二番目の使い魔   作:蜜柑ブタ

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ジュリオ登場。

最初にちょっと狂気。


第二十八話  トゥ、ジュリオと出会う

 

 トゥがまた、ボーっとするようになった。

 ルイズは、素肌にマントというとってもきわどい格好でトゥの傍に寄り添っていた。いつもは、寝るときにネグリジェなのだが、それを忘れたため代わりにマントを身に着けているのである。

 トゥは、先の戦で死んでいったあの竜騎士の少年達のことを想っているのだろうか。

 そう思うとルイズの胸が痛んだ。

「ねえ、トゥ…。今は戦よ…。一人一人の死を悼んでいたらキリがないわ…。」

 しかしトゥは何も答えない。

 

 ルイズとトゥの活躍により、アルビオンの港町ロサイアを占領することに成功した。

 そのために出た犠牲はあったものの、成果を考えれば小さかったと言える。

 やはり目の前で犠牲を目の当たりにした者にとって、感じるものは違うのだろう。

 

 トゥは戦い慣れているが、戦争に対する免疫はないのだろうか?っとルイズが考えていると、トゥがボーっとしていた理由は全く違っていたことが分かった。

 

「……食べて…、もらえなかった…。」

「えっ? ……あんた…。」

 ルイズは、瞬時に理解した。

 トゥが悲しんでいるのは、竜騎士達の少年のことではなく、彼女を食べようとした竜達が自分を食べてくれなかったことなのだということを。

 あの時の竜は、竜騎士と共に散ってしまった。もういない。

「やっぱり、シルフィードちゃんかな…。」

「トゥ…、ダメよ。ダメだったら、ダメよ!」

 ルイズは、トゥを掴んで揺すった。

「そんなこと許さないわよ!」

「じゃあ、殺して。」

 ルイズの手を取り、いつの間にか持っていたゼロの剣をトゥはルイズに渡した。

 ヒッと短く悲鳴を上げたルイズは、ゼロの剣を捨てた。

「ああ、捨てちゃダメ。」

「イヤよ! あんたを殺すのも、竜に食べられるのも全部イヤ!」

「……約束…。」

「そんなのただの口約束よ! 守るとでも思ってるの!?」

「じゃあいい…。」

「えっ?」

 トゥは、ルイズから離れると、ゼロの剣を拾い上げ、天幕から出て行こうとした。

「待って、トゥ! どこへ行く気なの!?」

「ルイズ、殺してくれないなら。別の人に頼むの。」

「だ、ダメよ…。そんなこと…、そんなこと…。」

 ルイズは震えながら言った。

 トゥが出て行こうとするのを、止めようと動いた。自分でもこんなに速く動けるのかと驚くほど速く。

 出て行こうとしたトゥの腕を掴んで引っ張った。するとトゥはバランスを崩し、床に倒れた。その上にルイズが馬乗りになった。

「ダメ。行かせない。」

「じゃあ、殺して?」

「まだ殺せない…。まだ戦争は…終わってないのよ!」

「………そう。」

 ルイズの叫びに、トゥは、機械的に短くそう返事を返した。

 そんなトゥにカッとなったルイズは、その手をトゥの首にかけた。

「いい加減にしなさいよ?」

「ルイズ、だめ。それじゃあ、私は死なないよ?」

「あら、そうなの? じゃあ試してみましょうかしら?」

 機械的に喋るトゥに、ルイズはやけになって凶悪な笑みを浮かべ、手に力を込めようとした。

 その時。

 天幕が突風で吹き飛び、二人はハッと我に返った。

「なになになに?」

 トゥが体を起こそうとした時、一匹の風竜が複数名の人間を乗せて天幕の傍に着地した。

 敵かっと、二人が身構えようとした時、どこかで聞いた覚えがある声が聞こえた。

「おや、君達。」

「あれ? あなた達は…。」

 なんと、死んだと思っていたあの竜騎士の少年達だった。

 それを理解してしまうと、ポッカーンっとしてしまった。

 あの状況でどうやって生きて帰ってこれたんだと言おうとすると、少年の一人が赤面しながら邪魔してごめんっと言った。

 ルイズは、ハッ?っと思ったが、自分が置かれている状況を見て、赤面し慌ててマントを掴みながらトゥの上からどいた。

 それから少年達は、竜騎士大隊本部に生きて帰ってきたことを報告しに行き、そこにいた隊長達を驚かせた。

 彼らは、一匹の風竜を除いてすべての竜を失ったため、竜が補充されるまでルイズの護衛の任務を言い渡された。

 それからは、生還を祝い、酒を交わした。

 酒に酔った少年の一人が、ルイズとトゥの関係を聞いた。

 なのだが、もしかしイケない関係!?っと、勝手に想像を膨らませて勝手に赤面して言い合い始めたものだからルイズがキレてデルフリンガーを振り回す事態が発生したりした。

 竜騎士の少年達の生還から三日後、彼らに呼び出しがかかった。

 三日間の間に、彼らが身分の低い貴族で、爵位さえなく、手柄を立てるしか方法がないのだと聞いていたのだが、呼び出し受けてもしかして手柄を立てるチャンスなのではと意気込みだした。

 だが呼び出しは、ただの報告書のまとめであって、少年達は誰が見ても分かるほどがっかりしていた。

 ところが、少年の一人がもじもじと、夢か現か幻か分からないことを語った。

 地面で動けなくっている時に見たのだと言う。金髪の綺麗な女性で、あれはきっと古代の妖精だと言った。

 まあ当然と言えば当然だが、誰も信じなかった。

 すると、透き通るような声が。僕の金髪とどっちが美しかったのかな?っと言った。

 男か女か一瞬判断に迷う声の正体は、女と見紛うほどの美少年だった。

 名をジュリオというらしい。

 彼の登場に竜騎士の少年達は、露骨に嫌そうな顔をした。

 なぜそんなに嫌そうな顔をするんだろうと思ったが、どうもこのジュリオという少年、かなり、キザだ。ギーシュもキザだが、それ以上だ。

 まずトゥを見て。

「君が噂の使い魔のトゥークンかい?」

「トゥだよ。」

「それは失礼した! 大変失礼した! いや、なんと美しい! 噂で聞いていたが、想像以上だ!」

 そう言ってジュリオは、トゥの手を取り、手の甲に口づけた。

 トゥがポカンッとしていると。

「ああ、申し訳ない。僕はロマリアより新たなる美を発見しに参戦した。君のように美しい方に出会うために、僕は存在している!」

「はあ…。」

「神官が女性に触れていいのか? これだからロマリア人ってやつは…。」

 竜騎士の少年の一人が、苦い顔をして言った。

「参戦するために、一時的に還俗の許可を教皇よりいただいていてね。トゥさん、失礼した。今だ僧籍に身を置く身ゆえ、女性に触れることが許されぬ身…。しかし……、神はこの地をあまねく照らす偉大なる存在だが、たまには目を瞑る慈悲深さも持ち合わせている。再びお目にかかれる、その時を楽しみにしているよ。」

 ジュリオはそこまで言い、トゥから離れると、真顔になって、先ほどの報告の内容について少年達に聞いた。

 ルイズは、ずっとぷく~っと頬を膨らませてジュリオを睨んでいた。

「どうしたのルイズ?」

「なんでもないわ!」

 機嫌の悪いルイズの様子に、トゥは首を傾げたのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 自分達に与えられている天幕に戻っても、ルイズは、ずっとむくれていた。

 司令部に呼ばれて戻ってきても、むくれていた。

 トゥは、困ってしまった。

 竜騎士の少年達は、そんなトゥを心配した。

「私…、何か悪いことしちゃったのかな?」

「いや…、別に何もしてないんだろう? 僕らとずっといたけど、そんなことはなかったよ。なあ?」

 少年の一人が他の少年達に聞くと、他の少年達も頷いた。

 あえて、原因をあげるとなると……。いつからルイズは機嫌が悪くなった?

 思い浮かぶのは、ジュリオのことだ。

 ジュリオが、キザに、トゥに言い寄っていた辺りからおかしくなったのだ。

 しかし原因がそれだとすると、なぜルイズは、そんなに機嫌を悪くしたのか分からない。

 もしや、自分を差し置いて、使い魔であるトゥに彼が夢中になったのが気に入らなかったのか?

 少年達は、頭を悩ませた。

 やがて、天幕から出て来たルイズが、トゥの横を通り過ぎてどこかへ向かいだした。

「ルイズ?」

 トゥが呼び止めようとするがルイズは止まらない。

 トゥはルイズを追いかけた。

 やがてルイズは、風竜と共にいるジュリオのところへ来た。

「ミスタ・チェザーレ。」

「これはこれは、ミス・ヴァリエール! ミス・トゥも!」

「あら? 私の使い魔ばかりに目が行っていたばかりだと思っていたのに。私のことも視界に入れていたのね?」

「ああ、失礼した! まことに失礼した! 僕はなんということをしてしまったのだ!」

「まあ、それはいいわ。それよりも、あなたと風竜に用事があってきたの。」

「僕と風竜に?」

「今から私を乗せて、飛んでほしいの。」

「あなたのような美しい方のお役に立てる好機が巡ってくるとは!」

「トゥに夢中だった人の言葉は信じられないわ。」

「本当に失礼した…。」

「もういいわ。」

「お許しいただけるなんて、なんと寛大なお方だ…。それで、どちらへ飛べばよろしいのですか?」

「ねえ、ルイズ。飛ぶなら戦闘機もあるよ?」

「戦闘機は音がうるさいでしょ。敵に見つかるじゃない。」

「あ、そうか…。」

「あんたはお留守番。」

「えー? 大丈夫なの?」

「大丈夫よ。あんた、私のことなめてない?」

「えー?」

「なめてるでしょ! 私があんたの守りなしじゃ何もできないなんて思ってるでしょ!」

「思ってないよ。」

「あんたがいなくたっていいの。だからお留守番してなさい!」

 ルイズは、そう言うと、風竜に乗って待機しているジュリオのところに行き、その後ろに座った。

「天幕の中、ピカピカにしておきなさい。」

 ルイズを乗せたジュリオの風竜は、空へ飛んでいった。

 残されたトゥは、彼らを見送ったあと、デルフリンガーを抜いた。

『機嫌が悪いみたいだな、娘っ子は。』

「うん。どうしたんだろう?」

『難しい年ごろなんだろ。』

「ふーん。」

 ルイズは、そう声を漏らすと、天幕を綺麗にすべく、踵を返した。

 

 




ジュリオ、難しい…。

これ、いつか書き直したい。

ルイズは、ちょっと嫉妬しました。

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