二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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トゥの時系列について、色々と捏造しました。

この作中のトゥの傍にいたセントは、途中でいなくなっています。


第三十話  トゥと、シエスタ

 

 トゥは、ベットから出てこないルイズを心配していた。

 ルイズが被っている毛布から、ちょろりと、黒い尻尾のようなものが出ている。

「ルイズー。」

 しかしルイズは返事をしない。

 

 時は、少し遡る。

 スカロン達を連れてルイズがいる宿屋に来たが、そこで…。

「きょ、きょ、きょきょ、今日は、あなたがご主人様にゃん!」

 とってもきわどい、黒猫の格好をしたルイズがそう叫んだのだ。

 だが問題なのは、それを言った時に部屋に最初に入ろうとしたのがシエスタだったことだ。

 シエスタは、顔面蒼白で硬直し、それに続いてジェシカは笑いをこらえ、スカロンは、カワイイと言い、最後にトゥがスカロンの後ろから来てどうしたのかと聞いた。

 数秒置いて、ルイズが首まで赤面して大絶叫を上げた。

 そしてベットに潜りこんで出てこなくなったのである。

「ねえ、デルフ…。何してたの?」

 外に出る時に部屋に置いてきたデルフリンガーに事情を聞いた。

 しかしデルフリンガーが事情を話す前に、ベットから飛び出て来たルイズがデルフリンガーを奪い、またベットに潜り込んだ。

『相棒を元気づけようとしたんだよな?』

 しかし毛布の中からでもデルフリンガーの声は聞こえ、デルフリンガーがそう言った。

「私を?」

「ま、まままま、まさかミス・ヴァリエール! トゥさんを誘惑しようと!?」

「違うわよ!」

 毛布の中からルイズが叫んだ。

 デルフリンガーの話をまとめるとこうだ。

 トゥが元気がないのでなんとか元気づけたいとデルフリンガーに相談。

 そこでデルフリンガーが黒猫の格好で使い魔の真似をしてみないかと提案。

 ルイズは最初は怒ったものの、トゥに犬の格好させたりして理不尽をしてストレスを溜めさせてしまったこともあるので、自分も同じ目にあってみて戒めるのも必要だと自問自答。

 そして決行。しかし失敗。

 今ここ。っということらしい。

「ルイズ、可愛いよ?」

「うるさい!」

「えー。」

「トゥさん! 猫好きですか? 私も猫になれば可愛いと思いませんか!」

「うん。可愛いと思うよ。」

「ダメよ! ダメだったらダメ!」

 シエスタの言葉に毛布の中から飛び出してきたルイズがトゥを掴んで揺すった。

「トゥさんにやまし事をしないでください!」

 シエスタが逆の方からトゥを引っ張った。

 そんな三人を後目に、ジェシカとスカロンは、外を見て、雪が降りそうだと話をしていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 魅惑の妖精亭の天幕で、トゥは、お酒を飲んでいた。

「……名誉…か。」

 それが、先ほど再会したギーシュや、竜騎士の少年達が戦う理由である。

 名誉と誇りのために戦う。彼らにとっては当たり前のこと。

 トゥは ふと、自分は何のためにこの地で戦っているのかと疑問を持った。

 ルイズのため? それとも自分のため?

 自分はルイズの使い魔だと自負しているつもりだが、酒の力も手伝って一度湧いた疑問は膨れ上がった。

 名前と、剣とウタ以外に何もない自分。

 なのになぜ戦うのか。

 トゥは、自分の左手のルーンを見た。

 ガンダールヴ。神の左手。あらゆる武器を使いこなしたとされる伝説の使い魔。

「どうして…、私だったんだろう?」

 なぜ自分が…。呪われたウタウタイである自分が…。

 ノロワレタ…?

 なぜそれを覚えているのか。そして自分の右目の咲いた花が危険なことも…。

 それを自覚したトゥは、背筋がゾッとして素早く立ち上がり、周りが訝しむのを無視して外へ出た。

 雪が降る外で、トゥはうずくまった。

「コルベール先生の言う通りだ…。私…、戦っちゃいけなかったんだ…。」

 トゥは、自分の右目の花に触れた。

「こんな花…!」

 花を引き抜こうとして、手を止めた。

 これを引き抜いたら……。

「あああ…、私は…。」

 自分で死ぬことすらできないのだ。

「トゥさん!」

 シエスタがトゥを追いかけて駆けつけてきた。

「セント…、セントォ…、助けて…。」

「トゥさん?」

「…どうしていなくなっちゃったの…、セントォ…。」

「トゥさん、しっかりしてください!」

「私を…、誰か…私を……、殺して。…っ。」

「トゥさん!?」

 トゥの意識はそこで遠のき、倒れた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 トゥが次に目を覚ました時、ベットの上だった。そしてなぜか首の後ろの方から息を感じた。

 首をひねってみると、隣でシエスタが寝ていた。

「シエスタ?」

「うう~ん。」

 シエスタが目を覚ました。

 目の前にトゥの顔があったためか、シエスタは赤面した。

「大丈夫ですか?」

「うん。…どうして私、シエスタと寝てるの?」

「トゥさんが倒れられて…、宿に運んだんです。一緒に寝てるのは、トゥさんの体が冷たかったから、一緒に寝て温めようと思って…。へ、変な意味じゃないんですよ!」」

「…ありがとう。でもどうして倒れちゃったんだろう?」

「覚えてないんですか?」

「うん。」

「……思い出さない方が…、良いこともあると思います。」

 シエスタは、そう悲しそうに言った。

 トゥは、目をぱちくりさせた。

 やがてルイズのことを思い出し、起き上がった。

「ああ、トゥさん!」

「ルイズのところに帰らなきゃ。」

「ダメです!」

 ベットから出て行こうとすると、シエスタに腕を掴まれた。

「どうして?」

「だって、だって…、このままじゃトゥさんは…。」

「ルイズのところに帰らなきゃ…。」

「行かせたくないです!」

「わっ!」

 シエスタに引っ張られ、ベットに逆戻りしたトゥの上にシエスタが覆いかぶさってきた。

「分かってます…。トゥさんは、ミス・ヴァリエールの使い魔だから…。でも、でも…、トゥさん、あの時辛そうだったから、あんまりにも哀しそうだったから…。」

「シエスタ…。」

「ごめんなさい。トゥさん…。ごめんなさい。」

 シエスタがボロボロと涙を零した。

 トゥは、そんなシエスタを抱きしめて、頭を撫でた。

 やがて泣き止んだシエスタは、ベットから起き上がったトゥにある物を渡した。

「これは?」

「眠り薬です。」

「どうしたの?」

「もしもの時は、これをミス・ヴァリエールに飲ませて逃げてください。」

 トゥは、眠り薬とシエスタを交互に見た。

「……分かった。」

 シエスタは、それを聞いてパアッと顔を輝かせた。

「でも使わないかもしれないよ?」

「その時は……。その時です。心配なんです。トゥさん。私のすぐ下の弟も参戦するために船に乗っています。心配で、心配で…、そう思い始めたら、トゥさんのことも心配になって、居ても立っても居られなくなって…。」

「…ありがとう。」

「お礼なんて…。トゥさん、お願いです。必ず帰ってきてください。」

「うん。」

 また涙ぐむシエスタの頭を、トゥは撫でた。

 ふと外を見ると、外では、雪が降っていた。

「銀色の降臨祭ですね。」

「降臨祭って、なに?」

「始祖ブリミルがこの地に降り立った日を祝うお祭りです。」

「確か…新年って言ってたっけ?」

「そうです。始祖ブリミルが降り立った日が、一年の始まりになったんです。」

「ふーん。」

 

 なぜだろう?

 ブリミルという言葉に、なぜか引っ掛かりを感じてしまう。

 

 




活動報告にも書いたと思いますが、このトゥは、ゼロが妹達の殲滅に失敗した時系列のトゥということにしました。
ゼロが先にいなくなった結果、使徒であるセントが形を保てずトゥの傍からいなくなりました。


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