あと、お風呂覗き騒動。
トゥは、アルヴィーズの食堂で、くうくうと寝ていた。
「トゥさんったら。」
シエスタは、毛布を持ってきてトゥの背中にかけた。
トゥは、寝不足だった。
というのも、先日のルイズの宣言があり、ルイズのスキンシップが激しくなって困ったトゥは、最近若干寝不足になっていた。
若干の寝不足も積もれば山となる。
ちょっと前に起こったルイズの記憶消去事件もあり、トゥは、ルイズを無下にできず、かといって受け入れるわけにもいかず、トゥは、とても困っていた。
そんなこんなで寝不足になっているので、ルイズが授業に出ている間にこっそり抜け出してまだ使われていないアルヴィーズの食堂で一眠りしているのである。
ルイズが知ればあとでドヤされるだろうが、眠気には勝てない。
教室で、他の生徒の使い魔と寝るという選択肢もあったが、ルイズに怒られて起こされるのが関の山だし、なので教室を抜け出したのである。
「……トゥさん…。」
シエスタは、トゥの背中にそっと抱き付いた。
「う~…。」
「私じゃ…、ダメですか?」
寝ているトゥに小さな声で語り掛ける。
「私の方が先なのに…、ルイズさんはずるいです。」
「…むぅ…、シエスタ?」
「あっ、起きましたか?」
「あれ? もうご飯の時間?」
「まだですよ。お腹すきましたか?」
「う~ん。喉乾いた。」
「じゃあ、お水持ってきますね。」
シエスタはトゥから離れて、厨房に走って行った。
トゥは、シエスタがいなくなった隙に、食堂からいなくなった。
***
「……はあ…、私、どうしたらいいんだろう?」
戦闘機の傍に座り込んでトゥは、ぼやいた。
「ルイズもシエスタも好きだけど…、恋人にはなれないし…。」
『贅沢な悩みだぜ、相棒。』
「とっても困ってるんだよ、デルフ。」
『諦めて二人とも食っちまうってのもありだぜ?』
「えー、そんなことしたら二人を弄んでるみたいで酷いじゃん。」
『おめーさんは、もっと欲深くいってもいいと思うぜ?』
「欲深くって…、ファイブみたいに…、えー。」
『ま、ファイブってのがどんなんだったかは知らねーが、ちょっとぐらい欲出したっていいんじゃねーの? 二人とも大事なんだろ?』
「うん。大事。」
『大事だからこそ欲を出してもいいってこともあると思うぜ?』
「でも…。」
『相棒が謙虚なのはいいが、もうちっと人生楽しんでもいいと思うぜ。……時間も残り少なくなっちまってることだしな。』
「……分かるんだね。デルフ。」
『なんとなくな。』
「だから、余計に二人の気持ちには応えちゃいけないんだ。ずっと一緒にはいられないもの。』
『ずっと一緒にいることだけが幸せとは限らねーぜ?』
「そうなの?」
『少なくとも、アイツは、少しだけでも幸せだったと思うぜ。』
「あいつって?」
『ん? ……やべぇ、思い出せねぇ。誰だったか…。』
「えー。」
肝心なところを覚えてないデルフだった。
「トゥ。」
「トゥさん。」
「あっ。」
背後から、ゴゴゴっというようなオーラと、落ち着いた、けれど静かな怒りを含んだ呼び声に、トゥはビクンッとなった。
『相棒…。受け止めるのも愛情だ。』
「ふぇぇぇ…。」
やがてトゥの悲鳴が木霊した。
***
トゥが、クスンクスンっと泣いていた。
「もー、泣くことないじゃない。」
「トゥさん、ごめんなさい、ごめんなさい。」
場所をルイズの部屋に移し、泣いてるトゥを慰めるのはシエスタ。ルイズは、腕組して横目で見ている。
トゥの髪はクシャクシャに、顔や体には土埃もついていた。
「クスン…、だってぇ、二人とも怖いんだもん…。」
「だって、トゥさんが逃げるんですもの…。」
「あんたが逃げるからよ。」
『あのな…。相棒は、気が休まらなくてあえて一人でいようとしてただけなんだよ。』
デルフリンガーが助け舟を出した。
「気が休まらないってどういうことよ? 私と一緒にいたくないわけ?」
「そんなことないよぉ…。」
「じゃあ、なんで教室から勝手に逃げてるのよ。」
「眠かったんだもん…。」
「なんで寝不足になってんのよ? シエスタ、あんたなにかしたの?」
「いいえ、私は何も。」
「嘘おっしゃい。」
「何もしてませんってば! ルイズさんこそ何かしたんじゃありませんか!」
「私だって何もしてないわよ!」
「そっちこそ嘘ついてませんよね!?」
「嘘じゃないわよ!」
ルイズとシエスタが、ギャーギャー言い争いをしている間に、トゥは、泣き疲れて寝てしまった。
「ちょっと、トゥ! 土まみれで寝ないでよ、シーツが汚れる!」
「うぅ~。」
「……浴場に行くわよ。」
「えっ!」
「残念だったわね。トゥは、貴族になったんだし大丈夫よ。」
ルイズは、勝ち誇ったようにシエスタに笑って見せた。
「お風呂?」
「そう、大浴場よ。貴族しか使えない大浴場よ。」
ルイズは、トゥの手を引いて立たせた。
シエスタは、怒りにプルプルと震えていた。
***
学院の女子生徒達が全員は居れるほどの大きな浴場に、ルイズは、トゥを連れて入った。
「ほら、こっちいらっしゃい、洗ってあげるから。」
「…うん。」
他の生徒達もいたが、全員トゥの体を見て目を丸くしていた。
肌を出している割合が多い格好ではあったが、裸になるのとではまた別の魅力があり、同じ女でも見惚れてしまうほどであった。
若干細すぎるところがあるが、ああ、まさに染み一つない白い肌はつるつるしてそうで触ればきっと極上の感触がするのであろうことが伺え、小さすぎず大きすぎない胸も形が綺麗だ。
得体のしれない右目の花など気ならないほど美しい。不思議なことに嫉妬心が湧くことなく、納得してしまう美しさなのだ。
椅子に座ったトゥの後ろから、ルイズが石鹸を泡立て、不器用な手つきで、トゥの青い髪の毛を洗っていく。
ルイズなりに丁寧に一生懸命洗う。
洗面器にお湯を入れ、石鹸の泡を洗い流すと、鮮やかな青い色が露わになった。
普段は、少しフワッとなった髪の毛がぺったりとなり首や顔に張り付いている。
「背中も洗ってあげる。」
「うん。」
トゥはなすがままだった。
石鹸を付けた布でトゥの白い背中をこすっていく。
背中を擦っていて、ルイズはふと手を止めた。
前は、どうする?
さすがにそこまでする根性はルイズにはない。つい先日想いを決意に変えてトゥを振りまかせようと思った矢先なのだ。そこまでの関係まで行く度胸はまだない。
何度かボケたトゥに襲われかけたことはあるが、あれはカウントしない。今考えると非常に惜しいことをしていたなと思うが過去のことなのでどうにもならない。正直あの頃の自分を殴りに行きたい気分だが。
「ルイズ、トゥさんもいらっしゃったんですね。」
そこへやってきたのは、ティファニアだった。
豊かな…凶悪な大きさの胸をタオルで隠しているが隠しきれていない、大きすぎて今にも零れそうだ。
そのとてつもなさにルイズが眉間を寄せていると、トゥがルイズの手から泡の付いた布を奪って自分の体を洗いだした。
洗い終えると、洗面器のお湯で洗い流し、トゥは、さっさとお風呂に浸かってしまった。
「トゥ。」
「トゥさん?」
お風呂に浸かって、俯いているトゥの背中を見て、二人はトゥがおかしいことに気付いた。
「トゥさん、トゥさん? 大丈夫ですか?」
ティファニアがトゥの隣に来て聞いた。
ルイズも慌ててトゥの隣に来た。
「どうしたの、トゥ?」
「トゥさん?」
「……。」
「黙ってたら分からないわ。」
「どうしたんですか? 気分が悪いんですか?」
「………誰かいる。」
「はっ?」
トゥがボソッと言って顔を上げ、キョロキョロと周りを見回しだした。
トゥは、急に立ち上がると、浴場の壁をペタペタと触りだした。
そして。
「あった。」
トゥが小さく複数開いた穴の中を左目で覗いた。
すると、男のものと思しき悲鳴が聞こえた気がして、女子生徒達が一斉にそちらを見た。
「ちょっと、トゥ、何を見つけたの?」
「まさか…覗き!?」
穴に気付いたモンモランシーがタオルで前を隠しながら叫んだ。
女子生徒達は一斉に杖を持ち出し、大騒ぎになってる中、トゥは素早く浴場から抜け出し、体にタオルを巻くと、外に飛び出した。
「トゥ!?」
ルイズは、後を追いかけた。
外に飛び出したトゥは、探るように浴場の壁を手で伝いながら、やがて地面に空いた穴を見つけた。
そこから顔を出した、見慣れた顔ぶれ。トゥの存在に気付いた水精霊騎士隊の少年達(ギーシュとマリコルヌ含む)は、顔を蒼白とさせた。
トゥの後ろから続々と着替えた女子生徒達が現れだした。
逃げようとしたのだがそれよりも早くトゥに見つかり、逃げ場を失った水精霊騎士隊の少年達は、全員捕まりお仕置きを受けたのだった。
覗き犯達を一斉検挙できたことのは、トゥのおかげということで、トゥは、女子生徒達から賞賛された。
のだが。
「あっ。」
トゥがうっかりタオルを落としてしまい、彼女の裸体を見た水精霊騎士隊の少年達は、一斉に鼻血を噴き、また女子生徒達にタコ殴りされたのだった。
トゥがポカーンとしていると、ルイズが大慌てでタオルでトゥの体を隠した。
「ティファニア! あいつらのトゥの体見た記憶を消してくれない!?」
「えっ?」
「やってちょうだい!」
ティファニアにムチャな注文をするルイズだった。
大騒ぎとなったその夜の光景を、シエスタは、物陰から見つめていた。
その手には、ハートマークのような蓋の付いた小瓶が握りしめられていた。
自分に残された時間が少ないことで、二人からの好意を受け止めきれないトゥ。
でも二人とも好きだから無下にはできず困っています。
お風呂覗き騒動は、原作を読むと男子生徒達の執念深さというかなんというかがすごいなぁって思いました。
次回は、シエスタがトゥを一日独占します。