キュルケとトゥがチューしてます。注意。
ティファニア達が、旅立つ準備をしている間も、一行の間にはピリピリとした空気が立ち込めていた。
キュルケとタバサが盾となり、トゥからルイズを遠ざける。
ルイズは、わけがわからず怒鳴り散らし、そんなルイズを見てトゥは、ますます俯いて元気をなくした。
「ごめんなさい、ごめんなさい…。」
ティファニアは、この状況を作ってしまった原因であることを自覚しているので、ひたすらこんな状態である。
「ねえ、あんた私に何かしたの!?」
「あうぅ!」
ルイズがついにティファニアに噛みつくように言った。
「そ、それは…。」
「あんた自分が何してもらったかも忘れたわけ?」
「えっ? それは、だって……、そういえば何かルーンを…。それが原因!?」
「ティファニアを責めるのはお門違いよ。」
「じゃあなに!? 私が一体何したってのよ!」
「…自分の胸に聞きなさい。」
「何を聞けってのよ!」
「自分の想いは、自分のモノ。」
タバサが言った。
「ごめんね、ルイズ…。私の所為だ。」
「あんたも私に何かしたっての!?」
「違うわ。むしろあんたがしたのよ。」
「私が? 使い魔に何かするわけないじゃない。」
「っ…。」
そこには、昨晩までトゥを想って泣いていたルイズはいない。想いを失うだけでここまで人は変わってしまうのか…。
トゥは、知らず知らず涙を浮かべていた。
「何泣いてんのよ、気持ち悪いわね。」
「!!」
「ルイズ。もう口を開かないで。」
「なによ! 私がそんなに悪いわけ!?」
「…後悔するわよ。きっと。」
「どうしてそうなるのよ!」
「黙って。」
タバサが魔法を唱え、ルイズの声を消した。
ルイズは、地団太を踏んでギャーギャー騒いでいるが、魔法のおかげで声は聞こえない。
「トゥちゃん。気にし過ぎちゃダメよ。」
「ルイズ…。」
トゥは、ポロポロと泣いた。
***
やがて、ティファニアと子供達の準備が整い、タバサがシルフィードで何往復かして港に送り届けることになった。
ルイズは、先に港に送られ、ブスッとしていた。
トゥは、後から来ることになった。そのことが気に入らなかったのだ。
「自分の胸に聞けって言われたって…。」
しかし自分の胸中に問いかけてみても何も思い出せない。
だがなぜだろう、トゥを見たり思い浮かべたりすると何かざわつく…というか、寒い気がするのだ。それが苛立ちとなってあんなに辛く当たってしまう。
キュルケとタバサと絡んでいるの見ても、苛立ってしまう。
まったくどうしてこんなに苛立つのか分からない。心が感じる寒さのような感じも。
まるで穴が開いていてそこから寒い風が吹き抜けてくるような、何とも言えない奇妙な寒さだった。
ルイズは、自分自身の体を抱いた。
「こんなはずじゃなかったのに…。? こんなはず? 何よそれ。」
誰に話すわけでもなく独り言をつぶやく。
「…何やっちゃったんだろ、私……。」
どうしてこんなに心が寒いのか、それによってトゥに辛く当たってしまうのか、思い出せず、そして理由を教えてもらっていないルイズは、ただ苦しんだ。
苦しくて港から少し離れてしゃがみ込む。
「私…、何か大切なこと忘れてる?」
そう自分に問いかけても、答えは返ってくるはずがない。
しかしそれでも問わずにいられない。
「……とりあえず、トゥが来たら謝る? ……使い魔になに気を使ってるのよ私。」
そうこうしていると、ルイズの背中をチョンチョンと何かがつついた。
ルイズは、ハッとした。
もしやトゥかと思い。
「もう! 遅いわよ! 来たなら来たって……。」
ルイズは、言葉を失った。
そこにあるのは……、巨大な足。
ゆっくりと見上げると…。
「きゃああああああああああ!!」
そこには、20メートルはあろうとかというほど巨大な、剣士人形がそびえ立っていた。
***
「あれは…。」
シルフィードの上から港付近に現れたその巨大な剣士人形を見た。
「ルイズ! まずいわ! タバサ急いで!」
「うん。」
最後の便としてトゥとキュルケを乗せて来たタバサは、シルフィードを急がせた。
剣士人形が剣を振り上げた。その滑らかな動きは、人形とは思えないほどであった。
腰を抜かして尻餅をついているルイズの上をシルフィードが通り過ぎると同時に、トゥとキュルケが飛び降りた。
剣士人形の剣が土を殴った。
土埃が舞い、ルイズ達は咳き込んだ。
『お久しぶりね。虚無の担い手。』
この声は聞き覚えがあった。
アルビオンと、舞踏会の日に学院で聞いた。
「ミュズニトニルン!?」
『覚えていてくれて光栄ね。』
声は、剣士人形の頭部辺りから聞こえる。
ミュズニトニルンは、そこにいるのか、あるいは、別の場所から声を出しているのか。たぶん後者だ。
ミュズニトニルンがあらゆる道具を使いこなす使い魔である以上、ガンダールヴと違って直接的に戦うことはできないのだろう。
「何しに来たのよ!」
トゥに助け起こされながらルイズが剣士人形に向かって叫んだ。
『お礼をしに来たの。この前は、我々の姫君をよくも攫ってくれたわね。』
「なにが姫君よ! 幽閉して、心を消そうとしたくせに!」
『心を消す? あら? あなたも同じじゃなくて? 自分自身に虚無の魔法をかけて心の一部を消すなんて、随分と思い切ったことをするのね。アルヴィーズ(小人形)に見張らせていた甲斐があったわ。』
「うるさいわね!」
ルイズは、杖を構え、ルーンを唱えた。だが魔法は発動しなかった。
そこへ、ギーシュが作った青銅のワルキューレ達が短槍を装備して、剣士人形に攻撃した。
しかし攻撃は呆気なく弾かれた。
『あら? このヨルムンガンドに、そんなちゃちなゴーレムで挑もうって言うの?』
ヨルムンガンドと呼ばれた巨大剣士人形は、軽く足を動かしギーシュのワルキューレ達を蟻のように蹴散らした。
キュルケが炎の魔法を唱え、大きな火球を飛ばした。だがヨルムンガンドの装甲は、火球を軽く弾き、装甲は無傷だった。
それは、港にいたルイズ達を迎えるために寄越されていた騎士団の連続の魔法ですらも無駄だった。
『無駄よ。このヨルムンガンドを系統魔法でどうにかしようとすること自体無駄だわ。』
ヨルムンガンドがまるで中に人間でも入っているかのように滑らかに動く、驚くことに足音がしないのだ。どうやらこんな巨体で忍び足ができるらしい。
再び剣が振り下ろされ地面が叩かれた、その地響きはもはや地震だ。
ルイズ達は跳ね上げられ、叩きつけられた。
トゥが真っ先に立ち上がり、大剣を構えてヨルムンガンドに斬りかかった。
しかし剣は装甲に当たった途端、弾かれた。
『相棒! こりゃカウンターだ!』
「えっ? あのエルフさんが使ってた魔法?」
『ああ!』
トゥがデルフリンガーとそう話を交わした隙に、ヨルムンガンドが足を振り上げた。
そのスピードは、とてもじゃないがゴーレムとは思えないほどであったが、トゥの方が速く、踏みつぶされずにすんだ。
「速い…。」
ヨルムンガンドの手がトゥに迫ったが、それを難なく避けて、トゥは、その腕に乗り、軽い身のこなしで登っていくと、頭を攻撃した。だが弾かれた。
「頭もダメ!」
『こいつは、虚無の魔法でブッ飛ばすしかねぇな!』
「でも、ルイズは…。」
『ああ、だからやべぇんだよ!』
「なら…。」
トゥは、スゥっと大きく息を吸った。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
トゥは、ウタった。
体が青く輝き、そこへヨルムンガンドの手が迫るが、それを剣で切断した。
『それが、ウタの力ってやつね。でもそれぐらいじゃ…、ヨルムンガンドは止まらないわ。』
「きゃあああああああああああ!」
「ルイズ!?」
ルイズの悲鳴で気を取られたトゥは、指を一、二本失ったヨルムンガンドの手で弾き飛ばされてしまい、港の建物の一つに突っ込んだ。
下の方では、ウジャウジャとミュズニトニルンの魔法人形達がルイズに迫ってきていた。
「多すぎるじゃないの!」
ルイズを守るために背中をルイズに向けているキュルケが悪態をついた。
『さあ、どうする? さっさとご自慢の虚無をぶっ放さないと死ぬよ?』
「な、なにが目的よ!」
『いいからさっさと虚無をぶっ放しな!』
「ルイズーーーー!」
弾き飛ばされて港の建物に埋まっていたトゥが飛び出し、青い光を纏ってルイズらの周りにいる魔法人形達を切って捨てていった。
「トゥ!」
ああ、なんて凄いんだろう。っとルイズは思った。
なんて素敵なんだろうっとルイズは、思った。
そりゃそうだ、なんて言ったって、自分はトゥが……。
「?」
「ぼさっとしてる場合じゃないわよ!」
「えっ、あっ…。」
「あんた、まだ撃てないわけ!?」
「そ、そんなこと言われても…。」
「……なら。トゥちゃん!」
「なに!?」
すべての人形を倒し終えたトゥがキュルケの方を見た。
キュルケが走ってきた。
そして…。
「んっ。」
「むっ…。」
「!?」
キュルケがトゥにキスをした。
それもかなりディープに。
その瞬間、ルイズの中でザワザワザワザっと、凄まじい勢いで何かが湧きあがり、精神力となる。
「なに、やってのよぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
ブワリッとルイズの髪が逆立ち、顔は憤怒の表情になり、凄まじい魔力が彼女の体を包み込んだ。
「よし! やっちゃいなさい!」
「ぷは…。」
キュルケからの濃厚なキスにトゥは、ヘナリッとへたり込んだ。
「撃つのよ、ゼロのルイズ!!」
キュルケの叫び声で我に返ったルイズは、呪文を唱えだした。
『ディスペルじゃねぇ! エクスプロージョンでブッ飛ばしな!』
デルフリンガーが叫んだ。
ルイズは、素早くエクスプロージョンのルーンに切り替えて唱えだした。
ルイズは、唱えながら想った。
なぜキュルケがトゥにキスしただけで、こんなに怒っているのだろうか?
自分は、トゥを……。
だがそれを認めてしまうと、怖い。けれど……。
「トゥは、私のモノよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その叫びと同時に、エクスプロージョンをヨルムンガンドに放った。
ヨルムンガンドの中心に発生した白い光は、ヨルムンガンドを包み込み、分厚い鎧が風船のように膨れ上がり、ついで耳をつんざくような爆発音が響き渡った。
中に爆薬でも仕込まれていたかのようにヨルムンガンドは、爆発四散した。
「やったじゃない!」
キュルケがガッツポーズを取って、ルイズのところに駆け寄った。
ルイズは、プルプルと震えていた。
「あら、どうしたの?」
「どうしたの…? じゃないわよぉぉぉぉぉ!!」
叫んで、キュルケに掴みかかろうして、キュルケが横に避けて失敗した。
「どうしちゃったの?」
「なんであんなことしたわけ!? トゥに…、トゥにぃぃぃぃぃ!!」
「あら? 私がトゥちゃんとキスしたのがそんなに嫌だったの?」
「トゥは、私のモノよ!!」
「それはどういう意味で?」
「えっ?」
キュルケの言葉にルイズは、ピタッと止まった。
なぜ? 自分はなぜトゥにこんなに固執しているのか? なぜ? キュルケがあんな濃厚なキスをしたのがそんなに気に入らなかったのか? なぜ?
「ルイズ、大丈夫?」
「! …はうっ。」
「ルイズ!?」
そこへ駆け寄ってきたトゥの姿を見た途端、なぜか心臓を射抜かれたような衝撃を受け、ルイズは倒れた。
まるで濁流のように、心に空いていた穴に流れ込んでくる何か。
ソレは、ルイズの記憶の鍵をこじ開ける。
ソレは、ルイズを後悔させる。
ソレは、ルイズに突きつける。
「ごめんね……。トゥ。」
「ルイズ?」
「……やっぱり…、大好き。」
「!!」
トゥを想う気持ちは、どうやったって、自分のモノなのだと。
原作だと、タバサが才人にディープキスしてますが、このネタでは、キュルケにやってもらいました。
ルイズの記憶があっさり戻ってますが、たぶんですが…虚無に虚無って相性悪いというのが私の妄想です。あるいは、ルイズの想いがティファニアの虚無を超えていたか。