二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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vsミュズニトニルンのガーゴイルと、コルベールとの再会。




第三十七話  トゥ、タバサの事情を聞く

 

 タバサに促されて、トゥは、タバサと共にシルフィードに乗った。

 空を飛ぶ巨大なガーゴイルは、飛ぶ速度はそんなに速くなく、すぐに追いついた。

「もっと近づいて! あとは私が何とかする!」

 トゥは、タバサに言った。

 タバサは頷き、シルフィードに近づくよう命じた。

 すると、無数の小さな黒い点々が現れた。よく見るとそれは、ガーゴイルだった。

 まるでカラスの群れのように、空を圧する数のガーゴイルが迫ってきた。

 トゥは、大きく息を吸い。ウタった。

 するとウタの衝撃波で数十匹のガーゴイルが吹き飛ばされて飛散した。

「上。」

「えっ?」

 タバサが指さした先を見上げると、そこには150メートルはあろうかという巨大なガーゴイルが飛んでいた。

 そういえばっと、トゥは、ふと思い出した。

 一週間前の食堂で生徒達が話していた、巨大な鳥の噂。恐らくこのガーゴイルのことだったのだろう。雲の影などが手伝いばもっと大きく、そして怖く見えたに違いない。

「タバサちゃん、まずいよ…。」

 ウタを使えば破壊はできるだろうが、如何せんここは、空、足場が悪すぎる。ここが地面だったならまだ勝ち目はあっただろう。

「構わない。」

「でも…このままじゃ、タバサちゃんが…。」

「私のことはいい。」

 タバサは、トゥの方を見ることなく、ただ、そう言った。

 その時、前方から無数のガーゴイルが飛んできた。

 トゥが、慌ててスゥっと息を吸った時だった。

 荒れ狂う。まるで蛇のような炎が、上の方からきて、ガーゴイルの群れを焼いた。

『大丈夫かね!』

「この声…。うそ…。」

 もう二度と聞くことはないはずの声だった。

 巨大なガーゴイル…いや、翼が徐々に降りて来た。

 それには巨大なプロペラがいくつもついていた。

 二等辺三角形の形をした翼に、推進式プロペラがたくさんついた飛行物体…、それが噂で語られていた巨大な鳥の正体だったのだ。

「コルベール…先生!」

『あなた達、何をしているの? 随分と楽しそうじゃない。いつのまにガーゴイルのお友達ができたわけ?』

「キュルケちゃん!」

 恐らくは、コルベールと共に飛行物体に乗っていると思しきキュルケが拡声器から声をかけて来た。

 曰く、こっそり学院に到着して、オストラント号(※この飛行物体の名前)を披露して驚かせようとしたのだが、間違ってトリスタニアについてしまい慌てて引き返したのだそうだ。それが竜騎士達が巨大な鳥の影を見たという報告の真相だったようだ。

『空飛ぶヘビ君が行くから、注意しろ!』

「タバサちゃん、急降下して!」

 タバサは頷きシルフィードが頭を下げて、急降下した。

 バラバラララララっと、大量の筒がオストラント号から落とされ、落ちていく端から発火炎が瞬いた。

 そして花火のように、コルベールの空飛ぶヘビ君が一斉に点火し、ガーゴイルに迫ると、眼前で爆発してガーゴイルを爆発四散した。

 トゥは、空飛ぶヘビ君の一つを掴むと、それに乗った。まるでサーフィンボードのように巧みに操りながら、ルイズを掴んでいるガーゴイル目がけて飛んでいき、その背中に飛び乗った。

 そしてゼロの剣でガーゴイルの左手を切り裂き、ガーゴイルの背中から飛び降りてルイズを掴む。それと同時に空飛ぶヘビ君が爆発して30メートルのガーゴイルが爆発四散した。

 爆発した時に飛んできた破片がトゥの背中に突き刺さったが、トゥは耐え、ルイズを離すまいと抱きしめた。

 するとルイズが目をぱちりと開けた。

「トゥ?」

「ルイズ、大丈夫?」

「あんた…、って、私達落ちてる!?」

「うん。」

「うん、じゃないわよぉぉぉ! っ!」

 落ちていく二人を、シルフィードが受け止めた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌朝。

 オストラント号は、学院の近くの草原に着陸した。

 生徒だけじゃなく、教師達も興味深そうにオストラント号を見ている。

 

「ねえ、トゥ…。」

「なぁに?」

「昨日のあれ…、なんだったの?」

「なんのこと?」

「とぼけないでよ。昨日まるで別人みたいになって私に怒鳴り散らしてきたじゃない。」

「覚えてないよ。」

 そう言って首をかしげるトゥの様子に、ルイズは、大きくため息を吐いた。

「おかげで、思わず逃げた先で気絶させられて危うく誘拐されそうになったんだから…、お仕置きよ!」

「えー。」

「それにしても、真実の鏡にそんな効果ないのに…、人格まで変わるなんてこと…。」

 っとルイズは、ブツブツと呟いた。

「やあ、トゥ君。」

 そこへコルベールがやってきた。

「コルベール先生!」

 ぱあっとトゥの顔が輝いた。

「生きてたんですね! でもどうして死んだことにしてたんですか?」

「それはね。こわーい銃騎士のお姉さんから守るためだったのよ。」

 コルベールの後ろについてきたキュルケがそう説明した。

「つまり、色々とあったんだね?」

「そういうこと。」

「生きててくれて…、よかった…。」

「な、泣くことはないだろう?」

「だってぇ…。」

 グスグスと泣きだしたトゥに、コルベールは焦った。

「トゥちゃん。ジャンさんは、渡さないわよ?」

「へっ? ジャンさん?」

「そ、私のジャンさん!」

「ミス・ツェルプストー…。」

「いやですわ。キュルケと呼んでくださいな。」

 なんだか知らないが、キュルケは、コルベールにご執心らしい。

 体をくねらせてコルベールに言い寄るキュルケの様に、ルイズは、心底呆れた顔をした。

「キュルケちゃん、コルベール先生が好きなの?」

「そうみたいね…。」

 トゥは、手を組んで目をキラキラさせているし、ルイズは、キュルケに心底呆れていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、オストラント号の見物をしていた生徒達がオストラント号中で昼食ということになり、昼食を運ぶためシエスタもかり出された。

 シエスタが運んできた軽食をルイズは、無言で食べた。

「それで、ルイズさん、舞踏会ではトゥさんに見つけてもらったんですか?」

「ええ。一発よ。」

「そうですか…。」

 それを聞いて残念がるシエスタに、ルイズは、勝ち誇ったように笑った。

 実際のところ、ルイズの方がトゥがトゥだとちょっと分からなかったのだが黙っていた。

 トゥは、知らないことであるが、もしも舞踏会でトゥがルイズを見つけられなかったら、一日トゥをシエスタに貸すという賭けをしていたのだ。

 シエスタの目論見は潰え、ルイズは、いい気分に浸っていた。

 その時。

 周りが騒がしくなったので、見ると、なんとアンリエッタがいた。

 アンリエッタは、コルベールに話しかけ、コルベールが深々と頭を下げている。

 きっとこの船のことで来たのだろう。

 やがてギーシュがトゥと共にアンリエッタに一礼し、馬車が用意できたとアンリエッタに伝え、アンリエッタがギーシュに右手を差し出したのだが…。

「ギーシュ君?」

 隣にいたトゥがギーシュを突いた。

 しかしギーシュは、動かない。よく見ると立ったまま気絶していた。

 仕方なく、トゥが代わりにアンリエッタの御手に口づけた。

 その後は、アンリエッタから昼食をともにしないかと誘われたのだが、トゥは、やんわりと用事があるからと断った。

 これについて周りから呆れ声が上がった。女王陛下からの誘いは、並の貴族では得られないこれ以上ない光栄なことなのだから。

 アンリエッタは、少し寂しそうな表情をしたが、すぐに笑顔に切り替えた。

「いいのです。騎士ともなれば色々と忙しいこともあるでしょうから。」

「申し訳ありません。」

 トゥは、そう言って頭を下げた。

 女王と昼食の陪席を賜ることになった一行は、ぞろぞろとオストラント号から降りて行った。

 ギーシュも、ルイズも、シエスタも降りて行った後、残されたトゥは、コルベールとキュルケのところに行った。

「どうしたの、トゥちゃん?」

「ねえ、タバサちゃんを知らない?」

「……知らないわ。今日、姿がないわね。」

「昨日の夜、急に私を攻撃してきて…。」

 昨晩のことをトゥは、キュルケに語った。

 するとキュルケは、考え込むような仕草をした。

「もう…あの子ったら…。」

「どうしたの?」

「あのね…。」

 キュルケは、トゥにタバサの哀しい経緯を語った。

 彼女は、ガリア王家の王女であること、父親が現国王に殺されたこと、そして母親は、タバサを庇って毒を盛られて心を壊したこと、そしてタバサは、厄介払いのようにトリスティンに留学させられたこと。

「ガリア王家の何が許せないって…。面倒なことがあると、あの子に押し付けることよ。」

「めんどうなこと?」

「ラグドリアン湖のこと覚えてる?」

「水の精霊さんを攻撃したこと?」

「覚えてるならいいわ。あれもね、ガリア王家からの命令だったのよ。」

「じゃあ、私を襲ったのも…。」

「ええ、ガリア王家の命令ね。」

「じゃあ…、タバサちゃんは? 昨日、女の人の声が言ってた。あたなの裏切りは報告させてもらうわって…。もしかして捕まったんじゃ。」

「それはないわ。あの子はそんな間抜けじゃないもの。たぶん、私達に迷惑をかけないように身を隠したんじゃないかしら。」

「でも…。」

「そのうち向こうから連絡が来るはずよ。今は信じて待ちましょう。」

 キュルケは、窓の外を見てそう言い切った。

「ルイズに話してもいい?」

「話した方がいいわ。あの子も巻き込まれたんでしょ? 参っちゃうわね、伝説の使い手なんかになっちゃっうと…、あのヴァリエールが虚無だなんてねえ、まったく。」

「キュルケちゃん、知ってたの?」

「なんとなくね。」

 キュルケは、ニヤッと笑った。

 それにっと、キュルケは、プニッとトゥの頬を指で突いた。

「自分で言っちゃったじゃない?」

「あっ…。」

 キュルケは、クスクスと笑いながら、プニプニとトゥの頬をつつき続けた。

 

 




ここから、また難所だな…。

タバサとの関係はどうしようかな。

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