今回少し短め。
新学期が始まった。
嵐のように色んなことがあったためか、トゥ達はとても暇を持て余した。
水精霊騎士隊の少年達も暇を持て余し、最近じゃたまり場となっている戦闘機置き場で休み時間はワインを飲む体たらくだ。
水精霊騎士隊が女王アンリエッタが創設した近衛騎士隊ということもあって、教師達は文句を言えない。
「どうしてダメなんだろ?」
「どうしたんだい?」
「ガリアって、タバサちゃんにいっぱい酷いことしたし、タバサちゃんのお母さんも…、それにルイズを襲ったこともあるし、なのになんで放っておいてるんだろ?」
「お偉いさん達にも色々とあるのさ。国交については、僕らがどうこう言うことじゃないよ。」
「…うん。」
「それより、お咎めなしで済んだことと、僕らのような勇者には休息が必要さ。ささ、飲んだ飲んだ。」
そう言ってギーシュは、トゥが持っているコップにワインを注いだ。
「君も、もっと人生を楽しまなきゃ損だぞ? ルイズの家では大変だったんだし。」
「…うん。」
「いやあ君達は大したもんだ。あのガリアに侵入して、王族の少女だっけ? を救い出してきたんだから! さすが隊長と副隊長!」
酔っぱらっている隊員の少年の一人がそんなことをまくし立てた。
ギーシュは嬉しそうだが、トゥは浮かない顔だった。
「……人生…。」
トゥは、ポツリと呟いた。
トゥは、自分の人生について考えた。
呪われたウタウタイ。
世界をいつか破滅させる花。
自分自身では死ぬことのできない定め。
共に人生を歩む運命にあると信じていた、恋人も消えてしまった。
トゥの目からボロボロと涙が零れた。
ギーシュ達は、ギョッとした。
「ど、どうしたんだい!?」
「うう~…、私の人生なんて…。」
「ああ! そ、そんなに深刻に考えなくても!」
「人生なんて…、私には…、ないよ。」
「えっ?」
「うう~、うう~。」
トゥは、ボロボロと泣き続けた。
ギーシュ達は、ただオロオロした。ギーシュが頑張って慰めるが、効果なし。
そこへ、女の子達を連れたマリコルヌが来たのだが、現場を見てギョッとした。オロオロするだけで使い物にならない。
トゥが泣き止むまでしばらくかかった。
その後泣きつかれたトゥが眠ってしまったため、こんなところで寝かせておくわけにはいかないということでルイズの部屋へ運ばれた。
***
ルイズは、ベットで寝ているトゥを見ていた。
いきなりギーシュ達がレビテーションで運んできたため驚いたが、話を聞いて呆れると同時にしまったと思った。
トゥにとってのNGワードが自分の知らないところで出てきてしまったのだ。結果彼女はまたも昏睡してしまった。きっと目が覚めたら忘れているだろう。
赤かった目元はすでに元通りになっている。トゥの回復能力は常人のそれじゃない。
……回復というか、再生と言えば、思い出すのがアルビオンで見た、あの再生の光景だ。
トゥの右目に咲いた花からトゥの体が生えてくるという再生の仕方。
あれは、もうこの世のもじゃなかったっとルイズは、記憶している。そして、美しくもあったと…。
ただただ怖かった。だが美しかった。
すると、トゥが寝返りをうった。
右目の花が上を向く。
この花は、トゥを苦しめている。
顔を歪めたルイズは、その花に手を伸ばした。
「こんな花…。」
花を掴んで引っ張ろうとした時。
トゥの目がバチリと開いた。
「いやぁ!!」
「キャッ!」
ルイズの手をトゥが払った。
「ルイズ…、何しようと…したの?」
花を守るように手で抑えるトゥが、怯えた顔でルイズを見た。
ルイズは、床に尻餅をついた状態で手首を抑えて呻いた。
「ルイズ?」
「て…手首が…。」
ルイズの手首は、折れていた。
トゥは、悲鳴を上げ、慌ててルイズを抱き上げて医務室まで運んだ。
水の秘薬により、骨折は完治した。
「ごめんなさい…。」
「いいの。悪いのは私だから。」
シュンッとしているトゥに、ルイズが言った。
ルイズが花を引っこ抜こうとしたのが悪いのだ。前にコルベールが花を千切るよう言った一件の時があったのに、それを忘れてしまっていた。
なんで忘れたんだ自分はっと、ルイズは、反省した。
NGワード以前の問題だ。っと、額を抑えて唸っていると。
トゥがボロボロとまた泣きだした。
「トゥ?」
「ねえ、ルイズ…。」
「うん?」
「私の人生って…なに?」
「はあ?」
トゥは、忘れていなかったようだ。いつもなら昏睡すると記憶を一部失うのに。
「私…よく考えたら、人生って呼べるようなものなんてないの。なんのために生きてるのか分からない。人生って、なに?」
「そ、それは…。」
なんて難しい問題なんだ。
トゥは、無表情で泣き続けている。
ルイズは、考え…、そして。
「私の使い魔として生きればいいのよ! 私達が出会った時から今までと今が人生よ!」
「今が、人生?」
「そうよ! それとも私との人生なんてイヤなの!?」
「う、ううん。そんなことない。」
「それでいいの! 分かったわね!」
「うん!」
トゥは、泣き笑いの顔で頷いた。
ルイズは、なんとなく手を伸ばし、トゥの頭を撫でた。
「ルイズ?」
「えっ? あ、いや、なんとなく…。なんとなくよ!」
トゥの柔らかい質感の髪の毛の感触にがたまらずルイズは、構わず撫で続けた。
するとトゥがおもむろにルイズの長い髪の毛に手を伸ばした。
「ルイズの髪の毛サラサラ。」
「あんたのはフワフワね。」
それからしばらく、お互いの髪の毛を触り続けた。
「ねえ、ルイズ。」
「なに?」
「ぎゅーって、していい?」
「えっ? あんた力強すぎるから、ちょっと…。」
「大丈夫。加減するから。」
「…もう…。」
ルイズからの了承を得たと思ったトゥは、ルイズを抱きしめた。
自分より小柄な体はすっぽりと腕の中に納まる。
それがなんだか愛おしくて、トゥは、ルイズの頭にスリスリと頬をこすりつけた。
ルイズは、トゥの腕の中で顔を赤くした。
密着していて、トゥの体の柔らかな感触と甘い匂いが鼻をくすぐる。
「トゥ…。」
「なぁに?」
「……いなくならないで。」
「……。」
「死なないで…。」
「ルイズ…。」
「あなたの人生の最後を悲惨なもので終わらせたくない。」
「……。」
「…何か言ってよ。」
トゥは、黙っていた。
「どうしてそんなに、死に急ごうとするのよ?」
「それは…。」
「その花がいけないの?」
「……。」
「その花さえなければ、あなたは死なない?」
「……違う。」
「えっ?」
「この目に咲いた花を取っても意味ないの。花は、私の中に根付いてるから…。ううん、違う…。私は…、花そのもの…。」
「あなたが、花?」
「私は……、私は…ゼロ、姉さんの…花…から…。」
「トゥ?」
「………、今…、なに話してたっけ?」
「……あんた…。」
ルイズがトゥの顔を見上げると、トゥは、ポカンッとしていた。
「ねえ、ルイズ。私、何かしゃべってたよね?」
「……ううん。別に。」
「ほんと?」
「…本当よ。」
ルイズは、そう言ってトゥを抱きしめた。
「ねえ、トゥ。」
「なぁに?」
「…傍に、いて。」
「? 傍にいるよ?」
「そうじゃなくて…、もういい。」
「? 変なルイズ。」
自分の胸にグリグリしてくるルイズを、トゥは、受け入れた。
ルイズのグリグリは、シエスタが通りかかって止めにかかるまで続いた。
かなり悩みながら書きました。
トゥに、元の世界での記憶(花による改竄された記憶も含め)がないため人生について振り返った時、ほとんど思い出せなかったのです。
肉体的ではなく、精神面での親密度アップを目指しました。