが官史にしなだれかかって注意を引いて魔法を完成させ、ティファニアの耳を見事に隠し通した。

 それで一行がホッとし、一日かけて馬車で都市ロマリアに辿り着いた。

 だがここからがまた問題が起こった。

 杖や武器を行李などに詰めなければならないロマリアの慣習を知らないトゥが、背中に背負っている大剣と腰にあるデルフリンガーを引っかけたまま門を通ろうとしてしまい、それで門の衛士に呼び止められてしまったのだ。

「どこの田舎者だ! この街では武器をそのまま持ち歩くことは許されん!」

「あ、ごめんなさい。」

 素直にすぐに謝ったトゥに、拍子抜けしたのか衛士は一瞬驚いた顔をしていた。

 しかしすぐに顔を引き締めると、腰のデルフリンガーを掴んで地面に転がしてしまった。

「あっ!」

『おい、なにしやがんだ!』

「! インテリジェンスソードか。どっちにしろ武器を携帯してはいかん。」

「あ、はい。ごめんなさい。」

「そのマント…、貴族か。剣など背負ってどういう了見だ。北の国では平民が貴族になれるらしいが、それか? なんとまあ神への冒涜も甚だしい! ……ん? おまえそのマントの下の格好はなんだ? 娼婦か? 神聖なるこのロマリアで穢れたことをするなど許されると思っているのか? 怪しい。こっちへ来い。」

『やい、祈り屋風情が! 偉そうにベラベラと!』

「デルフ、だめだよ。」

 トゥは、急いでデルフリンガーを拾い鞘に納めようとしたが、デルフリンガーは、カチカチと暴れ、鞘に収まらない。

「いのりやふぜいだと?」

『おうよ! 何度でも言ってやるよ、それともあれか? 別の呼び方考えてやろうか、あん?』

「ロマリアの騎士を侮辱するということは、ひいては神、始祖ブリミルを侮辱することだぞ!」

『ケッ! てめぇ、ブリミルの何を知ってやがんだよ? それよりさっさと俺を地面に捨てたことを謝んな、若造が!』

「こいつ!」

「あ! ダメぇ!」

 カッとなった衛士がトゥからデルフリンガーを奪おうとしたため、トゥはそれを阻止しようと手を出してしまい、鍛えられた衛士とはいえ、トゥのパワーには敵わず突き飛ばす形になってしまった。

「ご、ごめんなさい。」

「ごめんですむと思うのか!」

 衛士が怒鳴った。

「神と始祖に仕えるこの身を突き飛ばすとは! 不敬もここに極まれり! やはり貴様ら……。各々方! 怪しいうえに、不敬の輩がおりますぞ、出ませい!」

 するとわらわらと衛士が現れだした。

 彼らはそれぞれ聖具を握っている、その聖杖を見て。

「やば、あいつら聖堂騎士(パラディン)だわ。」

 キュルケがそう言った。

 するとすぐに反応したタバサが口笛を吹き、シルフィードを呼び寄せた。

 そしてすぐにオロオロしているティファニアをレビテーションをかけてシルフィードに跨らせた。

 ただ一人ルイズだけが聖堂騎士達の前に立ちふさがり、よりにもよって、アンリエッタの名を出してしまった。

 当然だがお忍びで来ているアンリエッタのことが騎士達に知られているはずがなく、ただ不信を強めただけに終わり、終いにまとめて宗教裁判にかけるなどという物騒な言葉が出てきてしまった。

 あわわっとなるルイズをキュルケが抱えてフライで飛び、さらに水精霊騎士隊の少年達やコルベールにフライで追いかけてきてくれと叫んでから、トゥにシルフィードに乗れと言った。

 トゥは、デルフリンガーをしっかり掴んだまま跳び、シルフィードに乗った。

 逃げ出す一行を聖堂騎士達がペガサスに跨って追ってきた。

「キュルケちゃん、私が陽動すれば…。」

「ダメよ。」

 フライで飛んでいるギーシュ達がいるため全力でシルフィードが飛べず、どんどん追手との距離が縮まってきていた。

 陽動を切りだしたトゥを、キュルケが却下した。

「あなたの力がバレたら、それこそ大問題よ。たぶん、エルフの血を引いてるティファニアのことがバレるよりも厄介よ。」

「じゃあ、どうするの? ギーシュ君達、もう限界だよ。」

 フライという魔法は長距離を飛べる魔法じゃない。そのためギーシュ達は疲労してフラフラ飛んでいた。

「…仕方ないわ。」

「えっ?」

 するとキュルケがタバサに指示して、タバサの指示を受けたシルフィードが地上に急降下した。それに続いてギーシュ達も降下する。

「どうするの?」

「酒場。」

「えっ?」

「籠城よ。」

「えっ?」

 タバサとキュルケの言葉の意味が分からず、トゥは、キョトンとしてしまった。

 突然空から風竜が降りてきて、街の人々は逃げ惑った。トゥ達を下ろしたシルフィードを空へ逃がし、キュルケは、酒場の扉を蹴破るように開けた。店の店主は、これから始まる災難を知らず、笑顔で『いらっしゃい』っと言った。

 昼の酒場は、人がほとんどいない。ロマリアでは、禁欲の傾向があり、昼に酒を飲むのはこっそりと隠れてやることなので、昼に酒を飲む客はいないに等しいのだ。

「なんにしやしょうか、お嬢さん。」

「この店を一日貸しきらせてもらうわ。」

「はい?」

 目を丸くする店主に、キュルケは、小切手にかなりの額を書いて渡した。

 その間にもギーシュ達が店に入り、椅子や机を使ってバリケードを作っていった。

 混乱する店主が外に聖堂騎士がいるのに気づいてヘナヘナとなり、店主を安全な場所へ避難させ、一方でトゥは、震えているティファニアを店の奥へと連れて行った。

「大丈夫。大丈夫だからね。」

「トゥさん…。」

 震えるティファニアを抱きしめ、頭を摩ってから、トゥは、剣を抜いてティファニアから離れた。

 するとティファニアが、トゥのマントの端を掴んだ。

「トゥさん…、お願い。殺さないで…。」

「……できるだけ頑張るよ。」

 トゥは、苦笑してマントを払い、店内へと歩を進めた。

 




ティファニアの口調がよく分からない…。

ロマリアの衛士って、なんか腹立ちますね。総本山だからなんでしょうが。


次回は、ジュリオ再登場…かな?

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