二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

53 / 116
ティファニアが自分の正体を明かし、異端者審問勃発。

トゥが静かにキレます。


第四十九話  トゥ、怒る

 

 そして、トゥの心配は現実となる。

 ティファニアが自ら自分の母親がエルフだったことを告白したのだ。

 正直な彼女なりの戦いだった。

 教室内は大騒ぎ。特にティファニアを気に入らないでいた取り巻き立ちのリーダー格であった、クルデンホルフの姫君であるベアトリスが自らの竜騎士隊達を使って異端者審問を行うと言い出したのだ。

 教室の窓から竜騎士隊がティファニアを抱えていくのが見え、トゥは居てもたってもいられずルイズがいる3年の教室を飛び出した。それに続いてギーシュ達も後を追った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ティファちゃん!」

「トゥさん!」

 トゥがティファニアのもとへ行こうとすると、竜騎士達が立ちはだかる。

 トゥは、大剣を構えた。

 トゥの姿形からは想像もできない大きな剣を振るう様に、竜騎士達はわずかにどよめいた。

「どいてよ。切っちゃうよ?」

「あら? そんなことをしたら我がグルンデルフを敵に回すことになりますわよ?」

 ベアトリスが嫌な笑みを浮かべて言うと。

「いいもん。それごと切っちゃうもん。」

「…本気で言ってるの?」

「本気だよ?」

「ダメです、トゥさん!」

「でも、ティファちゃん!」

「暴力を暴力で戦っても新たな暴力を産むだけです。」

「でも…。」

「あら? つまり異端者審問を受ける覚悟ができてるってことね?」

 ベアトリスの合図で、竜騎士達が大きな釜の中の水を魔法で沸かした。

 異端者審問とは、審問とは名ばかりの処刑なのだ。グツグツと煮える湯で釜茹でにされたらブリミルの教徒だろうが、異教徒だろうが、命はない。

「もういい…。」

 トゥは、俯き、そして顔を上げ、大きく息を吸おうとした。

 だがそれをマリコルヌとギーシュが阻止した。

「まずい、非情にマズイよ!」

「どうして止めるの?」

「君は聞いていなかったのかい! 異端者審問だぞ! ここで庇ったら僕らも異教徒ということになってしまう!」

「家族だけじゃない。親族一同全員が異を問われるんだ。」

「…ギーシュ君達は関係ない。私は、私がやるんだ。私はただのトゥだよ。」

 トゥは、冷たい声で彼女の体を掴むギーシュとマリコルヌの手を振りほどき、再度剣を構えた。

「マズイ、非情にマズイよ…。いくら君がアルビオンで七万の敵をたった一人で蹴散らしたとはいえ…!」

「ああ、この広場でアルビオンでの君の武勇伝が再現されてしまうのか!」

 マリコルヌとギーシュがわざとらしく芝居がかった感じで大声で叫ぶ。

「なんですって?」

 それを聞いて、ベアトリスは眉を動かし、竜騎士達はお互い顔を見合わせだした。その顔には明らかに焦りの色が浮かんでいる。

 そして広場に集まっていた野次馬達もざわついた。

 トゥの噂はトリスティン全土に及んでいる。七万の敵をたった一人で蹴散らした。それがもっとも有名な噂だ。

「ふ、ふん。そんな売女みたいな恰好で、しかもそんな細身で七万の敵を倒すなんてできるはずがないわ。いくらなんでも盛り過ぎじゃないかしら?」

「本当だよ。」

「えっ?」

「私が七万人の敵を倒した。ここにいる竜騎士達なんて簡単に倒せる。」

「で、でも私の竜騎士隊の練度とアルビオンの烏合なんかと一緒にしないで!」

「しかし、彼らの顔色がすこぶる悪いようだけど?」

「えっ?」

 ギーシュの指摘にベアトリスが竜騎士達を見ると彼らの顔色は言われた通りすこぶる悪くなっていた。ついでにダラダラと汗をかいている。

 トゥが剣を構えたまま、ジリッと一歩近づくと、竜騎士達はビクッとなって後ろに一歩引いた。

「何をしているの! それでも我がグルンデルフの竜騎士隊なの!? しっかりなさい!」

 ベアトリスのその一喝でハッとなった竜騎士達は、各々の杖をトゥに向けた。

 トゥが、剣を振り上げた。

 その瞬間、竜騎士の一人が火球を放った。

 それをトゥが目にも留まらぬ速さで剣を振り下ろして火球を切り、二つに割れた火球はトゥの後ろの方に着弾した。

 その場がシーンっとなった。

 魔法を剣で切るなんて聞いたことがないし当然見たこともない。

 だがトゥは、たやすくやってのけた。それがどれほどとんでもないことか。

 トゥは、無表情で竜騎士達を見た。

 右目の花が相まって、普段からの想像もできない覇気が、眼力が発せられている。

 竜騎士達は、理解した。目の前の細身の女性がとんでもないバケモノだということを。七万の大軍を蹴散らしたという噂は真実であることを。

 もはや彼らにベアトリスの声は届かない。トゥの右目の花が発する得体のしれない力も相まって、恐怖が彼らを支配していた。

 トゥがまた一歩、歩を進めた。

 竜騎士隊は、もはやベアトリスを置いて逃げ出したい気持ちになっていた。

 野次馬達も、現場の空気の緊迫感にあてられ冷や汗をかいていた。

 っと、その時。

「トゥ!」

「…ルイズ?」

 緊迫した空気が一気に緩んだ。

「…止めないで。」

「落ち着きなさい!」

 ルイズがトゥを宥めようと声をかける。

 ベアトリスは、好機とみて竜騎士隊に攻撃の指示をした。

 ハッとした竜騎士隊が連携して魔法を使い、トゥの手元を氷で覆った。

 トゥは、凍った手を見て首をゆっくり傾げると、気にした様子もなく、地を蹴って駆けだした。

 さらに魔法が連発されるが、トゥはそれを左右に移動して避け、竜騎士の一人の目の前に来て、大剣を振り上げた。

「殺しちゃダメ!」

「トゥさん!」

 ルイズとティファニアが叫ぶと、トゥは、一瞬惑い、だが剣を振り下ろした。

 剣は、鎧のみを切り、竜騎士の鎧がガランガランと地面に転がった。

『おー、今のは加減しなかったら真っ二つだったな。』

 デルフリンガーが言った。

 鎧を切られて失った竜騎士は、その場に尻餅をついてガタガタと震えた。

「空中装甲騎士団! 何をしているの! 早く攻撃なさい!」

 空中にいたドラゴンに乗った騎士達が我に返って、ドラゴンにブレスを吐かせた。

 トゥは、ウタい、魔方陣を発生させると、ブレスを弾き飛ばしドラゴンに命中させて撃墜した。

「うそ…!」

 ベアトリスは、ようやく敵にしてしまったトゥがいかにヤバいかを理解したようだ。

 トゥは、デルフリンガーも抜いて、竜騎士隊の軍勢の中を舞うように剣を振るった。

 杖が切られ、鎧が切られ、戦闘能力を奪われる。だが殺さない。

 あっという間に竜騎士隊は、戦う術を奪われて無力化された。

 ベアトリスは、真っ青になり、その場にへたり込んでガタガタと震えた。

 そんなベアトリスに、トゥが近づく。

 すると、ティファニアがベアトリスの前に来て、両腕を広げて彼女を庇った。

「ティファちゃん、どいて。」

「ダメです!」

「どうして?」

「私は、争いのためにこの学院に来たんじゃありません! 剣を下ろしてください、トゥさん!」

「でも…。」

「お願いです!」

「あなた…何のつもり?」

 ベアトリスがティファニアに問うた。

「私は、争いのためにここへ来たんじゃない。お友達が、ただ欲しかっただけ。」

「何言ってるの? 私、散々あんたにあんな…。」

「それでもです。私は敵を作りに来たんじゃありません。どうか私とお友達になってくれますか?」

 ベアトリスに向かってティファニアが言った。

 あまりのことに周りは唖然とした。

 ティファニアをいじめていた主犯格を、被害者であるティファニアが許し、そして友達になってほしいとまで言ったのだ。

 その彼女の懐の大きさに、そしてその純粋たる美しさに皆見惚れた。

「そういえば、あんた異端者審問なんてやろうとしてたみたいね? あれって、ロマリア宗教庁の免状がないとできないわよ。」

「い、家にあるのよ!」

 ルイズがベアトリスに聞くと、ベアトリスは、焦った様子でそう言った。

「嘘ね。」

 ルイズが腕組して指摘した。

「免状だけじゃなく、ロマリア宗教庁の審問認可状が必要なのに、それを知らないなんて。」

 するとどういうことだと、周りにいた野次馬の生徒達が叫びだした。

 ベアトリスは、ゲルマニアから来た貴族で、それでいて騎士団などつれて偉ぶっていただけに、反感を多く買っていた。

 それでいてトリスティンの司教を騙っていたとなると、プライドの高い貴族の子供達が許すはずがない。

 ベアトリスは、頼みの綱の竜騎士隊が無力化させられているのもあり、周りからの罵声に震えあがった。

「皆さん、どうか落ち着いてください!」

「しかしミス・ウェストウッド! 君には、彼女を裁く権利がある!」

「そうだそうだ!」

 司教を騙って気に入らない少女をいじめているという事実。ベアトリスは、それだけのことをしてしまったのだ。

「もう一度言います。私は、敵を作るためにここへ来たのではありません!」

 ティファニアの力強い声に、その場の誰もが何も言えなくなった。

 ティファニアは、尻餅をついているベアトリスを助け起こした。

「どうか、私と、お友達に…なってもらえますか?」

「ふ、…ふぇぇぇぇぇぇぇん!」

 ベアトリスは、決壊したように大泣きした。

 

 その後、オスマンが現れ、生徒達にここは学び舎であることを説き、ティファニアの後見人が自分であること、そしてティファニアが女王アンリエッタの客人であることを告げた。

 それから現金なもので、アンリエッタの大切な客人とあっては、下手手に出られないし、何より、その事実を告げられたことによりティファニアがより神聖なものに見えてくるものである。

 何より若い生徒達は、仇敵に対する恐怖より興味が勝ち、恐る恐るではあるが、ティファニアに握手を求めた。

 曰く、エルフとは、オーク鬼のようにおぞましい姿だと思ってたと。

 曰く、エルフってこんなきれいなものだったのかと。

 曰く、えらくまっすぐな考えをしており、そこらの貴族より貴族らしいと。

 ティファニアは、感動した面持ちで握手を交わしていった。

「トゥ。もう、剣を下げなさい。」

「うん。」

 ルイズに言われ、トゥは頷いて大剣を背負い直した。

「トゥ君! 手!」

「ああ、大変だ! 凍傷になっているじゃないかい!」

「大丈夫、これくらいなら。」

 トゥは、凍傷になってしまった手を撫でると、そこにはもう凍傷はなかった。

「…な、治るのが速いんだね?」

「うん。」

 トゥは、なんでもないように頷いた。

「オスマンさん…。どうして、もっと早く来てくれなかったの?」

 トゥがオスマンに問うた。

 オスマンは、髭を弄りながら言った。

 曰く、ティファニアは普通の方法では友達はできないと。ハーフエルフである以上、真の友を得るには下手な助け舟を出してはできないだろうと。

 それでもトゥは納得しなかった。

「もうちょっとで、ティファちゃん、釜茹でにされそうになったんだよ?」

「うむ…。お主の怒りも最もじゃ。」

「もう二度としないで…。でないと…。」

 トゥは、背中の大剣を握った。

「う、うむ! うむ! 分かった、善処する!」

 オスマンは降参だと手を上げて首を振った。

 トゥは、剣から手を離した。

「トゥさん。」

「ティファちゃん…。」

「ごめんなさい!」

「?」

「私のせいでトゥさんに迷惑をかけちゃいました。」

「そんなことないよ。」

「でも…。」

「友達ができて、よかったね。」

「はい! あ、あの、トゥさん。」

「なぁに?」

「トゥさんも、お友達…ですよね?」

「もちろんだよ。」

「よかった!」

 ティファニアは、飛び跳ねて喜んだ。

 それにより、ティファニアの凶悪な…胸部が大きく揺れ動き、オスマンを始めとした男達が鼻血を噴くという事件が起こった。

 それを見たルイズが、ブツブツと、これだから男どもは…っと言っていた。

「でも、触り心地はトゥのが上よ。」

「?」

 フッとルイズは、手をワキワキさせて呟き、トゥは首を傾げた。

 

 




ここ、クソ悩みながら書きました。

原作では、才人がやられてそこへ水精霊騎士隊とベアトリスの竜騎士隊が戦う場面ですが、ここではトゥ一人で戦いました。

ティファニアは、強い子だと思うけど、世間知らずすぎて危ないと思う。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。