気持ちR-15?
「トゥさんのお裸をスケベな殿方さんたちに見せてしまうなんて、とんでもない失態だと思います。」
「だ、だからあいつらの記憶は消したからノーカンでしょ?」
「ですが、全員ではありませんでしょう?」
「…そ、そりゃ女子生徒の分は消してもらってないけど…。」
「そのせいでトゥさんがスケベな殿方さんたちにお裸を見られたという事実は残っています。消すなら全部消すべきですよ。」
「そ、そんなの無理よ。ティファニアは、自分の記憶は消せないのよ。」
「実は、廊下で、水精霊騎士隊の方がトゥさんの体を見たことを聞いて覚えてなくて酷く残念がっているのを見ました。」
「えっ!?」
「ルイズさん。」
「えっと…。」
ジトリッとシエスタに見られ、ルイズは汗をかき視線を彷徨わせた。
「私にトゥさんを一日貸してください。」
「はっ? ………はぃぃぃ!?」
「私とトゥさんがいない間に、事を片付けてください。」
「そんな無茶な…。」
「できないんですか?」
「だからってトゥをあなたに貸す意味はないでしょ。」
「いいえ、トゥさんがスケベな殿方さんたちの目にさらされるよりはよっぽどマシです。ルイズさんは、それでいいのですか?」
「よかないわよ!」
「ですよね。」
「あっ…。」
まんまとシエスタに誘導され、ニッコニッコ笑うシエスタとは対照的に顔を青くするルイズだった。
「ただいま、ルイズ、シエスタ。」
「トゥさん!」
「わっ、どうしたの?」
「一日ずっといましょう!」
「えっ?」
トゥがキョトンとし、ルイズを見るが、ルイズは、俯いており何も言わなかった。
***
あれからすぐ、シエスタに手を引かれてトゥは、歩いていた。
「どこ行くの?」
「使用人たちの宿舎です。スズリの広場の方にあります。」
「ふーん。」
やがてこじんまりしたレンガ造りの建物に辿り着いた。
「ここが?」
「はい。どうぞどうぞ、お入りください。」
「うん。」
トゥの背中を押してシエスタは、一緒に宿舎に入った。
「あら、シエスタじゃない!」
「ローラ。ちょっと頼みがあるの。」
「なぁに?」
「部屋を貸してほしいの。一日でいいから。」
「あら? あらあらあら?」
ローラと呼ばれたメイドの少女は、トゥとシエスタを交互に見るので、トゥは首を傾げた。
そしてローラは、シエスタの肩を掴み耳元で。
「頑張りなさいよ。」
っと、小声で囁いた。
そう言われてシエスタは、ポッと頬を赤らめた。
やがてハッと我に返ったシエスタは、トゥに向き直り。
「トゥさん。」
「なぁに?」
「新婚さんごっこしませんか!?」
「えっ?」
「あ、あの…、新婚さんごっこを…。」
「ごっこ? ままごとみたいなこと?」
「え、あ、そ、そうです。」
シエスタは、プスプスと顔を真っ赤にしながら俯いた。
「いいよ。」
トゥは、笑顔で即答した。
「本当ですか!」
「う、うん。」
シエスタが目を輝かせて見上げて来たので、トゥはちょっと後ろにのけ反った。
「じゃあ、行きましょう!」
「うん…。」
シエスタの迫力に押されるまま、トゥは、シエスタに手を引かれていった。
***
ローラの部屋は、同時に、シエスタがかつて使っていた部屋でもあった。
部屋に来たシエスタは、懐かしいと言い、トゥは、部屋を見回した。
ルイズの部屋の半分もない質素な部屋にベットが壁際、左右に二つ、女が使う部屋なのでお香も炊いてあってよい香りがする。
トゥが突っ立っていると、シエスタが椅子に座るよう促した。
トゥが椅子に座り。
「新婚さんごっこって何するの?」
っと、聞き、シエスタがモジモジしながら話そうとしたのだが、急に険しい顔をしてドアの方に向かった。
そして荒っぽくドアを開けると、シエスタの同僚である使用人の少女達がドドドッと倒れ込んできた。どうやら扉の前で聞き耳を立てていたらしい。
トゥがポカーンとしている間に、少女達を追い払ってドアを閉めたシエスタは、大きく息を吸って吐いた。
「し、新婚さんごっこですけど…。」
「うん。」
「私が奥さんで、トゥさんが旦那様です。」
「私が旦那様?」
「あっ、嫌でしたら、私が旦那様役でも…。」
「いいよ。私が旦那さま~。」
「い、いいんですか!?」
「うん。」
頷くトゥに、シエスタは、クラッとなりそうになった。
心の中でガッツポーズをしながら、次の段階へ行こうとトゥに向き直る。
が、すぐにまた険しい顔をして、ドアに向かい、また開けると少女達がまたドドドッと倒れ込んできたので、来るなと怒鳴りつつ、壁を箒で叩いた。どうやら壁が薄く、聞き耳を立てていた使用人達がいたらしい。
やっと邪魔者がいなくなり、一息ついたシエスタは、再度トゥに向き直った。
「それで、新婚さんごっこですけど…。」
「うん。」
「まず帰ってきてからの挨拶からします。」
「うん。」
「トゥさん。おかえりなさい。お風呂にします? ご飯にします? それとも……。」
「ご飯。」
「分かりました。」
それとも、“わたし”と言いかけてご飯と即答されてシエスタは、心の中で落胆しつつ、けれど、まだ一日は長いのだからと思い直した。
その時、トゥのお腹の虫が鳴った。
トゥが本当にお腹を減らしているのだと気付いたシエスタは、慌てて、少し待っててくださいねっと言って部屋を出て行った。
***
テーブルに突っ伏して、空腹に苦しめられていたトゥのところにシエスタが戻ってきた。
の、だが…。
「シエスタ?」
「はい。」
「その恰好は?」
「暑いんです。」
「えっ?」
「暑いんです。」
「えっ、暑くないよ?」
「……もう、分かってくださいよ。」
シエスタは、頬を膨らませた。
シエスタの格好は…、まあ、いわゆるアレだ。
裸エプロンというやつだ。
だがただエプロンを裸の上に着ているのではない、絶妙な長さのニーソックスに、頭にはメイドのカチューシャを付けている。
これを男が見たら、それこそ齧り付きたくなるだろう。シエスタのスタイルもあって、それほどの魅力があった。
だが残念なことに、相手は同性のトゥだ。魅力がいまいち伝わらない。
作戦失敗か…っと、シエスタが心の中で残念がった。
「シエスタ、ご飯…。」
「あ、すみません。」
ハッとしたシエスタは、すぐにテーブルに持ってきた料理を並べた。
そして自分はトゥの正面の席に座った。
「いただきまーす。」
「どうぞ。お、美味しいと思いますよ?」
「うん! 美味しい!」
「本当ですか! ありがとうございます。」
トゥからの素直な感想に、シエスタは笑顔になった。
モグモグと食べていたトゥは、ふと窓の外に青い影が過ったのを見た。
「?」
それは、シルフィードだった。
タバサとルイズが乗っている。
タバサはいつも通り本を読んでいたが、ルイズは怒り心頭の顔をしており、何か声に出さず言っている。
「? どうしたんですか、トゥさん。」
「あ…、うん、なんでもない。」
トゥは、なんでもないと首を振った。
「あ、あの…トゥさん。」
「なぁに?」
「新婚さんが夜…することって、やってみませんか?」
「……。」
「あっ、すみません。忘れてください。」
さすがに調子に乗ってしまったとシエスタは、謝罪した。
しかし、トゥから返された言葉は予想外のモノだった。
「いいよ。」
「えっ!?」
シエスタが驚いていると、トゥが立ち上がり、座っているシエスタの足と背中に手を回して、いわゆるお姫様抱っこした。
そして混乱するシエスタを抱き上げたまま歩き、壁際のベットの一つに寝かせた。
「トゥ、トゥさん…!」
「……。」
「トゥさん?」
何かがおかしいことにシエスタは気付いた。
トゥの目に、何か暗い物が宿っている。右目の花が、なぜか不気味に見えた。
ゾッとしたシエスタは、慌ててトゥの下から逃げようとしたが、トゥに両手の手首を掴まれてベットに抑え込まれた。
乱暴なその動きと込められる力に、シエスタは、思った。
これは、トゥじゃない!っと。
「やめて、やめてください!」
「……。」
「トゥさん! お願い、戻って!」
正気じゃないトゥの顔を近づいてきて、シエスタは、必死に暴れた。
「イヤァァァァ!」
「……しえ、すた…。」
トゥの声に、シエスタが恐る恐る涙目でトゥを見上げると、トゥは、キョトンとした顔をしていた。
トゥは、握りしめていたシエスタの手首から手を離すと、シエスタの手首は赤くなっており、握りしめていた跡が残っていた。
「! ご、ごめん…。」
「トゥさん…、戻ったんですね?」
「ごめ…ごめんね。」
ベットから離れ床にへたり込んだトゥは、涙を零した。
「いいんです。大丈夫ですから。だから泣かないでください。」
「……頭冷やしてくる。」
「トゥさん!」
トゥは、立ち上がり部屋を出て行ってしまった。
残されたシエスタは、少し茫然とした。
やがてエプロンのポケットからハートの蓋が着いた小瓶を取り出した。
「こんなもので、トゥさんを振り向かせたって仕方ないよね…。」
っと、その時、ドカーンッと爆発音と地響きがして、ふらついたシエスタは、窓際に倒れ。
「あっ!」
小瓶を窓の外に落してしまった。
それからしばらくして。
シエスタと、トゥは、ベットの上で布団の中に隠れていた。
外では大騒ぎになっていた。
シエスタがうっかり窓から落とした惚れ薬の所為で…。
ジェシカから貰ったというその惚れ薬は粗悪品だった。
何がダメなのかというと、まず効果が持続しない、そしてここから大問題。
効果が、“伝染”するのだ。
まず外を歩いていたモンモランシーがその薬が入った小瓶を拾い、なんやかんや事故があってうっかり飲んでしまい、ルイズに惚れてしまったモンモランシーがルイズにキス。
ルイズはモンモランシーを撃退したが、キュルケを見て惚れてしまい、キス。
そしてキュルケは、タバサを見て、惚れてしまい……、そこからはある意味で地獄絵図、だが見ようによっては天国状態だった。
効果はわずか一時間程度であったが、薬が伝染してしまった女子達には十分すぎるトラウマを残したのだった。
なんとか場は収まったものの、ルイズは怒り心頭でトゥに詰め寄り、シエスタを襲いかけたことを怒っていた。
「違うんです、違うんです!」
「でも、シエスタ。」
「トゥさんの様子がちょっとおかしかったんです。だからトゥさんの意思じゃないです。」
「…どういうこと?」
そして、シエスタは、何があったのか説明した。
ルイズは、トゥを見た。トゥは、しょんぼりとしていた。
「自分でやったわけじゃないのね?」
「…うん。覚えてないの。」
「…そう。」
ルイズは、深く息を吐いた。
シエスタは、ルイズが納得してくれたことを喜んだ。
「二人きりにするんじゃなかったわ。」
そう言って、疲れたのかテーブルの上のワインを飲んだ。
「あっ!」
「えっ?」
シエスタが声を上げたので、ルイズがそちらを見た。
その瞬間、ルイズの目が潤み、怪しい色を帯び始めた。
「シエスタ!」
「キャーー!」
ものすごいスピードでルイズに押し倒されたシエスタは、その反動でキスをしてしまった。
すると、シエスタの目が潤み、怪しい色を帯び始めた。
「えっ…、シエスタ?」
「ああ、シエスタぁ。」
「ルイズさぁん。」
目の前にいたルイズの顔を見て惚れてしまったシエスタは、ルイズと絡み合いだした。
ワインにあらかじめ入れていたのだ。あの粗悪な惚れ薬を。
しかしトゥが飲まなかったのでそのまま放置されて、ルイズがうっかり飲んでしまったのだ。
仲良く絡み合い、ついにはカスタードやホイップクリームなどを塗り合ってなめ合って絡む二人を見ながら、トゥは、突っ立っていることしかできなかったのだった。
宿舎を揺らした爆発は、ルイズがやりました。
トゥに惚れ薬が効くかどうか…。悩みました。結局は飲まなかったことにしました。
次の巻の展開、どうしようかな…。